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可哀想なクール社長令嬢、俺にだけデレる顔がものすごく可愛い——ただ、君の思う100倍は愛が重いですが、大丈夫ですか?  作者: 仲村アオ


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第31話 後日の芹沢さん

 パーティー会場での芹沢騒動から数日後。

 卑劣な噂を流したとしてバッシングを受けた芹沢は、業界の女性たちから煙たがられ、表舞台に立たなくなったとか。


 噂を流したこと自体は悪いことだが、事実だっただけに申し訳ない……と、澄恋はオロオロしていた。


「澄恋は悪くないよ。最初から澄恋を貶すような噂を流さなければよかったのに、調子に乗ったあいつが悪い」


 圭吾の耳に届くまで噂を広めていたことが、そもそもの発端だ。だが、あの男一人であんなに広まるだろうか?


 ——終わったことだし、深く考えるのはやめよう。そう思った時だった。


 俺の母親・雅代から呼び出しがあった。



『今度の週末に澄恋さんと家にいらっしゃい』



 拒否権ゼロの命令だ。

 やっと澄恋と朝から晩までイチャイチャできると思っていたのに、理不尽だと俺は憤った。

 あまりのショックに気力がなくなり、ベッドに項垂れるように寝転んだ。



「ただでさえ澄恋成分が足りなくて死にそうなのに、唯一の土日まで奪われたら生きていけねぇーじゃん!」



 ——いや、違う。

 場合によってはチャンスなのではないだろうか?


 俺の親に会う。認められて一気に結婚の話が進む。とりあえず同棲。うん、同棲でいい。仕事から戻ってきた時に澄恋がいれば、それでいい。


 そう考えると、向こうの親御さんにも挨拶を済ませて外堀を埋めるのが一番なのではないだろうか?


「そうと決まれば、さっそく澄恋と打ち合わせだな。親御さんの好きなものを調べてもらわねば」


 ——なんて、その時の俺は気楽に考えていた。

 後日、あんな事態になるとも知らずに……。


 



「蓮、あんたって子は……。澄恋さんが大変な目に遭っているというのに、何をのほほんとしているの!」


 実家に戻って、第一声がこれだった。

 まさか怒鳴られると思っていなかった俺は、身を縮こませながら説教を浴びていた。



「女性の扱いだけはきちんとするように叩き込んだつもりだったけど、私の見込みが甘かったようね。はぁ……。——もう、澄恋さん、うちのバカ息子の気が利かなくて、本当にごめんなさいね」


「い、いえ! とんでもないです! 蓮さんはとても優しくて、親切ですよ!」


「もう、あなたは優しすぎるのよ! ごめんなさいね? あなたがお姉さんの真由さんから嫌がらせを受けている話は耳にしていたのに、手を差し伸べることができなくて……。このバカ息子に委ねていた私が愚かだったわ」


 ——嫌がらせ?


 その言葉に、俺は澄恋へ顔を向け直した。



「芹沢という男が流した噂だけど、あれの発信源は真由さんだったの。全く、腹違いとはいえ、妹の幸せも祝福できないとは……。妻帯者の男を誑かす、卑しい血が成す所業ね」


「……お母様、申し訳ございませんが、姉の真由のことに関しては、私の父の過ちです。私のことを思って発してくださっているのは分かるのですが、真由に対しての言葉を配慮いただけると助かります」



 そう言って懇願し、頭を下げる澄恋を見て、俺はさらに憤りを覚えたし、母の眉間に皺が寄ったのも見えた。



「——澄恋さん、あなたの心遣いは聖人のように素晴らしいと思うわ。けれど、なぜその労りを自分に向けることができないの? 親の過ちを子に償わせるのが間違っているのなら、あなたが受ける仕打ちもおかしいじゃないの?」



 厳しい言葉だが、気付かされる言葉に俺も奥歯を噛み締めた。澄恋も気まずそうに顔を背ける。


「あなたは堅実で、誠実で、心の澄んだ女性だと私は思っている。でも優しすぎるのよね。あなたのお母様にそっくり。私がね、蓮との縁談を無理にでも勧めたのは、澄恋さんという人柄もだけれど、あなたのお母様も影響しているのよ」


「母……ですか?」


「ええ。あなたのお母様は、それはそれは花のように可憐に微笑む、心優しいお人でしたわ。私の数少ない心許せる友人の一人ね。なのに、男を見る目だけはなかったわ。あの浮気男、静花(しずか)さんを泣かせるだけじゃなくて、浮気相手の娘を家に迎え入れるなんて……! そのせいで静花さんと澄恋さんがどれだけ胸を痛めたのか、分かっているのかしら……!」



 おお、久しぶりに見た母さんのブチ切れモード。これは澄恋の父さんも、タダじゃ済まないだろう。おそらく三時間は正座で説教コースだ。



「……ってことで、蓮。あなた、もう澄恋さんと一緒に住みなさい。あんな家に置いておくなんて言語道断よ」


 それはもちろん謹んでお受けいたしますが……!


 いや、違う! できればそれ、俺が言いたかった!



「『澄恋さんとの交際を認めた上で、一緒に住むことを認めてください』って俺が言いたかった!」


「はぁ? 澄恋さんが大変な目に遭っていることにも気付かなかった輩が、何をおっしゃっているの? もっと広い視野を持ちなさいって常々言っているでしょうが! そもそも、澄恋さんのような可憐で清楚なお嬢さんをお預かりしておきながら、あんたって子は本当に(ネチネチネチネチ……)」


 うるさい、うるさい、うるさい、うるさい。黙れ黙れ黙れ黙れ!



「あ、あの! お言葉ですが、お母様! 蓮さんはとても私を思って行動してくれています! なので……その、そんなに責めないであげてください……」


 母の眼力に押し負けて、だんだんと声が小さくなってしゅんとしていく。

 あんなに臆病な澄恋が、母さんに立ち向かうなんて……なんていじらしいんだ。


 そして目の前の母も、キュゥゥー……ンと胸をときめかせていた。



「はぁ……っ! やっぱり可愛いわねぇ、澄恋さん。こんなに可愛らしい方が娘になるなんて、私は世界一の幸せ者だわぁ♡」



 げぇ……あの母さんがデレデレした顔なんて、初めて見た。

 一生弾丸論破、攻撃性の塊みたいなこの人をここまで懐柔する澄恋は本当にすごい。



「蓮、あなたはほかの殿方に澄恋さんを奪われる前に、早く籍を入れて子を作りなさい。こんな素直で純粋な娘さん、他にはいないわよ? そして優しい子っていうのは、他の人よりも傷つきやすいの。あなたが守らないでどうするの!」


「は、はい! 澄恋は俺が命にかけて守ります!」


「バカね、命をかけて守るんじゃなくて、『一生かけて幸せ』にしなさい。守るのはそれ以前の当たり前のことでしょうが。ったくもう、最近の男は……。ついでに芹沢って男も、私が徹底的に潰してやるわ……。ふふふ、私の可愛い澄恋さんを陥れた罪は重いのよ。一生、ネチネチといたぶって差し上げましょう」



 その時の腹黒い母の顔を見た瞬間、この人には逆らわないでおこうと、俺と澄恋は肝に銘じた。

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