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我が儘  作者: 夜空の星
33/44

第33話 何を見ているか。

「連絡はまだか!」



「何度も試みてはいますが、全くもって応答がありません!」



「ぬ~……。なら、付近に配置されている防衛部隊は!?」



「調査隊を送った部隊からは未だ……。距離的には、もうそろそろ到着するはずですが……」



数十人ほどの兵士が集まっている部屋は、まさしく喧喧囂囂と言っても過言ではない程の大騒ぎとなっていた。ずらりと並んだ通信機器の前で幾人もの通信兵が機器を操作して何処かと頻繁に連絡を取り合っている。

その中で、複数の長方形略綬を軍服の左胸につけた軍人たちが二人の通信兵の周囲に集まり、連絡を直近で聞いている。



「仕方あるまい。第三師団が展開している場所は山脈に挟まれていたな。こうなるなら、軍用ヘリも配備しておくべきだったな」



「この本部から飛ばしたとしても、恐らく調査隊の方が速く着く。ここで待つほかないだろう」



彼らは通信兵に後は任せ、並ぶ通信機器の前に設置された机へと移動してそれを囲む。机の上には、天板を覆うほど大きな紙に簡略化された図が書かれ、それが広げられている。

その紙上には幾つもの兵棋が置かれている。「門」と表記されている円状に書かれた線の中心に二つ、「本」と書かれたところに一つ、合計三つのひと際大きな青い兵棋が目立つように置かれている。

比較的小さな青い兵棋が、三つの円全てを大きく囲うように書かれた線に沿って配置されている。



「だが、一体どうする?当の場所には音琴同志が向かっているが、『津波』となれば対処は不可能だろう。第三師団には比較的練度の低い兵が多く配属されていたが、この事態は明らかに奇怪だ」



「既に伝令は送っている。恐らく、もうそろそろ『前の御錠口』に到着することだろう。援軍が来るまで、ここで持ち堪えるほかに無い」



腕組みをしながら険しい顔をする者や、無意識のうちに指で机をトントンと叩く者。

彼らの間に張り詰めた雰囲気が漂う中、初老の男性が部屋の扉を開けて入ってきた。彼は暫し一人顎に手を当てながら彼らの様子を伺うと彼らに歩み寄る。



「兎にも角にも、不測の事態に対処する方策を何も用意していなかったことは失態だな。一応、予備兵力を根こそぎかき集めて用意した。理想主義者の口癖ほどしか役に立たないだろうが」



彼の手には新たに青い二つの兵棋がある。幾つも並ぶ凸型をした兵棋の列にある不自然な間隙にそれらを入れる。



「ゼート准将。お帰りになられたのですか」



「ここの防備を確かめてきた。本部が壊滅したとなれば指揮系統が麻痺するからな。状況は?」



「依然として変わりません。現地部隊との通信途絶は継続しており、調査隊と音琴同志の連絡を待つのみとなっています」



「……そうか」



ゼートは棚からコーヒーカップを取り出すと、近くに置いてあるコーヒーミルからそれに粉末を移して湯沸かし器よりお湯を入れる。机付近に置かれていた椅子に腰を下ろすと、コーヒーをずずっと飲んで机上の図をじっと眺め始める。



「……我々に出来ることは何もない。音琴同志と調査隊を信じるのみ。二級空である音琴同志もいることだ。モンスターに奇襲を受けたとしても、何とかするだろうさ」



「しかし……」



「それに、昨今話題の枢機という男もいるそうじゃないか。『津波』に遭遇しても、彼に上手く当てれば対処できるだろう」



彼の言葉を聞くと、周囲にいる者は表情を曇らせる。彼らの心情を察したゼートは「ふっ」と笑って笑みを浮かべ、



「確かに、枢機という存在は未知数だが、邂逅から一か月も過ぎた今では判明したことも幾つかある。その中で、モンスターに敵対されることと、自らに降りかかる火の粉は払いのけるという二つの事柄は大きな発見だ。朱恩川迷宮の件でそれは証明されている」



そう言った。カップを持ち上げて再びずずっと飲むと、



「次なる報告を待つとしよう。未だ、我々は迷宮について無知なまま。ここで考えていても仕方があるまい。通信が入り次第、即座に行動を起こせるよう準備しておくように」



「はっ」



部下たちに命令を下した。慌ただしく動く部下たちを、彼は机上で肘をつき、指を組みながら眺めている。
















「何あれ……」



数分の間平原を全速力で駆けていくと標高の高い山に辿り着いた一行は、その山を軽々と登っていくと山巓さんてん付近に開けた場所があることを発見し、そこから要塞がある方向を見た。



「……南野先生……。あれ、何ですか……?」



「……わからない……」



彼女たちがいる山は、更に奥へと繋がる山脈の端に位置している。遥かに続く山脈の果てしなさを感じなくなる程の光景が、彼女たちの目に入ってきた。



「……ここに要塞があったはずだけど……」



底が全く見えないほどの深淵が広がる超巨大な穴と、全てを灰にせんとする業火に見舞われた周囲の土地。風によって黒煙が空の彼方に追いやられ、向こうの青空は黒く染まっている。



「……あ!あそこ!」



三人が呆気にとられている中、源がある一点を指さす。山脈沿いの巨大な穴から少し離れた森林の中に、バラバラになった機械のパーツが散乱している。よくよく見ると、森林だけでなく平野部にも黒焦げになった建築物の欠片や銃火器の一部と思われるものが点々と散らばっている。



「……間違いなく、あの穴の上に要塞はあった。兎に角、生存者を探そう」



それらの証拠から要塞の有無を断定した音琴は、即座に移動を開始した。スキーの要領で山の斜面を走り落ちていく彼女に続き、弥園、源、明日香も足場を見つけながら飛び石のように山を下りていく。



「……」



四人が行動を開始し、ここからでも半径数キロメートルはありそうな穴へと向かっていくのを見届けている枢機は、後頭部を右手で掻いて溜息を吐くと、一歩、二歩と歩き出し、三歩目で大きく跳躍し百メートル以上浮かび上がり、彼女らの後を追った。

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