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天使、なぜか朝に夕食をとる。

 “チャック”シリーズなのに、話の展開がスローペース。きっと、主役の二人が常識人だから。


 本文中にカタカナ&外来語が多いのは、天音ちゃんがナウいからwww

 異世界って、食べ物もファンタジックなんだ…。



   ◇◇◇



 レイナルドに連れられてやって来た食堂は、どうやら福利厚生の精神が行き届いているらしく、広く清潔感に溢れたところだった。広さは小学校の体育館くらいあるだろうか。テーブルや椅子が整然と置かれているわりに、ゆとりを持った造りになっている。

 テーブルクロスにまで細やかな刺繍が施されているのを見ると、この神殿はかなり裕福なのかも知れない。


「立派な食堂ですね」


 天音は食堂を見渡しながら、率直な意見を述べた。

 食堂というよりは高級レストランのような内装だと思う。足元のふかふかの絨毯とか。


「まあ、神殿の癖に金かけてるからな」

「宗教って税金かかりませんからね」


 そう言ったレイナルドに、天音は子どもらしからぬ言葉を返す。……末恐ろしい小学生だ。


「よく知ってんな。そっちの世界でもそうなのか?」

「はい、ここもそうなんですね。……それにしても、人少なくないですか?」

「今、微妙な時間帯だからな。元々神殿は起床も朝食も早い」


 確かに10時過ぎなら、朝食にしても昼食にしても微妙な時間だろう。大抵の人はもう食事を済ませて仕事に取り掛かっていてもおかしくない。神殿なんて一般の職場よりも朝が早そうだし。

 しかし、それならばレイナルドももう食事を済ませてしまっているかもしれない。食事に誘ってくれたのは、天音に気を遣ってくれたという線が濃厚だ。


「えっ!?じゃあ、レイナルドさん……ホントはもう朝ごはん食べちゃったんじゃ…」


 “そうだったら申し訳ない!”と言わんばかりの天音に、気にした風もなくレイナルドは答える。


「いや、俺は朝弱いんだ。いつも最後に一人で食ってる」

「……それは、寂しくないですか。ちゃんと朝起きた方が…」


 その答えには天音の方が気になった。

 この人、ホントに社会人だろうか。朝弱いって、言い訳にはならないだろ。何となく心配になってしまう。


「まあ、そうした方が良いとは思ってるぞ?ただ、眠くてな……。

 それに、昔は誰かしらが起こしに来てたんだが、いつの間にか誰も来なくなった」

「それは寂しい、ですね……。あっ、ここ座っても良いですか?」


 思わぬ発言に、天音はすかさず話題を逸らした。

 ひょっとして、聞いてはいけないことだったのだろうか。申し訳ないことをしてしまった。“誰も来なくなった”とか辛過ぎる。

 レイナルドは、天音の反応に微妙な顔になったものの示された席を見て頷いた。


「……ああ、そこで食うか」


 許可をもらい、椅子を引いて腰掛ける。……若干、座ると足が地に着かないのは天音の身長が低いからではない。きっとこの世界の椅子の規格が大きいのだ。たとえ、背の順で前から二番目であったとしても、ここは譲れない。デリケートな問題なのである。

  

「……お、大きい椅子ですね」

「そうか?……何なら、違う椅子を持ってくるが」

「いえ、この椅子ピッタリですよ。ちょうど良いです」


 レイナルドは、なぜか微笑ましげな目でこちらを見てくる。……なぜだ。


「…………そうか。じゃあ、俺は飯を取って来る。何か苦手な食べ物はあるか?」


 セルフサービスなのか。高級レストラン風でも、さすがに給仕はいないらしい。

 しかし、それならばこれからお世話になる自分が取って来るべきだろう。母親も“人の厚意に甘えていると痛い目を見ることになる”と言っていた。身の程を弁えなければ。


「いえ、それなら私が取って来ます!」

「お前だと手が届か……いや、やっぱり俺が行こう。客に取って来させる訳にはいかない」


 今、手が届かないって言いかけていたように感じたのは気のせいだと思いたい。

 親切を固辞するのも失礼にあたる。ここは、素直にお願いしておこう。……大人だから。


「……じゃあ、お願いします。あと、特に苦手な食べ物はありません。もう十歳ですから」

「それはすごいな、大人でも苦手な食べ物がある奴は多いぞ。

 ……適当に見繕って来るから、少し待っていてくれ」

「はい。ありがとうございます」


 食事を取りに行くレイナルドの後ろ姿を見送りながら、異世界の食べ物が自分の許容範囲を超えないことを祈った。




 目の前に置かれているのは、温かな湯気を立てているシチューにこんがり焼けたパン。そこに、ゼリーっぽいデザートが添えられているところがお子様ランチを彷彿とさせる。腹立たしいことに。

 しかし、天音はそんな食事のチョイスではなく、テーブルの上で異彩を放っている瑞々しいサラダ(?)に意識を取られていた。


「……コレ、サラダですよね?」

「あー、一応そうだな。おかしいのは色だけだ、気にするな……と言いたいところだが、どうしても気になるようなら、食べなくても良いぞ?」


 レイナルドはそう言ってくれるが、わざわざ取って来てもらったものを食べないのは天音の主義に反する。母親ならば、こんな場面でも顔色一つ変えずに“美味しそうですね”と笑うだろう。たとえ、サラダが天音の常識では有り得ない程カラフルであったとしても。


 ……こんな色、自然界にあって良いの?


 なぜ、このレタスらしきモノは色がアクアマリンで、しかも微かな輝きを放っているんだろう。プチトマト(?)にしても、黄緑に茶色のぶち模様が付いている。……ちょっと、カワイイ感じがする。でも、食べ物としては完全に間違っているし、食欲もそそられない。


「大丈夫か?無理はするな。……ソレはこの国特有の色だから、この世界の奴でも他国出身者だと躊躇う。つか、“食べれるか!!”って叫んだ奴もいたしな」


 天音の躊躇いを感じ取ったのか、レイナルドがサラダを自分の方に引き寄せようと手を伸ばしてくる。


「…い、いいえ!食べます!……ちょっと、驚いただけです」


 天音はレイナルドの手を止め、サラダの皿を元の位置へと戻した。

 そう、驚いただけだ。別に食べられない訳じゃない。ちょっと、他では見ない色なだけで、合成着色料使ってると思えば気にならない。……最悪、目を瞑って食べれば分からないはずだ。

 第一、食べないのは礼儀に反する。母親の教えにも。


「う、い、いただきます。……んっ!」


 目を固く閉じて、レタスっぽいモノを素早く口に入れる。

 いっそこのまま飲み込んでしまいたいが、それは作ってくれた人に悪い。ちゃんと味わわなければ。


「……………美味しいです」


 食べると普通のレタスの味がした。というか、普段天音が食べている物より新鮮で美味しい気がする。……この見た目で味は普通、というのは何となく納得いかない。


「なら良かった。ほら、サラダだけじゃなくシチューやパンも食べてくれ。そっちは見た目も味も普通だぞ」

「はい。……とっても美味しそうですね」

 

 サラダがアレだった所為か、余計にそう感じる。いや、まあサラダも味は良かったが。


「……あの、少し質問しても良いですか?」 


 正直、食事中に話をするのはあまりマナーが良いとは言えないが、やはり今後のことについて聞いておきたいこともある。

 天音は、レイナルドの様子を窺いながら話を切り出した。


「ああ、構わない。何から聞きたいんだ?」

「ええっと、しばらくは神殿で生活を保障してもらえるんですよね?」

「ああ、そうだな。大神官様……俺の上司にも許可を取っているから、その辺は安心してくれ」


 上司って……まさかアレンのことだろうか。大神官がどの程度の地位にあたるのかは分からないが、話の雰囲気から言ってかなり上の方の役職のはずだ。あんな変質者(仮)が高位に就いているなんて、この神殿は大丈夫なのか。

 ひょっとしたら、神殿にいない方が安全かもしれない。


「じゃあ、孤児院とかに預けられることになるんでしょうか?」


 神殿なら孤児院とか経営していそうだ。


「いや、今のところ神官預かりになる予定だ。神殿には女性神官もいるからな」

「あっ、女性もいるんですね。誰かのお家でお世話になるんですか?」


 女性の家で生活できるなら安心だ。同性の方が聞きやすいことも多いし。

 しかし、神官預かりって“保護監察中”みたいで何となく嫌だ。不可抗力とはいえ、祭壇に立っていたのはマズかったか。


「いや、個人の家ではなく神官用の宿舎だな。その方が何かあったときに対応しやすい。

 しばらく神殿で暮らして、馴染めなかった場合はそのとき他の場所を探そう」

「ええっ、そこまでしなくても大丈夫です!私、人見知りとかしないし」

「どうしても合わない場合は、ということだ。気にするな。それに、そこまでしないと保障してることにならないだろう」


 有り難い申し出に、胸が熱くなる。親切な世界で良かった。……変質者(仮)とか危ない人もいるけど。食べ物の色も変だけど。


「……はい。ありがとうございます。でも、一方的にお世話になる訳にはいかないので、神殿の奉仕活動とか、何かお手伝いさせてもらえませんか?」


 “働かざる者食うべからず”が白鳥家の家訓だ。いくら親切な世界でも、迷惑ばかり掛けていては愛想を尽かされてしまう可能性もある。心象は大事だ、一言言っておくだけでも違う。


「……本当にしっかりしてるな。だが、そういうことはあまり気にするな。アマネの世界がどうかは知らないが、この国でお前くらいの齢なら保護されて当然だ」


 天音の心が読めた訳ではないだろうが、その子どもらしからぬ言い分にレイナルドは苦笑を漏らした。


「私の国でもそうですよ。でも、自分でできることは自分でしたいんです。……迷惑なら止めておきますけど」

「迷惑ではないし、手伝ってくれるというのは助かる。ただ、お前はこの世界に来たばかりだろう?

 ここの生活に慣れたら、また言ってくれ。そのときに頼もう」

「はい。無理言ってごめんなさい」

「謝らなくても良い。無理なことでもないしな。……他に質問はあるか?」


 そう促されて、天音は申し訳なさそうに口を開く。

 他にも聞きたいことはあるが、これ以上レイナルドの時間を割く訳にはいかない。


「ええっと、レイナルドさんもお仕事ありますよね。また、時間のあるときに聞いても良いですか?」

「……あー、いや、俺はいつも暇なんだ。今日の仕事もアレンに…いや、元からそんなにないしな。

 とにかく、聞かれたことに答えるくらいの時間はある」


 レイナルドの言葉を濁すような態度に、天音は悟った。

 

 そっか、レイナルドさん閑職なんだ…。


 窓際族というやつだろうか、またしても悪いことを聞いてしまった。

 天音は何だか悲しくなってくる。こんなに良い人なのに。

 アレンが高位に就いているらしいことを考えると、神殿は意外とブラックな組織なのかもしれない。


「そ、そうなんですか…。じゃあ、私の他にこちらに来たっていう人について聞きたいです」


 急いで話題を変えなくては。


「………………。俺が知っている限りでは、来たのは二人で、どちらも成人した女性だったな。

 ……悪いが、あまり詳しいことは知らない。二人共王宮に保護されたからな」


 レイナルドは、なぜか言い難そうにしている。その、微妙な沈黙が気になるところだ。

 まあ、よく知らないのなら詮索するのも悪い。ここは気にしないでおこう。


「そうだったんですか」

「……そういえば、アマネ。身体の調子は悪くないか?」

「……サラダなら、美味しかったですよ?」


 今度はレイナルドが急に話題を変える。

 突然そんなことを聞いてくるとは……まさか、危ない食べ物だったのだろうか。いや、見た目はたいへん危険なモノだったが。

 今のところ、お腹に違和感はない。


「いや、違う、そうじゃない。その……世界を越えた影響なんかがあるかもしれないと思ってな」


 ああ、気付いてしまった。

 たぶん、天音の前にここに来た二人には、トリップの影響で何か身体に異変があったのだろう。どんな異変だったのかは、あまり聞きたくない。……レイナルドの表情からすると、碌なモノではなさそうだ。


「…………別に、何ともないと思います」

「それなら良いんだ、それなら。

 一度に多くのことを詰め込む訳にもいかないし、今日はここまでにしよう」


 話を纏められてしまった。やはり、聞かない方が良いらしい。

 ちょうど食事も終わったところだし、タイミングの問題かもしれないが。


「あっ、はい。色々と教えてくれて、ありがとうございました」


 不安はあるが、この世界で最初に出会えたのがレイナルドで良かった。天音はそう思いながら、親切な彼に深々と頭を下げた。……変質者(仮)のことは忘れよう。きっと、もう関わることもないだろう。


  

 ―――今は、私の身体に異変が起こらないことを祈ろう。





 しかし、変質者(仮)はレイの幼馴染だ。これからも、きっと関わることになるだろう。……天音ちゃん、ドンマイ。

 それにしても、天音ちゃんの中のレイがダメな大人になっている気がする。社会人失格で閑職に就いてる男、レイナルド。…誰だ、それは。

 どちらもボケじゃないはずなのに……なぜ、こんなことに(泣)

 それに、天音ちゃんが打算的な子どもになってしまった。……なぜ、こんなことに(泣)←二度目

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