第40話 訪問
「随分と派手な訪問だな。砲弾を招待した覚えはないが」
不機嫌な目とご機嫌な口を整えた気味の悪い表情を向ける枢機に相対する二人。
持ち前の悪人面を更に凶悪に歪ませた笑みを浮かべる三好は、手に持っている鎖を持ち直して額に流れる汗を拭った。
「いや~、しゃあないでしょ。あんたの連絡先なんぞ知らんし。ていうか、砲弾を招待したのを忘れたか?手招きしただろ」
「そうだったか。さっきの手招きの意味すら理解できなかったのかと思ったが、俺の勘違いか」
「ああそうだ。あんたが忘れただけだ」
互いに貼り付けたような笑みを浮かべながら睨み合う枢機と三好。彼らの傍で呆気に取られる余り、ぼ~と見ていた明日香は、二人の間で緊迫した雰囲気が漂っているのを感じ取って慌てて二人の間に飛び行って止める。
「は、はいはい挨拶はここまで。枢機はあっちで少し待ってて!」
明日香は枢機の背中をグイグイと押して無理やり音琴たちの下へと送り届ける。その様子を見て三好と鍋島は警戒を解いて発動中の魔法を止め、鎖から手を離した。
「……はぁ……良し」
魔法の効果が無くなって地に落ちた鎖を再び自分の体にグルグルと巻き付けた三好は、大きく息を吐き出し、未だ流れる額の汗を予想外に重い自らの手で拭う。
「……ふぅ。なぁ、長慶」
「……どうした?直正」
地面に尻から落ちてドサッと座り込んだ直正は、フルマラソンを完走しきったように肩で大きく息を吸っては吐いてを繰り返し、体中から水分を放出している。
鍋島に続いて三好も地面に背中から倒れこむ。体に巻き付けた鎖同士がぶつかり合い、ジャラジャラと金属音が鳴る。
「ふぅ。ヤバくないか?あいつ。俺が今まで相手した奴とは比べものになんねぇぞ」
「僕とか、あの圧だけで、死ぬかと思った……。あれ御するとか、どう考えたって無理やって」
体を起こし、巻き付けた鎖の端を持って投げ縄のようにグルグルと回す三好は、明日香の手によって何も言わず音琴らの所にドナドナされる枢機をジロジロと見つめる。
「そう考えると、南野先生は良~くやってるよな。あいつが先生に手助けする何かがあるみたいだが、枢機の人格からすると素直に従う奴じゃない」
「そうなんよ。振り回されとうように見えるばってん、今までの行動ば考えると先生が振り回しとう部分もあるんよな。迷宮に連れてったり、ネカフェに留まらせとったり」
「そこは正しくファインプレーと言わざるを得んな。枢機の様子を記録する理由に配信を使えるし、枢機の行動拠点を一箇所に限定できるし」
二人が話していると、枢機を送り終えた明日香が慌てたようにバタバタと走り寄る。
「無茶しすぎでしょ二人とも!下手すれば殺されてるかもしれないのに」
明日香が地面に座り込んで話し込んでいる二人を咎めると、三好と鍋島は顔を向かい合わせて座りなおした。地面に正座で座り、両の掌を地に着け、親指を広げて中指と人差し指を揃えることで菱形をつくり、背筋を伸ばして腰から曲げると同時に肘を優しく曲げる。一呼吸おいてゆっくりと戻す。
「お久しぶりです、南野先生」
「凡そ二ヶ月あった合宿から、先日戻りまして、その直ぐ後に潜索者協会と中央情報局から命令が下りました」
「え?命令?何も聞いてないけど」
「ああ、それなら……」
三好はズボンの右ポケットをゴソゴソと弄りながら答える。
「中央情報局の判断ですね。余計な情報を与えず、自然体でいたほうが良いだろうとと考えでしょう。こちら、指令書です」
ポケットから取り出したものを明日香に差し出した。赤色でデザインされた『らいもん 無料券』の文字がデカデカと書かれている。
「あ、やべ。こっちじゃねえや」
「頼むって。ボケだしたとか言わんやろな?」
券を左ポケットにしまうと、もう一度ポケットを弄って真っ白な一枚の封筒を取り出して明日香に渡す。
明日香は封筒を開け、その中の書類に目を通す。
「……ん?指揮権を譲渡するって書かれてあるけど……」
待ってましたと言わんばかりに顔を合わせて笑みを浮かべ合った三好と鍋島は、再び『真』の礼を取る。
「申告します。陸軍三好長慶少佐は、本日丞流十年六月十三日を以て、南野同志麾下となります」
「同じく、海軍鍋島直正少佐は、本日丞流十年六月十三日を以て、南野同志麾下となります」
「……ええ?私軍属ではあるけど、階級を考えたら絶対おかしいよ」
「お気になさらず。潜索者としての階級では我々が下ですので」
音琴らと共にいる枢機が、腕組みをしながら二人をジッと見つめているのに気が付いた二人は立ち上がる。
「詳細については後々。ここで話すのは危険ですので」
「……わかった。それって、三人にも話せるもの?共有しておいた方が良いと思うけど」
「問題ないですよ。枢機と関わりのある御三方にも伝える予定でしたから」
「なら、あと一時間ぐらい待ってて。今日の予定は終わったから、着替えて準備を完了したら三人を呼ぶ。どういうことか、色々説明してもらわないと」
明日香は二人を離れたところで待機するように命じると枢機のところに走っていく。鍋島が端末を取り出して何処かへ連絡をする様子を凝視していた枢機は、何か満足そうな笑みを浮かべている。




