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4話 死に戻り!?


 誰かに何かで首を刺されて殺された。

 気づけば、庭でひっくり返って馬の尻を見上げていた。

 夜だったはずが、朝になっている。

 まるで時間が巻き戻されたみたいに。

 これって、あれだよね。


「死に戻りってやつだ……」


「なんですって?」


 パルタ先生が顔をしかめる。

 朝日を背後から浴びた顔は影を帯びて恐ろしさに拍車がかかっていたが、今はそんなことどうでもいい。

 私は寝ころんだまま脚を組んだ。

 腕も組んで、ふむ、と鼻を鳴らす。


 さっきは「死に戻り」なんて言ったが、この世界がゲームであることを踏まえれば、もっと妥当な表現があるかもしれない。

 セーブ&ロードだ。

 私は何者かの魔の手にかかり、殺された。

 そして、ゲームオーバーになり、こうしてセーブ地点に戻ってきたというわけだ。


「デス・ペナルティとかはないな……」


 所持金が減ったり、経験値がリセットされたりした感じはない。

 むしろ、経験値は引き継げている。

 いつどこで殺されたのか、その知識という経験が私の中に残されている。


「あっ、こうしている場合じゃなかった!」


 私は足を振って起き上がり、痛む頭を押さえながら屋敷に駆け込んだ。

 パルタ先生が何事か吠えているが、本当に今、馬術どころじゃないんですよ先生。


 リビングに駆け込むと、長テーブルの最奥でティーカップを傾ける壮年の男を見つけた。

 上級貴族リュピエート家の当主。

 パトシュ・リュピエート。

 ルピエットの父である。


 私はドンとテーブルを叩いた。


「お父様、お父様! 大変です! 私を殺そうとする人がいるのです! 暗殺者です、暗殺者!」


「わっはっはっはっは!」


 パトシュは腹を抱えて足をバタつかせている。

 予想外の反応に、私は目を点にしてしまった。


「あの、どうしてお笑いになるのですか?」


「いやぁ、すまない。だが、お前に限って暗殺など万に一つもあるまい。なぜならルピエ、お前は殺す価値もないからな。なんたってフフ、笑顔を振りまくくらいしか能がないポンコツだからな」


 半笑いでそんなことを言われた。

 毒舌度で言えば、パルタ先生が霞んで見えるレベルだ。

 泣いていいかしら?


「もう! お父様ったら!」


 妹のクロベルが肩を怒らせてやってきた。


「なんてデリカシーのないことをおっしゃるのですか! お姉様がこれまでに一度でも嘘をついたことがありましたか! ありませんよね? もっと親身に耳を傾けるべきです!」


 美少女というのは怒ると怖いものだ。

 さしもの父もこれにはたじたじだった。


「まったくクロベルの言うとおりだ。たしかに、なんの才もないみじめな子だが、人を騙そうなどと考えたことは一度もなかったな。唯一の取り柄まで疑ってしまっては、ルピエが可哀そうだ」


 パトシュは威勢よく膝を打った。


「ならば、警備の者を増やすとしよう。クロベルを守るためにもな」


 言葉のトゲがチクチクと突き刺さる。

 私が微妙な顔をしていると、パトシュはムッとした様子で腕組みした。


「ルピエ、私は何もお前を軽視しているわけではないぞ。お前には不思議な力がある。誰からも愛される特別な力がな。お前を傷つけようとする者がいるなどと、私にはとても思えんのだ」


 今、大いに私を傷つけた人がなんぞおっしゃっている。

 鏡を見ろと言いたいよ。


「ありがとう、クロベル」


 手を取ってまっすぐ瞳を見て礼を述べると、クロベルの頬がぽっと赤らんだ。


「お姉様さえよろしければ、今夜は私と一緒に寝ませんか。二人で手を繋いで眠れば怖い夢も見なくてすむと思うのです」


 せっかくの申し出だが、私は怖い夢にうなされて妄言を並べているわけではない。

 それに、妹を巻き込むわけにはいかない。

 私はお茶目に片目を閉じた。


「また今度ね」


「ええー! 子供の頃は毎晩一緒に寝ていましたのにー!」


 ブーたれるクロベルの姿には、たしかに懐かしいものが感じられた。


 そうこうしているうちに、夜がやってきてしまった。

 私は自室のベッドの下に身を隠した。

 根拠こそまったくないのだが、自分の部屋というのはこの世界で最も安全な場所に思えていた。

 大火山の噴火にも巨大な地震にも1000の光を束ねた落雷にも耐えられる強固なシェルターであるような気がするのだ。

 加えて言えば、前回は警備の手薄な1階の医務室にいた。

 対して、今回は入り口を物々しく固めた3階の自室だ。

 一介のアサシン風情にこの鉄壁の居城を崩せるかな?


 などと高をくくっていると、誰かが足首を掴んだ。

 私はタコに捕まった哀れな小魚のようにベッドの下から引きずり出された。

 窓から射し込む月明かりが闇にたたずむ人影を浮き彫りにした。

 天の高みで閃いた銀の光が静かに落ちてくる。


 グサリ――。


 どうやら、またしてもゲームオーバーらしい。

 だが、今回はよく見た。

 犯人は黒衣をまとった人物だ。

 顔には仮面。

 凶器はククリナイフ。

 そして、単独犯だった。

 髪型や肌の色、性別は不明だが、何もわからなかった1周目と比べれば大きな進歩だ。


 次こそは生き延びてやる。


 私は夜空よりも深く暗い死のまどろみに沈みながら、固く胸に誓った。



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