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可哀想なクール社長令嬢、俺にだけデレる顔がものすごく可愛い——ただ、君の思う100倍は愛が重いですが、大丈夫ですか?  作者: 仲村アオ


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第40話 いざ、まだ見ぬ秘境へ

 支度を終えた俺達は、タクシーに乗り込んで空港へと向かうことにした。


 あんなに気が重かった出張が、隣に澄恋がいるだけで贅沢な旅行に変わるのだから驚きだ。

 想定外な展開にニヤニヤが止まらない。


「そういえば、今回届ける商品は何なの?」


「あー……自社で取り扱っているオリジナル洗剤。何でも梱包が雑で、商品にキズが付いていたから、責任者が届けに来いって言われたんだ」


「え? 蓮の仕事って、そういうことまでするの?」


「いや、ネットで購入してるから、本来なら注文を請けた会社が対応するべきなんだけど、どうも色んな会社に苦情を出している常習犯らしくてさ。迷った挙句、対応することになったんだ」



 おそらく然るべき対応を取れば、負けることはないと思うのだが、こういった風評は対応を誤れば取り返しのつかない結果となる。


 だが、結果的には澄恋と一緒に遠出ができてラッキーだったかもしれない。



「今日は空港の近くのホテルに泊まって、明日、お客様のご自宅に向かうの?」


「あぁ、明日は片道三時間はかかるかも知れないから、覚悟していた方がいいかもな」



 慣れない土地で、理不尽なクレーム対応。

 きっと一人だったら沈んだ空気のまま、一人で走っていたに違いない。

 嫌な顔一つせずに着いてきてくれた彼女に感謝だ。


「眠気スッキリのドリンクやガムを買っておかないとね。私、蓮が運転しやすくなるように、一生懸命サポートをするね」


「いや、澄恋が一緒にいてくれるだけで、ヤル気が倍だから」


 ついでに別のヤル気も倍増だが、不謹慎なので言葉を詰むんだ。だが、嬉しい気持ちは隠しきれなくて、澄恋の手に重ねて握りしめた。



 窓の外では、ビル群が少しずつ小さくなり、空港の滑走路が見えてきた。タクシーの窓の向こう、街のビル群の隙間から覗く空は、ゆるやかに茜へと溶けていた。


 夕陽が地平線に沈みかけて、雲の端が金色に縁取られている。車内の空気は少しだけ温かく、澄恋の横顔にもその光が差し込んでいた。


 頬を染めるように、オレンジ色の光。

 まるで、彼女自身が夕空の一部みたいだった。


「……綺麗だね」


 そう呟いた彼女の横顔が綺麗で、素直に見惚れている自分がいた。

 改めて好きだと……俺は彼女に出会えて、彼女との関係を築けて幸せだと感じていた。




 そして空港に着いた俺たちは、お目当てのパン屋を探しに回った。休日は大勢の観光客が行き交っているが、この時間は少なくて快適だ。

 先日、テレビで放送されていたご当地お菓子や人形を見ながら、搭乗時間を待った。



「ねぇ、この人形可愛い。キューグマ」


「キューグマ?」


「最近流行ってるって寧ちゃんが教えてくれたんだ。集めてるって話してたから、お土産に買っていこうかな」



 まだ始まったばかりの出張だと言うのに、すっかり旅行気分だ。実質、仕事をするのは俺だけだから間違いではないが。


「澄恋も好きなん? 買ってやろうか?」


「え? あ……私はこのクーツネが好きなの。ちょっと蓮に似てない?」



 澄恋が手に取ったのは、目つきの悪いキツネの人形だった。


 いや、似てねぇけど?

 俺、そんなに目つき悪くねぇし?


「凛さんと寧ちゃんと三人でお揃いにしよ。ふふっ、喜んでくれるかな♡」



 俺の気も知らないで幸せそうに笑って……。

 そんな澄恋の手を握って、俺はレジへと向かった。


 三人分のマスコット人形を購入して、彼女に渡した。


「次はパンを買いに行くんだろ? 時間がなくなるから、早めに行こうぜ?」


 握っていた指を絡ませて、恋人繋ぎに直して。俺達は空港内をデート気分で歩き回った。チラチラと視線も感じていたが、それすらも優越に変わる。


 自分の手のひらに収まる小さくて柔らかい手。繋げることの幸せを噛み締めながら、俺は隣で肩を並べる澄恋に視線を向けた。


 赤く頰を染めながら俯く様子が可愛い。


 自然と浮かぶ口角の笑み。フニフニと彼女の指の感覚を愛しみながら、誰かと手を繋いだ思い出を振り返ってみた。



「離したくないって、思いながら繋いだのは……きっと澄恋が初めてだろうな」


「え?」


「手を繋ぐのにも意味ができるって、スゲェなって思ったんだ。澄恋となら、一つ一つのことが特別になるなって」


 その瞬間、彼女の指の力も強くなったのは、きっと気のせいじゃない。伏目がちなのに、しっかりと応えてくれる彼女と、ゆっくりと夜の空港を歩き回った。


 きっと、こんな小さな幸せの積み重ねが、

「一緒に生きていく」ってことなんだろうな——。


 アナウンスの音が静かに流れ、滑走路の向こうに並ぶ灯が点り始めた。オレンジから群青へと変わる空に、機体のシルエットが滲む。


 手を繋ぐその手の温度だけが、確かな現実だった。

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