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我が儘  作者: 夜空の星
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第41話 三好別荘

三好家が首都橙枳の郊外に持つ別荘の一つ。開け放たれた障子の先から見える大きな池の周囲には園路が巡らされ、それに沿って桜や梅の木が点々と立ち並ぶ。築山や小島、石などで作られた、どこかの勝景。

客間の座布団に座り、お茶を飲みながら池泉回遊式庭園をのんびりと眺めている六人、三好、鍋島、明日香、音琴、弥園、源。



「さて、説明してもらうよ」



「勿論です」



鍋島の隣に座る三好は、床に置いた二つの封筒の内片方から書類の束を取り出し、対面に座る四人に差し出す。



「まず、現状の確認と認識の共有から入りましょう」



明日香はステープラーで束になった書類の一枚目を捲り、二枚目に目を通す。明日香が書類を読むのと並行して、三好が説明を始める。



「書類にも書かれている通り、我が国の仮想敵国、というか最早敵国ですが、アメリカ=パヴェア連合帝国が大量の諜報員を送り込んでいます。目的は間違いなく枢機でしょう」



「だろうね。枢機を自国に引き込めたら、国際的なパワーバランスで有利に立てる。そうでなくても、言ってしまえば彼は爆弾みたいなモノだから、上手く着火できれば敵国に被害を与えられる」



襖を開けて部屋に入ってきた使用人が羊羹と新しいお茶を出してくる。既に出されたものを片付けて部屋を退出すると、音琴たちが羊羹に口をつけた。



「美味しい、これ!」



「久しぶりに食べるけど、やっぱり美味しいな」



「幼いころにお茶会で食べて以来、機会無かったから余計美味しく感じる」



一般家庭育ちの音琴が驚いた様子で羊羹を食べているのと対照に、弥園と源は懐かしむように羊羹をじっくりと味わっている。いつの間にか彼女たちの近くに移動した鍋島は、三人が満足そうに食べているのを見て彼も出された羊羹に手を出した。



「やっぱ上手いなこれ。三好家が作ってるだけある」



羊羹とお茶に舌鼓を打ちながら談笑する、和やかな雰囲気漂う四人とは相反して三好と明日香との間には緊迫した空気が流れている。



「道理で、最近不可解な殺人事件が多かったわけね」



「すべてを隠蔽することは流石に厳しいものがありますから。しかし、世に出回る情報の数倍は隠蔽していますが、我が国に送られている諜報員は恐らく更に数倍。このままでは枢機と接触される可能性がある」



「そこで、君たち二人の出番ってこと」



「そうです」



手に持った書類を捲っては目を通す明日香に肯定する三好。傍らで楽しそうに羊羹を食べる四人が話しながら、こちらに耳を傾けているのを確認して彼は更に続ける。



「枢機は、この凡そ一か月間で学院の生徒を見る機会は幾らでもあったはず。にもかかわらず、先生やあそこの三人のように声を掛けず、鍛えようともしない。全くもって無関心」



「人を選んでるのは間違いないと」



「はい。何かしらの基準があるのでしょうが、それが何か皆目見当が付かない。今のところの共通点は学院の生徒ぐらい。ただ、その共通点だと他の生徒を鍛えない理由を説明できない」



「……なるほど、話が見えてきた」



最後のページを読み切った明日香は書類の束を床に置き、お茶を一杯啜る。



「だとしても、ちょっと危険すぎない?いきなり攻撃ってのは……」



頭を掻きながら、悔しさのような、怒りのような、自らを省みるような、様々な感情が入り混じっている微妙な表情を浮かべる。



「まあ、そこに関しては確かにそうです。ただ、枢機相手の対応としてはこれが良いかと思いまして」



「……否定できないっちゃ否定できないけどね。正座して頭下げたからといって、素直に頷く性質じゃないだろうし、実力を見せて自分を売り込む手もアリだろうけど……」



「……先生の仰りたいことはわかりますとも。五摂家の二つ、三好家と鍋島家の次期当主になろう者が、こんな馬鹿げた行動に出るのは常識的に考えておかしいと」



「……」



明日香は、肯定するような否定するような、よくわからない表情を浮かべながら首を頷きかけて傾げる。



「しかし、我々は祖国の陸と海を担ってきた家系です。祖先は、自ら兵を率いて陣頭で指揮を執ってきた。枢機という異物が入り込んできて、祖国に仇をなさんとする時、私たちが前に進まずして、誰が先を行きましょうや」



体の筋を引き締め、貫かんとばかりの鋭い眼光で見つめられた明日香は、余りの覚悟と気迫に気圧されて無意識に唾を飲み込む。

源や弥園と会話をする片手間で三好と明日香の話を聞いていた鍋島は、三好の言葉に肯定する。



「長慶の言う通り、我々は、我々の役目の一つを果たしているだけに過ぎません。それに、この点は我が国も同じですが……」



鍋島は音琴らの方に向いていた体をグルリと回転させ、明日香へと向けた。



「先生は、アメリカとの因縁もおありでしょう?」



「……」



鍋島の口からその言葉が出た瞬間、明日香の表情が大きく変わる。空間が歪んだと錯覚するほどの巨大な圧が辺りの生物を襲い、屋根や木の枝に止まっている鳥、住処の中でゆったりと寝ていた飼い犬、池で優雅に泳いでいる鯉たちが己の生命に危機が訪れたと言わんばかりに騒ぎ出す。



(っ……やっべぇ~。脊椎に氷が当たったか?)



(鳥肌とかそういう次元ちゃうな、これ。親父を怒らせた時以上やな)



明日香から発せられる異様な空間への圧を感じ取った者たちは一様に体を強張らせ、和やかな雰囲気から一変、戦車で限界まで引っ張られた炭素繊維のように張り詰めた空気が流れる。

しかしそれも束の間。三好たちが感じていた押さえつけられる重い圧が瞬く間に消えた。明日香の歪んだ表情も次第に戻っていく。



「……あれは、仕方のないことだと、自分の中で結論付けてる」



真っ直ぐに三好を見つめ、言霊を一つ一つ口から出していく。



「憎しみで動くのは良い。だけど、あの国の人は関係ない。そういう人で溢れてる」



「……あの国は民主国家ですが、それでも……ですか?」



「父さんと母さんは、そういうことを望んでない。私も望んでない。話はこれで終い」



三好と鍋島の二人は顔を互いに合わせ、ため息を吐く。鍋島が再び三好の隣に戻り、音琴たちに目で促す。意味を悟った三人は明日香の隣へと座りなおす。



「前置きはこれくらいにして、本題に入りましょう。ここからは国家機密に近いものですので、内密にお願いします」



三好が床に置いていた、もう片方の封筒の封を開けて中から書類の束を取り出して明日香の前へ置く。書類を見つめる四人に、鍋島が説明をすべく説明を始める。

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