第10話 朝チュン、できれば裸エプロン所望 【♡有】
朝、いつもと違う枕の感触で目を覚ました俺は、グッと背伸びをして身体を起こした。
「あー、そっか。俺は澄恋さんをベッドに寝かせて、そのままリビングで寝たんだ」
そうだ、昨日はノーブラノーパンで俺のシャツを着てたんだっけ……。
その事実に気づいた俺は、急いで寝室に向かった。息を静めて中を覗いてみると、猫のように眠たそうな目を擦る彼女の姿を捉えた。
「あ、音無さん。おはようございます」
「おはよ。目、覚ましてたんだ」
「私、いつの間にか寝てたんですね。本当に一人でベットを占領してしまったみたいで……すみません」
「いや、気にしないで。それよりさ」
俺はベッドに腰を下ろして、寝起きで無防備な彼女の顔を覗きこんだ。キョトンと、いつもより隙のある瞳が俺を映す。
「可愛いな、俺の彼女は……。ギュッとしていい?」
ストレートな言葉に彼女の顔が一気に赤くなる。その反応ですら愛しくて堪らない俺は、包むように抱き締めて澄恋さんの耳の辺りに唇を落とした。
「んっ、音無さん……っ!」
「蓮って、名前で呼んで欲しいな」
背中を撫でるように、スッと指で背筋をなぞる。うん、まだブラはない。
少し悪戯をしてみようかと、彼女の身体をベッドに寝そべらせた。まるで押し倒しているような状況に心臓が騒がしくなる。
「え? え??」
「油断し過ぎだって。男の前でこんな無防備な姿を晒してたら、すぐに襲われるぞ?」
「でも、何もしないって約束だったから」
「うん、だから《《昨日》》は何もしなかった。でもさ、昨日よりももっと、俺のこと好きになっただろ? ってことは、ボーダーラインも下がったからさ……もう少し先に進んでもいいんじゃねぇの?」
流石の澄恋さんも『そ、それ屁理屈です!』と言わんばかりの衝撃を受けていた。
まぁ、実際屁理屈なんだけどな。
ククッと、必死に笑いを堪えながら、俺は澄恋さんの頰に手を添えて、音を立てて頰にキスをした。
「これ以上イジめたら、本当に嫌われそうだから止めておくよ。けどさ、我慢してるのは本当だから、あんま無防備になり過ぎないでくれよ? 耐えた俺にご褒美が欲しいくらいなのに」
「ご褒美ですか? 例えば……?」
首を傾げて尋ねる澄恋さんをジッと見て、俺は率直に欲しいものを決めた。
「裸エプロンは……男のロマンだよな」
「は、裸エプロン!?」
けど、生憎ウチにはエプロンがない。あー、こんなことなら買っておけばよかったと後悔した。
澄恋さんが恥ずかしそうにエプロンを裾を握り締めて「こ、これでいいですか?」って聞きながら、一生懸命に朝ごはんを作っている姿。これだけで白ごはん三杯は食える。
「横乳とか、振り返るたびに可愛いお尻が見えたら、俺の理性壊れるな」
「想像しないで! それは流石にしません!」
「え、しないの?」
「え、し、しないとダメですか……?」
「俺の彼女になったんだから、それくらいは覚悟してくれないと。裸エプロンなんて序の口だし」
ガーンと、顔面蒼白にして落ち込む澄恋さん。
本当に可愛い反応をするから、ついついからかってしまう。
だが、残念なことに、そろそろ仕事へ行く準備をしなければならない。
「——澄恋さんは、どうする? 俺は仕事に行かないといけないんだけど、俺の家にいる? それとも一度、家に帰って話してくる?」
一度は保留にしていたけれど、いつまでも放置はできない問題。澄恋さんの姉、真由のことはいつか向き合わなければならないだろう。
できることなら俺も同席したいのだが、澄恋さんの気持ちを優先しなければならない。
「ちなみに俺は、いつまでいてくれても一向に構わない。自分の家だと思って自由にしてもらえればいいし、遊びに出かけたりしてもいい」
「……本当に? いいんですか?」
「俺から親御さんには連絡しておくから、問題ないよ。だって、俺の親公認の婚約者は澄恋さんなんだから」
俺は棚にしまっておいたカードキーを取り出して澄恋さんに渡した。
ぐっと下唇を噛み締めて、必死に涙を堪えている彼女を見て、俺は愛しいなと笑みを溢した。
「——やっぱり家にいて。澄恋さん一人に辛い思いをさせたくないから、家に帰るのは俺と一緒の時にして。また真由さんに何かを言われた時は、俺が守るから」
「音無さん……」
まだ名前で呼んでくれない恥ずかしがり屋な彼女に苦笑を溢して、俺は「蓮って呼んでよ」と、改めてお願いをした。
「……蓮、さん」
「うん、ありがとう」
こうして俺は——甘い時間を過ごし過ぎたせいで、案の定遅刻をした。
————……★
「音無先輩、何してんっスかー? 遅刻って珍しいっすね」
「るっせーよ、佐久間。お前は黙って仕事してろよ」
「えぇー、自分が悪いくせに! そんなんだから彼女が出来ないんすよ!?」
「(ふっ、その彼女が理由で遅刻したんだけどな……)」




