28.作戦
「へぇ~、第十二の刃……まであるんですね!」
「うむ、それは特製の仕込み武器でな……我しか扱えぬ業物なのだ。
くくく、見たいか? 見たかろう?」
「はい、是非!
ギミックが多い武器って使い難そうですけど、どんな練習をしているんですか?」
「そんなことを簡単に教えるわけが無かろう……。
ただ、鍛錬方法を編み出すまでには……五年の歳月を掛けたが、な」
「えぇっ、教えてくださいよぉーっ!!」
「――って、何でお前ら仲良くなってるんだよ……」
俺と殺し屋が楽しく喋っていると、ディアーナさんが割って入って来た。
くぅ、盛り上がっていたところだったのに……。
……今いる場所は、この街の治安隊が管理している牢屋のひとつだ。
牢屋に入れられた殺し屋に、俺とディアーナさんが面会をしに来た……という形になっている。
深夜に殺し屋を倒してから、情報屋の部下が仲間を呼んで来てくれて――
……そして治安隊と手際よく連携して、昼までに間に殺し屋を牢屋に入れることが出来たのだ。
ちなみに、治安隊の中にも元締めのスパイがいたらしい。
しかしその辺りは情報屋が上手く処理をしてくれて、殺し屋の情報が外に漏れないように手をまわしてくれた。
この辺りはさすが専門家……と言ったところだ。
それにしても、この一連の流れは見事なものだった。
やっぱりプロの洗練された手腕は、見ているだけでも感動してしまうものだなぁ……。
「――でも、ディアーナさん。
やっぱり特殊な武器とか、練習方法って気になりませんか?」
「くくく、アリシア殿……と言ったか。
話の分かる、実に良き女子よ……。
ディアーナもこうであれば、我の生活はもっと潤っていたはずなのに……はぁ」
「ああん? お前、キャラ変わってねぇ?」
「男というものは女子でいくらでも変わるものだが――
……そもそもディアーナは女子では無いからな。
女子は……金的なんぞ、狙わないからな。ああ、はしたない」
「何だとっ!?」
……いや、護身術とかを考えれば、金的は一番最初に狙うけどな……。
でも確かに、目がくらんで動きが止まった相手に、真正面から堂々とやってしまうのは――
……うん、少しどうかな、とは思う……かもしれない……かなぁ……?
「まぁまぁ、二人ともそれくらいにしてください。
ひとまず殺し屋さんには、しばらく大人しくしてもらうので――
……これからは、元締めを倒すことに集中しましょう!」
「ほう、お前たちの狙いはそれなのか……」
「はんっ!
邪魔をしようにも、お前は牢屋の中だから何も出来やしねぇぞ?」
殺し屋の呟きに、ディアーナさんは噛みついていく。
「そう吠えるな、やかましい。
親父殿が強き者であれば、負けることは無いだろうよ。
もし負けたなら……ただ親父殿が弱かった、というだけのことだ」
「ふぅん?
育ての親に、冷たいことを言うんだな」
「我は親父殿から、殺しの技しか教えられておらんからな。
そんな感情論など、くだらぬことよ。
……もし親父殿が負けるのであれば、そのときはアリシア殿についていくまで」
「は?」
俺は思わず、間抜けな声を出してしまう。
「うん? それは当然のことだろう?
我はアリシア殿に負けたのだし……それに、話も合うからな」
「ちょっと待てよ。お前を倒したのはあたしだぞ!?」
ディアーナさんの言葉に、殺し屋は冷たい視線を向けていく。
「……男の股間を狙うやつなんざ、御免だね」
「おま……! 言い方……っ!!」
……でも、実際のところ……金的で気絶っていうのは、本当に屈辱的だからなぁ……。
このやり取り、俺としては殺し屋の意見に賛同せざるを得ないわけで……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
不満を言うディアーナさんをなだめながら、俺たちは教会に帰っていった。
時間は夕方、食堂には誰かいるのだろうか――
「ただいま戻りました!
って、あれ? クロエさん、こんな時間に珍しいですね」
食堂ではクロエさんが、どこかの見取り図をテーブルに広げていた。
エマさんはそれを、じっくりと静かに覗き込んでいる。
ちなみに炊事場の方では、ベティちゃんが何かをしているようだけど……何をしているんだろう。
「おかえりなさいっす!
自分は長様にお呼ばれされているっす」
「へぇ……?
この見取り図って、どこの建物のですか?」
「ふふふ、良い質問ね。
これは、元締めの本拠地のものよ」
俺の質問に、エマさんがドヤ顔で答えてくる。
なるほど、これからのことを考えれば……かなり有用な情報だ。
「すごい、そんなものを手に入れていたんですね!
さすが情報屋さん……!」
「いや、これは自分が持っていたっす」
「へ?」
何とこれは、クロエさんが手に入れたものらしい。
……いや、既に持っていたもの……だった?
「実は自分、元締めから防犯システムの設置を依頼されていたっす!
だからあそこ、トラップがてんこ盛りなんすよ♪」
クロエさんの嬉しそうな言葉に、エマさんは難しそうな顔を見せてくる。
「まったく、教会の外で街の人のために働いているかと思えば……。
よりにもよって、何で元締めのところなのよ……」
「だ、だってぇ……。
防犯システムの一式を商品化すれば、自分の工房を持たせてくれるって――
……あっ」
「ふぅん……?」
「違うっす、違うっす……!
違くはないんすけど、違うっす……!」
エマさんの恐ろしい雰囲気に、クロエさんは圧倒されてしまう。
それにしても、これって……もしかすると、クロエさんを教会から引き離そうとしていたのでは?
「……まぁ? 最近は教会にずっといるから良いんだけど……。
今度とも、ずっとこうあって欲しいわねぇ……?」
「分かったっす……、本気で分かったっす……!
でも街のみなさんのために、たまには外出も許して欲しいっす……!」
……エマさんの圧にも負けず、クロエさんは案外粘っている。
俺としては、教会の仕事がおざなりにならなければ良いとは思うんだけど……。
「――まぁ、そういうことでね。
この辺りの情報をまとめて、あとは治安隊と情報屋さんに任せようと思っているの」
「治安隊も、ですか?」
「ええ、殺し屋の身柄を確保したなら、情報屋さんの部下を殺した罪に問えるからね。
あとはこの街を治めている伯爵様を強請っていた証拠も出て来たし……、そちらからも追及する予定よ」
「はぁ……。こうなってくると、何だか呆気ねぇなぁ。
あたしが最初からエマに相談していれば……って感じだったのかな」
ディアーナさんはつまらなさそうに、そんなことを呟いた。
「いえ、一年前に話をしてもらっていても……こうはならなかったはずよ。
時間が必要だったのと……あとはこうして、今はみんながちゃんといてくれるから……」
そう言いながら、エマさんは照れくさそうに笑った。
この笑顔だけで、俺はこの世界に転生してきて良かった……と思えてしまう。
「――……うん。
あっさり終わってくれるなら、それで良いじゃないですか」
「そうよ。だからもう、あまり危険なことには首を突っ込まないようにしてね?
さて、それで――
……元締めの身柄を拘束する日には、ちょっとしたお祭りを開こうと思っているの」
「お、良いね!
元締めの逮捕記念……ってところか?」
「違うわよ!
元締めの部下には強い人が多いんだけど、みんな兼業でね。
お祭りのときには露店とかを出すことになるから……そうしたらその分、元締めを守る人は少なくなるでしょう?」
「ああ、なるほど……。
でもそれはそれで、お祭りが終わったあとに問題が起きません?」
「組織のトップが潰れてしまえば大丈夫よ。
それに、そうさせないように情報屋さんが情報を集めてくれているところなの。
騒ぎ始めたときに、内緒にしていることを教えてあげれば……少しは大人しくなるでしょう?」
「それって脅迫じゃないですか……」
「イヤねぇ、取引っていうのよ」
話している内容に反して、エマさんの顔は明るかった。
本当に、教会の敵には容赦が無いこと……。
「あ、そうだ。さっき殺し屋さんと話をして来たんです。
多分、罰は受けてもらうことになると思うんですけど……。
……その、エマさんの懺悔室だけは……勘弁してあげたいな、と」
「あら、改心の余地があるってことかしら?
ふふふ、アリーも立派なシスターになってきたわね♪」
「いや、単純に話が合ってただけ――……痛ぇッ!?」
ディアーナさんが余計なことを言い出しそうだったので、俺は思い切り足を踏んづけてあげた。
彼女は俺を睨んでくるが、この世界には言ってはいけないことが存在するのだ。
「ただね、アリーの気持ちも分かるけど……人を殺しているわけだから。
最終的にどうなるのか、あまり期待しない方が良いわよ」
「はい、もちろんです」
……実際、そこはもう仕方が無い。
しかし殺し屋も、元締めに育てられてああなった……と考えると、やっぱり引っ掛かってしまうんだよな……。
「――エマ様、準備が終わりましたっ!」
椅子に座ってぼんやり考え事をしていると、炊事場にいたベティちゃんがやって来た。
「お疲れ様、ありがとう。
先に夕飯にしてから、そのあとみんなで準備をしましょう」
「え? 何かやるんですか?」
「ほら、さっきお祭りをやるって言ったでしょう?
案内状を出すんだけど、それにクッキーでも付けようかと思って」
「お姉さまのための生地も用意してありますから!
ベアトリスの愛がたっぷり入って――」
「却下よ、却下!
アリーに作ってあげたかったら、また次の機会にしなさい!」
「え、えぇぇー……」
ベティちゃんはいつも通り。
そんな彼女に、エマさんは自然にツッコミを入れていく。
……俺がこの教会に来てから、ずいぶん変わってきたものだ。
これからきな臭いイベントが待っているけど……それでも少しずつ、平和が近づいて来ているって感じがするなぁ……。




