第23話 抜け目がない女の子 【♡♡有】
ホテルに入ってから数時間経って、そろそろお腹も空いてきたので食事にいこうと思っていた時だった。
毛布を被って丸まっていた澄恋が一生懸命スマホと格闘している姿が視界に入った。
「何を一生懸命見てるんだ?」
「わっ! ビックリした……。あのね、さっき、凛さんと連絡先を交換したから、メッセージを送ってたの」
え、いつの間に?
あの一瞬で連絡先を渡すなんて、抜け目がねぇな朝霧凛。
「凛さんって、美人でオシャレで素敵だよね。私もあんな女性になりたいな」
まるでテレビの中のアイドルや女優に羨望の眼差しを寄せる女の子のように、光悦した表情で語っているが、俺からしたら澄恋も十分過ぎるくらい可愛い。
「いや、むしろ俺は澄恋の方が可愛いと思うけどな。綺麗な深い碧の瞳に長い睫毛。スッと通った鼻筋に、俺のことを好きだって囁いてくれるこの唇も、全部愛しくて堪らない」
彼女を覆っていた毛布を持ち上げて、一緒に包まりながら抱き締めた。
汗は引いたとはいえ、吸い付く肌を寄せ合わせながら、俺は彼女の肌に赤い跡を残していく。
「んっ、そんな言ってくれるの蓮だけだよ。でも嬉しい……ありがとう」
「他の奴が澄恋を口説いてきたら、それはそれで問題なんだけどな。あんまり可愛くなるなよ……心配で夜も眠れなくなるだろう?」
「大丈夫だよ。私なんてただの喪女だもん。オドオドしてるだけで、何一つ面白いことが言えないつまらない人間だし」
あー、この子は何でこんなにも自己肯定感が低いのだろう。下手に自信を持たれてしまっても困るが、澄恋の場合は自覚を持ってもらいたい。
「……まぁ、いっか。いますぐ身につくものでもないし、少しずつ俺が教えてやればいっか」
「教えるって何を?」
首を傾げて尋ねる彼女にキスをして、俺は楽しみに笑った。
「澄恋は可愛くて、俺の大事な女の子だってこと。幸せだなって……俺と出会えてよかったって思えるくらい大事にするから。澄恋は俺の隣で笑っていたらいいよ」
コツンと額を合わせながら、潤んだ瞳の彼女と視線を交えた。
この綺麗な瞳に自分が映るってことが、どれだけ幸せなことか……きっと昔の俺なら気付かなかっただろう。
この子だけは絶対に傷つけたくない。愛されること、選ばれることの喜びを、ただただ感じていて欲しい。
「……ヤバい、澄恋。俺の彼女になるってことは良いことばかりじゃないみたいだ」
「え? な、何で?」
お互い下着しか身につけていない状態で密着しているから、反応してしまうのは仕方ない。
まぁー、俺が悪いんだけどな? 手持ち無沙汰なのをいいことに彼女のおっぱいをフニフニと揉んでいたんだから、そりゃームスコも大きくなるってもんだ。
「澄恋相手だと、俺、何度ヤってもヤり足りないみたいだ」
「え……! さ、さっきあんなにシたのに?」
「本当に不思議だよなー? 俺も一晩でこんなにヤったのは初めてだよ。それだけ澄恋のことが好きで好きで仕方ないってことだな。だから……」
俺は彼女の耳元に顔を埋めて、意地悪に囁く。
「澄恋の奥の奥まで……またマーキングさせて? 俺の彼女だって、身体の隅々まで覚えさえたい」
耳まで真っ赤にして困った顔であわめく彼女を見て、俺は細く笑った。可愛過ぎるな、俺の彼女。
腰に触れると、もう柔らかく濡れた熱が伝わってきて息が詰まった。指先で確かめるようにゆっくり撫でると、澄恋は堪えきれずに声を洩らす。
「……蓮、もう……恥ずかしいよ」
「ごめん。けど、確かめさせてくれ。痛くないか、ちゃんと準備できてるか」
俺自身も限界まで昂ぶっていたが、それ以上に彼女を壊したくなかった。指を抜くと、そこには俺の熱を迎え入れるに十分な潤いが残っていて、胸の奥がじんと熱くなる。
「……大丈夫そうだな」
彼女を見下ろしながら囁くと澄恋は顔を赤らめ、でも勇気を振り絞ったように俺の背に腕を回してきた。
「……うん。蓮を、ちゃんと感じたい」
その言葉に、喉の奥で何かが震えた。
俺は深く息を吸い、彼女の腰を支えながら、ゆっくりと入口に自身を添えた。
——っと、その時だ。
突然鳴り出した彼女のスマホ。これからという時に間の悪いタイミングだ。
だが、表示された名前を見て、二人して息を呑んだ。
「……お父さん!」
初デートの時に、少しだけ挨拶を交わした澄恋の父親。あの時は彼女の姉、真由が暴れ回っていたので一時避難の為に家に泊めたのだが……。
大事な娘さんがこんな目に遭ってると知ったら、何を言われるか想像しただけで冷や汗が流れる。
だが、裸のままバスルームで話す澄恋を見ながら「エロいな」と思う俺は、救いようがないんだろうな。
しばらくしてから彼女が顔を覗かせて、申し訳なさそうに近付いてきた。
「ごめんなさい、父からの電話だったんですが、真由姉さんをちゃんと説得させたから、家に戻ってきても大丈夫だよって」
「あー、そうなんだ」
初デートからずっと、朝から晩まで一緒にいたから離れがたいが、彼女は嫁入り前の大事な娘なんだ。親からしたら心配で仕方ないよな。現に今みたいな状況だし。
でも寂しい。家に帰っても彼女がいないなんて耐えられない。朝起きたらオッパイに顔を埋められる世界線に転生したい。
「澄恋、今すぐ結婚しよう」
「——え? え??」
「離れたくない。ずっと傍にいたい。うん、今すぐ澄恋のご両親に挨拶に行って、交際を認めてもらって、同棲しよう」
「待って? う、うん。蓮、大丈夫だよ? 傍にいるから安心して?」
違う、そういう意味じゃない。
何で伝わんないかなー、この微妙なズレ。俺は一分一秒でも傍にいたいのに。
でも、目の前で一生懸命に宥めている彼女を見て、俺は頷くことしかできなかった。




