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23.救済

 俺が連れて行かれたのは、街外れの3階建ての建物だった。

 情報屋の説明によれば、今は居住用の部屋に負傷者たちを集めているのだという。


「立派な建物ですね!」


「ありがとうございます。

 幾つかある拠点のひとつなんですが、ここで療養させているんですよ」


「へぇ、他にもあるんですか……。

 情報屋さんの組織って、思ったよりも大きかったんですね」


「ははは、おかげ様で。

 さて、早速ですが中にご案内いたしましょう」



 情報屋に続いて建物に入ってみると、そこは集合住宅……立派な感じのアパートだった。


 入ってすぐの左手側には、2階への階段が見えてくる。

 右手側にはちょっとした廊下が続き、部屋が5つほど並んでいるようだった。


 3階までずっと同じなら、101号室から305号室まである……といった感じか。


「賃貸に出したら、結構稼げそうですね」


「おや、不動産投資に興味があるんですか?

 今は地合いが悪いので、あまりお勧めは出来ませんが……」


「いやぁ、投資するほどの貯金がありませんので。

 でも、少額で確実に儲けられる話なら……よろしくお願いします♪」


「ははは、一応探しておくことにしましょう。

 ただ、下手なものは紹介できませんね。

 そんなことをしたら私、次こそは殺されてしまうでしょうから……くっくっく」


「えぇー?

 その話を今、持ってきちゃいますか!?」


 ……実際、情報屋も話してみればかなり面白い人だ。

 まぁ、今こんな関係が築けているのは……エマさんの懺悔室があったればこそ、ではあるんだけど。



「――さて、それではこちらの部屋から参りましょう」


「はーい、承知です!」


 情報屋が一番手前のドアを叩くと、しばらくしてからドアがゆっくりと開いた。

 ドアの隙間からは、強面の男性がのっそりと顔を出してくる。


「……ボス? 一体どうしたんですか?」


「怪我を治してくださる方を連れて来ました。

 全員に声を掛けなさい」


 部下に対しても、しっかりと丁寧な言葉遣いをする情報屋。

 実は俺、こういう人は大好きなのだ。


「本当ですか!? はい、すぐに――

 ……って、お前はアリシアじゃねぇか!!」



 強面の男性はドアを開けきったあと、俺の顔を見るなり驚いて飛び上がった。

 しかし俺の記憶には無い顔だから……きっと『アリシア』が、昔に何かしでかしたのだろう。


 そんなことを考えていると――

 ……俺の横から、情報屋の蹴りが強面の男性に炸裂していった。


「ばっかやろうl

 てめぇ、アリシアさんに何て失礼なことを言うんだッ!!」


「……ぐぁ? は……えぇ……?

 いや、でも……?」


 突然の上司の激怒に、強面の男性は状況を把握できていない。

 何せ『アリシア』は、問題児で有名だった上に教会の仕事をしない人間だったからな……。


 ……ちなみに怒ったときだけ言葉が汚くなる人も、俺は大好きだったりする。

 普段とのギャップが良いよな、ギャップが。


「アリシアさん、大変失礼いたしました。

 後日改めて指導しておきますので、今日のところはどうかお許しください。

 ……さて、こちらの部屋は5人部屋となっておりまして、全員が療養にあたっております」


 情報屋が激怒した空気を読んで、他の四人は奥の部屋に集まって来ていた。

 全員が包帯を痛々しく巻いており、特に脚が重症のようだ。



「みなさん、こんにちは。

 ……骨折ですか?」


 ちなみに強面の男性も、右脚をしっかりと負傷していた。

 そんな状態で思いっきり蹴りを食らったのだから……情報屋もなかなか非情な男である。


「ディアーナさんは命までは取らないのですが、骨を何か所も折っていくんです。

 流石はシスター、殺生はしない……と言うことでしょうか?」


 ……ふむ。

 ほとんど帰って来ないとは言え、同じ教会のシスターが殺人鬼だったら……俺の立場も無いからな。

 まずはひとつ、それは良かったことにしよう。


「みなさん、申し訳ありません。

 ディアーナに対して、思うところはあるかと思いますが……私の治療を受け入れて頂けますか?」



 今日は素直に、謝罪から始めよう。

 情報屋が一緒にいて、彼の命令で治療を受けても……やはり心には、わだかまりが残ってしまうはずだ。

 だから俺は、命令ではなくお願い……という形で進めていきたいと思う。


「アリシアが……謝っただと!?」

「ど、どういうことだ……!?」

「頭でも打ったのか……!?」

「そうは言ってもなぁ……」

「萌え……」


 各自それぞれ何やら口にしているが、最後の一人だけは情報屋に叩かれていた。

 ずいぶんと面白い人材も揃っているようで……。



「アリシアさんからの謝罪、強く受け止めさせて頂きました。

 ディアーナさんが主犯とは言え、裏には色々な事情がありますので……その辺りは、後日のお話とさせてください」


「分かりました。それでは早速、治療を始めましょう。

 まずは右端の方から、お願いします」


 俺は一列に並んだうちの、右端の男性の前に座った。

 折れた両脚を前に出してもらって、それが出来たら笑顔を見せる。


 状況はどうであれ、美少女が笑顔を見せれば悪い気はしないからな。


 俺が転生した直後は、『アリシア』のせいで印象はマイナススタートだったけど――

 ……これからは俺が、新しい『アリシア』のイメージを作り上げていくのだ。


 右端の男性は俺に見惚れていたが、そのまま気にせず、俺は両手をかざしていく。

 ここからあとは、毎日エマさんにやっているように……神聖力を出していくだけだ。



 ピカァッ!!



「うわっ!?」

「「「「うぉっ!?」」」」



 真正面で光を受けた男性は驚き、他の男たちは思わず目を逸らした。

 ……加減が分からなかったけど、もしかしたら強すぎちゃったかな?


「はい、これで終わりですが……。

 えっと、いかがですか?」


「ふむ……。

 ……うん、分からん」


 俺の言葉に、右端の男性は素直に答えた。

 実際、骨折はしっかり固定していれば……痛みがあるのは最初くらいだからな。


「どれ、少し歩いてみなさい」


「は、はいっ」


 情報屋がそう促すと、右側の男性は壁に手を突きながら立ち上がった。

 バランスは少し崩したものの、壁から手を離しても立つことが可能なようだ。


「あ、立てましたね!

 何か問題はありそうですか?」


「オレは怪我をしてまだ2週間なんだが……、これはかなりいい感じだな!

 体重を掛ければ流石に痛むのと、あとは何だか(だる)くなった……ような?」



 ……所詮、これが神聖力を当てただけの限界である。


 治癒の魔法を使えば一発で治せるかもしれないが、俺のやった方法では体内の栄養素を使うから――

 ……骨折なんて一発では治せないし、しっかり治したいなら栄養補給も追加で必要になってしまう。


「それでは食事をしてから、あとでまた治療しましょう

 外に屋台を出してもらっているので、お腹いっぱい食べて来てくださいね♪」


「え? 屋台……?」



 神聖力を当てただけでは多分治しきれない――

 ……それは今までの経験から、何となくは予想が出来ていた。


 そのため、このアパートに来る途中で大人数に食べさせるだけの食事を手配していたのだ。


 俺の一番のお勧めであるおばちゃんの屋台を筆頭に、結構な数の屋台が手伝ってくれている。

 ちょっとした規模になってしまったため、近所の人も立ち寄り始めているのだが……。


「呆けていないで、さっさと食べてきなさい!」


「は、はいっ!!」


 情報屋は時間が無駄にならないように、部下を次々と動かしていく。

 俺も負けないように、どんどん治療を進めていくことにしよう。



「それでは次の方!

 はい、腕も前に出してくださいね」


「はぁいっ♪」


 俺の言葉に、甘えた声で返事をする次の男性。

 情報屋はそれを見て、渋い顔で苦言を呈する。


「……気持ち悪いですね」


「す、すいません……」


 残念ながら、目の前にいるのは美少女だけではない。

 怖い上司も横にいるのだから、その辺りはしっかり意識をしていかないと……。


 ……とは言え、大きな怪我を治してくれる人間がようやく現れたのだ。

 それなら正直、テンションが上がってしまうのも仕方がないだろう。


「あはは、気にしないで大丈夫ですよ!

 ほら、情報屋さんも酷いことを言わないでください!」


「おっと、これは失礼……」


「「「「「はははっ」」」」」



 ……裏の組織ではあるのだが、流れていくのは和気あいあいとした雰囲気……。

 こうしてみると、所属している組織が表でも裏でも……みんな同じ人間なんだなぁ、と思ってしまう。


 実際、俺だって殺しの技を……『裏の武術』をずっと学んできたけど、それなりの人間性は持っているつもりだ。


 住む世界が違っていても、人間はいざとなればその垣根を越えることが出来る。

 手を取り合うことだって、助け合うことだって、何でも出来るはずなのだ――



 ……なんちゃって。



「――ひとまず全員、1回目は終わりましたね。

 食後は消化に時間が掛かるので、その間に他の部屋をまわりましょう」


「承知しました。

 ちなみに全部で57人いるのですが……今日はどこまでいけそうですか?」


「ここはもう、全員治す方向で進めましょう!」


「ありがとうございます、途中で無理になったら仰ってください。

 ……時間も遅くなりそうですし、教会には部下から連絡を入れさせますね。

 エマさんも心配をしてしまうでしょうから」


「あ、確かに……。

 それでは申し訳ありませんが、よろしくお願いします!」


「はい、かしこまりました」



 ……さて。ここまで来れば、あとは全力で治していくだけだ。

 でも正直、ひとりひとりだと時間が掛かるから……ぱーっと一気に、治したりは出来ないものかなぁ……。

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