事件発生
最後の試合は俺の班が見学となった。
結果は木ノ実の班が五点いれ圧勝だった。月城も頑張り木ノ実のシュートを止めていたが、金井のボテボテのごろのようなシュートをトンネルしたり、ボーッと金井を眺めている間に他の女子に点を入れられたりしていた。
試合が終わると同時に昼休みを伝えるチャイムがなった。
「それじゃあ今日はここまで。誰かボールを片して、鍵を職員室に持ってきてください」
「あっ、あたし片付けするよ」
木ノ実が手を上げて立候補する。
「もう少しシュート練習したいからさ」
今日の授業中一人で回りの十倍は動き回ったと言うのにまだやり足りないのかと思っていると、月城がぐいっと俺の袖を引っ張った。
「おい、急いで戻るぞ」
そうか、ゆっくり帰れば先に女子が着替えをしている可能性がある、俺達男子はいち早く戻らないといけないのか。
月城は途中飲み物を買っていくと自販機の前で立ち止まったので俺は先に教室に戻り着替えを済ませベランダに出た。
校庭にはクラスメイトの姿はサッカーボールを蹴る木ノ実の姿だけがあった。
ベランダに出て一分たったかどうかと言うタイミングで月城が教室から出てきた。手にはブレザーの上着が抱えられている。
「早かったな」
「早着替えには慣れているからね」
まあ、こんな教室の状態じゃ早着替えも自然に身に付くよな。
そう思っていると教室の方から騒がしい声が聞こえてきた。女子が戻ってきたようだ。
「君こそ早かったじゃないか」
ブレザーを羽織りながら月城は聞いてきた。
「暑いから中着なかったし、部活してたから、着替えは早い方なんだよ」
正午になり気温も上がったので俺はインナーのTシャツを着ずに、素肌にワイシャツを羽織っている。因みに月城に習いネクタイもつけてはいない。
「それにしても……あいつはなんなんだ。サッカー部でもないんだろ」
リフティングをしている木ノ実に視線を送り俺は呟いた。
無視されるかなと思いながらの言葉だったが、回りに女子がいないからか、仲が良い友達ーー髪を結んでいたから仲は良いはずだーーの話だからか、答えてくれた。
「茜ちゃんは運動神経の塊みたいなものだね。何やらせても部員顔負けの動きをするよ。高校入学の時は未経験にも関わらずに付近の高校の様々な部から推薦入学の誘いが来たくらいだからね」
「そりゃ来るよな」
木ノ実はリフティングしながらボールを蹴り上げまたオーバーヘッドシュートでゴールネットを揺らした。
「けど、火乃先輩への憧れで、推薦入学を全部蹴ってうちに一般入試でここに入ったんだ。それに、元々運動部には入る予定は無かったみたいだよ」
「ここでも運動部には入ってないのか? あんなに運動できるのに勿体ないな」
「そうでもないさ。小学生の時から地元の空手道場に通っているから運動はやっているし、その道場に貢献しているから充分だよ」
空手か。確かに空手で鍛えているなら脚力があるのも納得だな。
腕組みボールと戯れている木ノ実を見ていると、背後からえーっと言う複数の女子の叫び声が上がった。
何事だと思いながらも、俺と月城は顔を見合わせるが、お互いに背後は振り返らなかった。
振り替えったら下着姿の女子が目に入るだろうから。教室の騒がしい声が窓越しに伝わってくる。
どうやら何かが起きたようだった。
教室の中の音に耳を澄ましていると、ガラッと窓が開く音が鼓膜に飛び込んできた。
「水澤君と月城君ちょっと来てくれるかな?」
声を掛けてきたのはルーム長だった。
慌てて服を着たのか、ボタンがかけ違っていおり、顔にはどこか戸惑いの色が浮かんでいた。




