第6話 帰路
あの後、明日香は昇格完了の手続きを終わらせて潜索者協会を後にした。
明日香は用も終わり、家に帰ろうとしていた。
枢機は彼女の少し後ろを歩いて、周囲をキョロキョロとしている。
その帰り道。
十字路に差し掛かると、明日香は何かを思い出したのか立ち止まる。
「……あ、そういえば。どこに、帰るんですか?家、無いですよね」
「……周囲をまわる。朝まで暇だからな」
(……この人を放っておくと、大変なことが起こる気がする……。そこらをほっつき歩かれるのも面倒か……)
明日香はハア~と溜息を吐くと、大型のドローンの袋から小さな鞄を取り出す。
明日香は鞄を開けながら枢機に聞く。
「お金、あります?」
「あ?……ないが」
(やっぱり)
鞄から出した、ピンク色の瀟洒な長財布の中から一万円札を一枚取り出して枢機に渡す。
「ここから真っ直ぐ歩いたところにネットカフェがあるので、そこで寝てください。看板にネットカフェと書かれてあるので見たらわかります」
明日香は正面に続く道の向こうを指さしながら言う。
枢機は一万円札を見ながら黙って聞いていた。
「では、私は家に帰るので」
そう言って右側の道を行こうとするが、枢機が肩を掴んで止める。
「待て」
「な、なんですか?」
「返す」
枢機は明日香の手に貰った一万円札を無理やり握らせる。
「え?でも、ネットカフェで泊まるにはお金がいりますけど……?」
困惑している明日香を横目に、枢機は正面の道へ歩き出していく。
「かまわん。金はある」
枢機はポケットから一万円札を数枚取り出して明日香に見せる。
(……お金あるじゃん……何で嘘ついたの……)
明日香は枢機の背中を見ながら嘆息する。
「明日7時に、ネットカフェに迎えに行くから何処かに行かないでくださいね!」
去っていく枢機に聞こえるように大声で言うと、枢機は左手を挙げて応じる。
しっかりと聞こえたのを見て、明日香は帰路に就いた。
翌日の朝。
「……はぁ~。……朝か……」
起きた明日香は着替えた後、自分の部屋から出て下の階に降り、洗面台で顔を洗い、歯を磨く。
その後、台所に行って朝ごはんの用意をする。
白ご飯をお椀に盛って、味噌汁に目玉焼き。
そのセットを二つ。
明日香が朝ごはんの準備を終えると、リビングに一人の少女が入ってくる。
「愛花、おはよう。ご飯できてるから」
「は~い」
明日香より少し身長が低く、幼い顔立ちではあるが、明日香と同じように顔立ちが整っており、まさしく美少女である。
愛花は椅子に座ると、明日香と共に手を合わせ、
「いただきます」
「いただきます」
そう言って食べ始めた。
愛花がテレビをつけると、ニュースには明日香の配信がニュースで流れていた。
「……姉ちゃん」
「……なに?」
「……大丈夫なの?」
「……わからない。知らないことが多すぎる。振る舞い次第で、といったところかな」
「……無理しないでね」
「わかってる。たった一人の妹を置いていく気は無いよ」
二人は朝ごはんを食べ終わると身支度を整える。
明日香は小型と大型のドローンの電源を入れると、大型には昨日と同じ袋を吊るして、両機とも追従させる。
制服を着た後、鞄を持って玄関を出る。
「じゃあ、行ってくる」
「うん。いってらっしゃい」
「愛花もね」
愛花は右の道へ、明日香は左の道へ行く。
(……さて、枢機を迎えに――)
「遅い」
「おわっ!?」
枢機が明日香の後ろから声をかける。
いきなり声をかけられた明日香は驚いて尻もちをつく。
(……気配がしなかった……)
「何を呆けている?」
「なんでもない……」
悔しそうな表情を浮かべながら明日香は立ち上がる。
「それで、何処に行くつもりだ?昨日の服より明らかに軽装。迷宮に行くとは思えん」
「……目的地は、その迷宮へ潜る潜索者を育成する教育機関にして、私も通っている学校、異相学院」