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我が儘  作者: 夜空の星
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第38話 五月七日 日曜日 午後一時

穏やかな風がビル群の間をそよそよと過ぎていき、道路を走る車の群れを覆っていく。歩道を歩く人々の服や髪が風で揺られる。



「……目標は?」



「未だ中だ。部屋でグッスリと寝ている」



空高くで燦燦と輝く太陽が地上を照らし、その眩さと日光を避けようと日傘を差す人や帽子を被る人が多々見られる。



「……動きはない……か」



道路に面したカフェのテラス席。家族や恋人を連れた人で賑わい、その喧騒をこれ幸いと自然体で任務を遂行する男がいた。パラソルの下で日の光を避け、珈琲に砂糖を豪快に入れながらテーブルの上に開いたパソコンの画面を眺めている。時折、道路の対面にあるネットカフェの名前を示す壁面看板をチラリと見ては、再び画面に目を向ける。



「……ん……」



珈琲を一口飲むと、彼は眉間に皺を寄せると再び珈琲に砂糖を豪快に入れ始めた。



「お前、砂糖入れすぎじゃね」



彼の対面に座る、同じような服装をした男が呆れ顔でそう言うと、彼は砂糖を入れながら



「仕方ない。俺は甘党なんだ」



と言って、砂糖を入れ終わると再び珈琲を口に入れる。ほっと一息吐くと、その味に満足したように笑みを浮かべる。



「何で珈琲頼んだんだよ」



「カフェイン取んなきゃなんねえだろ。今日はステキな日だからな。ずっとこうしていると眠気に襲われちまう」



男が溜息をついている様を眺めながら、彼は砂糖をたっぷり入れた珈琲を一口、ちょびっと飲む。満足そうに「うん」とつぶやくと、



「ん……ん……ん」



カップの中に入った珈琲を思いっきりガブガブと飲んで完全に飲み干し、



「っあ~」



「酒みたいに飲むんじゃねえよ」



満ち足りた表情で吐息交じりの声を出す彼は、空っぽになったカップを持って椅子を後ろにサッと引いて立ち上がるとドリンクバーに向かって歩き出した。男は天上を仰ぎ見て、溜息をはぁ~~~と、肺に溜まった空気を思いっきり吐き終えると、道路を挟んで対面にあるネットカフェを眺め出した。



「……」



(あいつが現れてから今日で丁度一週間。今のところ、目に見えて害があるっちゅうわけじゃあないが……)



男は扉を開けて店から出てくる客をジロジロと嘗め回すように見る。

顔。髪型、目の色、口と鼻の形。それらの位置もしっかと確認する。

体。服装や体形。歩き方や視線の動きから興味関心や癖を観察する。



(……う~ん。それっぽい奴はいないか……)



男は手元の端末をポチポチと操作する。暫くすると、上空から一機のドローンがゆっくりと降下してきた。男はドローンをテーブルに着陸させると、床に置いてある鞄を持ち上げてテーブルに置く。続いてドローンの下部を弄ると、一枚のカードが出てきて慎重にそれを引き出すと、男は鞄から出した透明な保管箱の中にゆっくりと、大切そうに仕舞った。



(ふう……とりあえず、記録は保管した。ひとまず交代か……)



男がドローンを丁寧に小さく畳んで鞄に収納したと同時に、彼が戻ってきた。溢れるか否かというまで、限界ギリギリまで珈琲を注いだカップの持ち手を、彼は利き手人差し指と中指で持ち、液体がこぼれないように全体を保ちながら事も無げに歩いてくる。そのまま左手で椅子をスッと引いてそこに座り、カップをテーブルに置いた。



「どんだけ入れてんだよ」



「これだけあれば、十分カフェインは摂れるだろ」



彼は一口珈琲を飲んで平然とした顔をした後、



「……やっぱ入れるか」



またもやカップに砂糖を大量に入れ始めた。

その様子を呆れ顔で眺めていた男はテーブルの鞄を取ると、椅子を後ろにガガガッと引いて立ち上がった。



「さて、俺は戻って記録を当局に納めてくる。交代の奴が数分で来るってよ」



「はいよ。じゃ、あとは俺とそいつに任せとけ。おっつ~」



「おっつ~」



気の抜けたダルそうな声を出して返事をすると、会計を済ませた男はカフェから出ていく。ふと振り返ってネットカフェを一瞥すると、踵を返して歩き出す。



あたりの往来が激しいのは、大切な休日を存分に謳歌せんとする人が多いからであろう。家族一行や恋人同士と思しき組が多々見られる。行き交う車もひっきりなしに、信号が変われば進みだして列を成す。



男はそれらに目もくれず、ひたすら道を歩いていく。道沿いに立ち並ぶのはビルばかりでヒートアイランドを促進しそうなものだが、今日の気温は非常にうららか。それもあって、道行く人は半袖の服を着ている者が大半だが、汗を滝のように流している者やタオルで常に肌を拭いている者は全くいない。



ふと、男は足を止める。ここまで止まる理由が無かったが、男の関心を寄せる何かが男の目に入ったからである。



「はぁ!?まだ来てないのか、あいつ……」



男の前には、スマホを肩で器用に支えながら誰かと通話する男性がいる。

周囲の迷惑にならないように可能な限り声を抑えているものの、その立ち居振る舞いや声音から怒りや不満が溢れんばかりであるということは容易にわかる。



(……民間でもいるんだな。そういうやつ……)



男性は苛立ちを隠さないままビルの中に入っていく。透明な扉を開け、ビルの中に設けられたエレベーターのボタンを押した。

男はその様子を見ながら、ふとビルの四階を見る。採光目的で一面ガラスで張られた壁からは、照明が屋内を照らしているのを確かめることが出来る。



(というか、休日なのに働いてんのか。ま、どっかで休暇とってんだろうが……)



男は再び歩き出す。向かって歩いてくる人に当たらないよう上手く避けている。

横断歩道の青信号が点滅しているのを見て男は足を止める。案の定すぐに赤になった。車が走り出し、再び信号が変わると男は歩き出した。



横断歩道を渡り切って直ぐにある曲がり角を曲がり、そのままのんびりと歩いていると、建物の合間にある路地から歩道に出るところに少し不思議なものがある。

何かの切れ端だろうか。見た目から推察するに、恐らく布の一部であろうと思われる黒色のそれは、何かで切ったにしては余りにも歪な形をしており、よくよく見ると変色しているとわかる。



男は歩きながら、その切れ端に興味が湧いて視線を固定していたが、突然スマホから振動と音が伝わってきたためスマホを取り出して向こうの誰かと会話し始めたが故、切れ端への関心を失った。

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