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21.モノリス

「……はぁ、まったくもう。

 何て危険なことをするの……」


「ごめんなさい……」


 朝の5時過ぎ、エマさんに庭まで来てもらって深夜の出来事を話すと……呆れられてしまった。


 目の前には縄で縛られた男性が三人。

 エマさんからして見れば、自分よりも年下の女の子が、大の男たちと夜中に戦いを繰り広げていたのだから――

 ……そりゃ、呆れてしまうのも当然か。


 でも、パン屋で会ったときには特に強そうだとは思わなかったんだよなぁ……。

 ああいや、他の人たちが……もっと強い連中が来る可能性もあったのか。


 それを考えるのであれば、俺にも浅はかなところがあったかもしれない。

 よし、これからはもっともっと、誰にも負けないように鍛えていくことにしよう。



「アリー?

 今、『もっと鍛えれば良いか』なんて思わなかった?」


「え、凄い! 何で分かったんですか!?」


「まずは一人で戦ったことを反省しなさい!?」


「ご、ごめんなさい……」



「……すげぇ、あのアリシアを頭ごなしに叱っているぞ……」


「さすが、シスター長のエマさんですねぇ……」


「かっけぇ……」


 俺たちの目の前で、口髭の人と情報屋、最初に気絶した人がそれぞれ口にする。


 この三人はきっと、自分たちを倒した俺に恐怖を抱いているはずだ。

 そんな俺をエマさんは一方的に叱っているのだから、これはもう驚くしか無いだろう。



「あのぅ、エマさん……。

 私としては、欲しい情報を色々と聞き出せればな……と、思っているんですが……」


「……はぁ。

 アリー、いくら裏組織の人が相手でも、拷問や脅迫なんてしちゃダメだからね?」


「え? そうなんですか?」


 違法なことに手を染めるのであれば、自身がやられても文句は言えないはず……。


 昔の俺なんて、殺しの技を覚えているから……なんて理由で殺されたようなものだし――

 ……って、いや、あれは負けた俺が悪いんだけどな。



 そんなやり取りをしていると、口髭の人が突然騒ぎ始めた。


「おぅ、分かったらさっさと放しやがれ!!

 いつまでこうしているんだよっ!!」


「ば、馬鹿っ! やめなさいっ!!」


 しかしそれを制したのは、湿ったまま震え続けている情報屋だった。

 口髭の人は一瞬きょとんとしたが、それを見逃さずに冷たい目線で見下ろすと、一気に萎縮して黙ってしまった。


「うーん……。

 それじゃエマさん、この人たちは逃がしちゃうんですか?」


「本来は治安隊に引き渡すことになるんだけど……。

 ……ねぇ、情報屋さん?」


「は、はいっ!?」


 エマさんは、寒さで震えている情報屋の前にしゃがみ込んだ。

 そして目線をまっすぐに向けると、彼はさらに大きく震え始める。


「春とは言っても、こんなに濡れてしまっていては寒いでしょう?

 少し身体を温めてから、何で神聖な教会に忍び込むなんて真似をしたのか――

 『懺悔室』で、詳しく聞かせてもらえるかしら……?」


「ぐぁっ!? あ、あの……!?」



 冷たく重く、内臓をえぐるようなエマさんの声が聞こえてくる。

 そして情報屋の驚愕の声に……俺ですら、寒気が立ってしまったよ……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「……???」


 6時を過ぎたころ、クロエさんが教会の庭にひょっこりと現れた。


「あ、おはようございます!」


「アリシア殿、おはようっす……。

 ……えぇっと、こちらの縛られている方々は……?」


「昨日の夜、教会に忍び込んできた侵入者です」


「ひぃっ!?」


 俺の前には引き続き、口髭の人と最初に気絶した人が縄で縛られて座っている。

 二人とも既に観念しており、目を瞑って話そうとすらしない。



「……もう一人いるんですけど、エマさんが懺悔室ってところに連れていっちゃいました」


「ひぃっ!? ざ、懺悔室……っすか!?」


 俺の言葉に、クロエさんは震え出した。

 クロエさんの声に釣られて、二人の男も身体をびくっと震わせる。


「そ、そんなに驚くことですか……?

 ……懺悔室って、何なんですか?」


「それは……知らない方が良いっす……。

 でも、アリシア殿は大丈夫っすから!

 教会の関係者は絶対に連れて行かないって、長殿が昔、そう言っていたっすから……!」


「は、はぁ……?」


 ……一体、どういうところなんだ……?

 何やら恐ろしそうな場所だけど、俺は教会の関係者だから……まぁ、良いのかな……?



「それにしても、自分が寝ているときに色々あったんすねぇ……。

 誰も炊事場にいなかったから、一体どうしたのかと思ったっすよ」


「ああ、ベティちゃんもエマさんと一緒に行きましたからね。

 ……それならあとで、ベティちゃんにあっちの様子を聞いてみようかな」


「ベアトリス殿は、懺悔室の中には入っていないと思うっすよ?」


「でもドアのすぐ外にいれば、中の声くらいは聞こえませんか?」


「いやぁ、あそこは完全防音っすから……」


「えぇ……?」


 クロエさんの部屋も完全防音だったけど、他にもそんな部屋があったのか……。

 一体、どんな部屋なんだろう? 興味だけは、どんどん湧いてしまうなぁ……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ……8時過ぎ、エマさんが情報屋を連れて戻ってきた。

 縄は既に解かれており、情報屋は両手を大きく広げて満面の笑みを浮かべている。


 しかし――



「――信仰とは素晴らしいッ!!」



 ……とか、よく分からないことを言ってるけど……。


「エマさん、お帰りなさい。

 あのぅ……その人、どうしちゃったんですか? さっきまでとは様子が違うような……」


「神様の深いご慈悲に、感銘を受けられたのよ」


 エマさんは満足そうに説明するが、いまいち説明になっていない。

 俺はエマさんの後ろにいた、ベティちゃんにも聞いてみることにする。


「ねぇねぇ、懺悔室で何があったの?」


「聞き耳は立てていたんですが、中の声は全然聞こえなくて……。

 ……すいません、お役に立てず……」


 途端に、申し訳なさそうに謝るベティちゃん。

 そんなことないよ、と頭を撫でると、犬のように頭を押し付けてきてちょっと可愛い。



「……さて、アリー。

 そちらの二人も放してあげてちょうだい」


「え? 大丈夫なんですか?」


「情報屋さんが改心してくれたからね。

 部下の二人には、後でしっかりと教育してもらうことにするわ。

 ……それに、人気のパン屋ですもの。しっかり働いてもらわないといけないでしょう?」


「はぁ……」


 俺はとりあえず、エマさんの言う通りに二人の縄を解いていった。

 エマさんが言うのだから、こうするのがきっと一番だろう。



「度重なるご慈悲に感謝いたします。

 我ら一同、今後はルーチェットベル教会に尽くさせて頂きます!」


「え……?」

「何で……?」


 情報屋が(うやうや)しく口にした言葉に、口髭の人と最初に気絶した人は疑問の声を出してくる。

 しかしその瞬間、情報屋の拳が……容赦なく、彼らに飛んでいくのであった――




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 朝のドタバタがようやく終わって、食事も取り終わると……時間は10時を過ぎてしまった。

 俺とエマさんは食堂に残り、ここまでの情報の整理することにする。



「……ところでエマさん、懺悔室って何ですか?」


「え? アリーも掃除で、入ったことがあるでしょう?」


 場所を聞いてみると、確かに俺も入ったことがある部屋だった。

 部屋の中央が仕切られていて、それぞれの場所からはお互いの顔が見えないようになっていたっけ。


 あとは仕切りの壁に、言葉が遮られないような小さな窓が付けられているくらいだったから――

 ……クロエさんが怯えたり、情報屋が改心するようなものは何も無かった気はするけど……。


「そう言われてみれば、そうですね……?

 それで、懺悔室では何をしてたんですか?」


「懺悔に決まっているじゃない。

 だって、懺悔室……なんだから」


「はぁ、それはそうですけど……」


 それなら一体、懺悔……とは何なのだろう。

 ……でも、これ以上は聞かない方が良いのかなぁ……。



「――それよりも、ね!

 彼らの侵入した目的は、ちゃんと聞き出したから」


「わぁ、流石です!

 私にも教えてもらって良いですか?」


「えぇ、もちろんよ。

 最初に伝えておくとね、うちの教会には……いくつか貴重なものがあるの」


「貴重なもの、ですか?」


「詳しくはいずれ教えてあげるけど――

 今回狙われたのはね、『モノリス』っていうものなの」


 モノリス……。


 ……何だっけ? 聞いたことはあるような……。

 人工物だか自然物だかは忘れたけど、確か――


「……大きな岩、みたいなやつですか?」


「ううん。

 片手で持てるくらいの大きさの、黒い平べったい……そうね、岩と言えば岩かしら。

 冷たくて固いし、つるつるしていて……岩を綺麗に磨いた、とも言えなくは無いわね」


「へぇ……。それって凄いものなんですか?」


「ええ。この教会は建ってから随分と経つんだけど、その最初からずっとここにあるものなの。

 アリーも見たこと自体はあるはずよ。

 神様の像の……下の台座に(はま)っているから」


 そう言われてみれば、確かに礼拝堂の掃除のときに見たかもしれない。

 大きさとしては、手に持てるくらいの……スマホみたいなサイズだったっけ。



「……でも何で、急にそれを盗もうとしたんですか?

 やっぱり、換金目的で……?」


「ううん。情報屋さんは今、敵対している組織があるそうでね……。

 そこの『元締め』が欲しがっているみたいなの。

 そちらに盗られてしまうなら、自分たちが先に……っていうことね」


「ふぅん……?

 でも何で、私が情報屋さんに行った直後にこうなったんでしょう」


「そこで、ディナの話になってくるんだけど……。

 彼女、今はその元締めのところにいるそうなのよ」



 ……突然、話がディアーナさんのものになってきた。


 なるほど、情報屋がディアーナさんの行方を知らなかった……というのは嘘だった、と。

 そしてディアーナさんが久し振りに教会に戻ってきたことを聞いて――

 ……あとは俺からの嘘を聞いて、慌てて教会に忍び込んで来たというわけか。



「――って、あれ?

 それならもう、モノリスは盗まれているんじゃ……?」


 一昨日の夜、ディアーナさんが礼拝堂に来ていたわけだし……。

 そのあと俺は、神様の像なんてあまり見ていなかったし……。


「ううん、それは大丈夫。

 あれは神様に選ばれた聖女にしか、手にすることが出来ないからね。

 その辺りを知らないなんて、情報屋も情報屋失格……よねぇ♪」


 エマさんは情報屋のことを笑っているが、俺としてはそれよりも……ファンタジーな要素の方に注意が行ってしまった。



 ……『聖女にしか、手にすることが出来ない』。

 『選ばれた勇者にしか、聖剣は抜けない』みたいな展開なら聞いたことはあるけど――

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