第2話
「よし、京都に行こう!」
「言いたかっただけでしょ。しかも『そうだ、京都に行こう』だし」
今は関東の卯月の家にいて、最初にどこに行くか話してるところだ。
騰蛇が笑いながら言ったのだが、卯月が突っ込んだ。「あれ、そうだっけ?」と笑う騰蛇であった。
「初番から京都じゃ面倒だな。先ずは北海道の方に向かおう」
「えー!?寒くてやだー。沖縄方面に行きましょうよー!」
因達羅が主張する。
「沖縄…。卯月様、沖縄は美しゅうございます。それに冷えはお体に障りますゆえ、私は因達羅に賛成でございます」
花海棠が上品な声と動作で因達羅に一票。
「卯月様、私も沖縄に行きたいです」
珊底羅も因達羅に賛成のようだ。卯月は「まぁみんなが行きたいならいいか」と、結局沖縄に行くことにした。『沖縄方面』ではなく『沖縄』に行くことにした。
「卯月たち、今頃どこにいると思う?」
団子を食べながら皐月が睦月に言った。今は長の本邸とも言える|(国会議事堂みたいな感じ)、大きな屋敷にいる。集会が終わってもだいたいここに居る者は多い。居心地がいいからだ。
2人は居間のような、雑談室みたいな所で小さな気の机を挟んで向かい合うように座っている。
「さぁな…。卯月は“上”が好きだから北海道の方かな」
「そう思うか?うちは逆だ。4月の連中どもは寒いのは嫌いなやつらだ。沖縄方面だな」
「そうか…。沖縄…。シーサーか…。海か…。いいなぁ…」
とぼやいているが、ハッとして目を見開いた。
「海!…卯月は水着になるのか…!?」
「なんねーだろ」
突っ込む皐月の声など全く聞こえてないようだ。
「水着か…。いいなぁ…。見たかったなぁ…。ハッ!!ジロジロ見られないか!?あー!くっそォ…!!なんって……羨ましい…!!」
「羨ましいんかい」
ほとほと呆れる皐月だが、睦月は暴走し続けていた。
2、3日かけて、やはり『沖縄方面』ではなく『沖縄』にやってきた。
飛行機をタダ乗りして|(←人間には見えないように変化)、空港を勘を頼りに出て|(←みんな初めて来た)、意外とスムーズに外に出れた。そして今、初めての土地に一歩踏み出した。
「すごーく面白いですねーぇ卯月様ーぁ♪」
可愛らしく言う小手毬が指すのは、綺麗な海でも観光スポットでもない。
「台風ですよーぅ♪」
荒れ狂う波と強風に大雨だ。卯月もこの風景は嫌いじゃない。寧ろ好きだ。しかし予定が…
「うん。凄くいいね。ところで今何月だっけ?」
季節外れの台風に見舞われなんとも言えない気分の卯月だが、珊底羅が急かすように言った。
「卯月様早く中に入りましょう!ずぶ濡れです」
今は実体化していて、普通に誰にでも見える。外に出ている人はまずいない。
珊底羅に急かされて早々と空港に戻った。
「今日は暇そうだから、各自自由行動でいいよ。夕方ぐらいにホテル集合ね。あぁ、あとなるべく1人は避けること。なるべくでいいけど。そんじゃ私はトイレにーっと」
ペラペラとそう告げると我慢してたのか、気持ち足早にお手洗いに向かった。さすがに小手毬はトイレにまではついて行かなかった。
「そーだなぁ…。どこ行こっかな…」
騰蛇がぼやくように言うと、小手毬が楽しげに言った。
「お土産!」
「そういうのは普通最後だろ?荷物になるだろうが」
「えー?じゃあパイナップル!」
「あぁそれはいいな。よし、じゃあパイナップル食いに行くか!」
「うん行くー!」
小手毬は今回は騰蛇と一緒に行くらしい。と言うのも、卯月は『私がいないときは騰蛇を頼りな』と言っていたからだ。
騰蛇は子ども好きで、面倒見がいいし強い。安心して任せられるのだ。
2人はわいわいと空港を後にした。
「俺は側近だから卯月様をお待ちするけど、3人は?」
珊底羅が言うと、因達羅が言った。相変わらず眠たげな眼差し…。
「なるべく単独行動は控えろって言われたから、どの道ボクたち3人で行動することになるでしょ?」
因達羅は基本天然入っていて何考えてるか読めないが、意外と頭はしっかりしている。色んな意味で。
「私たちは3人で行動するわ」
凛とした声で言う花海棠。…珊底羅は思った。「無表情トリオでいいのか…」と。幸い因達羅がこれとなく話すからいいが…。木蓮は本当に喋らない。超寡黙だ。しかし性格的にみんな合ってるかもしれないから大丈夫だろう。
「あぁ。じゃあまた後ほど」
ニコリと笑う珊底羅だが、誰一人として笑わない3人であった。それぞれ「うん」「えぇ」と言っただけ。やはり木蓮は話さなかった。しかし珊底羅は卯月の代わりに結構4月をまとめたりするので、副長的な役割でもう慣れている。器がでかいのだ。
数分後、卯月が帰って来た。
「あれ、何でアンタ1人だけでいるの?」
「側近ですから」
ニコリと笑うと、卯月は気の抜けたような笑顔を見せた。
「ご苦労だねぇ」
「どこ行こっか」と話しながら地図なんかを見る卯月。「そうですね…」と色んな名所の載ったパンフレットを見る珊底羅。結構楽しそうだが、こんな嵐の日によく全員が外に遊びに行ったものだ。
結局卯月たちは、皆の長っぽく、まずはホテルのチェックインに行くことにした。
卯月たちが泊まるホテルは凄く綺麗で高価なところだった。
無事にチェックインを済ませ部屋に入ると、窓側のイスに座りのんびりとくつろぎながら嵐の風景を眺めた。
「みんな楽しんでるのかなー」
微笑みながら、微笑ましくない景色を眺めて呟く。
卯月がそんなこと思っている時、小手毬組は…
「パイナップルおいしかったねぇぇええー!!!次どこに行こうかぁぁあああ!!!」
外では激しい風音とで聞こえないため、叫ぶように、しかし楽しいのかすっごく笑顔で会話をする小手毬。
「決まってたから外に出たんじゃないのかよぉぉおお!!!!?」
特に何も考えずに小手毬の後に続いて外に出てきてしまった騰蛇はまさに懸命に叫んでいる。
「アハハハハハハ♪♪」
本当に楽しげに笑う小手毬。寧ろ何かちょっと怖い。
頼りになるはずの騰蛇は逆に振り回されている…。
一方、因達羅組は…
ズルズル ズルズル
…黙々と沖縄そばを食べていた。不思議と誰も気まずくない。
そんなことは知るはずもない卯月は、穏やかな気分になってきて眠くなってきてしまった。
「卯月様、まさか眠るのですか?」
そんな眠たげな眼差しに気づいた珊底羅が、「どこか行きたいなー」という目で卯月を見て言った。
「行って良いって。これは旅行なんだから仕事はいいんだよ」
長がそんなこと言っていいのか?と思ったものの、やはり自分もどこかに行きたい。長がいいと言うのだから・・・いいかな?
「卯月様、本当にいいんですか?」
「いいよー」
もう目を瞑ってしまっている。珊底羅は言葉に甘えることにした。
珊底羅が行ってから約3時間後、卯月は知らない間に眠ってしまっていたようで目を覚ました。外は何とやんでいて、すこし涼しい感じだった。更に若干日も暮れてきて幻想的で美しい景色が一望できた。
卯月は気晴らしに外に出た。目の前が海だったので、少し歩きたくなったのだ。
「・・・いいな・・・」
浜まで来ると、海を眺めてこの美しい景色に浸っていた。
「こんにちはお嬢さん」
「!」
せっかくいい気分だったのに、最悪な奴に出くわしてしまった。黒いフードに黒いマントのような服に身を包んだ青年。この服装は魔賊だった。
「長が一人でしか?随分な自信でしねぇ。それとも抜けてるのかなっ・・・?!」
変な敬語を使う魔賊に卯月は有無も言わさず水を操って高圧の水流で攻撃した。しかしかわされた。
「おぃおぃ待てって。ただ喋ってただけじゃないっ・・・!!」
次々に連射しまくる。
「人の話を聞けェェエエ!!!」
叫ぶが卯月は顔色一つ変えずに攻撃を続けた。全くやめる気配がなかったので魔賊は攻撃をとめるべく勢い良く水圧を海の方へはじき飛ばした。
「ちょっとたんま!!話を聞け!!お前魔族よりも非情だと思わないか?!」
「思わないけど」
「ぐっ・・・。まぁ、攻撃はするな。俺は戦う気はない。」
「は?」
話に聞く魔賊とは全然違う・・・。
「俺はァ、今日ここに用があって来たんーだっ!」
「私たちを潰す?出来ると思ってんの?」
そう言ってまた攻撃してこようとしたのでまた待ったをかけた。
「違ぇよォオ!!こいつ話分かんねェよぉお!!冷静になって聞けっつーの!!」
仕方なく一旦ストップした卯月だが、警戒は解かない。いつでも攻撃出来るように構えとく。
「ハァ!全くもー・・・!俺はな、お前1人に話があって来んだ。だから1人になるのを待ってた」
「で?」
「俺は今日宣戦布告に来た。他の魔賊たちはお前みたいに話の分らない奴らだけど、俺のような者もいる。俺達は2種類いて、俺のような者の方が圧倒的に少ない。要は取り敢えず道徳のある魔賊と思ってくれればいい」
「ふーん」
言った瞬間一発魔賊の足元に攻撃した。
「ギャぁあ!!危ねぇなァ!!」
「私に道徳がないって言われたもんだからついね」
「笑って言うなよ!!」
「それにわざわざ宣戦布告に来んだから殺っちゃっていいんでしょ?」
「・・・お前サラッっと恐ろしいこと言うな」
「そうかな?」
「・・・ハァ。よくお前の部下達は平気だな。」
「部下には優しいから」
「俺にも優しさを!!」
「バカじゃないの?」
また足元に一発。「ぎゃあっ!?」と一声。
「ねぇ待ってホント危ない!」
「戦場でそんなこと言ってるつもり?だったら即死だね」
「!」
水の刃が魔賊の喉元に首を囲うようにあてられた。男はじっとしているが、目だけ卯月を見ている。恐怖はないようだ。それを見た卯月はふっと笑ってただの水に戻した。
「お前には殺意が感じられないでしね」
「殺意がないからね」
「はぁー・・・。疲れた。そんじゃ俺はもう帰る」
そう言うとふわりと闇に消えた。本当にそれだけの為に来たのだろうか?だとしたら大層ご苦労なこったなぁ。
卯月はまたしばらく絶景を眺めていた。