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シュミット子爵家

 私がミシェルに作戦内容を伝え終わったら、フィリップが音もなく現れた。さっき出ていったはずなのに、もう不正の証拠を見つけたのだろうか? それとも忘れ物か?


 そんなことよりも、私とミシェルの話を聞いていたのではないだろうか?


 私は「聞いてた?」とフィリップに尋ねた。

 すると、フィリップは半笑いで「いえ」と答えた。


――あー、聞いてたわ……


 女子トークを盗み聞きされた。フィリップは口が堅いから問題なしとしよう。

 私は本題に入った。


「それで、要件は?」

「違法薬物を輸入している子爵家を見つけました」

「相変らず仕事が早いのね」

「恐れ入ります」

「それで?」


「スラム街でばら撒いている違法薬物を輸入しているのはシュミット子爵家です」

「シュミット子爵家というと……オットー侯爵の派閥だったわね?」

「そうです」


 オットー侯爵の派閥はヘイズ王国の5番目に位置する。ウィリアムズ公爵派閥に属する貴族でなくて、私はほっと胸を撫でおろす。


「貴族のシュミット子爵家が違法薬物を捌いているの?」

「いえ、シュミット子爵家が違法薬物を輸入した後、マフィアが市場に流通させています」

「マフィアとグルなのね」

「組んでいるマフィアも、あまりいい筋ではありません」


「それにしても、違法薬物は税関でも厳しい取り締まりが行われているはず。どうやってヘイズ王国内に持ち込んでるの? 密輸?」

「保税地域を使って国内に持ち込んでいます」


※保税地域とは、外国から輸入された貨物を、税関の輸入許可が下りていない状態で仮置きすることができる場所のことです。


「保税地域は一時的に保管しているだけでしょ?」

「正規ルートで保税地域まで運び込んだ貨物(違法薬物)を、検査前にすり替えているんです」

「じゃあ、税関職員がグルになってる、そういうこと?」

「それはないです。税関はウィリアムズ公爵家の派閥ですから、厳しくチェックしているはずです」

「ということは、検査前に忍び込んで貨物をすり替えている……」


 フィリップは小さく頷いた。


 一般的な輸入品と偽って保税地域まで持ち込んだ違法薬物は、本来の輸入品にすり替えられ、違法薬物はシュミット子爵家と繋がりのあるマフィアに持ち込まれる。保税地域の管理体制が甘いことを突いて、違法薬物の密輸が行われている。


「シュミット子爵家の当主を捕らえるためには、証拠が必要ね。保税倉庫をはればいいのかしら? それとも、取引現場を抑えればいいのかしら?」

「保税倉庫には下っ端しかいませんから、意味がありません」

「シュミット子爵家の当主は取引現場には出てこないの?」

「出てくる可能性があります。違法薬物の取引額は毎回かなりの金額らしく、当主のトーマス・フォン・シュミットが来ることもあるようです」


「じゃあ、その取引現場を抑えるか……。次の取引はいつ?」

「明日の夜10時です。シュミット子爵家の保有している倉庫で行われます」

「そう。じゃあ、ロベールを連れてシュミット子爵を捕まえようかしら」

「あと、警察も同行した方がよろしいかと」

「警察?」

「マーガレット様とロベール様が違法薬物の密輸に関わっている、とシュミット子爵に言われたら反論できる証拠がありません」

「そういうこと……尤もね。じゃあ、お父様に事情を話して、ヘイズ王国警察を同行させるようにお願いしてくれない?」

「承知いたしました」


 善は急げ。私はロベールの家に向かった。


***


 私は飛行魔法でロベールの家にやってきた。玄関ドアをノックする。


「はーい!」ロベールの母親の声が聞こえる。


「夜分にすいません。マーガレットです。ロベールはいますか?」

「まあ、マーガレット様! どうしたのですか?」

「急ぎでロベールに用事がありまして」

「ロベールは孤児院から戻ってくるころです。すぐに帰ってきますから、中にどうぞ」


 私はロベールの母親に招き入れられて家の中に入った。ちょうど夕食の準備中だったようだ。食卓にミートパイが置いてある。


 ロベールの母親に「よろしければ、一口どうぞ」と言われから、私はミートパイに手を伸ばした。すると、弟のトミーに「お姉ちゃん、手を洗った?」と言われた。


――公爵令嬢ともあろう私が、手も洗わずにミートパイを食べるなんて……


消毒サニタイゼーション


 少し悔しかったから私は魔法で手を消毒した。


「トミーも消毒してあげようか?」

「うん、お願い!」


消毒サニタイゼーション


 泥遊びした後のように汚かったトミーの手は綺麗になった。


「うわぁー、お姉ちゃんすごいー!」

「そう? 簡単だから教えてあげようか?」

「うん!」


 私はトミーの手を握って、魔力を伝えた。


「手にあたたかい感触があるでしょ。分かる?」

「わかる!」

「これが魔力よ。次は、このあたたかいものに向かって『消毒サニタイゼーション』って言ってみて」

消毒サニタイゼーション!」

「ほら、できた。でも汚れが落ちたか分からないから。次はエミリにやってみようか」

「うん!」


 トミーはそう言うと、妹のエミリを呼んできた。トミーは手をエミリに向けて言った。


「いくよー! 消毒サニタイゼーション!」


 トミーほどではないものの、少し汚れていたエミリの手は綺麗になった。


「やったー! お姉ちゃん、できたよー!」

「ロベールが帰ってきたら、やってあげて」


 私がトミー、エミリとミートパイを食べていたらロベールが帰ってきた。


「ただいまー!」


 今から私のやるべきことは2つ。

 今回の作戦をロベールに伝えることと、私たちが付き合っているかを確認すること。


 私は深呼吸して気持ちを落ち着かせた。



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