第47話 彼女に嫉妬するのは心が狭いですか?
女性恐怖症を克服したいから、澄恋とデートをさせてくれ——そう頼んできた従兄弟の圭吾。
ちゃんと許可を取っていたとはいえ、俺の目の前で澄恋の手を握り、只ならぬ雰囲気で見つめるのはアウトだと思う。……そんな俺は心が狭いのでしょうか?
「狭いとは言わないけど……今の状況は異常だとは思うかな?」
「澄恋さん、よく音無と付き合おうって思ったね。流石の俺もドン引きだよ」
凛も湊人さんも引く距離で、澄恋を抱き寄せる俺。ゼロ距離で彼女の腰を掴んで離さない。
いや、嫉妬っていうよりも、これが通常ですけど何か?
「最初は恥ずかしかったけど、情熱の国の人だと思えば……。ほら、海外の人はスキンシップが激しいから」
「いや、ここは日本だし。ついでに目鼻立ちがくっきりしてるとはいえ、音無は生粋の日本人だから」
「んなの関係ねぇし。好きだって伝えないで他の男に取られるくらいなら、俺はなりふり構わず愛を伝えますね!」
「だからお前のは重いんだって。澄恋さんじゃなかったら逃げ出すレベル」
結果、逃げてないんだから、俺と澄恋の相性は抜群ってことで。
——っと、冗談はさておき。
黙ったまま考え込んでいる圭吾に視線を向けながら、俺はどうするべきか悩んだ。
だから危惧していたんだよ……。澄恋の可愛さは思っている以上だって。これは惚気でも何でもなく……俺自身がいつも思っていることなんだから。
俺なんかには勿体ないくらい優しくて健気な澄恋の魅力は、見た目だけじゃない。本質は心配になるくらいの優しさだ。
あの、無償の愛で包んでくれるような慈悲に触れたら——そりゃ、沼るよなぁ……。
「——今まで誰とも付き合ってこなかったのが不思議なくらいだもんな」
「え……? そ、そんな心配しなくても大丈夫だよ? 私みたいなのがモテるはずがないから」
いや、現に圭吾も惚れてるに違いない。
澄恋はもっと自覚してほしい。いっそのこと凛くらいに危機感を覚えて、周りの男に威嚇してる方がずっと安心だ。
「ひとまず俺と澄恋は先に帰るけど、いいよな? 圭吾……お前、ちゃんとお見合いしろよ? 相手の方に失礼なことだけはすんなよ」
「え、あ、あぁ……」
あ、これダメなやつだ。
気まずそうに視線を逸らして、曖昧な返事で誤魔化そうとしてる。
「圭吾さん。最初から意味がないと決めつけないでください。私も最初は、蓮の眼中にすら入れてもらえなかったんです。でも今は、こうして隣で笑い合える関係になりました。最初から完璧なものなんてないです。きっと人との関係って、二人で積み上げていくものだから」
澄恋の言葉に、みんながハッと気づかされた。
そうだ。俺と澄恋も最初からうまくいったわけじゃない。きっと凛と湊人だってそうだ。
「……でも、気づいてしまった以上、俺はもう、他の人じゃ!」
前のめりで澄恋との距離を詰めようとする圭吾に危機感を覚えた俺は、慌てて間に入り込んで止めた。
いや、それ以上は俺が許さねぇぞ?
「……圭吾、お前も諦めろ。きっと澄恋さんがよく見えるのは、隣に音無がいるからだよ。お前といたからって、同じような関係性を築けるのかって言われたら違うと思う」
「けれど、もしかしたら今以上にいい関係が築ける可能性だって」
「いやいや、一番大事なのは澄恋さんの気持ちだし。いくら圭吾が好きだって思っても、澄恋さんが音無を選んでる以上、諦めるしかないだろ?」
あまりにも正論すぎて、反論の余地がない。
歯がゆい想いを胸に抱いたまま、圭吾は一礼してその場を後にした。
——あぁ、申し訳ない。
相談された時は冗談半分で茶化していたが、本当にこんなことになるとは思ってもいなかった。
きっと俺から澄恋を略奪したいだなんて、相当本気だったんだろう。
(俺だって凛と再会した時は「俺の方が幸せにできる」って信じてたもんな。今思えば、なんて浅はかで程度が低い考えだったのだろう)
だが、俺も圭吾以上に澄恋に夢中になっている。
もう他の人なんて眼中にないくらい、好きで好きで仕方ないんだ。
不安で挙動不審になっている澄恋の手を握り、湊人さんたちにお礼を告げた。
「今日は色々とありがとうございました。二人がいなかったら、俺は何をしでかしていたか……」
素直に感謝を述べる俺に、湊人さんも苦笑を浮かべる。
「澄恋さん。音無の奴、本当に澄恋さんのことが大事でどうしようもないみたいだから、たくさん慰めてやって。それと、俺はお前みたいに素直な奴、嫌いじゃないよ」
湊人さんの言葉を最後に、俺たちは解散してそれぞれの家へ帰った。
あぁ、今日はとんでもなく疲れた気がする。
部屋に入るなりソファに座り込み、大きくため息を吐く。
「澄恋も手を洗ったらこっちに来いよ。お前も色々と疲れただろ?」
俺の声に応えるように、手を洗い終えた澄恋が隣に座り、そのまま肩にもたれ掛かってきた。
ギュッと掴まれた服。胸元に埋められる彼女の額。肌に触れる吐息——。
「……澄恋?」
小さな声で呼びかけると、少し瞳を潤ませたまま俺の目を見つめてきた。
「ねぇ、蓮……キスしていい?」
そう言った彼女の唇が、俺の返事を聞くこともなく触れて塞いできた。
少し遠慮がちに舌を絡ませてくる彼女の行動に、俺は興奮を隠しきれなかった。




