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可哀想なクール社長令嬢、俺にだけデレる顔がものすごく可愛い——ただ、君の思う100倍は愛が重いですが、大丈夫ですか?  作者: 仲村アオ


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第13話 冷血令嬢、澄恋ちゃん

 すっかり二人だけの世界に入り込んでいた俺と澄恋だったが、ざわめき始めた周囲に気付いて慌ててエレベーターに乗り込んだ。


 よりによって職場で、あんな行為をするとは思ってもいなかった。親に知られたら無事では済まない問題だ。



「……澄恋さん、大丈夫?」


 隣の彼女の様子を伺ってみると、ポーッと上の空でトリップしていた。


「澄恋さーん? あれ、おーい」


「え? あ……っ、ごめんなさい……! さっきのキスを思い出して……すごかったなって」


 うっとりした表情を見ると、あながち悪いようには思ってはいないみたいだが、約束を破ってしまった手前、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 しかも人前で辱めたようなものだ。澄恋さんが嫌がりそうなシチュエーションだったが、問題なかったのだろうか?



「確かに恥ずかしかったですが、まるで映画やドラマみたいでドキドキしました。世間の女性達はこんなトキメキを体験しているんですね」


「——いや、あんな体験をするのは、ほんの一握りの非常識人だけだと思うけど?」


 とはいえ、恋愛脳な彼女に感謝しながら配属部署へと戻った。自己中の権化、真由のことを考えると頭が痛くなるが、放っておくわけもいかない。


 それに、守ると決めたんだ。

 俺は繋いだ小さくて細い手を握り返して、改めて気持ちを固めた。



 だが、そんな俺の決意とは裏腹に、現場は意外と静まり返っていた。


「——あれ? 何で?」


 状況を把握したいと思い、友人たちの姿を探していると、休憩室に湊人さんと佐久間が立っている姿が見えた。


 俺は澄恋さんをつれて二人の元へと近付いた。



「湊人さん、さっきは面倒なことを押し付けて申し訳なかったです」


「ん、あぁ、音無。いや、問題なかったよ。あれから彼女は何も言わずに帰ったから」


「帰った……?」


 てっきり自分が婚約者だと主張していると思っていたので、そのこと自体は嬉しい誤算だったのだが、あまりにもアッサリ過ぎて逆に恐く感じたくらいだ。



「それよりも……もしかして音無先輩。後ろにいる女性が先輩の彼女ッスか?」


 ヒョイっと顔を覗かせた佐久間が、澄恋さんの前に現れた。彼女はビクッと震えたまま表情が固まっていた。


「あぁ、俺の彼女で早瀬澄恋さん。さっきの女性の妹なんだ」


「え、姉妹!? 確かに似てる気はするけど……。音無先輩、姉妹丼しちゃうなんて、とんだド変態ッスね」


「口には気をつけろ、佐久間。俺は姉の方には全く興味ねぇし。俺が好きなのは彼女だけだよ」


 俺は澄恋さんを落ち着かせようと微笑んだのだが、彼女は瞬きもせずに無表情……いや、むしろ顔を強張らせて黙り込んでいた。


「——あれ? 澄恋さん? どうした、大丈夫か?」


「え、別に……」


 …………ん?

 いや、全然大丈夫じゃねぇな、コレ。


 いつもの澄恋さんの愛らしさの一割もない、ただの無愛想な無口美少女になっている。


 プイッと外方を向いて、嘘だろう?



「澄恋さん。この人は俺の先輩で、三嶋(みしま)湊人さんって言うんだ。すごくいい先輩で、最初に澄恋さんに紹介したいと思っていたんだ」


「……早瀬澄恋です。いつも彼がお世話になっております(ボソボソボソ)」


 ——声が小さ過ぎて聞こえねぇー!


「それと、こっちのお調子者が佐久間(さくま)っていう後輩で、よく一緒に遊んでるんだ」


「…………」


 佐久間に至っては、無視!


 想定外の反応に二人も何を言えばいいのか困惑している様子だった。


「音無先輩の彼女って、クール系女子っすね」


 違う……! 普段の彼女はもっと可愛くて素敵なのに! 澄恋さんの良さを全く伝えられなくて歯痒い!


 冷や汗を拭いながらどうしようか悩んでいると、彼女の指が俺のシャツを摘んで、唇を尖らせて助けを求めてきた。



「……音無さん……っ、無理ィ……。急には初対面の人と、話せない」


「もしかして、緊張してるん?」


 コクコクと必死に頷いては、俺の後ろに隠れて震えていた。目には涙を浮かべて、嘘じゃないのは伝わってくる。



「……音無さん、ごめんなさい。私、上手く喋れない」


 ——マジか。俺にはめちゃくちゃデレデレになって話してるくせに?


 彼女の意外な一面を目の当たりにし、俺は二人に謝罪しながらフロアを後にした。


 今まで澄恋さんが喪女と言われていた理由がやっと理解できた気がした。あの様子では誤解されても仕方ない。



「ご、ごめんなさい! 音無さんの大事なご友人に、私……とんでもない態度を取ってしまって!」


「いや、それはいいんだけど。澄恋さんって、もしかして俺以外にはあんな態度なのか?」


 俺の言葉に彼女はビクッとして、怒られてバツが悪くなった子供のように顔を伏せ出した。



「……恐いんです、人と話すのが……。特に男の人とか……」


「でも、俺は大丈夫だったじゃん?」


 最初こそは表情も固くて緊張しているように見えたが、ここまで酷くなかった。だからこそ先ほどの態度が信じられなかったのだ。



「音無さんは、たくさん練習したから。それに、ずっと見てきたから」


「え?」


「初めて音無さんを紹介された……私が十五歳の時からずっと、音無さんに片思いをしていて……ずっと見てきたから、大丈夫だったんです」


 思わぬ告白に、今度は俺の顔が真っ赤になって言葉を失ってしまった。澄恋さんが十五歳の頃って、五年も片想いをしていたのか!?


 知らなかった事実に、俺は困惑を隠せなかった。そして、改めて澄恋さんの顔を見つめ直した。


 耳どころか首、鎖骨のあたりまで真っ赤にした可愛い彼女。冷たくて他の奴には塩対応の彼女が、俺にだけ甘くてとろけるような表情を見せてくれるとか、幸せ以外の何でもないんだけど!


「ごめんなさい……! もっとちゃんと話せるように頑張るから……! だから、嫌いにならないで……?」


「え、なるわけないじゃん。むしろ可愛くて仕方ないんだけど?」


 俺はキョトンと呆気に取られた彼女をギューっと抱き締めた。



「お、音無さん?」


「いいよ、澄恋さんは澄恋さんのままで。俺にだけ甘えて、俺にだけ可愛いままでいて? 俺だけが知ってる可愛い澄恋さんでいいよ」


「だ、ダメだよ……! 私も頑張るから! ちゃんと他の男性ともちゃんと話せるように頑張るから!」


 そんな彼女の決意をスルーするかのように、俺は澄恋さんを抱き締めて、彼女の肩のあたりにキスのあとを残した。

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