第35話 寝起きの彼女が可愛すぎて、理性がもたない件 【♡♡有】
朝、目を覚ました時に自分以外の体温を覚えたその瞬間——これが俺にとっての一番の幸せなんだと、胸の奥で確信した。
夢なのか現実なのかも曖昧なまま、ぼんやりと目を開ける。すぐそばにある彼女の後頭部を見て、安堵の息が漏れた。手を伸ばせば指先に確かな温もりがあって、涙が出るほど安心した。
あぁ、俺は一人じゃない。ちゃんと、この幸せを掴んでいるんだって思えた。
「……はぁ……っ、あー……その後に来るのが性欲って、俺って奴は本当に救いようもない奴だな」
朝だから仕方ない、では済まされない背徳感。けれど、こんなに魅力的な誘惑があって、耐えられるわけがない。
ムラムラが大きくなる。あぁ、寝ている人相手にするのって、彼女なら許されるんですか?
「おーい、澄恋さーん。朝だけど、まだ寝んのー?」
ユサユサと肩を揺らすが、一向に起きる気配はない。昨夜、遅くまで無理させたのがいけなかったか? いや、でも気持ちよさそうにしていたし、二回目をねだってきたのは彼女だ。
それにしても、なんて無防備な寝顔なんだろう。
プニプニの頬っぺたを指で突っつく。スベスベだし、気持ちがいい。
「ん……、んン……」
眉間に少し皺が入った。
もしかして起きそうなのか?
「澄恋ー……起きてー? じゃないと、イタズラしちゃうぞ?」
耳元で囁いてみたが、まだ起きる感じはなかった。
——んー、これは合意になるのか?
一応、通告はしたのだが、寝ている人相手じゃ、無効だよな。
でも、我慢できそうもない。俺は彼女の頰に顔を近付けて、カプッと甘噛みした。唇に触れた部分が気持ちがいいな……。そのまま体重がかからないように気をつけながら、彼女の上に覆い被さった。舌でペロっと舐めて、またキスをして、ゆっくりと唇に近づいていった。
「ん……っ、だめ、音無さん……」
「え?」
「——え?」
久々に《《名字呼び》》されて、思わず間抜けな声が出た。
次の瞬間、目を開けた澄恋と視線が合い……近すぎる距離に、互いにフリーズする。
「えっ、わ……っ! な、なにをしてるんですか!?」
「いや、澄恋があまりにも可愛すぎて……」
嘘じゃない。本当は「エッチがしたくて、襲う寸前でした」って言葉が続くが、流石にそれは言えなかった。
(絶対に「朝から何を言ってるんですか!」とか「昨日、あんなにシたのに?」って拒否られるだろうし……)
だが、意外にも彼女は両手で顔を覆ったまま、目を泳がせるばかりだった。
「う……っ、朝からこんなの、ズルいよ」
ズルいって何だ? え、澄恋の寝顔を堪能していたことだろうか? それとも頰にキスをしていたことか?
いやいや、本当は◯◯◯◯したかったのを我慢した俺を褒めて欲しい。
「——ってか、何でさっき『音無』って呼んだん? 今はもう名前で呼ぶ仲になったのに」
「それは……! その、夢で……昔の音無さんを見たから」
「昔の俺?」
彼女は恥ずかしそうにコクンと頷き、「高校生の時の……」と口にした。
「私が初めて蓮を見たとき……遠くからしか見られなかったけど。高校の時の蓮はメガネを掛けていたでしょ?」
確かに、当時の俺は黒縁メガネをかけて、生徒会と勉強漬けの日々だった。
え? 澄恋はその頃の俺を知っていたのか?
「お父様からお見合い相手だって言われて……実はこっそり見に来てたの」
「え、ズルくねぇ? 俺だって中学生の頃の澄恋見たいんだけど! っていうか、リケジョモードの白衣と眼鏡の澄恋も見たいし、もう一度お見合いの着物を着た澄恋も見たい!」
いや、普段の澄恋も可愛いのだが、色んな彼女が見たい。欲を言えば、メイドやチャイナ服、ナース、婦警、セーラー服も全部見たい。
「…………今日、色々買うか。ネットで買えば、最速で今日の夜に届くんじゃねぇの?」
「ま、待って! そんなこと急に言われても困るんだけど!」
「んじゃ、俺も澄恋のリクエストに応えるから! 澄恋は俺に何をしてもらいたい?」
すると彼女は数秒考えて、そしてカァァー……っと頰っを赤く染めていった。
「わ、私は……蓮がそばにいてくれるだけで、十分幸せだから」
「うっ!」
それはズルい……! エロい要求をした俺が恥ずい! いや、澄恋がリクエストを出さなくても、俺は要求を突き出す所存だ!
「だって、遠くで見るめることしかできなかった人が、こんな近くにいるなんて……夢みたいなんだもん。胸がキュゥゥーっとして、毎日切なくなる」
——ヤバい、素でそんなことを言われたら、俺、死ぬ。萌え死んじゃうんですけど?
とりあえず澄恋は俺のことが好き過ぎるわけだし、俺もまたスイッチが入ってしまったわけだし、これはもう、いいよな?
「あの、澄恋さん。とりあえず……おはよう」
「お、おはようございます」
「そして、起きて早々申し訳ないんだけど……キスしていいですか?」
「え?」
——でも、返事を聞く時間すら惜しくて、俺は彼女の身体に肌を重ねて、互いの熱を堪能しあった。




