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可哀想なクール社長令嬢、俺にだけデレる顔がものすごく可愛い——ただ、君の思う100倍は愛が重いですが、大丈夫ですか?  作者: 仲村アオ


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第25話 幸せなら、仕方ない…… 【胸糞有】

 澄恋side……


「本当にありえないんだけど! なんで私じゃなくて澄恋なの!? あんたより私の方が相応しいはずなのに!」



 ダイニングルームに入るなり、ワイングラスを投げつけられた。あと少しずれていたら、怪我をしていたかもしれない。


 赤い飛沫が白い壁を汚す。その衝撃が、姉・真由の怒りの大きさを物語っていた。


「お前……っ、澄恋のことは納得したって言っただろう!」


「納得なんてできるわけないでしょ! 絶対に許さないから! あんたなんかより私の方が何百倍も価値があるんだから! お父様もお母様も分かってるでしょ? こんな根暗で不細工な澄恋に、音無さんは釣り合わないの!」



 いつもの真由の暴言。

 ずっと聞かされてきた言葉だから、今さら傷ついたりはしない。——でも、蓮のことだけは譲れない。


 スカートを握る手に力が入る。

 自然と、真由姉さんを見る目が鋭くなった。



「何よ、その目。間違ったこと言ってる? あんただって分かってるでしょ? このクズ! 自分が劣ってること、あんた自身が一番よく分かってるくせに! 恥ずかしくないの?」


「……私なんかより真由姉さんの方が綺麗なのも、社交的なのも分かってる。けど、それでも——私なりに彼を支えたいって思ってるの」


「はぁ? 意気込みなんて聞いてないの。周りが見たときに、どっちが音無さんに相応しいかって話。あんたじゃ、音無さんが恥をかくのよ!」


 ——そんなことはない。

 だって、蓮は私を選んでくれた。彼の見る目が、そんなに鈍いはずがない。

 もし私に非があるなら、とっくに断られていたはずだ。



「私は、蓮さんが選んでくれた以上、その期待に応えるのが礼儀だと思ってる。だから、いくらお姉さんに言われても——それだけは譲れない」


「……は?」


「私は、絶対に蓮さんのことを渡さない!」


 そう口にした瞬間、今度はグラスではなく、テーブルの上に並んでいた料理がクロスごとひっくり返された。


「真由、お前! 何をしてるんだ!」


「放してよ、お父様! だってこの女、私の言うことを無視するの! 私より劣ってるくせに生意気なのよ! あんたなんて一生、日陰で埋もれて生きていけばいいのに! なんでしゃしゃり出るのよ!」


「してない! 私はただ、蓮さんのことだけは譲れないって言っただけで、真由姉さんを邪魔する気なんて——」


「アンタが生きてるだけで邪魔なのよ! 死んでくれない!? そもそもアンタたち親子のせいで、私のお母さんは死んだの! だからアンタたちは、私を一生立てて生きるべきなのよ!」


 真由の言葉に、父も母も何も言えなかった。


「今度、音無さんの家に行って訂正してきなさい。『全部うちの手違いでした』って。どうせ家同士の決まりでしょ? 蓮さんに決定権なんてないんだから。向こうのご両親だって、クズな澄恋より私の方が相応しいって分かるはずよ」


 グッと唇を噛みしめたけれど、彼女の言葉を受け入れることも、否定することもできなかった。

 でも——もう今さら、彼といる幸せを知ってしまった以上、誰にも渡せない。


 堪えていた涙が、ボロボロと頬を伝う。

 それでも真由をまっすぐに見据えながら、私は言葉を絞り出した。


「絶対にイヤ。いくら真由姉さんの言うことでも、これだけは絶対に……!」


「アンタに話した私がバカだったわ。——お父様、今度、蓮さんのご両親に直接お会いしましょう? ねぇ、いいでしょ?」


 かつて父が愛した女性と同じ顔をしている真由。

 一度突き放したせいで貧しい暮らしを余儀なくされ、死んでしまった真由の母。

 その罪悪感から、父も母も、私より真由を優先してきた。


 だから、真由の言葉が『絶対』で、彼女が言えば、それが『正解』になる。


「でもね、真由さん。今回の縁談は、音無様のお母様直々のご指名で——」


「お母様は黙ってて。そんなの向こうの勘違いでしょ? 私のことを知れば、澄恋より私を選ぶに決まってるわ。こんなクズに負けるはずがないんだから!」



 真由が部屋を出ていくと、静けさが戻った。

 私はその場に膝をつき、蹲るように座り込む。


 ——もう嫌だ。

 でも、前ほどの不安はなかった。


 目を閉じれば、蓮の優しく見つめる瞳と、「好きだ」と囁いてくれた声が思い浮かぶ。



「きっと大丈夫。蓮は……真由姉さんじゃなくて、私を選んでくれるはず」


 家政婦の千葉さんが心配そうに声をかけてくれたけれど、私は顔をそらして自室へ戻った。



 ——大丈夫、大丈夫。

 深呼吸を繰り返し、気持ちを立て直す。

 きっと蓮なら、下を向いて悩み続けたりはしない。


 少しでも彼に近づくためには、弱いままじゃいけない。


 涙を拭い、私は考えた。今、自分にできることを。

 蓮の言葉を信じて、彼と共に生きていこう。

 もし彼が裏切るなら……そのときは、それが運命なんだろう。


 ワインの飛沫と料理の染みで汚れたワンピースを脱ぎ捨て、私は静かにバスルームへと向かった。




——次話から、音無視点に戻ります。

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