赤いさざめ森
妖銘町のはずれにある『さざめ森』
ここは人間とは相いれない妖怪達が住む場所。
この森には昔から神が居るとの噂もある。
だが、凶暴な妖怪も出るため普通の人間は近付きすらしない。
ある日の夜、そこに着物を着た一人の青年が入って行った。しかも下駄でだ。
真っ暗で足元も良く見えないはずだ。
危険な森の中、楽しそうに、嬉しそうに、軽やかな足取りで奥へと進んで行った。
月の光も届かないほどにまで茂った森。
その森の中心部まで進むと彼は足を止めた。
「ここなら、喰える。」
そっと小さな声で呟く。
彼は突然両腕を広げた。
すると、目の前には大きめの和太鼓が現れ、彼の目の前に浮かんでいた。
両手に光が集まり、光は桴へと姿を変えた。
そして
トン トン トン、トトン、トトン
軽く和太鼓を鳴らし始めた。
森がざわめく。
和太鼓の音に釣られたのか、小さな妖怪達がぞろぞろと彼の周りに集まってくる。
「うーん・・・、全然足りないなぁ。もっと強いのじゃないと。」
ドン ドン ドン、ドドン、ドドン
今度は先ほどよりも強く叩いてみたらしい。
集まってきたのは先ほどよりも大きめな妖怪達。
それでもまだ、彼は不満そうな顔だ。
「これでもだめ・・・、もうこうなったら、少し本気で叩いてみよっかね。」
ドン! ドン! ドン!
先ほどよりも叩く回数が少なかったが、効果はあったようだ。
森のさらに奥から木々をへし折り、倒しながら巨大な妖怪が近づいてきた。
「当たり!」
彼はその大きな妖怪を見ると嬉しそうにはしゃいだ。
先ほどまでに集めていた妖怪達はその大きな妖怪に怯えて動けなくなっていた。
「さぁて、ディナーのお時間です♪」
彼の目が黄金色の光を帯び、額からは四本の角が生える。
そんな彼の目の前に大きな妖怪が姿を見せる。
どこからどう見ても、あれは鬼。
和太鼓が塵のように消え、桴が鎖鎌に変化した。
そして、鬼は集まった大小様々な妖怪達に向かって鎌を振りおろし、錘の付いた鎖で妖怪達をなぎ払った。
弱って動けない妖怪達の前に立つと、鬼は妖怪を一匹鷲掴みにした。
「いただきます。」
鬼は妖怪に喰いついた。
喰らわれた妖怪は絶叫するも、抵抗できずに喰われる。
口元どころか、鬼の来ている着物も返り血で真っ赤に染まる。
一匹の妖怪を喰い終わると、また次の妖怪に喰らいついた。
最後には大きな妖怪にも喰らいつく。
妖怪達は絶叫を夜の森にこだまさせ、その地を真っ赤に染めた。
鬼は大きな妖怪を食べ終わると軽く息を吐いた。
「ごちそうさま。」
うっすらと笑みを浮かべ、森の外へと出て行く。
妖怪達が何の為に喰われたのか、知る者は、まだ、誰もいない。
今、ここで何があったのか、誰が来たのかを知るのは、この森の木々。
そして、この森の主である神だけなのだ。
森の主である神は悲しんだ。泣いていた。
『お前たちが報われるように、我が連れて行こう。』
突然、森の中に光が浮かんだ。
神の生みだした、温かい光。
その光は妖怪達の残骸を包み、この地に染み込んだ絶叫も包み込んだ。
残ったのは今晩の惨劇を物語る、おびただしい量の血痕と、むなしさ、
神の流した涙だった。




