第32話 辰巳の懊悩と従兄妹 8/9(月)
「いただきます」
「……いただきます」
石動家の朝食は決まって七時半。茶の間の中央に据えられた古い座卓には二人分の朝食が並べられていた。婆ちゃんと俺の分。少し遅めなのは畑の仕事を一通り終えてからのことであるからだ。
少し前までは來良もいて農作業を手伝っていたのだが、弟と爺さんの朝食を準備する為にと婆ちゃんの手伝いを終えると早々に帰って行った。
「いやに覇気のない顔だね。朝っぱらから気が滅入るったらない……」
「……えっ?」
「耳も聞こえてないのか……こりゃ重症だね」
そんなにボーッとしていただろうか。いや、していたか……そういえば先ほどまでいた來良などは俺を完全に役立たず扱いをしてくれていたほどだったっけ。
婆ちゃんも呆れ顔だ。いつもであれば掻き込むように食べてお替りをするくらいなのに、あまり食欲がない。というか……胸が一杯だ。何となく食事も喉が通らない。
「あっ……えっと」
「なんだい?」
「いただきます……」
「それはもう聞いた」
ハァ……と盛大な溜め息。婆ちゃんがやれやれといった様子で肩を竦めた。
「あのさ……」
「やめやめ! 何が悲しくて孫の恋路の話を聞かなきゃならん……そういうのは他所でやんな。來良ちゃんなら話くらい聞いてくれるだろうさ」
「そんなんじゃ……」
「何でもいいよ。はー、男の癖にウジウジと気持ち悪い。鬱陶しいったらありゃしない」
婆ちゃんは話を聞く気もないらしい。顔を顰め、さっさ朝食を済ませると席を立ってしまった。
そんな婆ちゃんとの会話にあっても……頭の中では、昨夜の晃との会話、そして今朝の結衣との会話が何度も繰り返される。
(ふたりとも……おれのことが、すき?)
あの言葉を思い出す度に胸が締め付けられるような感覚に襲われる。
『──タツ兄のこと、昔から、ずっと好きだった。好きだったからずっと待ってた。タツ兄にまた会えるって信じてたから』
晃が自身のことを想う気持ち。それはとても強いもので……そして晃の瞳に映っていたのはどこまでも純粋な感情。それに対して……俺には晃を傷つけたくないという気持ちがあった。
『──私だって……私だって石動くんのこと、好きだよ』
神楽木さんの声が頭の中で響く。障子戸で遮られ、姿こそ見ていないがその声には切実さが込められていたように思う。その言葉はまるで心に深く突き刺さるようだった。
「はあぁぁあぁぁぁ……」
(だけど、俺は……)
長い溜め息を吐く。悩んでいる理由──それは二人の気持ちに対して俺はどう応えればいいのか分からないでいたからだ。
どちらを選ぼうかなどと、贅沢な悩みを持っている訳ではない。むしろどちらも選べないから悩んでいる。──俺はどちらとも恋人関係にはなれない。なるべきではないのだから。
……いや、応えられないことを悩んでいるということは、断るしかないことを惜しく思っているってことなんだろうな。二人とも俺には勿体無いほどの美人だ。好意を無碍にして、二人に嫌われたくないという思いが俺の中にはある。……何て自分勝手で男らしく無い奴だ。
──盆前とはいえ今日は月曜日で二人には仕事があった。石動家を後にした時も、二人は何でもないような顔をしていたが……俺はどのような顔をして見送ればいいのか分からなかった。
「──あぁ、そうだ。言いそびれてたが、今日竜臣のとこの子が新幹線で来るからね。後で迎えに行っておくれ」
「えっ?」
「毎年この時期になると、夏休みを使って子どもだけで遊びに来るんだよ」
俺がそう悶々と悩んでいると……台所の方から婆ちゃんが不意に思い出したように声を上げた。竜臣叔父さん──父さんの弟に当たる人物であり、都会の方で弁護士をしているという話だった。つい先日も仕事で忙しい中、俺の戸籍が抹消されている件で話を聞きにきてくれたばかりだった。
「竜臣叔父さん達は来ないの?」
「子どもたちだけ前乗りさ。毎年のことだが、お盆前の時期は仕事で忙しいからって頼まれてるんだよ」
「そうなんだ……でも急すぎじゃない?」
「毎年のことだと言っただろ。アンタに言い忘れてただけさね」
「……えぇー」
「それじゃあ、迎え頼んだよ。あぁ、それと……」
婆ちゃんは一旦口を閉ざし、少し考える素振りを見せた後、再び口を開いた。
「──竜臣が、ウチの怪獣達の面倒をよろしく、だってさ」
台所の入口にある戸口から顔を出した婆ちゃんがニヤリと言う。唐突に割り振られた役目に、俺はただただ顔を引き攣らせることしかなかった。
□
昼過ぎになると、俺は駅へと向かった。
電車の到着時間を確認して改札口近くで待機する。今日、こちらに来るのは竜臣叔父さんの子の輝、湊、美鶴ちゃんの三兄妹だ。普段は東京の方に住んでおり、夏休みを利用してやってくるとのことだった。
上の輝は14歳、湊は13歳でまだ小さい頃に何度か会ったことはあったが当時はまだ赤ん坊だったし、話すのは初めてになる。美鶴ちゃんに至っては俺が失踪していたこともあり、初めて会う。ちなみに8歳らしい。
正直、本当に俺に面倒見るのを任せていいのかと思ったものの、世話になっている竜臣叔父さんの子たちだ。面倒見れませんじゃ情けなさ過ぎる。
ただ、今の子どもの流行り物とか常識とかほぼ全く知らないんだが……本当に大丈夫なんだろうか。昔の子どもと今の子どもは違うと婆ちゃんも言ってたし、やっぱり不安は残る。今の子どもって何して遊んでるんだろう? やっぱりゲームとかなんだろうか?
「……あれか?」
電車が到着するとガラス越しに荷物を持った三人組の子どもが降りてくるのが見える。服装はみんな夏らしく動きやすそうな格好だが、都会の子というのかかなり身奇麗な印象がある。雰囲気からして垢抜けている、洗練されているとでも言うのだろうか?
160センチほどで黒髪短髪の少年が一人。それよりも若干背の高い茶髪で活発そうな少年が一人。そして一際幼い女の子が黒髪の少年に手を引かれている。──彼等が竜臣叔父さんのところの三兄妹なのかもしれない。なんとなく竜臣叔父さんの血の面影が見える。
「──今年は友だちと遊びに行きたいって言ったのにさぁ、パパ全然話聞いてくれないだもん」
「友だちって言ったって、どうせお盆には墓参りで帰省だろ? その友達だってお前と遊べる訳無いだろ。向こうが帰省したらお前どうすんだよ。家で一人ぼっちだぞ」
「そんなの分かんないじゃん。あぁーあ……せっかく計画立ててたのになぁ~」
「そう簡単に行く訳ないって……それに美鶴だって久しぶりのお婆ちゃん家を楽しみにして──ってか外暑ぃなぁ! クーラーの効いた部屋に早く行きたいよ……」
「……」
何処と無く不満気な明るい茶髪の少年に黒髪の少年が答える。最後の少女はどこか人形のような無表情を浮かべているものの、可愛らしい容姿をしていた。
「…………」
暫し思案しながら様子を伺っていると、その少女と目が合った気がした。 そのままじっと見つめ合う形になってしまい少し慌てながらも軽く手を挙げる──その瞬間に彼女は黒髪の少年の後ろにサッと隠れてしまった。
(あ……失敗した。これは……怖がられたかもしれない)
気を取り直して改札を通って此方に出て来たところで声をかけることにした。
「えーっと……君たちが輝と湊に美鶴ちゃんだよな?」
「わっ」
「そ、そうですけど」
「えっ、こわっ……アンタ誰ですか……?」
「湊! えぇと……あの、もしかしてですけど、辰巳さんですか? 従兄の」
警戒心を露にする茶髪の少年──湊に対し、やはり長男である輝は比較的落ち着いているように見えた。
「あぁ……そうだよ。やっぱり君たちは竜臣叔父さんとこの?」
「はい、そうです」
「……兄ちゃん、マジで? めっちゃ強面なんだけど。反社かと思った……てか、この人ママが気をつけろって言ってた人じゃん」
「ちょっ!」
湊のストレートな物言いに輝が小声で嗜める。俺としても、別にそこまで怒りを覚えることは無いので苦笑するだけに留める。確かに顔つきも体格もあまり人に優しくはないかもしれないので否定はできない。
ただ、気をつけろってのはなぁ……流石に俺も傷つくぞ? まぁ実際、周りに迷惑かけたのは事実だけども。全く、俺が悪い訳じゃないけどな!
それに、この三人は俺が失踪してた過去があることまでは知らないのだろう。叔母さんが事実をボカしつつ、あまり悪い影響を受けないように気をつけろと言ったのかもしれなかった。
「えーっと、まぁそう構えないでくれ。一応、輝と湊には本当に小さい時に会った時があるんだけど、覚えてる訳無いよなぁ。あぁ、もしかしたら聞いてるかもしれないけど竜臣叔父さんから君たちの世話を任されたんだ」
少し困った表情を浮かべながら、改めて自己紹介するように微笑みかける。
「俺も今は婆ちゃんの家で部屋を間借りしてるから、少しの間だけど一緒に過ごすことになると思う。だから、よろしくな」
「あ、はい……こちらこそ、よろしくお願いします。すみません、湊が失礼なこと言っちゃって」
「結果的に皆に迷惑かけたのは事実だからなぁ。叔母さんが君たちに悪影響が及ばないか心配するのも分かるよ」
本当に笑うしかない。乾いた笑みだが。過去のことをどれだけ聞いているかは分からないが俺が怒らなかったことで輝の空気が少し和らいだ。
「あー……とりあえず行こうか。家で婆ちゃんも待ってるし」
話を切り替え、俺は三人を促すように歩き始める。子どもたちは少し緊張した様子ながらも素直についてきた。輝は真面目な性格らしく礼儀正しい。湊は自由奔放なタイプに見えるが実は警戒心が強い。そして美鶴ちゃんは静かだが観察するような視線をずっと送ってきている。
(これまた個性豊かな子たちだな)
内心で少し苦笑しながらも、これから数日間共に過ごす家族の一員となる、子どもたちとの関係構築を心に誓うのだった。
□
駅からバスに乗り、観光名所でもある慈願寺近くの停留所で降りる。始めは遠慮されたが大きな手荷物は俺が代わりに持ってあげた。何が入っているのか知らないが中々に重く、輝がバスに乗せるのにも大変そうにしていたからだ。
都会に比べれば田舎としか言いようのない景色を眺めること十分ほど、子どもたちにはバスの料金と降り場は予め教えられてたらしく俺が何かを言う前に率先して動いてくれた。都会の子ってのは、しっかりしてるなぁ。いや、竜臣叔父さんの子どもだからか。
「──ただいま」
「お邪魔しまーす」
「……しまーっす」
「……します」
そこから更に歩いて行くと見慣れた婆ちゃんの家が見えてくる。石動家の門を潜り玄関を開けると、子どもたちは各々挨拶をしながら家に入った。玄関口で中に声をかけると、婆ちゃんが待ちかねていたように現れ笑顔で出迎えた。
「いらっしゃい。待ってたよ、しばらく見ない内に皆大きくなったねぇ」
「……おばあちゃん。久しぶり」
「美鶴も久しぶりだねぇ。ゆっくりしておいきよ」
美鶴が婆ちゃんに手を握られると恥ずかしそうにしながらも大人しく受け入れる。その光景を見ていると何だか微笑ましく思った。
「……」
そんな中、湊は興味津々といった感じで家の奥を見つめ、輝はキョロキョロと周囲を見回しながらも落ち着かない様子だ。三人とも家の中に入るなり、それぞれに違う反応を見せている。
「ほら、三人とも早く上がってきなさい。外は暑かったろう。冷たい麦茶でも用意してやろうね」
「婆ちゃん、ありがとう!」
「ありがとうございます。お世話になります」
「ありがと……」
輝と湊の兄弟は素直にお礼を言う。美鶴ちゃんは言葉少なにペコリと頭を下げた。それから靴を脱いで揃えると家に上がっていく。位の一番に湊が、それから輝が入って行くが、その後ろに美鶴が続いていった。見ていて思ったが、どうやら美鶴ちゃんは少し人見知り気味のようだ。
(それにしても賑やかになりそうだな)
輝達三人の様子に少しだけ頬を緩めた。俺としてもこういう騒がしい雰囲気というのは嫌いじゃない。久しぶりの従弟妹達との交流、まだ不安はあるが若い子と関われるのが嬉しいと感じるのはやはり年を取ったからだろうか?
(って、まだまだ二十代だぞ……老けてねえ!)
──それから、俺も居間に移動し、婆ちゃんの淹れた麦茶を飲みながら一段落を付けていた。俺が帰ってきてから家に来客はそこそこあったが、泊まり掛けというのは初なので何だか新鮮だ。
とはいえ、婆ちゃんは嬉しそうだし輝たちも楽しそうだ。俺自身もこんな風に団欒するのも悪くないと感じた。……まあ、悩みのタネから目を背けているだけなのかもしれないが。
「さてと……」
婆ちゃんが三人に順に視線を向け言った。
「輝と湊は確か中学ニ年と一年だったよね? 夏休みとはいえ学生が本分だ。ウチに来たからには暇さえあればゲームばかりしてたらダメだ。宿題は朝にする。ダラダラしない。特に湊。いいね?」
「わかってるよ。言われなくてもちゃんとやるから」
「ホントかー? パパ、ママに言われたってやらない癖に」
「う、うるさいなぁ……宿題くらいするし! 言われるとやる気無くなるんだよ!」
「……はい、また言い訳ー。自分がやらないのパパ、ママのせいにしてる」
「はぁ!? 人のせいになんてしてねーよ!」
輝に指摘され、湊はぶすっとした表情で顔を背けた。まあ反抗期真っ只中なら当然の反応か。しかし婆ちゃんはニヤリと笑って追い討ちをかける。
「……喧嘩もほどほどにおし。それと折角、都会を出て田舎にまで来たんだ。ここら辺を色々見て回るなり、友達を作って遊んだって良い。勿論、危険なことは禁止だが、外に出て遊ぶこと。分かったかい?」
「えぇ? でも、外すごく暑いよ?」
「そうそう。オレ、汗かくのとか苦手だし。それにこんな田舎で友だち作っても仕方ないし」
「……」
その言葉を聞いて美鶴ちゃんが湊に視線を向けた。
「……湊は貧弱。汗をかくのが苦手だから外に出ないなんて、何かかっこ悪い。それに運動不足。いつか太る。デブになる。メタボ。臭い。早死にする」
「ちょ、ちょっと美鶴……」
「は、はぁ!? お前だっていつもクーラー効いた部屋で本読んでることの方が多いじゃねーか!」
「快適なのは好き。でも、私は汗かかないし、運動も得意。湊とは違う」
「嘘つけ! この前だって運動会でビリだったじゃねーか!」
「……ビリじゃない。5着」
「6人中、5位だろーが!」
「それはリレーの話。他の人が遅すぎただけ。徒競走は1番。何見てたの。どうせ女の子ばっかり見てたんでしょ。キモ。私は湊より運動神経もいい」
「おっ、おまっ……!」
何故か喧嘩が始まりかけていた。……何だろう。実は兄妹であんまり仲が良くないのか? 輝が慌てて止めに入ろうとあたふたしている。というか、美鶴ちゃん人見知りするかと思ったら実はかなり気が強い……? それとも単に湊相手だと遠慮がないだけなのか。二人のやりとりに呆れつつも、仲裁することにした。
「まあまあ、二人とも落ち着け」
「ふん……」
「……」
湊はむくれたままそっぽを向き、美鶴ちゃんは何も言わずに冷静な顔で麦茶を飲んでいる。輝はホッとした様子で溜息をついた。てか、美鶴ちゃんは俺のこと無視ですか……苦笑いするしかない。
まぁ良いか。これから打ち解けていけば良いのだし。
「それじゃあ、三人の事は辰巳に任せるからね。ウチの手伝いは無理にしなくても良い。ただし、あんまり羽目を外しすぎないように」
「了解。とりあえず、どこか行きたいとか希望はあるか? 可能な限り叶えたいとは思うけど」
婆ちゃんはニヤニヤしながら俺の肩を叩いた。それから輝たちの方を見て尋ねる。三人はそれぞれ考えるような仕草を見せた。
「そうですね……僕はここに来たのは久しぶりだし、色んなところを見て回りたいかなって。パパも色んな物見て来いって言ってましたし」
「そうか。盆には毎年来てるんだよな? もう少ししたらお寺さんの縁日もあるし、盆踊り大会、花火大会の催しもある。盆入りしたら何だかんだ忙しくなりそうだ。何処かに出掛けるならそれまでにだろうな」
「そうですか、楽しみです!」
「湊は?」
「……うーん。よくわかんねーや。川とかは遊べるんでしょ?」
「盆の時期だからなぁ。この時期は川はあんまり泳ぐなって言われてるけど。どうなの? 婆ちゃん」
「霊に足を引っ張られるって奴だね。まぁ、昔は夏の盛りなんかは何だかんだ遊んでたよ。叱られはしたし、昔の子どもは皆河童みたいに泳げたからってのもあるが。最近じゃゲリラ豪雨とかもあるし、山の方で雨が降れば急に水位が上がることもある。危ないから近づかない方が無難だね」
湊が質問すると婆ちゃんは難しそうな顔で釘を差した。婆ちゃんも思いっきり遊ばせたいんだろうが、こればっかりは身の危険もあるからな……
「じゃあ、プールは? それならいいでしょ。確か大きいとこあるんだよね? 駅にスパリゾートとかって広告があったけど」
プ、プールかぁ……人が多い所は俺はあまり得意じゃないんだが……特に子どもが多い所。何故、得意じゃないかって? 何でか怖がられるから!
「あー……美鶴ちゃんはプールがいい?」
「……」
そう問うも、チラリとも目が合わない。そのまま輝の耳にコソコソと何事かを呟いた。
「どっちでもいいそうです」
「あー。でも水着持ってきてないや」
「そのくらいの小遣いは出してやるさ。辰巳も付き添ってあげな。後で一緒に行っておいで」
「マジ? やった! ありがとうございます」
湊が笑顔で喜ぶと、婆ちゃんも頷いた。輝も礼を述べる。美鶴ちゃんだけが無言のまま麦茶を飲み干したのだった
□
「……あの」
家で一休みし、買い物に行こうかという所で輝に声を掛けられた。周囲には湊も美鶴ちゃんもおらず一人のようだ。輝は口を開き、しかし、そのまま口を噤む。何処と無く言い辛そうな顔をしているが、何かあるのだろうか?
「どうした?」
「あの……その、美鶴のことなんですが……さっきは失礼な態度をとってすみませんでした。いつもはあそこまでではないんですが……」
輝は少し躊躇いながらも話し始めた。それによると美鶴は学校での成績は非常に優秀だが、少し問題児的な部分があるらしく、それが原因であまり友達がいないのだという。
「気にしてないよ。流石に全く目が合わないのには驚いたが。それに結構話すんだな、辛辣だったけど」
「たまに辛辣なのは慣れれば大したことじゃ無いです。その……美鶴って、少し変わってるっていうか。人と違うところがあって。あっ……でも、悪い子じゃないんですよ!」
「それは分かるよ。最初は声も聞けなくて大人しい子だなぁと思ってたけど」
「あはは、家では全然大人しくなんかないですよ」
「そうか、慣れない場所だから緊張もしてるのかもな。それで、その問題ってのは? あ、聞いちゃ不味かったか」
「その……信じて貰えないかもしれませんけど美鶴には霊感があるらしくて……多分ここにいる間にも何か変な事をするかもしれないですが、気にしないであげて欲しいんです」
「霊感? 美鶴ちゃんに?」
それを聞いて驚いた。確かに美鶴ちゃんは普通の人とは違う雰囲気を持っていると何となく思っていたが……そういうことだったのか。他の霊能力者とかだったら気づけたんだろうが、俺には分からなかった。……これは共感能力が低いってことなんだろうなぁ。神楽木さんや晃なら分かったんだろうか。
「はい。僕と湊は全然見えないんですけどね。昔から不思議な子で……そのせいかクラスにもあんまり馴染めなくて」
「そうなのか……」
「はい……たまに友達だって言う見えない存在と話をしてるみたいなんです。それが周囲には変に映るみたいで……」
聞けばその友達は美鶴ちゃんがもっと幼い頃から側にいたらしい。竜臣叔父さん達家族は幼少期特有のイマジナリーフレンドだと判断していたらしいが、美鶴ちゃんがある程度成長しても落ち着く事は無かったことで不審に思ったと。
「それで、お婆ちゃんの伝手でお寺の御坊さんに相談したら霊感があるみたいだって分かったんです」
なるほどなぁ。イマジナリーフレンドだと思ってたら本当に幽霊だったかもしれないと。
「だから、その……否定しないであげて欲しいんです」
「否定なんかしないさ。それよりも、そんな大事なことをよく教えてくれたな」
「辰巳さんなら……その、大丈夫だと思ったので。お婆ちゃんからも信頼されているみたいですし」
「そうか。ありがとうな。輝も流石、兄貴って顔してて頼もしいな」
「あはは、いえ、僕はそんな……」
そう言って、輝は笑う。その笑顔は歳相応の無邪気さに溢れているように思えた。
この件に関しては俺はあまり首を突っ込まない方がいいのかもしれない。実は俺も見えるなんて言っても誂われてると思われるだろうし、余計な波風を立てる必要もないからな。
美鶴ちゃんが何か悩んでいると分かったら、その時は何か考えることにしよう。




