7話 ポンコツ令嬢、イノシシになる
もし、無限に死に戻れるのだとしたら、私には永遠の時間があることになる。
時間に果てがないのならば、どんな夢でも叶うはずだ。
最強の戦士になって暗殺者を倒すこともできるはず。
というわけで、特訓の日々が始まった。
朝は馬術で体幹の使い方とバランス感覚を養う。
その後、昼まではダンスのレッスンを予定していたが、これは剣術の稽古に変えてもらった。
手の皮が焼けただれるまで木剣をひたすら振り込んでいく。
そして、知は力なり。
昼食の後は、日が暮れるまで基礎魔法学の勉強だ。
「わたくしの授業がそんなに退屈ですか?」
パルタ先生が人殺しみたいな恐ろしい形相で私を睨む。
口の中で噛み殺したあくびを見逃してくれなかったらしい。
午前中のがむしゃらな稽古で体には疲れがたまっている。
命がかかっているとしても、どうしても食後は眠くなってしまうものだ。
そんなときは、こうだ。
「フン! フン! フン!」
「な、何をしているのですか、ルピエットさん!?」
私がペンで自分の膝をぶっ刺すと、パルタ先生が仰天して椅子から滑り落ちそうになった。
「お気になさらず。これが眠気を吹き飛ばす一番の方法なんですよ。先生も私が眠そうにしていたら遠慮なくぶっ叩いてください」
どうせ死んだら記憶以外はリセットされる。
ある意味、私は無敵なのだ。
パルタ先生は急にやる気を出したり、嬉々として自傷行為に走ったりする私を不気味がっているが、まあ、それもリセットされるだろう。
というわけで、殺されるまでひたすら勉強だ。
「では、魔法陣が円環をなしている理由を答えなさい」
「力を循環させる流路としての役割があるからです、先生」
「よろしい。では、紙と石、魔法陣を刻むにはどちらが適した素材か答えなさい」
「用途により異なります。魔力を循環させると抵抗熱により魔法陣は高温になります。紙の場合は炎上してしまうため、1回ポッキリの使い捨てが前提となります。一方、石材の場合は複数回の使用が可能です。ただ、紙と違って量産に向かない上、重くかさばるため携帯性にもとるといった負の側面があります」
「よ、よろしい。では、紙媒体で複数回の使用を考える場合、どのような工夫を凝らせばよいか述べなさい」
「純度の高い金を糸状にして陣を構築する方法が有名です。金は魔力伝導率が極めて高い物質であるため、熱損失が起こりにくいといった利点があります。ただし、作成には高度な技術が必要になることから、やはり量産化には向かないといった欠点があります」
「……正解です」
同じ質問を2日前にもされたから、私は立て板に水を流すがごとく答えることができた。
私のドヤ顔が気に入らないのか、パルタ先生は眉間にしわを作っている。
「なんでしょう。違和感がありますね。あなたの答え方は最初から解答を知っていたかのようでした」
ぎくり。
「どうやって答えを知り得たのかわかりませんが、ズルをしたところで力にはなりません。いいですか、ルピエットさん。ズルをするくらいなら堂々と間違えなさい。間違った成功より正しい失敗があなたを育てるのですよ」
厳しい目つきのずっと奥のほうに、ほんの少し慈愛のようなものが垣間見えた気がして、意外だった。
私は背筋を伸ばしてウンウンと頷いた。
「まったくもってその通りです、先生! 大事なのは正攻法ですよね!? 私は何度壁にぶつかってもへこたれません。壁が砕けるまでぶつかり続けます」
「壁があるなら迂回するのも手ですよ。ですが、ときにはイノシシのように突き進むのも大事でしょう。あなたのような方は、そのほうが多くを学べるかもしれませんね」
若干トゲのある言葉だが、ポンコツ令嬢よりもイノシシ令嬢のほうがマシだろう。
進歩したと思って次だ、次。
とにかく今は思いっきり突っ走ってみよう。




