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第5話 指を絡ませるだけで……【下ネタ?有】

 食事を済ませたあと、俺たちは時計を気にしながら夜の街を歩いていた。


 お見合いで知り合った男女──。

 これは「付き合っている関係」と言っていいのだろうか。



「あの、音無さん」


 小さく呼びかけられ、ふと視線を落とす。

 名残惜しげにスカートの裾を握りしめた彼女が、必死に言葉を探していた。



「今日は、とても楽しかったです……。デートって、生まれて初めてだったから、緊張して頭の中が真っ白で……。あの、私……音無さんに失礼なこと、しませんでしたか?」


「いや、とんでもない。俺も澄恋さんと一緒に過ごせて、とても楽しかったです」


「本当……? よかった……♡」



 安堵の笑顔が可愛すぎて、思わず彼女の手を掴んでいた。

 帰したくない。もっと一緒にいたい。



「音無さん……?」


「時間、まだ大丈夫ですか? もう一件、俺の好きな場所に付き合ってもらえませんか?」


 潤んだ瞳で見つめてきて、コクンと小さく頷く。



()きたいです、私も。音無さんと一緒に」


 ——脳内変換、ご都合主義過ぎ!

 ダメだ、身体がゾクゾクして歩けない。歩いたらバレる。素数なんかじゃ追いつかない。オカンの顔を思い浮かべて……鎮まれ、俺の性欲……!



「そういえば、母から音無さんとの食事のことを聞かれたんですけど……。私と音無さんって、うまくいっていると伝えてもいいんですか?」


「え?」


 俺は構わない。だが、この子は本当にいいのだろうか。

 まだ二十歳、未来が明るい美少女だ。俺のような変態と結婚して、後悔しないだろうか?



(そう考えると、すげぇ悪いことしてる気がしてきた。男を知らない純粋な子相手に、俺は……)



「やっぱり……迷惑ですか? 音無さんのような素敵な人と、私なんかが釣り合うわけないですよね……」


「いや、違うんだ。むしろ逆で……。俺、多分、澄恋さんが思う十倍は変態だと思う」


「——え?」


「さっき長続きしないって言ったじゃないですか。あれ、俺の性欲が強すぎて引かれたってのも一因で」


「あ、あの、音無さん……! ここ、公道……!」


「しつこすぎてキモいって言われたこともあったし、痛いって泣かれたこともあったし」


「待って、あの、どこかお店に入りませんか? ここで話す内容じゃないですよね、多分!」


 澄恋さんが腕にしがみついた瞬間、俺の中で答えが出た。



「俺は澄恋さんに、ちゃんと知ったうえで決めてほしいです。俺の変態っぷり──いや、人間性を、見極めてくれませんか?」


「え——!?」


 やばいことを言った。まだ二回しか会ってないのに。

 けど、ピュアすぎるんだ、この子。俺なんかが隣にいるだけで穢してしまうような……そんな気がしてしまう。



 もちろん、俺自身が惹かれているのも理由のひとつ。望みがないなら潔く身を引くべきだ。

 偽るのは簡単だ。外面のいい俺なら、いい男を演じるのも難しくない。


 だが、この子にだけは偽れない。好きになったら徹底的に愛で倒す──それ以外の未来は見えなかった。



「もし無理なら、この手を離してください。でも、知る選択を取るなら……覚悟してください。遠慮できないと思うんで」



 しばらく彼女は固く目を瞑って唸んでいた。だが繋いだ手は離さないまま、真剣に考えてくれていた。

 そしてやがて、ゆっくりと指を絡めてギュッと握り返してくれた。



「何も知らない喪女──初心者ですが……よろしくお願いします」


 その瞬間、手のひらから伝わる温もりに全身が震えた。

 ——指を絡めただけで、ここまで興奮するなんて知らなかった。



「……ってことは、これから俺と澄恋さんは恋人同士ってことでいいんかな?」


「こ、恋人同士……?」


「仮でもいいんで。俺を知ってもらうなら、もっと踏み込まないと伝えられないし……。それに俺、相当重いんで。彼女が他の男と話してるのとか許せないし、できるならずっと一緒にいてほしい」


「あの、音無さん……情報量が多すぎて、処理が追いつきません……!」



 困り果てた彼女を見て、近くのビルに入りエレベーターに乗り込む。バーのある階のボタンを押し、動き出すのを待った。


 突然の行動に困惑する彼女を引き寄せ、そのまま抱きしめる。想像していたよりずっと柔らかく、髪からは甘い香りが漂った。


「あ、あの……っ!」


「——一日一回は、こうして抱き合わないと気持ちが落ち着かない。なぁ、知らないことばかりっしょ?」



 チン、と到着音が鳴ると同時に、腕の力を緩めて解放した。


 動けない彼女を見て、少し後悔がよぎる。もしかしたら、手を離さなかったことを後悔しているのかもしれない。



「あなたに好意を寄せている男は、そういう奴なんですよ。引きました?」



 苦笑しながら距離を取ると、彼女はフルフルと顔を横に振った。


「恥ずかしくて心臓が破裂しそうだけど……嫌じゃ、ないです」



 そう言ってエレベーターを降り、俺の腕にギュッとしがみつく。



「もっと、あなたのこと、教えてください」

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