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我が儘  作者: 夜空の星
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第44話 参戦

「おいおい……どうなってんだ、これ……」



「……やべぇって……まじ……」



正面の景色を通す水晶体も、その奥に張り付く網膜すらも戸惑う光景に、三好と鍋島は揃って口をあんぐりと開けている。

驚異的な脚力から生み出される運動エネルギーを利用して刹那的に枢機へ接近した源は、素早く息を吐くと共に岩をも粉砕する拳で以て殴り掛かった。



「ふっ」



しかし、枢機へと向かった拳は彼の周りに展開された壁に阻まれ、衝突した地点から紫の色が波のように、透明な空間で広がる。その衝撃たるや、57トン爆弾を優に超える衝撃波と轟音を彷彿とさせるほどだ。

源の拳を壁で受け止めた枢機は、その攻撃に対し平然と突っ立ったまま。感想は全く無いと言わんばかり。即座に彼から距離を取った源は、視線を上へ向ける。



「せいっ!」



空中高くから自由落下した明日香が枢機の頭へと直角に蹴りを繰り出した。その攻撃は源と同様に壁で阻まれて紫波しはが空間を打つ。枢機は又もや、攻撃に対して泰然とそこに立ち尽くす。彼は少し離れて様子を伺う源と音琴へと些細な注意を向けるが、直ぐに後ろへ意識を集中させる。顔を後方に向けないまま。



「斬糸」



明日香の攻撃が壁に防がれるのに合わせて、彼の後方に待機していた弥園が『斬糸』を発動させ、枢機が意識を背中側に向ける頃には弥園の糸は、彼の半径3メートル地点に到着していた。高速で飛来した糸は、意図的に作られた穴を通過し、壁の内へ入る。思惑通り、そう思って笑みを浮かべた弥園。しかし……。



「ちっ」



更に内側で展開された二つ目の壁に防がれてカン!という甲高い音を鳴らす。策が通じなかったことへの苛立ちが表情の歪みと舌打ちになって現れる。

四方を囲む四人は枢機から距離を取り、彼をジッと観察するとともに腰を落として迅速な対応ができるように態勢を整える。



「……油断したな」



弥園を、その身長から見下ろして、愉悦に浸ったように笑いを噛み殺しながら、息を多分に含んだ声を出すと同時に、枢機の周囲を囲む壁に色が付いた。弥園が射抜いた場所には、直径一センチメートル程の小さな穴がある。



「盾で守るだけでなく、体の中に防弾衣も着込む。防御は一重二重ひとえふたえにするもの。表面の防御網を破ったからと言って安堵しているようでは、な」



枢機が言い終わらない内に、弥園は彼に向かって駆け出し、殺意を込めて腰に提げた刀を居合切りのように流れ切る。

以前使っていた武器では彼女たちの力に耐えきれず、粉々に砕け散る事態が多発したため、特注した製品を使用している。そのこともあり、枢機に向かって手加減をすることもなく、というより手加減ができる相手ではないと判断した要素が大きいが、その力を存分に振るっている。

弥園が駆け出すと同時に、彼女を超える速度で源と明日香も枢機に向かって駆け出した。三人は足並みをそろえて枢機へ攻撃を加えるが、その全てが壁に阻まれ、その上壁はビクともせず、全くもって有効打ではないことがわかる。



「はい離れて!『響け』!」



音琴が声を発した瞬間に三人は枢機から一斉に距離を取り、その直ぐ後に金属がぶつかり合う甲高い音が聞こえると、音琴から生まれた強烈な衝撃波が一直線に枢機へと襲い掛かる。その衝撃波は、やはり紫の壁に防がれる。罅が入るどころか、一切微動だにしていない。



「くっ……」



「はっ……」



涼し気に佇む枢機を見て音琴は悔しさから声を漏らすと、明日香たちと共に枢機へ攻撃を仕掛ける。音琴は手に持った拍子木を使った打撃や投擲、明日香は特注した刀を用いた斬撃や体を使った打撃、源は『千変万化』によって得た驚異的な身体能力を存分に振るった打撃、弥園は『斬糸』による斬撃を、のべつ幕無しに浴びせる。



攻撃が枢機を囲む壁へと当たる度に大気を揺るがす程の衝撃が生まれるが、それでもなお壁は崩れない。



枢機の正面から明日香が、左側面から弥園が、右側面から音琴が大地を蹴って彼へ向かい、打撃を仕掛ける。が、その攻撃が加わる瞬間に、三人は突如としてバックステップで枢機から距離を取った。彼が距離を取った三人を見つめていると、直上から自由落下で加速しながら運動エネルギーを利用した打撃を繰り出した源が襲い掛かる。



地面に座った三好と鍋島は四人の戦いを見ながら、ひたすらに観察と分析を継続する。



「全く効いてねえよな、攻撃。どんだけ頑丈なんだよ」



「それもそうやけど、四人のあん動きなんやねん。音琴さんは二級やけん、まあええとして、他三人よ。問題は」



「ま~え見た時より、速度も威力も上がってんな。やってることって、唯の模擬戦だろ?それで、こんだけの成長ってあるか?普通」



鍋島は自分の体を枢機へと一直線に向けて、視線を一切動かさない。



「記録は撮れてるか?」



「問題なし。小型カメラやけん、ちょいと映像の質は落ちとうけど、ここまで接近して映像が取れるんなら良いやろ」



枢機だけでなく、戦う四人にも体を向ける鍋島は、時折服の襟を弄る。そこには、太陽光を反射する超小型のカメラが張り付いている。



「枢機の言う、試練ってもんには利点があった。何故かは知らんが、短期間で強くなれる。何故かは知らん」



「んなこと報告できる思う?ちゅうか報告にもなってへんし」



「色々調べる必要があるけど、どこから取り掛かれば良いか皆目見当も付かないのが痛いな。時間かかるぞ、これ」



頭を掻きむしりながら溜息を吐いた三好は、地面に置いたままの鎖を手に取ると徐に立ち上がった。

三好に続いて立ち上がった鍋島は、襟にくっ付いている小型カメラを取り外して電源を切り、腰に提げている巾着の中へ無造作にぶちこむと、巾着の隣にあるホルスターから一丁の銃を取り出す。



「時間に関しちゃあ、僕らの接触である程度稼げたやろ。他の国は手が出し辛くなっとうし、枢機が暴れ出す様子もなし。このまま、彼を分析して利用する。今出来る事とや、これしかないやん」



「まあ、そうだな」



二人は、恐る恐る歩みを進める。



「まずは試し。相手とぶつからんと分かりっこないし」



「なんとかなって欲しいもんだが」



二人は、恐る恐る歩みを進めている。


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