第33話 隠れてするのも——また一興 【♡♡有】
そして、何だかんだで居座り続ける引っ越し祝いの連中。時刻は既に深夜の十時を回っているのに、一向に帰る気配が見えない。
それどころか凛と寧は澄恋の横を陣取って「澄恋ちゃーん、可愛いー♡」とイチャイチャイチャイチャ。
「おいおい、お二人さん。そろそろ俺の彼女を解放してくれてもいいんじゃね?」
「えぇー、まだまだ遊びたいんだけどー? あ、ねぇねぇ音無先輩。これってもしかしてVR? 面白そう! ゲームとかあるの?」
隠していたゴーグルが見つかった瞬間、俺の血の気が引いた。いや、待て! それはヤバい!
俺の焦りを見て、男性陣は気付いたのか、圭吾達が必死に止めてくれたけれど、既に遅し。動画履歴を見られてしまった。
「…………ウハハハハ! ヤッバァー! 音無先輩もエロ動画とか見るんだ! しかもリケジョ系とか、モロ澄恋ちゃんをオカズにしてるのバレバレ!」
「ちょっとマジ? 寧、俺にも見せてって! アハハハ、スゲェ! っていうか、VRってリアルっすねー! 音無先輩、今度俺に貸してくださいよ!」
——スゲェ、最悪な気分。
まさかこんな形で自分の趣向がバレるとは思ってもいなかった。しかも澄恋の前で……。
「佐久間、寧。お前ら、後で覚えておけよ? とりあえずケツバットの刑」
「は? いやいやいや、こんな分かりやすいところに置いてるのが悪いんッスよ?」
「そうそう、私達は何も悪くないって!」
「つーか、普通は気遣って見ないのが常識だろ?」
「いやいや、目の前に落ちてたら見るのが俺達のジョーシキ! つーか、コレ……まじでエロ! 音無先輩、澄恋さんにヤラせてもらえないんッスか?」
邪魔してるお前らが言うのかよ!
キレた俺は佐久間の胸倉を掴もうとしたが、その拍子にテーブルの上のお酒をひっくり返ってしまい、澄恋のスカートを濡らしてしまった。
しまった、最悪だ……。
「悪ィ、澄恋! 怪我はなかったか?」
白いスカートに薄ピンクのシミが広がっていた。だが、澄恋は怒ることもなく「大丈夫です」と場を宥めていた。こんな時まで気遣いをさせてしまって……申し訳ない。
「澄恋ちゃん、シミになるといけないから、早めに洗ったほうがいいよ」
「そうだね、ごめんなさい。ちょっと着替えてきます」
脱衣所に向かう澄恋を見送りつつ、心配で後をついて行った。
「澄恋、本当に怪我なかったか?」
「うん、お酒がかかっただけだから大丈夫だよ。でもベタベタするから、早くタオルで拭かないとね」
濡らしたタオルで手や足を拭いていく。たしかに怪我はなさそうだ。だが、安堵したのも束の間、スカートの裾を上げて太股の辺りを拭い始めた時、思わず手が伸びた。
「俺、拭こうか?」
「え……? だ、大丈夫だよ。これくらい自分で拭けるから」
「いいよ、動かないで。……ここも少し濡れている」
タオルを滑らせると、指先が彼女の指に触れた。たったそれだけで、鼓動が跳ね上がる。澄恋も息を呑んで、目を逸らせないでいる。
「……れ、蓮……」
呼ばれた名前が、妙に甘く響いた。俺はそっと彼女の頰を包み込み、額を合わせる。
「ごめん。ちょっとだけ……触れてもいい?」
返事を待つ前に、唇が重なった。触れるだけのキス——のはずが、離れられなくなる。
澄恋の肩が震え、指先が俺のシャツをぎゅっと掴んだ。
「……みんな、まだリビングにいるよ……?」
「わかってる。……けど、止まらない」
彼女の首筋に落としたキスは、すぐに熱に変わる。
息が交わって、空気が甘く染まっていく。
手のひらを滑らせて、背中を撫でると——彼女が小さく震えた。
「ダメ……、こんなところで……」
「こんなところだから、余計に……」
囁きながら、もう一度唇を重ねた。
湿った息が混じり合い、心臓の音がうるさいほど響く。
胸元に手を添えて、服の上からブラジャーの縁に指を沿わせたその時——……
「テーブルがベタベタする。音無、タオル持ってきてくれないか?」
リビングから湊人さんの声が聞こえ、俺達は肩を震わせて我に返った。
「は、はい! すぐに持って行きます!」
すぐ近くの棚からタオルを取って、真っ赤な顔の澄恋が逃げるように去っていった。
ヤバかった……いや、もう完全にスイッチが入ってた。
残された俺は、深く息を吐き出して頭を掻く。
「あと十秒遅かったら……」
鏡越しに映る自分の顔が、情けないほど熱く染まっていた。




