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第1章 目覚め
――白い天井。
ステフが最初に見たのは、それだった。
ぼんやりと視界が明るくなり、機械の静かな音が耳に届いてくる。
目を動かすと、無機質な白い壁、金属のパイプ、そして点滴。
自分の腕に巻かれたリストバンドには、こう書かれていた。
《ステフ》
それが自分の名前なのか。
見覚えは……ない。
「……ここは?」
かすれた声が、乾いた喉から漏れる。
天井を見上げたまま、ステフは自分の記憶をたぐり寄せようとする――が、何もない。
名前以外のすべてが、霧の中だった。
どうしてここにいるのか、誰といたのか、自分が何者だったのか。
何一つ思い出せない。
不安が、静かに、だが確実に胸を満たしていく。
次の瞬間、ドアが音もなく開いた。
入ってきたのは、白衣の医師と、二人の男。
一人は黒髪でスーツ姿。もう一人は少し年上で、どこか柔らかい笑顔を浮かべていた。
「……ステフさんですね?」
スーツの男が低い声で尋ねた。
「警察の者です。私はノア刑事、こちらはスティーブン刑事。
あなたに、確認したいことがあります。」
警察――?
ステフの心に、ざわりと冷たい感覚が走った。