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可哀想なクール社長令嬢、俺にだけデレる顔がものすごく可愛い——ただ、君の思う100倍は愛が重いですが、大丈夫ですか?  作者: 仲村アオ


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第12話 今すぐに否定しろ! おい、オメェだよ、音無!

 絶体絶命のピンチっていうのは、こういう場面のことを言うのだろう。


 やっと運命の人だと思った人と出逢えたのに、よりによってその人が一番苦手としている女性との恋仲を勘違いされた上に、外堀を埋められていく不運……。



 姉に抱き付かれている場面を目撃されたまま、澄恋さんは逃げるようにエレベーターに駆け乗った。

 ゆっくりと閉まる扉——ダメだ、この誤解だけは解かなければ!



「ダメだよ、音無さん……。もし変な行動をしたら、私のお父様に言っちゃうよ?」


 耳元で囁かれた脅しのせいで俺は反応を鈍らせてしまい、最愛の彼女を乗せたエレベーターが降りていくのを黙って見届けるしかなかった。



「嘘だろ? 何で……?」


「ふふっ♡ それは私と音無さんが運命の恋人だからじゃないかなー? やっぱり私達が結ばれる運命なんだよ♡」


「ふざけんなよッ!」——そう叫びたかったが、先ほどの脅しが耳にこびりついて言い切れなかった。

 家のしがらみがなければ即座に否定するのに、あまりの歯痒さに苛立ちが露わになる。



「ねぇ、蓮ー♡ ここにいる人達って、蓮の職場の人達なんでしょう? ねぇねぇ、私のことを紹介してよ、ねぇ?」


「——いい加減にしてくれないか? こんなことをされて、俺が何もしないと思っているのか?」


「えぇー、だってぇ……会社の規模で言えば、ウチの方が上でしょ? ってことは、音無さんは私のいうことを聞かないと……ここにいる人達の生活が守れないってことになるよ?」



 真由の言葉に、青筋がピキッと立った。


「別にいいじゃない? どうせ澄恋と知り合ってから、そんなに経ってないんでしょ? あの子よりも私の方がずっと可愛いし、スタイルだっていいし♡ それに、夜伽だって……真由の方がずっと音無さんを満足させられる自信があるよ?」



 コイツ……一言一言が腹立たしい。

 俺を満足させるだァ? 何も知らないくせに知ったようなことを言うな。



「皆さーん♡ 今度、私と音無さんの婚約披露パーティーを行いますので、ぜひご参加くださいねぇ♡」


 真由が気持ち悪い声で言い回っている最中、俺は彼女の手首を掴んで突き放した。


「痛っ、何をするのよ無礼者!」


「無礼者はどっちだよ! 俺がいつお前と婚約した!?」


「早瀬家とお見合いしたってことは、私としたと言っても間違いじゃないでしょ! 所詮は家同士の戦略結婚なんだから!」


「全然違う! 俺は澄恋さんだから決めたんだ! 澄恋さんのことを傷つけるような人間なんて、こっちから願い下げだ!」



 俺は近くにいた湊人先輩に彼女を押し付けて、急いでエレベーターのボタンを押した。こんな時に限って中々来ない。



「あぁー! クソっ、やっぱ今日はツイてねぇ! 湊人さん、スイマセンが俺、今日は早退します!」


「あ、あぁ。分かった! 急ぎの用件があったら連絡くれ!」


「すいません、この恩はいつか返します!」



 俺はネクタイを緩めて、非常階段を駆け降りた。学生の頃以来の全力疾走で、心臓が喉に浮くように苦しい。


 重たい扉を押し開けると、会社のエントランスの近くに座り込んでいる澄恋さんの姿があった。彼女は俺のために作ってくれた弁当を抱え、肩を震わせている。



「澄恋さん、待ってくれ!」


 額から汗が滲み出る。全力で走った後に叫んだせいで咳き込み、苦しかった。

 だが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。


 この手だけは、絶対に離しちゃいけない——!


 俺は澄恋さんの腕を掴んだ瞬間、逃げないようにと即座に腕を絡めた。



「お、音無さん……? どうして——?」


「——どうしてじゃ、ねぇよ……。何で、何も言わないで……」



 あの時の彼女の表情を思い出して、一層力が籠った。絶対に傷つけないと決めたのに。俺が守ると決めたのに。



「……ごめんなさい。音無さんのことを疑ったわけじゃないんですけど、どうしたらいいのか分からなくて……」



 気持ちは分かる。俺だって咄嗟に否定の言葉を出せなかった。

 そもそも俺がちゃんとしていれば、澄恋さんを傷つけることもなかったのに。彼女を責めるなんてお門違いだ。だけど、それでも立ち去るようなことはしないで欲しかった。



「俺の彼女は、澄恋さんだから。真由さんじゃない」


「——真由お姉さんは……? 今、どうしているの?」


「突き放して、職場の先輩に任せてきた。今頃、色々と言い立てているかもしれないな」


 その状況を想像しただけでゾッとするけれど、今は澄恋さんの誤解を解くほうが先だ。

 今にも泣きそうな顔で見上げる彼女を抱きしめながら、俺は覚悟を決めた。



「澄恋さん、一緒に来てくれるか? やっぱり俺は誤解されたままにはしたくない」


「誤解って……? 何をしに行くの?」


「俺の彼女は澄恋さんだって、紹介したい」



 カッと赤くなる彼女の顔。やっといつもの澄恋さんらしい反応が見れて、俺も少し安堵した。


「で、でも、でも! 真由お姉さんがいるところに行くんでしょ? 私が行ったところで、きっと何も言えなくなる……!」


「大丈夫、俺がそばにいるから。だから皆の誤解を解かせてくれ」


「無理……! 私、真由お姉さんには逆らえない……!」



 俺の腕の中で暴れ出した澄恋さんを宥めようと必死に言葉を掛けたが、彼女は全く聞く耳を持たない。それどころか、せっかく作ってくれた弁当も床に落として、中身が無惨に散らばった。


 あぁ、クソ……! 本当に何もかも思い通りにいかない日だ!



 俺はチッと舌打ちをして、強引に澄恋さんの顎を掴んで唇を塞いだ。

 昼休みの最中、多くの社員が行き来し見ている中で ——俺は澄恋さんの意思も聞かず、自分勝手に行動してしまった。



「……ごめん、こんなはずじゃなかったのに」


 昨日、ロマンチックな思い出にしようと約束したばかりなのに、早速破って情けない。


 当然、俺の最低な行動に彼女もボロボロと涙を流したまま。そんな泣きじゃくった顔を隠すように、俺の胸に埋めてきた。



「音無さん……好き。音無さんのことが好きなの……。たとえ真由お姉さんが相手でも、絶対に渡したくない」



 彼女の言葉に俺も胸が熱くなった。

 こんなにも一途に想ってくれる彼女を守ることもできずに、俺って奴は……。

 即座に真由を突き放せなかった自分を悔やんで仕方なかった。



「あぁ、俺も同じ気持ちだよ。澄恋さんのことを愛してる」



 こうして大勢の人が見ている中、俺達はエントランスの中心で愛を誓い合った。


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