日常
薄暗い部屋の中心に位置する一つのカプセル型の水槽。
ぼんやりと淡く発光するその中にいるのは魚や貝などと言ったものではなく1人の人間。沢山の細いチューブにつながれたそれはうっすらと目を開けた。しばらく虚空を彷徨っていた視線が水槽の外の人物に向けられる。机に向かって何か作業をしていたその人物は視線に気付いて顔を上げた。それはその人物の口が弧を描いていたことを最後に再び目を閉じた。
どの大陸からも遠く決して陸上からは見えず、また航空機の類いも通らない完全に周りから孤立した場所、すなわち海の上に建つ巨大な塔。
その存在を知る者は数少ない。
そして、塔の中で行われている研究を知る者は本当に僅か。
CHILDREN OF EDEN
透き通るような青空。
ゆったりと流れていく大きな白い雲。
辺り一面が青々とした草原に寝転ぶ少年は柔らかい風に吹かれ揺れた草が頬に当たる感触に僅かに眉根を寄せ目を開けた。よっ、と勢いをつけ上体を起こした彼は自分の隣で寝ている少女の肩を何度か軽く叩く。やがてうぅ、と呻き声を上げて目を覚ました少女はまだ寝起きのぼんやりとした顔で欠伸をひとつ。
少年も同じ様に欠伸をした。
「セシーリア、そろそろ昼だし家に戻ろう」
目元に浮かんだなみだを指で拭いながら少年テオドールは立ち上がった。セシーリアと呼ばれた少女も立ち上がりテオドールと共に丘を登っていった。丘を越えた先にある村の孤児院に二人が帰るとちょうど食堂には出来たばかりの料理が並んでいた。
「あら、お帰りなさい。二人共すぐご飯だから手を洗ってらっしゃい」
食堂の入り口に立っていた2人に声をかけたのはこの孤児院で子供達の面倒を見ているカトレア。
カトレアの指示通り水道で手を洗い食堂に戻ると先程まで閑散としていたのに今は沢山の子供達が集まっていた。2人は適当な場所に並んで座ると向かいに座っていた少年が話しかけてきた。
「なあ、知ってるか?明日首都から視察が来るんだって」
「視察?」
テオドールが胡乱げに聞き返す。
「魔法見れるかなぁ、俺、大人が使う魔法っていうのを見てみたかったんだ」
「あ、そういえばミロードは将来魔法使いになりたいんだっけ」
セシーリアが問うとミロードはうん、と頷いた。
「魔法なんて使えなくても剣術とか体術さえ使えれば生きていけるよ」
テオドールが少し不機嫌そうに言う。
「テオは夢がないなぁ。まぁ、魔法が使えないんなら仕方ないけどな」
ミロードの少し挑発したような言い方にテオドールは思わず立ち上がった。
「ほら、すぐ怒る」
「てめっ...!!」
テオドールは机に身を乗り出してミロードの襟元を掴む。そして固めた拳をミロードの顔めがけて振り下ろそうとした時ゴツン、という鈍い音がテオドールの後頭部から聞こえた。セシーリアとミロードが驚いてテオドールの後頭部を見ると料理を載せるお盆が直撃していた。ドサッとテオドールが机に倒れこむ。
「あ、カトレアさん」
セシーリアが声をかけると恐ろしいほど綺麗な笑顔でテオドールにお盆をぶつけた張本人が振り向いた。
「セシーリア、悪いのだけどミロードと一緒にテオを部屋に運んでもらえる?」
「「はーい」」
そして二人は周りの手を借りながらテオドールを机から降ろし部屋に運び入れベッドに寝かせる。
「ねぇ、ミロード」
「ん?」
「なんでテオをわざと挑発したの?」
「なんとなく」
「.........そっか」
それ以上は聞かず部屋を後にし食堂に戻ると当然ながら食堂は笑いの渦に包まれていた。
ルーナ大陸。
縦80万Km 横113万Km
というそれなりに大きな大陸だ。
ルーナ大陸には大小様々な国や地域がありその一つ一つが独自の文化を築いてる。その中でも特に独特な文化を築いている地域。
アダージョ•コン•ポート。
そこでは獣人族や巨人族、人魚族など様々な種族が共存し、そして大陸の中で最も魔法が盛んに使われている。
これは謎と冒険に満ちた世界の物語。