第33話 ショッピングモール 8/9(月)
──それから婆ちゃんから小遣いを受け取って、俺たちは家を出た。目的地は近くの大型ショッピングモール。水着の購入はもちろん、その他諸々の買い物も纏めて済ませてしまおうということになったのだ。
ちょうど近所から直通のバスが出ていたので、それに乗り込み目的地に向かう。道中、俺は年下の従弟妹たちとの交流を図る為、湊に問いかけた。
「都会とじゃ全然違うだろ。俺も車があれば良かったんだけどなぁ」
バスに揺られながら窓の外を見ていると、民家や商業施設もありすごく田舎という訳ではないのだろうが、都会と比べれば建物の密度は低い。
「移動は少し不便だね。でもまぁ、俺たちも電車とかバスで移動するのは普通だし。あーでも、どうせなら自転車持って来れたら良かったなぁ」
そしたらどこでも遊びに行けたのに──と、残念そうに呟く。聞けば湊はロードバイクに乗って少し遠出するのが好きらしい。
「どっかで借りられる場所でも探してみるか?」
「それもいいかも。輝と美鶴も乗る?」
「僕はパス。大人しく近くの観光地巡りでもしてるよ。美鶴は?」
「……」
「いらないってさ。なら美鶴は僕と一緒に回ろうか」
湊に話を振られた輝は静かに首を振る。美鶴ちゃんに意見を求めると返事はすぐに返って来なかったが輝がそう代弁した。
「……」
美鶴ちゃんは時たま無言のまま俺の方をチラリと見てくる。一応、認識はされているらしい。ただやはり苦手意識でもあるのか、目が合いそうになるとすぐに逸らされてしまう。女の子は難しいな……
「着いたぞ。まずはどこ行く?」
バスから降りて、ショッピングモールに辿り着くと俺は3人に問いかけた。時刻は既に15時近くになろうかという頃。あまり時間があるという訳でもない。
「早く水着見に行こうぜ。せっかくだからカッケーのが欲しい」
そう言って真っ先に歩き出すのはやはり湊。俺たちもその後を追うようにしてショッピングモール内に入っていく。
──そこで、突然スマホの通知音が鳴った。
『晃 15:01 用事終わった。会いに行く・ω・』
「は?」
ポカンとする俺を見て輝が首を傾げる。スマホを確認すると晃から通知が来ていた。それだけなら問題はない。ただ俺が理解が追いつかなかったのは、あの微妙に気不味い出来事の後だというのに何事も無かったかのように連絡を寄越してきたことだ。しかも、来る事は確定しているような口振りで。
輝がスマホを見たまま固まっている俺の様子に気づいたらしい。
「どうかしましたか?」
「あ、いや……何でもない」
すぐに連絡を返す。今、家には婆ちゃんしかいない。来るなと言いたいところだが、断る理由が思いつかなかった。取り敢えず……
『辰巳 15:03 外出中だ』
『晃 15:04 どこ? 行く』
本当に来るつもりかよ。
『晃 15:04 把握(^ν^)ショッピングモール』
何で分かった! ……いや、多分晃の持つ異能である念写の能力を使ったんだろう。……怖い! 怖すぎる! 俺の個人的な情報が筒抜けなんだが? ……しかも晃の場合、来るなと言っても来そうだ。仕方ないので諦めて返信を打つ。
『辰巳 15:08 わかった。待ってる』
『晃 15:08 り』
り? 間違って送信したのか? ……とりあえず会ったら文句言ってやろう。……いや、そんなことしても意味ないんだろうな。昔の通りなら晃は自分が決めたら考えを曲げないから……
「……悪い。もしかしたら知り合いが会いに来るかもしれない」
「もしかして用事ありました? 僕らの方こそ付き合わせてしまって申し訳無いです……」
「いや、向こうが勝手にな……それは輝たちが全然気にすることじゃないんだよ。従兄弟なんだし、気なんて使わなくていいんだぞ」
「えっと、はい!」
全く、子どもが気にすることないのに……輝は中々にしっかりしているようだ。気なんて使わずにもう少し子どもらしくしてもいいと思うんだけどな。
□
「へえ……これが今のショッピングモール」
湊に続いて輝と美鶴ちゃんを連れて施設内に足を踏み入れる。昔はショッピングモールの名前も今とは違った名前だった。違う系列なんだろうなと思っていたが、どうやら会社の名前が変わったせいらしい。
以前の記憶はもはやあやふやだが、久しぶりの商業施設には流行り物のファッションアイテムや雑貨が所狭しと陳列されていた。
「辰巳さんはこういう所、あんまり来ないんですか?」
「ああ。家からも少し離れてるし、特に買わなければならないほどに必要なものがないからなぉ」
まぁ、実際には来なかった、ではなく来れなかった、なのだが。そんなこと敢えて言う必要などない。周りを物珍しそうにキョロキョロしながら答えると、輝はさして疑問にも思わなかったのか頷いた。
「水着コーナーあっちだ! 早く行こうぜ!」
湊が先陣を切って歩き出す。その後をついて行くと、すぐに目的地に辿り着いた。水着売り場には様々なデザインの水着が並んでいる。色とりどりで派手なものからシンプルなものまで種類も豊富だ。
「どれにしようかな~」
湊は楽しそうに水着を選び始める。輝はその横で湊の様子を見守るように佇んでいた。美鶴ちゃんは一歩離れた場所で水着の棚をボーっと眺めている様子だ。
「ねぇねぇ! コレどう? めっちゃ良くない!?」
湊が勢いよく水着を持って騒いでいる。見るとそれは派手な柄でカラフルなサーフパンツだった。
「少し派手だけど湊なら似合うんじゃないか?」
「マジ? じゃあこれにしよっかな~。あ、でもこれもよさそうだなー……」
「僕は普通のでいいかな」
輝は自分のサイズを探し出し手に取る。手に取ったのは落ち着いたシンプルなパンツだ。
「美鶴はどうする?」
「……よくわかんない」
輝が振り返って美鶴ちゃんに声を掛けるが、本人はふいと顔を反らした。……ふと思ったが、そもそも年頃の少女にとって兄たちと水着を買うというのは普通では有り得ない状況なのでは……?
それにただでさえ慣れない環境に来たばかりなのだ。普段であれば母親なりと選ぶのだろうが、ここには同性もいないしな……慣れない環境で同性がいない、というのはストレスになるのかもしれない。
「輝。美鶴ちゃんに少し時間をやったらどうだ?」
「え? どうしてですか?」
俺が提案すると輝は不思議そうに聞き返す。
「ほら……年頃の女の子としては、兄貴たちと混ざって選ぶより自分でゆっくり選びたいんじゃないかと思ってさ」
「あ……それはそうですね。ごめんね。気づかなくて」
「……別に私は気にしてないけど。でも、テルもそんなんじゃ女にモテないよ。だから彼女にフラれる」
「うっ……美鶴にはそんなこと関係ないだろっ」
「関係ないことない。次も同じ失敗を繰り返さないためのアドバイス」
そうして二人で漫才みたいなことをやっている。輝には彼女がいたのか。……まぁ中二なら恋愛の一つや二つしても全くおかしなことではないが。
それから──『もう少し見たいから。別行動したい』ということで、一旦別れることとなった。輝と湊は早々に決めたみたいだし、二人はゲーセンに行きたいみたいだ。美鶴ちゃんはその間に、もう少しゆっくり見て好きなものを選べばいいだろう。
3人ともスマホは持たされているようで互いに連絡は取れるらしいが、俺は念の為に目の届く範囲にいた方がいいだろう。店の外、離れた場所から美鶴ちゃんを視界から外さないように見守ることにした。
輝と湊の二人はゲーセンに行ってしまい、姿はすぐに見えなくなったが、兄弟仲が良くて微笑ましい限りだ。
(さて……)
俺はスマホを取り出して画面を見る。晃からのメッセージは特に来ていなかった。そろそろ近くまで来ていそうな気もするのだが……
そう思っていた矢先──
「《《たつみくんっ》》」
心臓がドキリと跳ねる。聞き覚えのある声が背後から聞こえて来た。しかし、自分の名前に君付けで呼ぶ存在など心当たりは無かった筈だった。
「あ、石動さん、こんにちは!」
振り返るとそこには神楽木さんと繭子ちゃんがいた。俺の事を呼んだのは神楽木さんだろう。だけど、まさかこんなところで遭遇するとは思いもしなかった。
──その神楽木さんに告白されたのは、つい今朝のことだった。それに対する明確な答えはまだ出せていない。そのことがあってから俺は彼女にどんな顔をして向き合えばいいのか分からなくなっていたが、意外にも神楽木さんの方はいつもと同じ様子だったように思う。
……いや、いつもと同じな訳がない。気不味さや不安を気取られないように、そう装っているのだろう。
「今朝は慌てて出て来てしまって、ごめんなさい。今度、御婆様にも御礼に伺わせてね」
「えっ、もうお泊りしちゃったんですかー? すごい! いつの間にか関係が進んでる!」
「繭子、そういう訳じゃ……」
その言から察するに繭子ちゃんは神楽木さんの想いについては以前から知っていたのだろう。そういえば繭子ちゃんには、神楽木さんのような女性はどうかだとか聞かれたことがあった。あれはそういうことだったのか……
「何ももてなせなくてごめん。婆ちゃんもまた来いって言ってたよ。今度は明るい内に」
「明るい内に!? それって……」
「繭子は少し黙ってなさい」
「は、はい……」
神楽木さんに窘められた繭子ちゃんはシュンと項垂れた。俺はあまり年頃の少女と関わることがないからわからないけど、この年代の女の子ってのは……彼女は明らかに好奇心旺盛な目をしていた。
「それにしてもここで会うなんて偶然だね。今日はお買い物?」
神楽木さんが話題を変えようとそう訪ねてきた。
「ああ……従弟妹がこっちに到着してさ。それの付き添い。神楽木さんは?」
「今日は早めに仕事切り上げて、夕飯の買い出し。あの、《《辰巳くん》》……後で少し時間ある……?」
「そ、それは大丈夫だけど……」
神楽木さんに名前で呼ばれると、妙な気恥ずかしさを覚える。もし分かっていてやってるなら神楽木さんは小悪魔だな……
「よかった。それじゃあ後で連絡するから」
彼女は安堵したように微笑む。その隣で繭子ちゃんは……ニヨニヨと変な笑みを浮かべていた。
「──あっ! 見つけた! タツ兄〜っ!」
その瞬間、背後から聞き慣れた声が響く。サーッと顔から血の気が引いた。弾かれたように振り向くとそこにいたのは──こちら向けて手を振っている晃かいた。
□
「タイミングよぉ……」
何だ。何でだ。俺は何か悪いことでもしたってのか? まさか業が深いだとか、日頃の行いが悪いからだとでも言うのだろうか……と、心の中で念じる。
間が悪すぎる……今朝も二人が顔を合わせた時には冷や汗をかいたのに。顔を合わせた時間は短かったが二人とも互いに一切口を利かず、いないものとして扱っていたのだ。その癖、雰囲気の裏には苛立ちが隠されているような気がして……その場から逃げたくなった感覚を未だに覚えている。
──当の晃はスタスタと近づいてきては俺に腕を絡めてきた。そのせいで胸の膨らみが肘に当たる。
「──タツ兄。お待たせ」
晃の腕に捕まったまま硬直する。
俺は二人の美女たちの間に立たされ、窒息しそうだった。結衣は晃に温度の感じられない目を向けているし、晃はその視線を挑発するように小さく鼻で笑った。繭子ちゃんは状況を理解したのか目を輝かせていた……
「……早かったな」
「タツ兄に早く会いたくて車とばしてきた」
そう答えながら、晃はさらに俺に身体を密着させてくる。柔らかい感触が肘に伝わってきて、意識がそちらに向かいそうになった。
「そういえば辰巳くん──」
その瞬間──唐突に反対側の腕を引かれた。神楽木さんが俺の腕を取ったせいだった。そして新たに感じる柔らかな感触。言葉に詰まる。二人に左右から掴まれ、身動きが取れなくなった。何だこれは。ただただ冷や汗が止まらない……
「──スリードで誘った花火大会のことなんだけど、覚えてる?」
「お、覚えて、ます」
「早く返事聞かせてね」
「──は?」
神楽木さんの問いに答えると、晃が低い声を出した。まずい。空気が最悪だ。
「タツ兄は私と行くよね?」
「えっ……?」
「辰巳くん──」
晃がそう言った瞬間、神楽木さんが俺の腕をギュッと強く抱き締めた。胸がニュウと潰れて形が変わる感触がありありと伝わってくる。あっ、あっ……柔らかくて仄かな体温が……というか段々と痛いほどになってくる。
「──私を傷物にしたお詫びに何でもするって言ってくれたよね。まだ、傷治ってないの。花火大会、一緒に行きたいな」
「あ゛?」
結衣の言葉に晃は威嚇するように低く唸り、そして俺は完全に固まってしまった。傷物って……確かに怪我はさせたけども! そんな誤解を招く言い方は……晃が俺を見ている! え、怖い!
「タツ兄は私と行きたいと思ってる」
「有り得ない。辰巳くんは約束を破らないもの」
「なんだお前……邪魔すんな、殺すぞ」
「そんなに辰巳くんに約束を破らせたいのね。それって、辰巳くんを駄目にしてるの気づいてる? それなのに自分が彼に相応しいとでも?」
神楽木さんに負けじと俺の腕へとより密着する。腕全体を抱き抱えるような形。晃の身体の感触と香水の良い香りが……。……って! おい! やめろ! こんな公衆の面前で!
「二人とも……! ちょっ……こんなところで、やめ……」
必死に仲裁しようとするのだが上手く言葉が出てこない。通り過ぎる他の客が俺達を見てコソコソ話してる。というか従弟妹に見られたら何て言い訳すれば……
「……」
「……」
あぁっ! 遅かった! ゲーセンから戻って来た輝と湊が俺を見て愕然としている。ただでさえ警戒心持たれてるのに完全にヤバい奴に認定されちゃうじゃん! しかも、こんな公衆の面前で男女がベタベタして……注目されて羞恥心で爆発しそうだ。
「辰巳さん……何か凄いことになってるけど……」
「なぁ、アンタ。あの女の人らと知り合い? どういう状況、これ」
「え? えっ、と。清楚系の方は私の身内なんですけど、ギャルの人はちょっと知りません。アレですよ。石動さんという男をかけた、血で血を洗う女同士の恋愛バトル……! 頑張れ、先生……!」
「……ふぅん。なぁ、アンタ変わってるって言われない?」
「む、失礼な男子ですね」
繭子ちゃんが輝と湊に何かを吹き込んでいた。二人は繭子ちゃんの言葉に頷いているように見える。
「……でも、まぁ結構やるじゃん」
「そりゃ、あれだけガタイ良かったらモテるよね」
そういう訳じゃないんだ……何となく気づいてたが、繭子ちゃんって結構厄介な性格してるよな……
「──チッ……来い、綱彦……白蛛……」
「そっちがその気なら……先の雪辱は果たさせて貰います──八幡原御霊 鏖鎧」
ちょっ……こんなとこで式神呼び出すつもり!? てか、神楽木さんまでっ! 二人が宣言し、晃の影からは大蜘蛛の脚の一部が見え、一方、神楽木さんの影からはドロドロとした気配が湧き上がって来ようとしていた。
「──っ……な、なにあれ……」
輝と湊には見えていないようだが、いつの間にか兄たちに合流していた美鶴ちゃんはやはり見えているのか顔を青くしている。異常を感じているのか微かに震え恐怖しているようで輝の服を掴んでいた。
「──いい加減にしろ」
流石に腹が立ってきた。この二人、勝手過ぎじゃないか? 俺が何も言わないと思って、明らかに調子に乗ってるだろ。二人の腕を強引に剥がし視線で非難すると、晃と神楽木さんは驚いたように目を開いて動揺していた。
「た、タツ兄っ、でもっ」
「言い訳は聞かない。周りを見ろ。小さい子が怖がってんだろうが」
声に威圧感が籠もっていたのか、二人が同時にビクリと反応する。そして恐る恐るといった感じで俺の方を向いた。
「やめろ。いいな?」
「う、うん……」
「《《結衣》》もだ。連絡は後でする」
「っ! はい……熱くなってしまって、ごめんなさい。連絡待ってるね、辰巳くん」
名前を呼ぶと結衣は恍惚として目を潤ませたあと、嬉しそうに答えた。少し強めに言ったことで、式神の現出は巻き戻るようにして治まっていった。
「……はぁ」
何とか二人を鎮めたところで、俺は深く息を吐く。一先ず、人目のある中での争い事は避けられた。……とはいえ精神的にはもう限界が近い。主に羞恥心で。あんな痴話喧嘩みたいな現場を晒してしまって……俺のメンタルはズタボロだった。
──結衣と繭子ちゃんとはここで別れたが、どうやら晃はこのまま付いてくるらしい。
「あーっと。……変な所見せてしまってゴメンな」
輝と湊に謝罪する。二人とも若干気まずそうに視線を反らした。
「いえ。別にいいんですけど……二人とも……えっと、辰巳さんの彼女さんですか?」
「は?」
「彼女は私だけ。向こうはポッと出のストーカー。私達は昔から付き合ってた。すごく迷惑してる」
「待て待て! 全部違う。嘘を教えるな。記憶も捏造するな……信じるなよ、どっちも彼女じゃない」
「あっハイ……」
何やら晃が自信満々な態度で嘘をつき始めた。頭痛がしてきたのを堪えながら否定する。二人とも胡乱げな表情を浮かべていたが無理もない。俺だって状況を理解しきれていないんだから……
「えー……っと。じゃあ、その人は?」
「幼馴染。でもその内、恋人にクラスチェンジする」
「……」
「あ、否定しない。やった」
もう疲れただけだっての。
「……お姉さん。さっきの、何?」
「美鶴?」
美鶴ちゃんが晃に向かって質問を投げかけた。俺には話し掛けてもこないのに……輝と湊も美鶴の行動に少し驚いている。二人からしたら、らしくない行動なのかもしれない。
晃へと質問したのは、美鶴ちゃんには輝と湊には見えなかった、先の光景が見えていたからだろう。
「さっきのって?」
「お姉さんが呼んだ何かの脚。魔物? モンスター? 私も魔法使いになりたい」
美鶴ちゃんの様子をよく見れば、興奮したように目を輝かせていた。……これ、不味くないか?
「……おい、晃」
念の為、小声で忠告する。式神は一応は人に従っているがその本質は妖や精霊などの人ならざる者たち。人の道理は通じず、決して安全な存在ではない。霊感があるとはいえ、巻き込んでいい理由にはならない。
「……何かの見間違い。私は魔法使いじゃないよ」
「さっきお姉さんが名前を呼んだの聞いたし、確かに何か見えた」
「気の所為じゃないかな」
晃は表情を変えず、あっけらかんとして答える。一方で、美鶴ちゃんはその答えが不服らしく……晃の隣にいた俺を睨んだ。なんでや。……あぁ、俺が邪魔してると思われてるのか……
「さっきお姉さんに口止めした」
「……いや。何の話だ?」
「……」
「絶対に何か隠してる」
──美鶴ちゃんの視線が痛い。霊感があるとは聞いたが、美鶴ちゃんは確信を持ったように断言する。輝と湊が戸惑った表情を浮かべたが、まさか本当のことを話す訳にもいかない。話せば式神を《《持ちたい》》、《《欲しい》》と言い出すに決まっている。
「気の所為だ」
「気の所為だね」
「……むぅ。私、諦めないから」
俺と晃の言葉に納得できなかったようで……頬を膨らませて不満を示した。それでも引き下がらないあたり、相当興味があるのだろう。
「ほ、ほら、美鶴。水着買わないといけないんじゃないのか? もう決めたのか?」
「……そうだった。お姉さん来て」
「私?」
「……」
微妙になった空気を割るようにして声をかけたのは輝だった。はた、と思い出したように美鶴ちゃんは晃の腕を掴むとグイグイと引っ張り、水着コーナーに戻っていく。晃が俺の方を困惑したような目でチラリと見たが……どうしようもない。
「何だったんだろ……」
「さぁ……それより美鶴が初対面の人とあそこまで関わろうとするの珍しいな。もしかして、気に入ったのかな」
遠目、美鶴ちゃんの横顔は晃に対して興味津々といった感じだ。受け答えする晃も困惑しつつも満更でもない様子に見える。
元々、昔から年下の子の面倒見はいい方だったし。美鶴ちゃんも……まぁ、ウチには若い同性がいなかったからな。晃くらいの方が美鶴ちゃんも話しやすいというのはあるのかもしれない。
「美鶴があんな風に初対面の人に話しかけるのも初めて見たかも。もしかしたら仲良くなれるかもしれない」
「……あぁ、確かに。だとしたら嬉しいんだけど」
そうして二人の背中を見送っていると、湊が話しかけてきた。
「なぁなぁ、あの美鶴が連れてった女の人って本当に彼女じゃないの?」
「……彼女じゃなくて幼馴染だ」
「今のとこはってこと? ……いいなぁ。俺も一度でいいから取り合いとかされてみてー」
「……俺だってあんなの初めてだよ。実際されてみると冷や汗が止まらん」
「えぇーそうなの? そこから言い包めるのがモテる男なんじゃないの? 羨ましいぃ〜」
訳のわからん論理で湊が羨望の眼差しを向けてくる。しかし、俺としてはもう勘弁してほしいばかりだ。
──なんともなしにチラリと店の方を見る。美鶴ちゃんは晃を相談相手に真剣に水着を選んでいるようだった。
「……もう少しかかりそうだ。ジュースでも飲んで待ってるか?」
「おー。ゴチです!」
「いただきます」
それから俺たちは近くの自販機でジュースを買って休憩することにしたのだった。




