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可哀想なクール社長令嬢、俺にだけデレる顔がものすごく可愛い——ただ、君の思う100倍は愛が重いですが、大丈夫ですか?  作者: 仲村アオ


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第29話 世界で一番可愛い彼女

 そして数日後——……


 某リッチホテルのサロンパーティー当日。俺は綺麗に着飾った澄恋をエスコートして会場へ向かった。


 その美しいことのなんの……! その姿は美の女神、ヴィーナス。いや、そんなド定番な言葉なんかじゃ足りない。


 だが、本気で女神が降りてきたのかと思った。グレージュのドレスが光に溶けて、澄恋自身が美の定義みたいに見える。

 ヴィーナスもアフロディーテも、きっと今日の澄恋には敵わない。世界の美術館がこの瞬間を飾るべきだ。

 こんなにも綺麗で、息が止まるほど現実離れしてるのに——……。



「れ、蓮……そんなに凝視しないで。目がちょっと恐い」


「え、そんなに? いやいや、澄恋が美し過ぎるのがいけないんだって。このまま額縁に閉じ込めて、一生愛でていたい気分なんだけど」


「蓮は大袈裟過ぎるんだよ……! もう」


 彼女はプイッと、顔を逸らしたのだが、大胆に開いた背中が露わになって別のスイッチが入ってしまった。


 え、ブラ紐が見当たらないってことは、ノーブラなのか? 



「澄恋……これって胸元はどうなってるん? つけてないって、わけじゃないよな?」


「や……っ! ちゃ、ちゃんと着けてるから! ヌーブラっていう、胸にピッタリくっつくブラがあるから大丈夫なの!」


「え、見たい。どんな感じなんだ? 万が一取れてしまった時の為にチェックさせて?」


「や、ヤダ! 蓮の変態!」


 せっかく美しく着飾った二人なのに、台無しにしかねないやり取りに思わず苦笑が溢れたが、自分たちらしいなと嬉しくもなった。



「それじゃ、あらためてご一緒していただけますか? お嬢様」


「急にカッコ良くなるの、ズルい……。お願いします」


 彼女の白くて細い指を取って、俺たちは車へと乗り込んだ。





 都心ホテルのメインバンケットホール。

 磨き上げられた大理石の床に、シャンデリアの光が反射して無数の星のように散っていた。

 静かに流れる弦楽四重奏。招待客は皆、黒か深紺のスーツで、女性たちはシルクやサテンのドレスをまとっていた。


 俺はシャンパンのグラスを片手に、ホールの中央を見渡していた。



 ——ここにいるのは、将来の社長、役員、議員の卵ばかり。「青年部会」といえど、名刺の肩書きはどれも本物だ。

 同業他社の視線、政治家の秘書の笑み、そしてスポンサー企業の重役の挨拶。誰もが笑顔を浮かべながら、その奥で静かに探り合っている。


 俺はそんな空気に慣れているけれど、今夜だけは——少し違った。


 俺の隣には澄恋がいる。淡いグレージュのドレスに、シルバーのクラッチバッグ。

 照明が反射して、彼女の輪郭がほのかに輝く。周囲の男たちの視線が、彼女に集まっているのを感じていた。


「澄恋はこういうパーティーには参加したことは?」


「いえ、普段は両親や姉に任せてばかりで」


「そっか。これからは俺と一緒に顔を出す機会が増えると思うから、少しずつ慣れていってくれよ」



 俺は彼女の背に手を添えて、周囲の視線を遮るようにエスコートした。

 ワインの香りと人の熱気の中、二人の立ち姿だけがどこか清らかで、浮いて見えた。


「彼女が……音無さんの?」


「品のある綺麗なお嬢さんだね」


 囁き合う声が、少し離れたテーブルから聞こえる。俺は聞こえないふりをしながら、グラスの中の泡をじっと見つめた。

 すると少し離れたテーブルからよく知った顔が見え、思わず顔を上げた。



「蓮、お前も参加してたんだ。珍しいな」


「まぁ、やっと一緒に参加してくれるパートナーを見つけたもんで。圭吾(けいご)は一人か?」



 声をかけてきたのは従兄弟の三条(さんじょう)圭吾(けいご)。同世代で同じ会社で働く、次期社長候補だ。


 今は圭吾の父親が社長で、その妹——つまり俺の母・雅代の夫が常務を務めている。将来的には、俺や父が関連子会社の経営を引き継ぐ予定になっている。



「圭吾、紹介するよ。俺の許嫁の早瀬澄恋さん」


「早瀬です、よろしくお願いいたします」



 恥じらいながらも丁寧に挨拶する澄恋。

 初めて湊人や佐久間に挨拶したときより、ずっと堂々としていた。

 むしろ圭吾の方が見惚れている始末だ。


「おい、圭吾。俺の嫁さんが綺麗だからって、あまり見過ぎるなよ?」


「え、いや! そんなつもりは……! んっ、三条圭吾です。いや、さすが蓮の彼女だなって思って。綺麗なだけじゃなくて、上品で清楚で……非の打ち所がない素敵なお嬢さんですね」


「硬ェよ、お前……。んな社交辞令はいらねぇから」


 見た目は高身長でモデルやアイドル並のイケメンなのに、真面目過ぎるんだよな。



「いや……だって、早瀬さんって早瀬グループのだろ? 聞いていた話とかなり違ったから面を喰らったというか」


 圭吾の不穏な言葉に、俺も澄恋も聞き流すことができなかった。

 俺は圭吾の腕を掴んで、壁際へと移動した。



「——噂ってどういうことだ? 澄恋のことで何か悪い話が流れているのか?」


「いや、俺も詳しいことは聞いていないけど、どうやら澄恋さんと前にお見合いした人が根も葉もない噂を流しているみたいで。……『早瀬グループのお嬢様は愛想なしで、コケシみたいな女』だって。あれじゃ嫁の貰い手がいなくて早瀬グループもお先真っ暗だって」


「は? 何処のどいつだよ、そんな糞みてぇな噂を流したのは。澄恋のどこが愛想なしのコケシだ。こんなに愛らしくて色気のある女は他にいねぇのに」



 これでさっきから感じていた視線の正体がわかった。噂とのギャップに皆がざわついていたのだ。


 だが、当の澄恋は意外にも気にしていない様子で、涼しげに立っていた。



「その噂も本当なので仕方ないです。蓮に会うまでの私はコケシよりも愛想がない喪女だったので」


「いやいや、澄恋はもっと自分に自信を持てって」


「う、うん。今は前と違うよ? だって……蓮が傍にいて、毎日可愛いって言ってくれるから。私はそれで十分」



 ——俺の嫁、こんなに綺麗なのに謙虚すぎ!

 流れ弾を喰らった圭吾まで、顔を真っ赤にして蹲っていた。


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