第27話 何があっても 【♡有】
無事にパーティー用のドレスも決まり、ほっとした俺たちは食事をしようと店を探していた。
けれど、慣れないことに気疲れした様子の澄恋を見ていると、あまり連れ回すのも気が引けた。
「澄恋、明日の予定は?」
「え? あ……二限目から講義があるので、朝はゆっくりです」
「じゃあ、今日はうちに泊まるか? 今日、俺と会ってることはご両親も知ってるんだろ?」
俺の言葉に、澄恋の頬が一瞬で赤く染まった。
……とはいえ、付き合ってまだ日が浅いのに、さすがに泊まりが多すぎるか?
いやいや、俺も澄恋もいい大人なのだから、いつまでも親の顔色を見る必要はないだろう。
「……私も、蓮と一緒にいたいと思っていたから。母には私から連絡しておきます」
この時の俺は、単純に澄恋といれることを喜んでいたのだが、もう少し彼女の様子を見ていれば気づけたかも知れないのに……。自分の不甲斐なさを悔やむばかりだった。
マンションに着き、玄関のドアを閉めた瞬間——外の喧騒がすっと遠のいた。残ったのは、二人の呼吸だけ。
「……澄恋」
呼びかけても、彼女はすぐには顔を上げない。最初は慣れないことで疲れたのかと思っていたが、どうやらそれだけではなさそうだ。
心配になった俺は、彼女の手を取ってジッと目を見つめた。
「何か、あった?」
「……いえ。ただ、今日みたいな場所にいると……私なんかが、本当に蓮の隣に立っていいのかなって考えてしまって」
言葉の途中で、音無はそっと彼女の頬を両手で包み込んだ。
驚いた澄恋の瞳がグラリと揺れた。
「もういい」
それ以上、何も言わせたくなくて、唇を重ねた。
最初は短く。けれど、澄恋が息を呑むと同時に、そのキスは深く、濃く、形を変えていった。
背中に腕をまわし、彼女を引き寄せる。
靴を脱ぐことも忘れて、玄関の壁に背を預けた。
彼女の髪が肩から滑り落ちて、甘い香りが混ざる。
唇が離れるたび、澄恋が小さく息を漏らした。
「……れん」
「誰がなんて言っても、俺が選んだのはお前だよ」
その一言で、澄恋の瞳がふるりと揺れて、光が滲んだ。
俺はもう一度、彼女の額に口づけて、そのまま額を重ねたまま囁く。
「何があったかは無理には聞かないけれど、自分を責めることも、もう全部やめろ」
「……はい」
「大丈夫だよ。俺は何があってもお前のことを守るから」
彼女がこくりと頷くのを感じて、俺はもう一度、優しく唇を重ねた。
玄関灯の下で揺れる二人の影が、まるで溶け合うように重なっていた。
——とは言え、何があったか気になって仕方なかった。おおよそ真由が原因だとは思うのだが、俺が口出しいていいのか悩んでいた。
「あの、一つだけ聞きたいんですけど……どうして真由姉さんじゃなくて、私だったんですか?」
「え?」
テイクアウトで買ったサラダとパスタを食べている最中、意外にも澄恋から打ち明けてくれた。
何故、澄恋だったのか。
実は真由が会社に突撃してきた時に、俺の両親にそれとなく探りを入れていた。
まず、大きな理由は澄恋が正妻の娘だから。
大きな顔をしているのは何かと派手な真由だけれども、見比べると生まれ育った教養や人としての本質が見え隠れする。
——と言うよりも、うちの場合は母親が「絶対に澄恋さんでないと認めない」の一点張りだった。
『蓮、アンタ……まさか真由さんに言い寄られて、気持ちが移ろいだんじゃないでしょうね? 見た目の派手さで騙されるようじゃ、蓮もまだまだよ』
自分自身がエステや美容整形で色々手を尽くしているくせに、人には文句をつける母に反感はあったのだが、今では一理あると納得していた。
確かに一見、容姿端麗で派手な真由の方が人目を惹くかもしれない。
だが、俺には——澄恋のような一途に貫いてくれる女性の方が性に合っている。こんな彼女だからこそ信じて、守りたいと思えるのだろう。
だが、きっと今までの理由を並べても、彼女は納得はしないだろう。
「逆に、何で俺が真由さんを選ぶと思ったんだ? 正直、あんな形で職場に押しかけてくるような女性を好む男がいたら、見てみたいんだけど」
「え……?」
「人も迷惑も考えないような女、結婚しても続かないだろう。俺なら即婚約破棄だな。あれに騙されるようじゃ、先が思いやられる」
——っと、アレでも澄恋の姉なのに、言いすぎただろうか?
だが、澄恋はキョトンとしたまま呆気に取られていた。
「まぁ、じゃじゃ馬を飼い慣らしたいって物好きはいるだろうから、アレが好みって人に譲ればいいんじゃないか? 少なくても俺は澄恋の方が何十倍も何百倍も可愛いから、澄恋じゃないと無理だけど」
すると彼女はクスっと笑って、やっと俺の目を見てくれた。
「……そうだよね。真由姉さんには真由姉さんにあった人がいるんだから、私が譲る必要はないんだ。私が蓮の隣にいてもいいんだよね……?」
「当たり前だろ? むしろ澄恋以外じゃ意味がない」
やっと胸の内が晴れたのか、やっと笑顔を見せてくれるようになった彼女は、今度は甘えるように俺の肩に寄りかかってきた。
目尻にはうっすらと光る涙が浮かんでいたが、あえて気づかないふりをした。代わりに顔に掛かった髪を指ですくって、そのまま唇を重ね合わせる。
柔らかい感触に俺はすぐに虜になる。遠慮がちに動く仕草に夢中になり、深く深く交じり合った。
「……証明するために、毎日、俺の全部を澄恋に注いでやろうか?」
「ん、エッチ……それ、ただ蓮がしたいだけでしょ?」
「はは、バレた? でも、それが一番の証明だと思うんだよな。毎日毎日、空っぽになるくらいヤッちゃえば、浮気の心配もなくなると思うんだけど」
涙を溜めて見つめる瞳が大きく揺れた。
彼女は俺に身体を向け直して、そのまま足を開いて左手で顔を隠しながら誘ってきた。
「証明して……って、私が言ったら、本当にしてくれる?」
彼女らしくない誘い方にも関わらず、その先の展開を想像して俺の喉が鳴った。
「ご所望ならば、今すぐにでも」
太ももの横の下着のラインに爪で引っ掻きながら、ゆっくりと快楽の夜に溺れ始めていった。




