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24.敵

「あなたが聖女様だッ!!」

「うおぉ、マジかッ!!?」

「ありがとうございますうううぅ!!」

「き、奇跡だ……!!」

「萌えーッ!!」



 ――……やってしまった。


 最初の部屋での治療が終わったあと、ふたつ目の部屋では一気に5人の治療を試してみた。

 それが余裕で出来てしまったものだから、引き続き残り47人の治療を一気に挑戦してみたところ――

 ……何とこれすらも、余裕で出来てしまった……というわけだ。


 この建物には隠された地下広間があり、秘密の階段から入ることが出来る。

 情報屋の他、彼の部下がほとんど集まっているのだが……興奮のあまり、ちょっとしたお祭り状態になってしまった。


 しかしほとんどの人は、まだ完治には至っていない。

 これからしっかり栄養補給をして、また俺の治療を受ける必要があるのだ。



「さぁ、さぁ!

 喜ぶ気持ちは分かりますが、すぐに食事を取ってきなさい!

 全員、今日のうちに治してしまいますよっ!!」


「「「「「おおおおぉーッ!!!!」」」」」


 高揚した情報屋の大声に、部下たちもハイテンションで応じていく。


 全員を一気に治療をしている以上、治療の待ち時間は発生しない。

 だから早く食べて、早く消化して、早く次の治療に進んでもらいたい……というのは、俺も同意見だ。


 ただ、50人以上が一気に外に出ると……流石にちょっと、目立ち過ぎてしまうかな。



「あの、食事はここでしませんか?

 各自の部屋で食べる、とかでも良いですけど」


「ふむ、確かにそうですね……。

 さすが聖女様、冷静で、且つ賢明でいらっしゃる!」


 情報屋は何故か、俺のことを聖女と呼んできた。

 誰かがさっき言っていたことを、そのまま気に入ってしまったのだろうか。


「えぇっとぉ……。

 私、聖女とかでは無いんですけど……」


 実際、俺は礼拝堂にあるモノリスを手にすることが出来なかったのだ。

 いくら神聖力が高いとは言っても、条件を満たしていない称号を名乗ることは出来ない。

 いや、条件を満たしていても……ちょっと、あれだけど。



「私にはもう、どこからどう見ても聖女様にしか見えませんが……。

 ……ただ、分かりました。今まで通り『アリシアさん』と呼ぶことにいたしましょう」


「そうしてください……。

 あと、ここにいる全員にもそう呼ばせてくださいね!」


「ふぅむ……。

 このままの方が士気が上がって好ましいのですが……」


「止めさせないと、殺しますよ♪」


「……ぬぅ、承知しました。

 今晩の内に言い含めておきますので、今日だけはご勘弁を願えませんか……?」


 確かに今のところ、全てが良い方向に進んでいる。

 呼び方のせいで変な空気になるよりは、俺が一日だけ我慢すれば良いのだから……うん、今日はそれで妥協することにしよう。



「分かりました、一旦流しておくことにします。

 さて、次の治療は……1時間後くらいに始めますか」


 食事をしたあと、栄養を吸収するまでにはそれなりの時間が掛かる。

 今回用意した食事は汁系が多いから、多少は早く消化できると見込んではいるのだが――


 ……ただ、栄養素が足りなくても悪いことは起きないから、1時間おきに治療をしてみる、という流れでも大丈夫だろう。

 ここまでたくさんの神聖力を使った割に、未だに限界が見えていない状態だからな……。


 しかし栄養補給の手間を考えると、やはり治癒魔法の方が格が上……と、痛烈に感じてしまう。

 でも俺は、魔法自体が使えないっぽいし……。

 使えたら本当に良かったんだけどなぁ……。



「――それにしても、アリシアさん。

 規格外の神聖力を使って頂いておりますが、身体の方は大丈夫ですか……?」


 流石に情報屋も心配になってきたようで、俺に恐る恐る聞いてきた。


「はい、大丈夫ですよ!

 私って魔法は使えないんですけど、神聖力だけはやたらと強くて……。

 ……あ、このことは秘密にしておいてくださいね、絶対に!」


「もちろんですとも。

 こんな貴重な情報、外部になんて漏らすものですか。

 部下にも箝口令(かんこうれい)を敷いておきますので、どうかご安心を!」


「ありがとうございます!

 情報屋さんの情報の扱い方、きちんと見極めさせて頂きますね♪」


「はっはっはっ、そう来ましたか!

 ああもう、私は完全にアリシアさんのファンになってきましたよ!」


 ……うぅん?

 もしかして情報屋って、Мの人なのかな……?


 でも正直、俺としても情報屋とはずいぶん話がしやすくなってきたと思う。

 エマさんとの繋がりも既にあるし、うちの教会とはやっぱり良い関係を築いていけそうだなぁ……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 夜の20時を迎える頃には、ほとんど全員が動きまわれるくらいに回復してしまった。

 まだ痛みや違和感がある人はいるものの、それでもあと1回くらいで完治するはずだ。


 治療の合間に色々な人と喋ってみたところ、当然のことながら、とても感謝をされてしまった。

 情報屋の組織は壊滅寸前だったのだが、復活の兆しが見えて来たこともかなり大きいだろう。



「――ただ、残念ながら亡くなった者もおるのですよ。

 10人ほど……ではあるのですが」


「え? それって、もしかしてディアーナさんが……?」


「いえ、全て別人によるものです。

 元締めには、子飼いの『殺し屋』がおりましてね」


「そうだったんですか……。

 まずは亡くなられた方々のために、祈らせて頂きます……」


「……ありがとうございます。

 しかし今回は、アリシアさんのおかげで本当に助かりました。

 これからまた、私たちは戦いに向かわなければいけないのですが……」


 情報屋たちの戦いは、ようやく『負け戦』から『勝負の振り出し』に戻ったところだ。

 再び戦いをやり直して、逆転に向かうことが出来るのか、あるいはまた同じ未来に向かってしまうのか――



「頑張りましょう!

 私たちも応援しますので!!」


 『私たち』というのはもちろん、教会のシスターたちのことだ。

 エマさんを初め、クロエさんとベティちゃんも、俺から頼めばきっと手伝ってくれるだろう。


 その辺りを利用して、あとはディアーナさんを教会に連れ戻すことが出来れば――


 ……って、いやいや。

 俺の本来の目的は、情報屋と元締めの抗争よりも……ディアーナさんなんだよな。


 しかし情報屋とここまで縁を持ってしまった以上、見捨てられない部分も既に出来てしまっているわけで……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ……その次の日、俺は全員を完治させることに成功した。


 謝礼ということで大きな金額を提示されたが、それは丁重にお断りしておいた。

 俺としてはディアーナさんの問題を解決したかったため、どんな形であっても清算はまだ行いたくなかったのだ。


 それにはエマさんも同じ意見で、お礼をしてくれるなら全てが終わった後……ということで話を付けてもらった。

 情報屋としては借りが残ってしまう形になるので、何とも居心地を悪そうにしていたが……。



 ――時間は朝の4時。


 この2日間は情報屋の組織のために働いていたから、稽古に集中することが出来ていなかったように思う。

 しかし今日はようやく、満天の星空の下で、純粋に汗を流すことが出来る――



「……うん?」


 不意に、何かの気配を感じた。

 まだまだ夜の時間なだけに、肌に触れる空気は当然冷たい。


 しかしそんな中で、何かが揺れたような――



 意識を集中しようと目を閉じた瞬間、何かが俺に向かって飛び掛かってきた。

 俺は即座に腕を出し、とっさに守りの姿勢を取っていく――



 ……人間!!



 俺の腕に触れるのは、すらりと伸びた脚――


 そのまま受けてしまえば、おそらく俺の腕は折れるだろう。

 骨折をしてしまえば……自分で治すにしても、骨をしっかり()がなければいけない。


 ……そんな時間は、戦いの最中には……無い。


「はぁッ!」


 俺は蹴りが腕に触れた瞬間、腕の力を抜いて身体を翻し、身体に叩き込まれるはずだった衝撃を地面に逃がした。

 しかし全てを逃がすことは出来ず、多少の痛みが腕の芯を駆け抜ける。


 不意打ちとは言え……ダメージを残してしまうなんて、俺もまだまだだ。


 そんな反省と戒めを一瞬で行いながら、俺は飛んで来た人影の方に身体を向けた。

 人影の方も……俺に合わせるように、こちらに身体を向かわせてくる。



「――てめぇ、何のつもりだよ!?」


 聞き覚えのある声……。

 言葉を交わしたのは数度だが、俺の一番の問題点にして懸念事項――


「ディア―ナさん!」


 俺が口にした瞬間、彼女は再び俺の間合いに飛び込んでくる。


 ……(はや)い。


 動きは洗練されていないが、その分だけ思い切りが凄まじい。

 技術を知らないが故の強さ。無知が生み出す単純な力……というやつだ。



「あたしの苦労を無駄にしやがって!!

 痛い目に遭ってもらうぜ、お嬢様よぉッ!!!!」


 ……怒りの表情。怒りの声。


 彼女の目的が何なのか、俺は知らない。

 止めるべきなのか、止めないべきなのか……それすらも、全てを聞いてみなければ分からない。


 ただ、俺に戦いを挑んでくるのであれば――

 ……それは、『敵』だ。



「――ええ、分かったわ。

 あんたが何を考えているのか……こっちこそ、聞き出してあげる。

 さぁ、掛かって来なさいッ!!」



 ……何だかいつの間にか、素が出るときは『アリシア』の口調になってしまう。


 しかしそれも、悪くは無い。

 俺の外見と行動にしっくり来てしまうのだから――

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