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BLACK Welt ーブラック・ウェルトー  作者: 鈴風
1章 きみとの距離
2/7

Episode1 「彼女の願い」

 

 突如訪れた出来事に、亮也は焦りを隠せず2、3歩後ずさってしまう。


 今亮也の目の前にいる、黒いロングレインコートを身に纏った一見怪しげながらも顔は可愛いという少女。



 そんな少女に、亮也はいきなりキスをされた。



 羨ましい、そういうの憧れ、とかいう人もいるかもしれないが、案外実際に起こると反応出来ずに素直に感動も出来ないというのが今の亮也の感想だ。

 ちなみに亮也は、そんなことに憧れてなんていなかったため余計に思考がストップしてしまっている。


 亮也は何か言わなきゃならないと思ってはいても、なかなか言葉が紡げないでいた。


 焦りから来るものだろう。


 口に溜まった唾を飲み下すと、ある程度落ち着いてきたのか、改めて今しがた自分に不意打ちを仕掛けて来た少女を亮也は見やる。



 身長は、亮也の175cmより一回り低い160cm前後。

 腰辺りまで伸びている、日光の反射で煌びやかに亮也の眼に映っている少女の夜色の髪は、少女の今の服装と相成ってより黒一色の統一感を出す。

 瞳は青眼で、今もなお正面の亮也をその瞳は映し続けている。

 異様すぎるほど服装と合わない容姿で、亮也は思わず残念すぎると思った。



 そしてだいぶ思考も普段通りに回り始めた亮也は、今起きた急展開すぎる出来事の理由を考えた。


 まずいつも通りにこの丘へと到着し、それからベンチに座りリラックスタイム。

 そうしていると後ろの草むらから物音が。

 それを気にしつつも心を落ち着かせていると、草むらからの物音が止んだ。

 そしてふと後ろを見てみると、そこには少女が立っていた。

 物音の原因はその子だったのかと安堵。

 でも常人がこんなところに辿り着くのはおかしいんじゃないか? と頭の中で考えているといきなりキスをされ、今はその後。



 …………………………。



 とりあえず、少女の正体から明かさないといけないらしい。

 亮也は若干額に汗を浮かばらせながら、目の前の少女に尋ねた。


「えーと……、君の名前は?」


 まず最初に訊いておかなければならないであろう事項を亮也は少女に訊く。

 いきなり自分のファーストキスを奪われたのだ、それぐらいのことを聞く権利はあるはずだ。

 亮也はそう適当に理由付けをしながら、純真な瞳を向ける少女に名前を訊いた。


「……………………」


 だが、彼女は無言だった。


 しっかりと亮也の目を見つめながら、無言だった。


 正面の少女は亮也の位置からではよく見えないが、少しだけ頬を赤らめている。

 少なからず少女の方も恥ずかしかったりしたのかもしれない。


 そんなことも露知らず、亮也は少女にまた質問をする。



「えっとー…………、じゃあ君は、どこから来たの?」



 割とありがちな質問を訊く。

 テンプレートな質問だからと言っても、これを訊かないことには相手の素性も掴めない。訊く必要のあることなのだ。


 だがしかし、そんな質問にも表情一つ変えず無返答の少女。


 亮也一人質問していて、一人で喋ってるおかしな人みたいな空気が二人の間を流れる。



 亮也は極めてポーカーフェイスに表情を澄まして、端から見た自分の姿に心で泣いた。



 □■□■□



 とりあえず亮也は、逆に少女の方から質問させるという形を取ることにした。

 少女は答えるのが苦手なだけで、質問の時はザクザク来るタイプかもしれないからだ。

 亮也は、そんなちゃんとした理由のない行動に出た。それぐらいに、何をしようか考え付かない状況だったからでもある。


 例えば何か派手なアクションを起こして、少女が何かしらの反応を示すかどうか試したとしよう。




 この少女には、何か意味なさそう。




 亮也はこの答えに至った。


(いや、小学生のように無邪気に「チャック開いてるぜー!」とか言いながらチャックの辺りを指差してやりたいが、如何(いかん)せんチャックの部分はコートで隠れている。いやまぁ、膝上まで隠れるっていう仕様のコートだからいいんだけどさ)



 そして亮也は、知らない少女の股の辺りを凝視している自分を端から見て、また心の中でさめざめと泣いた。




「逆になんだけど、俺に質問したいこととかある?」


 思考を切り替えて、亮也は少女の方に質問をさせるように促す。


 だが、少女は変わらぬ無表情。


 亮也は次はどうしようかと思考に身を投じようとした。

 けれどその時だった。



「…………」



 少女が無言ながらも頭を傾け頷いて見せた。


 つまりは、ようやく少女と話をすることが出来るということ。


 亮也は自分が間違ってはなかったな、と自画自賛。


 そして少女からの質問を待つ。



 …………。



 ……………………。



 …………………………………………。



 流れる時間、過ぎ去る風景。


 日もだいぶ傾いて夕焼けが街をほのかに照らす中、5分の間亮也と少女はお互いを見つめたまま硬直していた。



 あまりに長い時間に思わず溜め息を零す亮也は、質問を促すように言う。


「ねぇ、質問あるんじゃないの? 無いならそう言って欲しいんだけど」


 質問がないのならそれはそれでしょうがないことだし、あるのなら早めに言って欲しい。

 とりあえず何かしらの反応を示してくれないと、もしかして死んでるんじゃないのか? 何てことまで亮也は最悪考えてしまう。


 でも実際のところ、少女は5分間全くと言っていいほど動いていない。



 だが、



 少女は静かに首を振った。


 つまりは、やはり質問があるということ。



(…………なら早く言ってくれ。多分今ならどんな質問でも答えられそうだから)



 マジでそんな気がする。

 亮也はそう思って早くして欲しいオーラを漂わす。


 すると少女は、そんな亮也の空気を流石に悟ったのか、ずっと閉ざされていたままだった口を初めて開いた。






「…………彼女とか、いるの?」






 Waht(ワッツ)?


 亮也の初めの感想がこれだった。


 英語は苦手教科なだけあって、難しい「何言ってんのこの人?」みたいな文章はパッと出てこなかった。


 いやいやそんなことはどうでもいい、と亮也は雑念を払拭するかのように頭を振り、少女の答えに冷静に答えた。




「いないよ」




 亮也がそう至極まともに答えると、少女は初めて顔に表情を灯した。




「…………なら、良かった」




 満面、とまではいかないが立派に誇れるような可愛らしい笑みを浮かべる少女。


 亮也は思わずドキリとする。というかしない方がおかしい、と亮也は思うほどにこの少女の今の笑みは素晴らしいものだったと感じた。



 亮也の答えを聞いて、少女は満足だった。



 これ以上何もいらないというほどに。




 だが、ーーーー少女はその上を望んだ。






「…………それじゃあ、私の彼氏に、なって欲しい」






 亮也は少女のその表情に惚れ惚れしながら、そんな言葉を聞いた。


 気分的にはオーケーだった。


 だが、そんなことさらっと受け入れられるわけもない。



 亮也は戸惑った。



 別段可愛くないわけでもなく、逆に言えば普通に可愛い部類に入るような顔立ちをしている少女だ。

 確かに服装はダークな感じがするが、そんなものもたかだか少女のファッションなだけかもしれない。

 それなら、自分がもっと似合いそうな服を選んであげて、そうして変えていけばいいんだと亮也は自身に言い聞かせるように言った。



 だが、亮也は答えを告げられないでいた。



 思いとしてはオーケーなのだ。




 しかし、さっき亮也には"何か"が弾けるような音が襲った。



 あれは、亮也の中の"何かが失われた音"だ。




 何が失われたなんて亮也自身には解らないが、それが原因で明確な答えが口を()かないのだろうと薄々検討をつけていた。


(俺は別に、初めから彼女のことを可愛いとは思っていたし、それだから余計にテンパってたりしてたところあるからな。もちろんキスは嬉しかったしこんな可愛い子となら付き合ってもいいとも思っている。

 だが、今になってちゃんとした答えが出せない。なら今起きたことを考えればいい、そうなった時に真っ先に頭に浮かぶのがさっきの感覚だ)


 無論、失ったということなのだからこの言葉についての答えを失ったとも考えた上での解答だった。



 そもそも、そんな考え方はあまりにも不自然だろうか、何てことを亮也は当然考えていた。


 だが、亮也自身に備わっている視力が優れているという特殊な力。


 そんな非現実的なことを自身で身を持って実感しているからこそ、こんなあり得ない状況に対してもあり得なさそうな答えを出してしまうのかもしれない、と亮也は自分の問いに答えを出していた。




 そして亮也はあらゆる事を考えて、『一番良い選択』を選んだ。




「えっとさ」


「…………?」



 亮也は多少引け目を感じながらも少女を呼ぶ。

 そんな呼びかけに、無垢に首を傾げて「何?」と少女は返事をした。




「さっきの答えなんだけど……」


「……………………」



 それを聞いた少女は、ハッと表情を変えたように亮也の眼には映った。


 さっきの笑顔を見ているから、そこまで無表情というわけでもないのだろうと亮也は納得していたから、特に敏感には反応しない。



 さて、ここからが言いにくい…………。


 下手をすると、少女を悲しませる答えになるかもしれないからだ。

 それはもちろん亮也は承知だった。



 だが、これが今俺が出せる『一番良い選択』だ。


 

 そして2、3度深呼吸をしてから亮也は心を落ち着かせて、意を決したように"答え"を口にする。






「……とりあえず、保留って形にしてもらえないかな?」






 決してヘタレではない。



 これが亮也なりに考えた最良の決断だった。




 この場で出せないのなら、別の機会に出すしかない。




 だがしかし、それだけでは答えは変わらない。しかも段々と気持ちが薄れていってしまうかもしれない。




「いや保留っつっても、これからは君と一緒にいたいかなとも思ってる」




 少し恥ずかしながらも亮也は言う。



 これが本当の答え。



 一緒にいれば自ずと少女について色々わかってくるだろうし、少女の方からもやがて何か話してくれるかもしれない。


 そんな未来の自分にまかせたような妥協案。


 亮也自身が彼女ともう少し一緒にいたい、というのも考慮しての答えだが。



「……………………」



 だが、亮也のこの意図を読めない少女は悲しい顔をする。


 それを見た亮也は慌てて弁解に入る。



「いやいやそんな顔するなよっ、別に先送りにしたかったわけじゃないんだからさ!」



 少女はしかめっ面。



「実のところを言うと……、まだ答えが見つかってないと言うか、そんな曖昧な中で返事されても困るだろ?」


「……………………」



 少女は変わらずの表情だが、少し考えてから小さく頷いた。


 納得してくれたか、と亮也は安堵する。

 本当に理解してるのかな? なんて無粋な疑問はない。


 亮也から見た少女の性格上、ちゃんと答えられる質問でないと返事をしない傾向にあるよう。

 その関係で、今までの質問も答えられなかったのだろう。


 そして亮也は続ける。




「だからその、……これから一緒に過ごしてさ、それで答えを見つけていけたらいいなとか思ったり思わなかったり?」




 恥ずかしながらも最後まで言えた自分に胸を撫で下ろし、ほとんどそっぽを向きかけていた顔を少女の方へと戻す。




 すると、少女は顔を赤く染めながら泣いていた。




「……………………え?」



 思わず呆気にとられる。


 だが、こんな表情をこれからも見ていければいいな、とも亮也は思った。






 少女は、自分が何故泣いていたのか解らない。


 そして、この涙の意味も解らないでいた。


 少しだけ視線を亮也の方へ向けると、少女の方へと目を向けていた。


 泣いている自分を亮也に見られていると今更知り、少女は顔を覆い被らせるように右手を顔に持っていき中指と親指でそれぞれの目に溜まった雫をゆっくりと拭った。


旧作よりも話の進みが確実に遅い件


まぁ、それはそれでいいことですけどね!

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