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我が儘  作者: 夜空の星
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第9話 授業 其の二

「……こんなものか……」



球が浮遊し続け、高速で移動を繰り返す。

枢機がそう言うと、今まで存在した球は全て霧散する。

球が消えると、目を開けて枢機は立ち上がる。



「……」



そのまま枢機は空を眺めていると、生徒達が入ってくる。

左胸のところに名前の刺繡が入った、動きやすい真っ白な服で身を包んでいる。白色なのは熱を吸収し難いようにするためであろう。



「はい皆集合!並んで!」



生徒達が入ってくると同時に明日香もやってきた。

明日香は生徒と同様に真っ白の服を着ているが、左胸のところには名前と共に異相学院の紋章が描かれている。



召集がかかった生徒たちは言われた通り集まって列になり並ぶ。

男女別の二列横隊で。



「さて、じゃあそれぞれペアになって。核変者は核変者同士で、非核変者は非核変者同士で。後はいつものように鍛錬して、私は各ペアをまわって改善点を順次伝えていくから。開始!」



明日香がパン!と手を叩くと、生徒達は思い思いの人とペアを作っていく。

ペアができると、その生徒は練習場の隣に設置してある小屋の中へ入っていく。



出てきた生徒の手には、木刀や長い木の棒、木のナイフが握られていた。



「私は教官として生徒の指導に当たるので、あなたはここで見学してください」



「……いいだろう」



明日香は枢機の元へ行くと見学をお願いする。

枢機はその場で胡坐をかいて見学を始める。



各ペアで大きく距離をとり、準備が整った生徒から鍛錬を始めた。



「はっ!」



「ふっ!……あぶね!」



あるペアは、木刀や木のナイフを構え、相手に向けて振り下ろす。

斬り、突き、流し、模擬戦の要領で戦闘を続ける。



「氷矢!」



「炎壁!」



あるペアでは、両手を前にかざし、そこに氷の矢を出現させると、それをペアの生徒に向けて飛ばす。

ペアの生徒は両手を前にかざし、炎の壁を出現させる。

飛ぶ氷の矢は炎の壁に当たり、溶けて水になる。

それを何度も繰り返している。



周囲でも同様の光景が見られ、木のナイフや木刀、魔法を使っての鍛錬が行われている。



「……」



枢機は黙って見学しているが、ときたま欠伸をしているところを見ると……。

だが、そんな枢機がチラチラと見ているペアがある。



「……巴、ごめん。いつも」



「いいってことよ!親友の源巴様に任せろって!」



弥園は、長い木の棒を持った真っ赤なショートヘアの少女と話している。

ニカっと笑う彼女は、尖った犬歯が特徴的だ。



「で?いつものように模擬戦形式で良いか?」



「うん。私が攻撃するから、防御をお願い」



「りょうかい!」



源が棒を構えると、彼女の体に変化が現れる。

黒目は真っ赤に、背中には黒い翼が生える。



「準備は完了!いつでも来い!」



「……行くよ」



そう言うと、弥園は両手を合わせて前にかざす。

すると、無数の糸が現れて源に殺到する。



「……っ!」



「斬糸」



出現した糸は地面を切り裂きながら高速で源に殺到する。



「はっ!よっ!とお!」



源は体を捻り、伏せ、跳躍し、棒を巧みに使って糸を回避する。

無数の糸が、連続して現れては源に向かって飛んでいくものの、その体を掠りもしない。

十分を超えても、彼女は息も切らさず避けている。

対して、弥園は滝のように汗を流し、息も絶え絶えとなり、膝が震えている。



「かはっ!……。はぁ……はぁ……」



「ここらへんにするか。体力的にきついだろ?」



「ま……まだ……」



「だめだ。その様子じゃ限界が近い。これ以上やると脳がやられるぞ」



「……くっ……」



「いつものように、放課後にやるか?」



「……うん」



体に限界が来そうな弥園と、余裕そうな源。

対照的な二人を枢機は見ていた。



「……面白いっ!」











「鍛錬終わり!皆!集合して!」



「終わりか……」



「あ~……。疲れた」



「大丈夫?肩を貸すから」



「ありがと」



数時間、時に休憩や昼餉の時間を取りながら鍛錬を続け、午後五時になった頃、授業が終了した。

彼彼女らが流した汗で地面が湿るほどに、体は汗まみれに。

あまりの疲労、体を酷使したことで、人によっては立つことすらままならない。



着替えた後、生徒は皆教室へ戻って連絡事項を聞いて異相学院から帰宅していく。



明日香も講師としての仕事が終わり、帰宅しようとしていた時、



「小娘」



「っ!……何ですか?」



枢機が明日香へ話しかける。



「貴様、教員だったのか」



「教員ではありません。現役の潜索者として、その知識や経験を生徒に教える特別講師として雇われているだけです。私自身も、この異相学院の二回生ですから」



「……そうか。弥園と源というガキについて、どこまで知っている?」



「なっ!?」



(あの鍛錬中に目をつけられたのか!)



驚きで目を見開く。

目を泳がせる明日香。頭を回転させ、考えを巡らせる。



「……弥園みその凛香りんか。五摂家の一つ、弥園家の血筋を引く生徒。迷宮に潜ったことはないので実戦経験はありませんが、模擬戦の様子を見る限り、一回生の中では第二位の実力を持っています」



「二位か……。確かに、あの小娘は強い」



「っ!?」



(あの傍若無人を体現した枢機が褒めた!?今までの彼なら、大したことない、とか言いそうだけど)



「だが、あれで二位とは、ここの生徒は蟻殺ししかしていないのか?今まで何をしていたんだか」



(ああ。いつものだ……)



「となると、一位はあの源という奴か」



「はぁ……。みなもとともえ。同じく五摂家の一つ、源家の一門です。彼女の持つ魔法は周囲と異なります」



「……持つ魔法……?」



「魔法の発動には、両手をかざしての対象の指定、詠唱が要りますが、彼女の場合は違います。『千変万化』という魔法で、対象は自分に限りますが、体を変化させて強力な力を得る、詠唱も指定も要らない魔法です」



「両手をかざして、詠唱、か……」



「はい。そして、この”詠唱不要”という部分に弥園凛香さんは注目しているようで、詠唱をする前に魔法を発動することを通じて、段階的に詠唱を破棄、更にその先の、両手を使わずに魔法の発動を目指していると」



「……なるほど」



枢機は顎に手を当てて考え込む。



(……?何かを考えてる?二人に関係する何か……?)



「……。そうだな。俺はここに残る」



「え」



「用事ができた。案ずるな。閉校時間になれば帰る」



それだけ言うと、枢機は歩き出して練習場の方へ行く。



「……はぁ……」















「一世紀でこれか…………面白い」


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