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異世界転生してもまだモブだった俺が世界に復讐する話 〜全てに見捨てられた怨念たちと共に、我らの憤怒で以て罪人どもを滅ぼし世界を地獄へと変える〜  作者: じぇみにの片割れ
第3章 迷い、暗闇を歩む者たちよ

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第22話 迷える影

暗闇の中、星が一筋の光で地上に線を描く。

僕はそれを一歩ずつ歩きだす。

星の光が道を照らすんじゃない。

星の光が、道なんだ。

 目が醒める。起き上がって周りを見ると木々が生い茂っていた。森の中で眠っていたようだ。

 どのぐらい眠っていたのか。思考に対して統合意識からの自動的な返答がもたらされる。


「一ヶ月、か」


 随分と長い間眠っていたようだ。俺にとって──リヴァイアサンの表層人格たる藤原悠司にとって、眠りとは意識の表層から統合意識へと沈むことを意味する。一ヶ月もの長い間、藤原悠司の意識は表層に浮かび上がれず、また統合意識がそれを良しとしなかったということだ。


 それだけ、あの少女の死は俺たちの意識全体に深く重い傷をもたらした。どうすれば良かったのか。そんな疑問が脳裏に浮かぶだけで、何も答えを得ることができないでいる。


 あの少女が死んだところで我々の在り方に変わりはない、はずだ。一ヶ月という期間は休止するには長すぎる。

 我らは我らの務めを果たさねばならない。俺たちは立ち上がり、地理情報の知識を元に近くの街へと向かった。



§§§§



 到達したのもまた大規模な街だった。我々が沈めた街からはそれほど離れていなかったせいか、出入り口には多くの兵士が配備されて検問が行われていた。


 行商人は街にとって重要なためか手早く通されていたが、旅人の風貌しかしていない俺たちは念入りに質問をされた。旅の経路やいきさつ、滞在の目的など。所持品の確認も行われて荷物の少なさの理由も問われた。


 その全てに対して俺たちは適当な嘘を作り上げてやり過ごした。無数の意識には無数の知識が伴う。嘘をつくのは容易だった。


 正直言えば、検問など通る必要はない。この肉体はいつでも崩壊させて泥にして街の外壁を登ることもできるし、跳躍で飛び越えることだってできる。何なら兵士を皆殺しにしたってよかった。

 だけど、する気が起きなかった。殺し尽くし絶望させねばならない一般人どもに対してさえ、何をする気も起きなかった。


 俺たちは中に入るなり人の濁流に飲み込まれた。外に出ようとする人々と中に入ろうとする人々とが合流してぶつかり合い、複雑な流れとなっていた。


 力なく俺たちは流されていき、人にぶつかっては舌打ちをされたり「邪魔だ」と罵声を浴びせられたりした。本来なら憤怒を持たねばならないはずの状況にも、俺たちは何もしなかった。


 流れに身を任せたままでいると、気がついたときには路地に放り出されていた。後ろを振り返ると大通りを流れていく大勢の人間たちが見えた。前を向くと、誰もいない薄汚れた細い路地がある。

 一度だけ表通りを振り返ってから、俺たちは路地を歩き始めた。目的も定まらないままに。


 暗い路地を俺たちはただ歩き続けた。来た道もおぼつかないまま彷徨うように。

 ふと視線を上げると目の前には教会があった。路地裏に教会があることは珍しい。建築の意匠を見るに一般的に信仰されている宗教のものに見えたが、細部の違いから分派か何かだと思われた。


 俺たちは教会の扉を開いて中へと進んだ。もちろん、俺たちが神を信じているはずがない。いるのだとするならば、それは人を救う善神ではなく人を苦しめる悪神だろう。

 だから教会に入ったのは、単に歩き疲れたからだった。肉体的にではなく精神的に。


 教会の中には信者は誰もいなかった。若いシスターがひとりでいるだけだ。

挿絵(By みてみん)


「こんにちは」


 シスターの挨拶を無視して俺たちは長椅子に座り、ただ項垂れた。

 足音が近づいてきて、頭の上から声がかけられる。


「何かお悩みですか?」


 俺たちは何も答えなかった。返事をする気がないと分かったのか、シスターが遠ざかっていく音がした。

 問いが、未だに頭の中で浮かんでいた──何故、と。これまでと同じ言葉が、これまでとは違う意味で脳裏に響き続けていた。

 答えはない。俺たちの中の誰もが、答えを持っていなかった。


「……一体、どうすれば良かったんだ」


 口から勝手に独白が吐き出された。意味のない音の羅列。誰に届くわけでもない失意の言葉。全ては終わったことだった。


「やはり、何かお悩みのようですね」


 視線を上げるとシスターが立っていた。また近寄ってきたのか、それとも遠ざかったのが気のせいだったのかさえ定かではなかった。

 銀色のウェーブがかった長い髪に黄金色の瞳。あまり見たことのない人種だった。


「ここは教会で私はシスターです。お悩みや後悔なら、聞くことができますが」


 淡々とした口調で事務的にシスターは告げた。無表情といえばいいのか真顔といえばいいのか、ともかく感情のあまり見えない表情だった。

 この女に話したところで何も変わりはしないだろう。当たり前のことだ。


「あんたは、神を信じてるのか?」


 自分たちの思惑に反して、項垂れながら俺たちは口を開いていた。


「いいえ。実在は信じていません」

「は?」


 シスターが小さく首を横に振る。思ってもいない答えが返ってきてつい聞き返してしまった。


「ですが、いると信じることで救われる人がいます。私はその救いの存在は信じています」


 神はいないがいると信じ込むことで救われる。馬鹿馬鹿しい主張だった。俺たちは鼻で笑った。


「欺瞞そのものだな。詐欺師と同じ類か」

「ええ。金銭を吸い上げきるかきらないかの違いしかないと思います」


 侮辱でもしてやろうと思って言葉を放ったが、シスターは平然とそれを受け止めた。流石に少しばかり驚いて顔を上げる。こちらの言葉に動じないままシスターが続けた。


「相手を救いたいか、それとも自分が金銭を得たいか、という目的意識の違いもありますね。私は少なくともこの方法で救われる人がいると考え、行なっているだけです」

「もっと具体的に何かしてやろうと思わないのか。悩みを直接解決してやったりだとか」

「それは思いません」

「何故?」


 俺たちはシスターに無理難題をふっかけていた。悩みの直接的な解決など神父やシスターの行うことではないし、単に行いたくないだろう。

 信じて救われるなどという馬鹿げたことを言う人間を、俺たちはどうしても打ちのめしたくなっていた。半ば意地だ。

 だが、シスターの答えは想像の上を行くものだった。


「何故なら──何かを信じることでしか救われない人々がいるからです」

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