表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/30

25.急襲

「おらぁッ!!!!」


 ディアーナさんは俺の懐に飛び込みながら、右腕を大きく振りかぶる。


 しかし動きは単調だ。

 俺は後ろに下がって、彼女の拳をあっさりと避けていく――

 ……のだが、ディアーナさんの左手が、間髪入れずに俺の服を掴んでくる。


 この戦いには、甘ったれたルールなんて何も無い。


 打撃はありだし、蹴りもあり。

 投げ技だって関節技だって、何でもありだ。

 格闘競技で禁止されるような、反則技すらもありなのだ。



 俺の古武術は、基本的には崩し技から入るスタイルだ。

 崩し技が無理なら、打撃や蹴り、あるいは一気に関節技から入る場合もある。


「たぁっ!!」


 伸びてきたディアーナさんの左手を捌いて、そして逆にしっかりと掴む。


 彼女の腕に体重を掛けながら、俺の身体ごと、地面に巻き込むような形で投げていく。

 そのあとは左肘を折るべく、手首を掴みながら関節を極めて――


 ……上手くいけば、戦いはこれでお仕舞いだった。


 しかし関節が極まる瞬間、俺の腕は強引に振り解かれてしまった。

 不自然な……腕力以外の力が、突然働いたような……?



「ちっ、痛ってぇな!

 何でお嬢様が、そんな関節技を知っているんだよッ!!」


 ディアーナさんは一旦距離を取ってから、即座に距離を詰めてくる。

 一発二発……左腕からジャブを繰り出しながら、フェイントを織り交ぜながら右ストレートを飛ばしてくる。


 ……本当に、ケンカ慣れをしているな。


 俺が関節技を狙ったせいか、ディアーナさんは俺に掴まれることを警戒している。

 掴んでしまえばどうにでもなるのだが……彼女の動きが(はや)くて、上手く対応することが出来ていない。

 それに加えて――


 ……実は今、俺はとても大きなハンデを抱えている。


 何せ稽古の途中……筋トレの直後に襲われたものだから、そもそも身体が疲れ果てているのだ。

 改めて考えると、一日の中で最も襲われたくない時間に襲われてしまっているわけで――



「……っと!?」


「隙ありッ!!」


 俺の足がもつれた瞬間、ディアーナさんは真っすぐに右の拳を叩き込んできた。

 拳は胸の下に当たり、呼吸のタイミングが乱れてしまう。


「ぐ……ぁっ!?」


 一撃をもらってしまったあと、俺は距離を大きく取って、殴られた場所をすぐに確認する。


 これは……肋骨に、ヒビでも入ったか。

 しかしそれくらいなら、俺は神聖力ですぐに治すことが出来る。



「……あん?

 お前、神聖力を使えたのか?」


「もちろんよ。大したものでしょう?」


「ふぅん……、見直したねッ!!」


 見直してくれたのは良いのだが、ディアーナさんは今までと動きのパターンを変えてしまった。

 ずっと直線的な動きだったのに、左右への動きが増えて、フェイントの量も大きく増えて……。


「ちょ、ちょっと!?

 あんた、動きが迅すぎない!?」


 筋トレの直後で疲れ果てた俺よりも、明らかに迅い。

 もしかしたら、疲れていないときの俺よりも――


「はんッ! お前が遅すぎるんだよッ!!」


 ディアーナさんは容赦なく、俺に打撃を与えてくる。

 俺は両手で捌いていくが、流石に全部を対応できるわけもなく……。


 反撃をしようにも、下手に近付けば距離を取られてしまうし――

 ……稽古も何もしないでこの強さなら、これは本当に……ケンカの天才だな。



「だけどッ!!」


 俺は多分、そんな天才などでは無い。

 しかし……突然現れた『通りすがりの天才』に、為す術も無くやられるほどお人好しでも無い。


 混戦の中、俺はディアーナさんの右脚を浅く刈り、体勢を崩すことが出来た。

 彼女は重心を落として(こら)えたあと、俺を投げ返そうとしてくるが――


「……うぉっ!?」


 相手の立ち上がろうとする力を利用した、俺の投げ技……『天羅』。

 情報屋を倒すときには単独で使ったが、この技は一連の攻撃の導入部分としても使われる。


 地面に頭から落とすように投げたあと、そこに蹴りを放っていけば――



「――天羅(てんら)水面蹴(すいめんげ)りッ!!」



「ちぃッ!!」


 地面すれすれを旋回する俺の脚に、強い衝撃が掛かった。

 しかしその衝撃の元は……ディアーナさんの頭ではなく、彼女が防御のために固めた両腕だった。


 ……頭から落とされている中、彼女が見せた奇跡的な受け身。

 蹴りは両腕で受けて、投げは肩から地面に転がるように受けるとは……。


「その受け方、凄いわね!!」


 俺が距離を取る間に、ディアーナさんも急いで身体を起こす。


「おい!

 今の技、あたしが受けなかったら死んでたじゃねぇか!!」


「え? そりゃ、そうだけど……?」


 ディアーナさんの問い掛けに、俺はあっさりと肯定する。


「おいおい、そっちがその気なら――

 ……あたしだって、本気を出しちまうぞ!?」


「へぇ? 今まで本気じゃなかったの?」



 俺の質問に、ディアーナさんは何も答えなかった。

 しかし一瞬後、彼女の身体がゆらりと揺れて――


「おらぁッ!!!!」


 ドガァッ!!!!


 今までよりも強い踏み込みで、俺のガードの上から拳を叩き込んできた。

 実際のところ、今までよりも明らかに迅く、一撃も重い――


 ……しかし、どこかに違和感がある……?


「痛った! 急に、何をしたの!?」


「あははッ!!

 お前になんかに教えてやるかッ!!」



 ディアーナさんの身体の使い方は、今までとは特に変わっていない。

 つまり筋肉の使い方も、動き方も関係は無い……はずだ。


「ふぅん?

 それじゃ私が勝ったあと、ゆっくりと聞かせてもらうわ!」


「勝てるつもりかよッ!!」



 俺はディアーナさんの攻撃をかいくぐり、何とか距離を詰めていく。

 相変わらず服は掴まれたくないようで、それならその意識の隙間を狙っていって――


「――『破断』ッ!!」


 大きくフェイントを掛けたあと、俺はディアーナさんの腹に掌底を叩き込んだ。


 『破断』は打撃の力を浸透させて攻撃をすると共に、力の流れを狂わせることが出来る。

 つまり例えば、神聖力などで身体の強化をしていれば……それも打ち消せるはずなのだ。


「ぐ、ぉ……っ!?」


 俺の勘は当たったようで、ディアーナさんの動きは明らかに遅くなった。

 もしかすると、一番最初……戦い始めたときよりも遅くなっているかもしれない。


「なるほど、神聖力はそういう使い方もあるんだね。

 ……こうかなッ!?」


「うぐッ!?」


 俺は神聖力を腕に込めながら、ディアーナさんに一撃を放ってみた。

 何となく強くなった気はするけど……でも、そこまでは変わっていないかな?


「んー……。ちゃんと練習しないと、ダメか」


「……くそっ!!

 お前、あたしに何をしやがった……!!」


 ディアーナさんは、彼女の神聖力が乱された原因……俺の『破断』の存在を知らない。

 神聖力の運用が突然できなくなったのだから、戸惑ってしまうのも当然だろう。


「神聖力の使い方の代わりに、あとで教えてあげるわ。

 ……あんたが負けたあとで、ね!」


 俺は彼女に冷たく言い放った。

 そんな俺に、ディアーナさんは憤りと共に大きく吠える。


「ふざけやがって……ッ!!

 くぉの……アリシアぁあああああッ!!!!」


 彼女の足がよろける中、最後の力が込められた拳を……俺は軽く弾き上げた。

 ディアーナさんのガードはがら空きだ。

 そして俺の両手も、今は自由――



「――やっと呼んでくれたね、私の名前ッ!!

 『双破断(そうはだん)』ッ!!」



 ズン……ッ!!


 鈍い音と共に、左右の掌底が彼女の腹に叩き込まれる。

 『破断』を両手で同時に使う、強力な打撃技――


 身体中の力の流れを大きく乱して、動きを完全に止めてしまう。

 ディアーナさんは倒れまいと懸命に気を張るが、よろよろと後ろずさったあと……仰向けに倒れていった。



「……強かったよ、本当に」


 気を失った彼女に、俺は一言だけ声を掛ける。

 そしてそのまま、俺も芝生に寝転がって――



 ……はぁ、疲れた。

 さて……、これからどうしようかな……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ