第22話 何十分でも、何時間でも 【♡♡有】
怯えるように俺の顔を見る澄恋を安心させようと、額や頰にキスを落とすけれど、彼女は身体を強張らせるばかりで一向に俺と向き合おうとしてくれなかった。
(しまったな、焦りすぎたか)
いくら自分に余裕がなかったとはいえ、強引すぎたかもしれない。
俺は仰向けに寝かせた彼女を起こして、怯える子供を宥める羽ように抱き締めた。
「……ごめん、俺、自分勝手だったな」
一人でする自慰行為とは違って、セックスは二人でするものなのに。俺は自分のことしか考えていなかった。
天井を仰いで深く息を吐いた。
あー……やっと萎えてくれた。
いや、下半身は正直だけど、心はもう落ち着いた。嫌がる彼女を無理やり襲ってまで、満たしたいとは思わない。
「蓮、ごめんなさい。私……」
「いや、いいんだって。前にも言っただろう? 俺は澄恋が幸せそうならそれでいいんだ。逆に言えば、お前が辛そうなら下半身を殴ってでも気持ちを抑えてやる」
「だ、ダメだよ! そんなことをしたら蓮、死んじゃう!」
物の例えだから、心配しなくてもしないのでご安心を。
「でも、良かった。さっきの蓮は少し怖かったけど、今はいつもの蓮だ。私の大好きな蓮」
彼女は俺の背中に腕を回して、ギュッと抱きついてきた。
けど、その後に予想外な言葉も連ねて、俺は改めて惚れ直す。
「だけど……さっきの蓮も、蓮なんだよね。ずっと我慢してたの?」
「ずっとってわけじゃないけど、まぁ、これだけずっと一緒にいたら衝動的に抱きたいって気持ちになるよ。澄恋が愛しくて仕方ないからから」
すると彼女はグッと歯を食いしばって、俺の唇を塞いできた。色気もムードもない、ただ押し付けるような行為だったが、覚悟を決めたような、そんなキス。
「私も、したい。ちょっと怖いけど、蓮と——恋人らしいことをしたい」
彼女の気持ちを聞いた俺も、グッと気持ちを固めた。細くてか弱い肩を掴んで、正面から見つめ合う。
「多分、一回始めたら途中で止められないから、それだけは分かってて欲しい。でも俺は澄恋のことが大切だし、行く行くは結婚して一生添い遂げたいと思っている」
「は、はい……!」
「だから、避妊具なしでヤってもいいか?」
…………無反応。
流石の澄恋も、顔を顰めたまま何も言わなくなってしまった。
いや、だって「今からコンドーム買ってくる!」って言うのもカッコ悪いし、だからと言って黙ったまま生でするのも違う気がする。
それよりは将来を誓い合って「本気だから生でさせて欲しい」と言う方が男らしくないか?
「蓮って、たまに変態じみたズレたことを言うよね……。今回のはちょっと、素直に「はい」って言えなかったです」
「え、でもさー!」
「…………大丈夫。蓮がそんな無責任な人だとは思っていないから。これからも、ずっとずっとよろしくね」
「す、澄恋……!」
こうして俺達は、長い時間を掛けて愛を囁き合った。
「——蓮、も、もう私……無理♡」
「俺も無理……これ以上は一歩も動けない」
部屋に入った時は明るかった空も、すっかり暗く夜更けていた。二人とも飯も食わずに、互いと快楽を求め合っていた。
正直な感想……最高だった。
彼女の緊張をほぐしている時間も、キスも、抱擁も、全部が愛しくて堪らなかった。
今までのセックスは何だったのだろうと思うほど、身体中の細胞が騒いでしまった(大袈裟)
(ヤベェー、途中から処女だってことを忘れて◯◯◯◯や◯◯◯までしたんだけど、大丈夫だったか?)
しかも、もし今日が排卵日前だったら、確実に妊娠するほどヤッてしまった。俺はいいんだけど、澄恋は大丈夫だっただろうか?
(いや、俺も困る。ここで妊娠してしまったら、子供産むまでエッチができなくなってしまう)
これからはちゃんと持ち歩こう。どのタイミングでエッチがしたくなるか分かったもんじゃない。
「あの、蓮……」
一人で自問自答していた俺に澄恋が声を掛けてきた。しまった、放置し過ぎたか?
相変わらずうつ伏せのまま浅く呼吸を繰り返している彼女の腰を摩って「痛くないか?」と声を掛けた。
「大丈夫……、ちょっとヒリヒリするけど、蓮がいっぱい準備をしてくれたから、痛くなかったよ」
恥ずかしそうに言う彼女を見て、先ほどの行為を思い出す。ヤベェ、その時の反応だけでも数日は抜ける。
「これからは……もう、大丈夫だね。蓮も私に遠慮しないで、シたいときはシたいって言ってね?」
ヤバい、心臓が……! 俺、幸せすぎて死んでしまうかもしれない!
「とりあえず、澄恋も水分とっておきな? 俺も喉がカラカラ……脱水症状でぶっ倒れそう」
「蓮、すごく動いてたもんね。途中で私の頰に汗が落ちてきたよ。水も滴る良い男って、このことを言うのかなって思った」
何それ、すげぇー恥ずかしい!
そもそも、女の子が喘ぐ声は可愛いけど、男の耐える声って微妙だろ? なのに最中の顔を見られるのとか、この上なく羞恥の極みだ。
「いやいや、俺なんかより、ずっと澄恋の方がエロかったし。俺の二の腕に爪を立ててさー。ほら、血が滲んでるし」
反論のつもりで意地悪に言ったけれど、澄恋は顔を真っ赤にして申し訳なさそうに「ごめんね」と謝ってきた。
いや、違う……俺は謝って欲しいんじゃなくて、恥ずかしがらせるために——。
「蓮、今日もいっぱいありがとう。大好き」
気づいたら、すぐ傍まで近付いていた彼女の顔が俺を覗き込んできて、吸い寄せられるようにキスをしていた。
「……俺もありがとう。澄恋、好きだよ、大好きだ」
こうして俺達は、また一つお互いのことを知ることができたのだった。




