ある公務員の憂鬱
表の事情が有れば、裏の事情もある。
「だぁ~~~~~~~~~~~っ! 終わったぁ~~~~~~~~~~~~っ!」
なんとか書き上げた報告書を机の上に投げ出し、椅子に仰け反り返って伸びをしながら盛大に溜息を吐く。
漸く任務から戻って、後始末を終えて一息と思ったら、今度は上司から報告書を出せと矢の催促である。
いや、わかるけどね。今後の対応やら上司の上司への報告とか色々やらなきゃいけない事もあるし。
でもさぁ、精神削られるような任務からようやっと戻った部下を、もう少し労わってくれても良いと思うの。
「おっ、稀代の女ったらしさんの御帰還か」
事務所のドアを開けて入ってきたイケメンが、俺の姿を見つけて声を上げる。
一人やさぐれていた俺の思考を、さらにやさぐれさせる一言だ。
「その言い方やめてくれ。甚だ不本意だ」
ずり落ちかけていた眼鏡を直し、声をかけてきた同僚に向かって、不機嫌さを隠す事無く答える。
仕事とはいえ、俺だって好きでこんな事してる訳じゃねぇよ。もっと普通の仕事をする人生でありたかったわ。
「そうは言ってもなぁ、お前がウチの撃墜数常時首位なのは間違いないからなぁ、『蜜蜂狩り』さん?」
そう言って俺の肩をポンポン叩きながら、不本意な二つ名を口にするイケメン。
わかってて揶揄って来るのだから、こいつも相当質が悪い。
まぁ、そうでもないとこの仕事はやってらんないのかも知れないが。
「で? 今回の蜜蜂はどうだった?」
「いつも通りだよ。司祭様のところで【誓約】かけてもらったら【解呪】して『蜂の巣』にポイだ」
表向きは『国立技術研究所』と呼ばれるそこは、俺達の間では『蜂の巣』という隠語で呼ばれている。
帝国が設立した国営の技術研究所とされているそこは、その実そう言った連中の収容施設だ。
多少なりとも吸収した知識や技術を、帝国の為に還元させようって事だな。
「そうかそうか、お主もワルよのぉ~」
同僚が悪い笑顔を浮かべる。
悔しい事に、イケメンはこんな顔をしていても絵になるものである。
「そうは言ってもさ、【誓約】が有るとはいえ、帝国の不利益になるような事をしなければ衣食住は保証されるし、帝都内に制限はされるが行動の自由も認められる。失敗して国に帰って処断されて奴隷落ち。なんて事になるよりはよっぽどマシだと思うがね」
「まぁなぁ……って、そうじゃね~よ。ヤッたのかって聞いてんだよ」
人差し指と中指の間から親指を出して握り拳を作り、俺の目の前でその親指を動かして見せるイケメン。
なんでコイツは、顔は上品なのに中身はこんな下品なのか。
「ヤッてね~よ! 」
「ヤッてないのか?」
「だから、ヤッてね~よ!」
俺の言葉に、イケメンが大仰なしぐさで肩を竦める。
「お前さぁ、上手そうな料理目の前に置かれて、『さぁ召し上がれ』ってな状況にあってだよ? それで手を付けないってどういう事よ? もしかしてついてないの? 不能なの?」
「ついとるし不能でも無いわ! 好きでもない女に手を出す趣味が無いだけだって何遍言わせりゃ気が済むんだよ!」
「そんなんだから、お前はいつまでたっても童貞なんだよ」
「ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」
的確に急所をえぐるその言葉は、思っていても口にしてはいけないと思うの。
「その反応が、事実を如実に表してるな」
「ぐぬぬ……」
生産性の欠片もない言葉の応酬の後、お互い深い溜息を吐く。
「お前のその性格は良い所だけど、難儀な所でもあるなぁ……」
「わかってるよ、そんな事……」
「大体さ、好きな女にそれだけ操を立てる位なら、とっとと告白して来ちまえば良いんじゃね~の? どうせあの司祭様だろ?」
「ばっばば馬鹿こくでねぇっ! なんで俺がアイツっていうかそ、そそそれどっ、どこ情報ですか~っ!?」
だからなんで俺の急所を的確にえぐってくるかなっ!?
「お前本当にわっかりやすいな」
「うぐぅ……」
何度も言われてるし、自覚もしてる。
けどさぁ、俺の『能力』のせいで、どうしても一歩が踏み出せない。
「どうせお前ならどんな女でも楽勝だろ?」
「そりゃそうだけどさ……それじゃ意味がないんだよ」
そう、コレに頼って好意を向けられたところで意味が無いのだ。
ソレは、その人の本心では無いのだから。
「大体さ、そんな事して付き合って何になる? それってつまるところ、『自分には彼女に好かれる事は出来ません』っていう、言わば敗北宣言じゃん。そんなみっともない事出来ね~よ」
「こんな真っ当とは言い難い仕事をしてるとさ、俺も含めて皆すれていくもんなんだがなぁ」
「仕方ないだろ、これが俺の性分なんだから」
「いや、悪いと言ってる訳じゃない。むしろ良い所だと思ってるさ。しかしまぁ、俺なんかは天職だと思ってるけど、なんでお前みたいな奴の所にそんな『能力』が顕現したのかねぇ……」
そんな事は俺が聞きたい。
俺の性格が違っていれば、コレを使ってもっと面白可笑しく生きていたのかも知れない。
だが、現実として俺の性格はこんなこんなで、さりとて今の仕事以上にこの『能力』を活かす術も知らず。
どこか鬱屈した思いを抱えながら、今日も任務に精を出している。
「はぁ……」
今日何度目かになる溜息を吐いたところで、控え目なノックの音がして、続いて静かに扉が開く。
「失礼致します」
そう言って静かに部屋に入って来たのは、少しくすんだ赤色の髪を長く伸ばし、純白の法衣に身を包み、柔らかな笑顔を浮かべた、絵に描いた様な聖職者の女性だった。
「こちらに『蜜蜂狩り』さんがいらっしゃると伺ったのですが」
軽く室内を見渡しながら彼女が訪ねる。
机に突っ伏している俺は視界に入り難いらしい。
「ああ、こいつならまた、帰って来て早々臍を曲げてますよ」
そう言って、同僚が俺の頭を突く。
その様子に、彼女は口に手を当ててくすくすと上品に笑う。
「少し彼とお話が有るのですが、お借りしても宜しいですか?」
一頻り笑い終えると、彼女は同僚に問う。
いや、なぜそいつに聞く?
「ええ、ええ。職務に不忠なこいつに、有難い説法を喰らわせてやってくださいよ」
お前も揃って俺の都合は関係無しかい。
「はぁ……」
溜息を止まることを知らない溜息の連鎖。
っていうか、こいつも溜息の原因の一つなんだよなぁ……。
「それでは、参りましょうか」
微笑みを絶やす事無く俺を誘う彼女の後に続いて廊下に出る。
「次の任務まで少し時間あるだろ? また飲みに行こうぜ」
背中にかけられる同僚の声に、後ろ手を振って答えながら扉を閉める。
少し先を歩く彼女に追い付く為、俺は少しだけ歩幅を大きくして、夕暮れの廊下を歩き出した。
§
「お待たせしました。麦酒の特大と冷茶の大になりま~す」
注文していた品物がテーブルに並べられ、店員さんが扉を閉めて出て行く。
ここは王都にある小料理屋の一角に設えられた個室。
彼女と二人で飲む時は大抵ここだ。
「よっこいしょっと」
おっさん臭い言葉を発しながら、席から腰を上げた彼女が、俺の前に置かれた麦酒の巨大なジョッキを持ち上げる。
立った姿勢のまま、片手を腰に当てて勢いよくその中身を口に流し込む。
巨大なジョッキの1/3程度が腹の中に納まったところで、漸く口を離し、実に美味そうに口元を拭う。
「か~っ! この一杯の為に生きてるよねぇ~」
先程までの聖女もかくやと思わせる立ち居振る舞いは何処へやら、目の前にいるのは、一人の立派なおっさんである。
「お前さぁ……仮にも聖職者がそんなんで良い訳?」
「仮にもって何よ。あたしはれっきとした聖職者よ。別に戒律に背いてる訳でも無いし良いじゃない。ここならあんた以外に誰も見てないんだしさ」
俺の言葉に悪びれる事も無く答え、ついでとばかりに再びジョッキを傾ける。
隣の王国で信奉されている神様と違って、帝国の神様は随分と寛大な心を持っていらっしゃる。
たとえ聖職者であっても、肉や魚はおろか、酒も煙草も禁じられていない。流石にご禁制のお薬は禁じられているようだが。
そして聖職者の婚姻も認めている。
大まかに言って、教義はたった二つ。『汝、隣人を裏切ることなかれ』『産めよ増やせよ地に満ちよ』これだけである。
「まぁ、流石に信者の皆さんの前じゃそれなりに取り繕う必要があるからね~。たまにはこうやって羽を伸ばさないと」
言いながら目の前の肉を一つ摘まんで口に放り込むと、麦酒でそれを流し込む。
「そんで~? 今回はどだったん?」
「知ってるだろ? 今回も当たりだよ。ただなぁ」
「ただ?」
「最後の最後で、その……恋人って言って良いのかな? その、相手に見つかっちまってさぁ」
「ああ~」
若干落ち込む俺に、『わかる~』とでも言いたげに頷く。
本来であれば、いつもであれば、俺の存在を知られないままに彼女を連れ去る予定だったのだ。
「もうさ、いっその事、本当の事を教えてあげれば良かったんじゃない?」
煎り豆を口に放り込んで豪快に噛み砕きながら、面倒臭そうに彼女は言う。
「馬鹿言うなよ。ただでさえ恋人を寝取られたと思って落ち込んでる人間に、『貴方が恋人だと思ってる女は、貴方の知識と技術が目的で近付いて来ただけで、貴方に恋愛感情なんて元から無かったんですよ~』なんて、止め刺すような事言えるかよ……」
「デスヨネー」
氷の溶けだした冷茶を口に含むと、少しだけ苦みが口の中に広がる。なんとなく、今の俺の心境と同じだな。なんて思った。
「なんかその……ごめんね?」
彼女にしてはしおらしい態度で謝罪を口にする。
この仕事に俺を誘ったのは彼女だから、責任を感じているのだろうか。
「いや、この仕事を紹介してくれた事は感謝してる。どの道俺の能力じゃ碌な職につけなかった可能性が高いし、少々特殊ではあるけれど、給料も良いし、良い職場だと思ってるよ」
将来の事を決めあぐねていた俺に、当時既に帝都の教会で助祭として働いていた彼女が紹介してくれたのが今の職場だ。
帝国の国家機関としては、暗部に近いその部署の名は、『国家安全保障局』その中でも、特に知的財産の流出防止を目的としているのが俺の部署。
要は、帝国の技術者や識者を誘惑し、国外へ連れ出そうとする女を逆に落として帝国に取り込む。甘い蜜を蓄えた蜜蜂を捉えるように。
ついた渾名が『蜜蜂狩り』 まぁ、大っぴらには言えない裏の仕事だ。
「そっか……ありがとね」
俺の言葉に、ほっとしたような表情を一瞬だけ見せて、それを取り繕うかの様に麦酒を呷る。
「しっかしさ~。王国も懲りないよねぇ。見た目の良い子を探してさ、標的の好みに仕立て上げて、必要であれば基本的な知識を教え込んで、そんで時間をかけて王国に連れて帰る。それが無理なら技術だけでも盗んで帰るって、どんだけ費用と労力かけてんのよ」
「まぁなぁ」
「そんで帝国に送り込んだは良いけど、毎回毎回あんたも含めた蜜蜂狩りの連中に邪魔されてさ~。最初っから自国で技術者育てれば、労力も無駄にならないのにね」
「それが考えられない連中だから、あんな無駄な事続けてるんだろうさ。尤も、よしんば連れ帰りが成功したとして、土壌の無い王国じゃ技術の伸び代もたかが知れてると思うがね」
「んだんだ」
俺の言葉に頷くと、残り少なくなった麦酒を、今度はちびちびとやり始める。
「そんで? 今回の女とはヤッたのかね?」
にんまりとした笑顔を浮かべ、左手の親指と人差し指で輪っかを作り、右手の人差し指を抜き差しして見せる。
繰り返すが、コイツの中身は完全におっさんである。
「いつもいつも言わせんな! ヤッてねーよ!」
「ヤッてないの?」
「お前と言い同僚と言い、毎回何なの? ヤッてねーったらヤッてねーんだよ!」
「はぁ~」
俺の言葉に、こいつも大袈裟に肩を竦めて見せる。
「あんたさぁ、女を連れ込み宿にまで連れ込んで? そんで話を聞いて終わり? 終わってるのは話じゃなくて男としてじゃないの? え? もしかして付いてないの? 不能なの?」
「このやり取りさっきもやったよ! 大体、お洒落な茶店の開放席で『貴女、王国の回し者ですよね(イケボ)』なんて、誰に聞かれてるかもわかんね~のに聞ける訳ね~だろ!? 聞かれたくない話をするのに連れ込み宿が一番手っ取り早いんだよ!」
「全く、これだから童貞は……」
「ど、ど、どどどど童貞ちゃう! ……あ、いや、童貞だけど……って、それならお前は処女じゃねーか!」
「はぁ? 童貞と処女の価値を同列に語らないでもらえる? 童貞には元から価値なんて無いけど、処女は寝かせた分だけ価値が上がるものなのよ!」
「そんな事言ってるうちに売れ残って、誰も入城しないまま廃墟になってから後悔すんなよ!?」
「あ、あたしは別に……そういう事するなら……あ、相手は決めてるし!? あっ……」
「あ~なんていうか……すまん……」
そっか、こいつにも意中の人が居るって事か……。
「あ~……うん……」
二人揃って熱くなり過ぎた言葉の応酬。
なんとなく気まずくて、頭を冷ます為にお互いに飲み物を口にする。
「そ、そう言えば! あんた何? 好きな女の為に操を立ててるんだって?」
気まずさを取り繕うように発せられた彼女の言葉に、口に含んでいたお茶を吹き出す。
「お、お前!? きっ、聞いてたのか?」
「きったないわね~。ん? そりゃあんだけ大声で話してればねぇ」
彼女に揶揄いのネタを提供してしまっていた事を後悔するが、時既に遅し。
ニンマリとする彼女の顔を見ながら、どうやって誤魔化すかを全力で考える。
「なになに~? あんた好きな女が居るの~? 誰々? お姉さんに言ってごらんなさいよ~」
揚げ芋を一本手に取り、それで俺の頬を突く。
そういや、こいつは昔からお姉さん振りたがる所が有ったな、同い年のくせに。
「うりうり~。どうしたどうした? いっちょ前に恥ずかしがっちゃって、か~わいい~」
―― 全くこいつは、人の気も知らないで…… ――
「あっ」
頬を突いていた芋を口で奪い取ると、そのまま噛み砕いて嚥下する。
その勢いで立ち上がると、彼女の手からジョッキを奪い取り、そこに残っていた麦酒を一気に飲み干す。
「ちょっ! あんた大丈夫?」
飲みなれない酒の苦みが口の中に広がり、腹の中がカッと熱くなる。
「お、俺だって!」
「え?」
「俺だってお前に『好きだ』って言いたいよ! でもさ、仕事とはいえ、あっちこっちの女に手を出すような事してさ! そりゃぁ神に誓ってヤッてね~けど、二人きりで連れ込み宿に入るような真似もしてて、おまけに俺の『能力』はこんなだし、もしお前の気持ちを捻じ曲げるような事があったらと思うと怖くて……だから……」
そこまで言って、力なく席に腰を下ろす。
言ってしまった、決定的な事を。
これで彼女に軽蔑されたらどうしよう。
彼女に嫌われるような事になったら、彼女に忌避されるような事になったら……。
そう思って顔を上げられない俺の耳に、かすかな衣擦れの音と、こちらへ歩いてくる彼女の足音が聞こえる。
「よっこいしょっと」
言葉と共に、俺の膝に重みがかかる。
驚いて上げた顔の後ろに彼女の手が回され、目の前には、満面の笑みを浮かべた彼女の顔が有った。
「やっと言ってくれたね」
「え……?」
「昔さ、あたしがふざけてあんたの眼鏡を外した時の事、覚えてる?」
俺の動揺を他所に、彼女が語りだす。
幼い頃、彼女はこうやって俺の膝の上に座るのが好きだった。目線の高さが一緒になるのが良いらしい。
お互いに大人になって背が伸びたけれど、こうすればあの頃と同じように目線が合う。
「あ、ああ……。慌ててばあちゃん先生のところに連れて行った時の事だろ?」
村の教会で子供達に読み書きを教えていた司祭様の事を、俺達は『ばあちゃん先生』と呼んでいた。
選定の儀でコレを授かった俺に、『魔眼殺し』と言われるこの眼鏡をくれたのもばあちゃん先生だ。
確かあの時、ふざけて俺の眼を見てしまった彼女を、慌ててばあちゃん先生の所へ連れて行って、【解呪】をお願いしたんだっけ。
彼女に【解呪】をかけた後、不思議そうに首を傾げたばあちゃん先生は、俺を遠ざけて彼女と二人だけで何やら話をしていた。
恥ずかしそうに頷く彼女と、そんな彼女に優しく笑いかけながら頭を撫でていたばあちゃん先生の姿を覚えている。
「あの時ね、ばあちゃん先生に聞かれたの。『あんたの事好きか?』って……」
「そ、それって……」
思いがけない言葉に、思わず聞き返すが、答える事無く彼女は話を続ける。
「あんたの『能力』って、人の意志を捻じ曲げて、無理矢理あんたに好意を向けさせる力だってばあちゃん先生が言ってた」
「あ、ああ……」
そうだよ、だからこんなに苦しいんだ……。
「だから……ね?」
彼女の手が俺の眼鏡を外す。
「お、おい……」
彼女の動きに合わせて、酒の匂いの中に、彼女の香りが漂う。
俺にとって、どんな蜜蜂よりも甘い香り。
「最初からあんたの事を好きな人間には、あんたのソレは効果が無いんだって」
「そ、それって……んぶっ!?」
戸惑う俺の唇に、柔らかいものが押し付けられる。
それが彼女の唇だと頭が理解する前に、彼女の顔が離れる。
閉じていた目を緒開いて俺を直視する彼女。
どれだけ酒を飲んでも酔っぱらう事など無かった彼女の顔が赤い。
「えっと……その……有難う?」
「なにそれ」
俺の言葉に、彼女が噴き出す。
なんと言ったら良いのか、俺にも言葉が見つからない。
「えっと、つまり……そう言う事……で、良いのか……?」
戸惑う俺の言葉に、彼女は頭を俺の胸元にぐりぐりと押し付ける。
「お、女からあんまり言わせるな馬鹿!、甲斐性無し!、朴念仁!」
「す、すまん!」
胸元から聞こえる罵倒に、慌てて店員さんを呼び会計を済ませる。
彼女の様子を見た店員さんがニヤニヤしながら片目を瞑って見せたけれど、一々反応している余裕は無い。
そうして二人で店を出て、どちらからともなく手を繋いで夜道を歩く。
少し涼しくなった夜風が、火照った顔に気持ち良かった。
§
その後の事を少しだけ。
相も変わらず、俺は蜜蜂狩りの仕事を続けている。
少しだけ変わったのは、任務に時間をかける事が少なくなった事。
より効率的にコレを使って、今までなら一、二ヶ月かけていた任務を一週間程度で終わらせるようになっていた。
お陰で局内の成績も天井知らずである。喜んでいいのか、少し複雑な所ではあるけれど。
同僚に、彼女との仲を揶揄われる様になった。
まぁ、方向が違うだけで揶揄われる事には変わらないので、これはどうでも良い。
一番大きな変化は、任務から帰ると、彼女が俺の部屋に居る事。
そして、『確認』と称して色々と搾り取られるようになった事。
今日も帝都を照らすお日様は黄色かったよ……。
たまにはこんなオチでも良いかな、と。
タグは全て回収したはず。