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ケンタウロスと私  作者: 吉田
拍手再録 独身寮小話
32/34

馬と尻星人とおっぱい星人な俺

 


 今日もお仕事頑張ったぞおっと一升瓶片手に、飲み会の指定場所である田中の部屋に今夜も突入すれば、そこにいたのは真っ白になっちまった馬の抜け殻だった。

 後からつまみを持ってやってきた大野も、何事かとその涼しげな目を見開く。


「ええと、東馬くん?」

「入ってます」

「いやいや、そういうボケが欲しいわけじゃなくって。……ど、どうしちゃったのかなあ?お医者さんに言ってみ?」

「主に、ピンク色の何かが入ってます」


 何だか頬を赤く染めたまま、ぼんやりと美貌のケンタウロスは繰り返す。

 あれか、尾野ちゃんに殴られ続けてついにどこか遠い星へと言ってしまったのか、東馬!

 尋常ではないその様子に、俺たち二人は慌てて部屋に入り込み、その身体を揺さぶる。ねえねえ、帰ってきてよ、俺たちのおもちゃ……じゃないお友達!


「東馬っ、しっかりしろ! 傷は浅いぞ!」

「まさか発情期、発情期なのか、田中」


 がくがくと二人に肩を揺さぶられても、東馬はぼややんとしてされるがまま。俺たち二人は本格的にこれはやばい、と顔を見合わせた。

 なんていうか、全身をピンク色のオーラが覆い尽くしている。

 ちょっと、その面白いことになったそこんところを話せよ、東馬くん!


「まさか、ヤっちゃたんじゃないだろうな、田中」


 ひどく深刻そうな表情を作り大野がそう言った途端、音まで聞こえそうな勢いで東馬の顔が真っ赤に染め上げられる。いやああああああ! 俺の可愛い童貞東馬があああ!


「大人の階段昇る、君はケンタウロス!?」

「おまえが落ち着け、杉村」

「だってだってだってだって、おまえええ、ちゃんと避妊したんだろうな!? っていうか、おまえのそれは俺の想像通りのやり方でいいの!? いいの!? うわあああ、尾野ちゃんが死んじゃうううう!」


 軽く混乱した俺のワキを、大野が軽くつまむ。あっ!

 そこが弱点だってなんで知ってんだ、この尻星人が!


「俺にそういう趣味はねえぞ、大野」

「おまえが逃避してどうする。現実に戻れ、現実に」


 正直、すまなかった。直視できなかったんだ、この現実を。

 俺は深々と息を吐き、それから意を決して東馬の前に腰を下ろした。そこら辺については、俺と大野がゆっくりと教材を使って教えてやろうと思っていたのに。

 そうか、そうか、東馬。そうだよな、やる時はやらなきゃだよな。初めての時なんか、勢いだってついちゃうよな!


「お、お兄さん達に詳しく話してみなさい、東馬君」

「何キャラなんだ、お前は」

「うるせえ!」


 鼻息荒く問う俺の後ろから余計なつっこみが入るが気にしない。いや、ちょっとした。

 そんな二人のやりとりはまるで耳に入っていない風の東馬が、そこでようやく桃源郷をさまよっていた瞳を俺たちに向ける。


「僕、杉村さんに教えてもらって今日、風邪をひいてる二十九日さんのおうちにお見舞いに行ったんです」

「ナイス、俺!」

「まさか、風邪で弱っている尾野につけ込むとは……上級者だな、田中」

「ふふっ。蹴り飛ばされたいんですか、大野さん」


 ぼんやりしているから大丈夫かと思えば、尾野に関しての東馬の嗅覚は健在だった。ちょっとでも彼女を貶めたような発言には、センサーが働くらしい。

 田中東馬、マジ東馬。


「すみません、俺が悪かったです。続けてください」

「最初は玄関から呼びかけたんですけど、返事が無くて心配で……。失礼とは思いつつ、僕、二十九日さんの部屋まで上がっていったんです」

「おおっと、攻めの姿勢だな東馬! グッジョブ! ビバ童貞パワー!」

「記念に蹄の痕を身体に残したいようでしたら、僕は協力を惜しみませんよ?」


 俺はぶるぶると頭を振って愛想笑いに終始する。

 すみません、俺、思ったことは全部口に出てしまうんです。それでこれまで何回女にびんたくらってきたか、数え切れないです。

 顔を青くした俺の代わりに、今度は大野が話の続きを促す。警察官、こんな時ばかりやる気だな!


「この馬鹿は放っておけ。それで、それでどうなった?」

「部屋は二十九日さんのいい匂いがしました……。あやうくどうにかなりそうでしたけど、僕は礼儀正しいケンタウロスなので、色々と我慢したんですよ。お布団の中で二十九日さんはうなされていましたし」


 再びぽややんとピンク色オーラを出しつつも、東馬はうっとりと続ける。

 こいつは、匂いフェチか。馬……そうだ、馬だもんな東馬。それでも、おまえのその顔で匂いがどうこう言われると、他の奴の数倍やばい感じがするけどな!


「本当はそうっとしておこうかと思ったんですけど、あんまりにもお辛そうなので、僕、二十九日さんを起こそうと思ったんです。全然、まったく、ちょっと汗の匂いが嗅いでみたかったからとかそういうんじゃなく、顔を覗き込んでですね……」


 変態だっ、さっきは間違った! 惑うことなく変態だったよこの子!

 慌てて隣の駐在に目をやれば、大野はそれどころじゃなく生唾を飲み込むところだった。あれっ、ここで正気なのって俺だけ?


「で、具体的に何かがあったと」

「わざとじゃないんですっ、僕、わざと狙ったわけじゃないんですよっ」


 これでもかと顔を真っ赤にしながら、東馬は迫る大野を避けるようにして後ろにずり下がる。待て、東馬。こいつは別に職業的意識でお前を問いつめてるわけじゃなく、どう考えても下半身的な意味で興味津々なだけだ。はやまるなっ。


「……二十九日さん、すっごくうなされて、それでその……僕が顔を近付けたとたんに飛び起きて、それで……」

「そ、それでっ?」

「それでどうしたんだ、田中!」


 思わず俺まで身を乗り出す。

 下手なAVより、ちょっと興奮するかもしれないこの実話!


「あたっちゃったんですっ! 起きあがった二十九日さんの唇が、僕のとあたっちゃったんですっ!!」


 そこまで一気に告白して、東馬は顔を覆ってじたばたと暴れ出す。

 馬の蹄でそれをやると、畳が痛むと思うぞ、東馬。

 しかし、その甘酸っぱいラッキースケベを聞かされた俺たちは、どうすればいいと言うんだ。

 なんていうか、すっごく疲れたんだけども。

 興奮状態から急激に我に返った俺が隣を見れば、大野も呆けた顔をしてこちらを見ていた。

「二十九日さんの唇、柔らかかった……」と呟きつつ、また遠くへと旅立ってしまった東馬を見つめ、俺たちは意を決して立ち上がる。

 駄目だ、このケンタウロス、早くなんとかしないと。


「いいか、東馬。俺たちが今からお前に大事なことを教えてやるからな!」

「それに必要な教材を取りにいってくる。しばし待て」

「え?」


 そう言い残し、俺たちは一目散に自分の部屋へとダッシュした。

 俺の秘蔵AVは乳はばいんばいんものばかりだか、趣向としては愛あるらぶらぶえっちストーリーでノーマルなほうだ。うん、珠玉のあれならは大丈夫だろう!

 大野は真性のサドなので、持ってくるものは俺が検閲してやらないと、初心者である東馬の夢が壊れる。なんとかしよう。


 そうして俺たち二人は再び東馬の部屋に戻り、大切なお勉強の時間が始まるのだった。

 それを見た東馬が泣きながらプチ家出をするのは、また別のお話。



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