第34話 焼け跡に
「よっと」
「巴、そっちは?」
「だめだ。全くいねえ」
大穴付近に広がる草原で、二人は地面に散らばる幾多の塊を持ち上げては、穴から少し離れた場所へ持って行って一箇所に集めていく。コンクリートやアスファルト、機器の破片などが山のように積みあがっている。各々の荷物を運搬する四台のドローンは、集積地となっている場所付近でホバリングして待機している。
その傍ら、下敷きになっている人や隠れている人がいるかどうか調べているものの、出てくるのは同じく建物の破片や金属製の何か。
そして……
「……あーちゃん、これ……」
降りてきた山脈と大穴の間に広がる森。とは言っても、『回廊』にあったような樹高数十メートルというようなものではなく、十メートル前後の一般的な常緑樹だ。
鎮火はされたものの、それら木々は火事によって黒焦げになっている。木の葉や草葉の灰が散り積もる地面をよく見ると、同様に黒焦げになった塊がある。
「……人、だよね……」
ラグビーボールのような楕円形のものは長方形と繋がり、長方形の上部から細長い棒が左右に一つずつ生え、下部でも二股にわかれた棒状のものが生えている。
それらは順に、頭、胴体、腕、足だと思われる。
「……うん。ここまでとなると……やっぱり、もう息はないね」
確り観察すると、どうやらこの人物はうつ伏せに倒れているようだ。音琴は手首に相当すると思われる部分に手を当てたり、心臓があると思われる部分にも手を当てたりして脈を測った結果、外見から予想した通り、やはり既に物言わぬ骸となってしまっているようだ。
「……周りに人は居た?」
「……いんや」
音琴に尋ねられた明日香は人だったモノの周囲を見渡す。焼け焦がれた木や灰の他に、なにか目立ったものは見当たらない。生存者と思われるような声も聞こえず、ただパチパチと弾けるような音やシューとガスを出した時のような音が漂っているだけだ。
「……はぁ……どうするかな……」
(枢機とかいう奴に勝負を挑んだはずが、どうしてこんなことに……)
音琴は困ったように頭に手を当てて遠くを眺める。
見える景色は、プスプスと音を立てる焼け残った森と、全くもって向こう側も底も見えない地面に開いた巨大な穴、そして不思議なほどに晴れ渡る青空のみだ。
「……とりあえず、生存者を探そ」
「……そうだね。……それにしたって……」
明日香は後ろを振り返り、一点を凝視する。明日香の目線の先には、頭の下に両手を入れ、草原に仰向きで寝転がって寛いでいる枢機の姿が。
「……ああやったまま、全く動こうとしないし……」
(まあ、モンスターが周囲にいないから寛げてるのかも。レーダーとして使えるかな……いや、どうだろ。実力差がありすぎて全く反応しないって可能性も……)
「……あーちゃん」
「ん?」
音琴が穴の遥か彼方を眺めながら見ながら明日香を呼んだ。
「これ、どうすんよ。明らかな異常事態だし、消えた部隊の損失も大きいし」
「……どうするって言ってもさ……」
明日香は地面に転がる焼死体を見つめながら声を漏らす。
「はぁ……」とため息を吐いた音琴は踵を返し、明日香の耳に口を近づけると、小声で伝える。
「枢機と無関係とは、思えないよね」
「……」
視線を横に流し、ついでに枢機をチラッと見る。
「恐らく、いや、間違いなくと言ってもいい。潜索者協会、そして軍と政治家連中は枢機に疑いの目を向ける。下手すれば、枢機を排除しようと動くだろうね」
音琴の言葉を聞くうちに、少しずつではあるが、明日香の表情が曇っていく。
彼女の様子を見た音琴は、明日香に背を向けて再び穴を見つめだす。
そして、首からぶら下げる拍子木を右人差し指の爪で弱く、カンッ、カンッと一定のリズムで叩き始める。
(曲がりなりにも、命を救ってもらった恩人なのには変わりない。それに、強くなりたいと希ってた、あーちゃんにとっては僥倖。それを示すように……)
音琴は拍子木を叩きながら、捜索と運搬を続ける弥園と源へと顔を向ける。
(速度を《《多少》》落としていたとはいえ、私に付いてくることが出来ていたのは間違いない。あーちゃんもそうだけど、あのスピードで走り続けて息切れが殆どないのは妙。この部分だけ見たら、三級レベル、もしかしたら二級『地』くらいには位置するかも)
そして、寝転がって羽を伸ばす枢機に目を向ける。
(この成長を一か月強で成し遂げたのは、確実に枢機の影響がある。手放したくは……ないよな……)
何時の間にか出来ている眉間の皺を広げるように右手を当てて思案に暮れていると、音琴の耳に小さいながらもブーンという何かが飛ぶ音が聞こえてくる。
(……これは……上か!)
その音が聞こえてくる方向に目を向けると、一機のドローンが森の上空を、飛行しては止まり、進みだしては止まりを繰り返していた。
彼女は後ろを振り返ってドローンを確認する。集積地には四台のドローンが空中で停止飛行し続けている。上空にいるドローンは自分たちのものではないと確定した。
(軍のドローンか。調査隊のものかな……。斥候として飛ばしてるんだろうけど……この大惨事を知って、どうするか)
明日香が炭の森で探索を続けるのを尻目に、ドローンの動向をジッと見つめて観察をする。
下から見て菱形のような形をしたドローンは、大穴の方へと移動したかと思えば、座標を固定したまま向きを180度変えた。丁度集積地側を向くことになる。
徐にドローンは本体を下に傾けた。機体に取り付けられているカメラを下に向け、直下の様子を見ようとしたのだろう。必然、カメラは運搬を継続する弥園と源、大量に積みあがった廃材を捉えることになった。
「あーちゃん、軍のドローンが来てる。一回集まろ」
音琴はドローンに顔を向け、人差し指で指さしながら言うと、明日香は「え?」と間の抜けた声を出し、音琴が指し示す方向へ視線を向けてドローンを発見する。
明日香は頷くと、そこそこ大きさのある白い真四角の物体をポケットから取り出す。掌に置いた物体のある一面を指で押し続けると、押した部分が凹み、そして物体をレイピアでの突きの要領でグンッと前に押し出すと、その勢いで棒が飛び出し、そこから白い布が広がった。
一瞬で展開できる携帯式の旗だ。
先ほど発見した焼死体の近くの地面に四角い部分を埋めると、二人は集積地へと走り出した。




