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我が儘  作者: 夜空の星
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第35話 戻る

「音琴同志!ご無事で!」



「はい。モンスターと不自然に遭遇しなかったもので」



大穴の南に連なる山脈、その更に南に駐屯する部隊が編成した複数台の装甲車を擁する調査隊は、山脈を大きく迂回。ドローンを進発させて偵察を行い、モンスターや本部へ撤退する部隊がいないか探していたところ、偶然にも明日香たちを発見した。

装甲車から降車した二十数名の兵士は、一箇所に駐車した装甲車を守る最低限の人員を除き、全員が周辺に分散して調査を開始している。



「隊長!北部の調査隊から通信!向こうも目的地に到着したそうです」



調査隊の体調が音琴と話し合っていたところ、一台の装甲車から通信兵が慌てた様子で降りてきた。



「そうか。それで向こうは?」



「……それが……」



言い淀む隊員に対し、隊長は強い口調で促す。



「我々が見ている光景と、同じ光景が広がっていると……」



隊員は大穴の方を見ながら隊長に伝える。彼らは、木が焼けこげる匂いを感じた。

隊長は彼方にまで広がる大穴を見て確信した。



「……ということは……この山脈から、北部の山脈まで連なる、約百キロメートルの要塞は、全て消滅した……ということか……」



報告を傍で聞いた音琴は、背中に嫌な汗が流れているのを強く感じる。



(……まじ……か……。たかだか二級の迷宮で、最新兵器を揃えた一個師団が、要塞線ごと消滅……。不味い。明らかに不味い)



音琴は首から下げている拍子木を、右人差し指の爪を使って極めて弱い力でカンカンと叩き始めた。眉間に皺が寄り、今にも舌打ちをしようかというほど険しい表情を浮かべながら。



「……」



明日香は異様な雰囲気を漂わせている三人を気にするように横目で見ながら、撮影用の大型カメラを搭載しているドローンを連れた隊員を帯同させて焼死体のもとへ案内している。木の焼けた匂いが周辺に充満しており、その匂いを防ぐために明日香と隊員は鼻に片手を当てている。

時折、未だに地面に寝そべって草の匂いを存分に嗅いで寛いでいる枢機もチラチラと見て様子を伺う。



先ほど通った道を再び歩き、旗を立てた地点まで向かっていく。乾留となった部分もあるようで、炭や灰だらけの地面や一部の木の中から白い煙が空気中に出てきている。木酢液も出てきているせいか、沼のように地面が泥濘んでいるために歩き難くなっているところもある。



シューと音を立てる焼けた森を進んでいくと、真っ黒な地面や木の中に一点、白い旗が地面から生えているのが見えた。



「ここです」



旗の直ぐ傍の地面で、うつ伏せに倒れている焼死体を指さしながら明日香は言う。

それを確認した隊員はドローンで周辺の光景を何枚も撮影した後、うつ伏せの死体の写真も撮っていく。写真を撮る位置を何度も変えて。



十分に写真を撮った隊員は、死体を動かして仰向きにした。その際、炭のようになっている服の一部分がボロボロと崩れて地面に落ちた。背中側と同様に、顔や腹も真っ黒に焦げていた。目や口、鼻がどこにあったのか、よくわからない程に。

だが、一つだけ太陽の光を反射して輝くものがあった。



「……菊花紋……。やはり、我が軍の……」



服の左側にある、胸ポケットと思われる部分のフラップに着けられた、菊の紋章の徽章きしょうが一つ、金色に輝いていた。

更によくよく見ると、首元にも輝くものがある。隊員は炭のような服を、ゆっくりと除けていくと、長方形の薄い金属板が現れた。その金属板には文字が刻まれている。



「認識票か……。流石、頑丈に作られているだけある。両方とも無事だな」



隊員はドッグタグを取ると、持ってきた袋の中に入れ、両手を合わせて合掌した。明日香も隊員と同様に合掌する。数秒経った後、二人は踵を返し、隊長と音琴のもとへと歩き出した。

戻る際中、周囲の警戒をしながら隊員は、ふと明日香を見る。

表情に陰りが見える明日香に隊員は声をかけた。



「……我々の使命は、帝と祖国、そして、国民を守ることです」



明日香は急に話しかけてきた隊員を不思議そうに見る。



「更に、我が国はあなたの御両親に多大な恩があります。報恩は、五千年続く伝統です。少なくとも、あなたに不利益が被ることは無いでしょう」



「……ありがとうございます」



未だ暗い表情をする明日香は隊員と共に、森を歩いて行った。
















「……やはり、生存者はいないか……」



「はい。北部の調査隊からも、生存者を発見できていないとの通信が入っております。周辺の偵察に送っているドローンでも、生存者らしき人は発見できていません」



ドローンから送られてくる映像を確認しながらドローンを操作している兵士の傍で、調査隊と明日香たちは一堂に会していた。

ドローンからの映像には、広大な草原が向こうまで広がっている光景が映し出されているだけで、人の姿は全くもって皆無である。強いて言えば、要塞のコンクリートが破片となって平原の地面に点々と転がっているくらいだ。



「……そうか。ならば、北部の調査隊と連絡をとって本部に情報を報告し帰還しよう。これ以上はモンスターが来る可能性がある。……骨折り損のくたびれ儲けだったな」



隊長の命令に従い、調査隊が撤収の準備を開始する。その間、明日香たちは周囲の警戒に努めていた。

弥園と源は談笑しながら。反対側で見張りをしている明日香と音琴は、どこか緊張した面持ちで。



「……」



彼彼女らの様子を、地面に寝そべりながら見ていた枢機の両手首には、見慣れない銀色のブレスレットが輝いていた。

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