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可哀想なクール社長令嬢、俺にだけデレる顔がものすごく可愛い——ただ、君の思う100倍は愛が重いですが、大丈夫ですか?  作者: 仲村アオ


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第7話 とにかく胸糞の悪い姉

 出会い頭から澄恋のことを貶してきた姉、真由。彼女は『音無さんの本当の婚約者は、私♡』だなんて抜かしてきた。



「——本当は……澄恋さんじゃなくて、真由さんが婚約者……?」


「そう、嬉しいでしょ?」


 俺はしばらく眉間に指を当てて悩んだ。

 いや、答えは決まっているのだが、何がどうしたらそうなるのかが理解できなかった。



「だとしたら、チェンジで。俺は澄恋さんとの関係を継続したいです」


「な——っ!! あんた、馬鹿じゃない!? こんな根暗で愛想のない女がいいっていうの!?」


「当たり前だろ? 仮に真由さんが正式な相手だったとしても、家族のことを貶すような女を誰が選ぶ! ——っと、口が悪くて申し訳ない。そもそも俺は、澄恋さんが相手だから交際を申し込んだんだ」


 俺の後ろで怯えて隠れていた澄恋さんが、ハッとしたように顔を上げた。瞳いっぱいに涙を溜めて、可哀想に。


 すると、真由はワナワナと震えながら喚き出した。あまりの形相に品のなさが露わになる。



「ふざけないでよ! 何で! どう見てもその根暗よりも私の方がいい女なのに! お母様、お父様! 澄恋が私のモノを横取りするー!」


「なっ!?」


 いつ俺がお前のモノになったんだよ!

 ふざけんじゃねぇーぞ!!


 すると家政婦のような女性と父親らしき人物が家から出てきて、喚いている真由を宥め始めた。


「もぉー、お父様ァ! 澄恋が酷いの! 私のモノを奪っておきながら、見せびらかすように自慢して!」



 この女、頭がおかしい。


 状況を理解できずに困惑している彼女たちの父親らしき人に頭を下げて、俺も黙って状況を見ていたが、埒が開かず言葉を掛けた。



「初めまして、澄恋さんとご縁をいただきました音無です。本日は澄恋さんとご一緒させていただき、ありがとうございました」


「あぁ、音無くんか! 君のお父さんにはお世話になっているよ」


「いえ、こちらこそ。早瀬社長のお話はかねがね伺っております。……今後も私や父共々、よろしくお願いいたします」



 ——って、騒いでいる真由の隣でするのも変な会話だなと思いつつ、俺達は苦笑しながら挨拶を交わし合った。



「あの……早速ですが、澄恋さんとの交際を前向きに進めたいと思っているんですが…………私と彼女は、一旦席を外した方がよろしいでしょうか?」


 頼むから察してくれと願いながら、俺は澄恋さんの父親に申し出た。こんな遅い時間に送り届けておきながら言う言葉じゃないと思いつつ、怒り喚く姉のいる家に澄恋さんを帰したくなかった。


 そして理解した父親の早瀬さんも、大きく頷きながら見送ってくれた。



「もちろんだよ! 君になら安心して任せられる! 澄恋、音無さんと一緒に行きたまえ!」


「え、でも、お父様……私」


「ここは父さんに任せなさい!」


 むしろ早く行ってくれと言わんばかりに真由を取り押さえて。俺たちは立ち去るようにその場を後にした。




 ひとまず避難するためにタクシーに乗り込んだ俺達だったが、あまりの疲労困憊に溜め息しか吐けなかった。


「音無さん、本当に……本当に見苦しいところをお見せして申し訳ございませんでした……!」


「——いや、俺は全然……気にしてないから問題ないよ」


 っていうか、あの女は何者なんだ?

 澄恋さんの姉? それにしては教養がなさすぎて哀れ過ぎる。同情を覚えるほどの可哀想っぷりだった。


「えっとー、一つ確認だけど、俺と澄恋さんは交際を続けて問題ないんだよな?」


「は、はい! でも、音無さん……本当に私でいいんですか?」


「え、意味が分からないんだけど?」


「だって、私よりも真由ちゃんの方が可愛いし、愛想もあるし……」



 不安そうにモジモジと手を握り締める彼女を見て、俺は安心させるように手を重ねた。


 それだけは天地がひっくり返ってもあり得ない。



「今まで何があって何を言われてきたかは分からないけど、俺は澄恋さんがいいし、澄恋さんじゃないと意味がない。真由さんが相手なら、俺はこの婚約を白紙に戻してもらうよ」


「音無さん……!」


 それにしても強烈だった。何だったんだ、あの女は。アレと澄恋さんが姉妹だなんて信じられないほど酷い自己中女だった。



「えっと……真由は私の腹違いの姉になりまして……。真由の母親が亡くなったのをきっかけにウチの家族になったんです」


「腹違いの……姉?」



 わー……酷い家庭関係図。年も変わらない姉妹……早瀬社長、火遊びが過ぎたな。


 見ている限り、姉である真由が幅を利かせてわがまま放題していて、澄恋さんが虐げられているように見える。澄恋さんの自己肯定感の低さは家庭環境が大きく影響しているのかもしれない。


 それにしても、これからどうしようか。このまま彼女を家に帰すわけにもいかないし、だからと言って一人にするわけにもいかない。


(彼女の父親に許可をもらったとはいえ……あれは成り行きだったし。でも……、いやいやいや)


 ホテル……? いや、それとも。


「あ、音無さんは明日もお仕事ですよね? ごめんなさい、私の家の都合で遅くまでご迷惑を掛けてしまって!」


「いや、俺は問題ないんだけど。——違うな。これは二人のことだから、話し合って決めるか」


 ただでさえ申し訳ない気持ちでいっぱいの彼女に、俺は覚悟を決めて尋ねた。



「……澄恋さん、俺の部屋に——くる?」


「え?」


 一瞬、理解が落ち着かなかった彼女だったが、数秒後には顔を真っ赤にして「アワワワワー!」っと慌て出した。


「わ、わ、私が音無さんの家に? え? え??」


「落ち着いて、澄恋さん。ひとまずだから。今回のは緊急避難みたいなものだから」


「え、あ、え? き、緊急避難……?」


「うん、緊急避難。きっと今、澄恋さんのお父さんが真由さんを宥めてくれていると思うから……落ち着くまで距離をとっていた方がいいと思うんだ」


「あ——……そ、そう言う意味ですね。ごめんなさい、私、勘違いして」


 ペコっと頭を下げる澄恋さんだったけれど、素直に謝られると胸が苦しくなる。


 やましいことはするつもりはない。これは保護なんだ。保護だから……。



(無理だろうなー……。俺、我慢し切れるかなー)


 ドキドキドキドキと、二人の心拍音がタクシー内に響いているような錯覚を感じていた。

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