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玄武の過去 -寒い記憶-

登場人物

・ 玄武

 裏社会の過激派組織「宵の薔薇」の構成員。宵の薔薇の最高戦力である四神の一人、身内殺しの暗殺者。

 同じく四神の一人である最速の暗殺者 東 青龍の暗殺に失敗したが、「不殺」を貫く彼に命を奪われることなく見逃された。

 青龍の言葉通り、注射を打たれて少しすると胸の灼熱感と痛みが引いていった。もちろん、怪我が治ったからではなく、痛み止めによる一時的な効果だということは、胸に刺さった刃からすぐにわかる。

 生き残りたければ、今すぐ治療を受けなければならない。

 そう、生きたければ。

 ふらふらと立ち上がり足を進め向かった先は、青龍が示した生への道とは逆だった。


 ノックもなしに頑丈な扉を押し開く。

 部屋の奥にふんぞり返って座る男が一人、その左右にはアサルトライフルを持った従者が二人。

 入ってきた玄武の胸に刺さった刃を見て、男は玄武の失敗をすぐさま悟った。

「流石のお前でも、だめだったか。しかしまぁ、無様に逃げ帰ってきて……あぁいや、仕方ないか、殺してもらえなかったのか。」

 男が片手を上げた。

 銃声が一発。

 玄武の肩に銃弾がめり込み、吹き出した血が頬を赤く染める。

「失敗したならもう、お前は不要だ。――処分しろ。」

 従者二人が玄武に弾丸を撃ち込む。

 抵抗すらせずまともに十数発受けた玄武は、声も上げず、その場に倒れた――最期まで、表情を失ったままだった。


 --

 身体に細かい振動が伝わってくる。

 うっすらと目を開けると、暗闇のなかに自分と同じように転がされた死体が微かに見える。

 ――――――そうか……これが、死、なのか……。

 嗅ぎなれた鉄錆の臭いが鼻に触れる、頬を伝うのは生暖かい液体。全身が激痛にむしばまれているというのに、体は動かない、そして氷に触れているのかと思うほど寒い。

 この感覚、知っている。初めてなのに、玄武は知っていた。

 ――――――あの人と、同じに、なる……。

 ある記憶を思い出した。


 --

 玄武になって初めての仕事、スパイの容疑が掛けられた20代の青年の処刑。

 まだ疑惑段階だったため、玄武には彼の部下として調査も同時に行うことになった。

 半年間。

 半年で決定的な証拠がなければ、この件から一旦手を引くことになっていた。

 青年は「まこと」と名乗った。飄々としているが世話焼きで、自由で呑気な人だった。

 まことと一緒に、色々な仕事をこなした。まことは玄武――このときはげんと名乗っていた――がちょっとしたことでも成功すると誉めて頭を強く撫でてくれた。

 それまで殺人に明け暮れ、他者から負の感情のみを浴びせられてきた彼にとっては、初めての心地よい感覚だった――表情を出さないようしつけられた顔が、微笑みを溢すほどの。

 あと数日で、玄武の仕事が終わる――彼を殺さなくてもいいかもしれない、そう考えていると、まことから支社の屋上に来るよう呼ばれた。

 太陽が沈んで少し経った――宵の頃。

「まことさん、どうしたんですか?」

 まことは屋上の柵にもたれ掛かり、背を向けて沈みきった太陽を眺めていた。

「げん、悪いな、呼び出して。」

 振り返ってそういう彼の顔はいつもの笑顔。だが、どこか違和感を感じていた。

「おまえ、もうすぐ本社に戻るんだろ?」

 その言葉に黙って頷く。

「どうだ、楽しかったか?」

 その言葉にも、迷うことなく頷いた。殺しのない半年間、褒められ嬉しかった心地よさは、彼が今まで知り得なかった「楽しい」だと思ったから。

「なら、これからも、俺についてくるか?」

 その言葉にも、迷うことなく頷こうとした。

 だが、その先に続けられた言葉で首が止まった。


「ここから逃げよう、げん。」


 その言葉は、げんに本来の仕事を思い出させた。

「お前はまだ幼い。ここでこき使われてちゃだめだ。一緒に、逃げよう?な?」

 げんは、いや、玄武は拳銃を抜いていた。

「……そうか。」

 拳銃を向けられているというのに、一切構えることなく、その場で悲しそうな顔をした。

「お前はまだ幼い。だから、罰を受ける前に、助けたかった。」

 まことはポケットからスマホを取り出した。

「お前が本社……いや、『宵の薔薇』からの刺客だってのは気付いていた。こんな子供が、いくら貧困だからと言って働いていいわけないだろ。だが、子供で助かった。おかげで俺は、()()()()()()()()()()()。」

 殺されようとしているにも関わらず、まことは不敵に笑う。

「この会社の真実を、数々の汚職と残虐非道な現実をマスコミと警察にリークした。じきに、少なくともこの支社にいる役員連中と職員はすべて、世間から裁きを受けるだろう。君だってそうだ。いくら未成年だとしても、犯してきた罪から逃れることはできない。――もう、手遅れだ。」

 幼く、そして学のない玄武には、告げられた言葉はあまり理解できなかった。――だが、あの優しいまことが敵になったことだけは、理解できた。それと同時に、わからないことがさらに増える。どうして裏切ったのか、どうして今さらそんなことを言ったのか、だけど、これらを言葉として認識することはできない。

「……どうして。」

 だから、玄武の口から曖昧な疑問として零れる。

「どうして、か。」

 まことは彼なりの解釈で答えを告げた。

「今度こそ、救えるかもしれない。そう思ったからだ。」

 天を仰いて言葉を続ける。

「みのるは、俺の弟は誘拐され、『宵の薔薇』に洗脳され、軽い駒として扱われ、ゴミのように捨てられた。げん、お前と同じだよ。お前の末路は――」

 顔を戻し、いつになく真剣なまなざしで玄武を見つめる。

「――紙人形よりも軽く、壊れるまで使い潰され、いらなくなったら簡単にごみ箱に捨てられるような、ただの安い道具だよ。」

 拳銃を構え微動だにしない玄武に、まことは近づき膝を折り、手を伸ばす。

「そんなの嫌だろ?だから、それを捨てて、こっちにおいで。」

「……四神 玄武。」

 初めて、自分から正体を明かした。

「……俺は、この生き方しか、知らない。」

 銃を人に向けるのは初めてではない。なのに、手は震えていた。

「ははは……そうか、お前があの粛清者だったか。やっぱり、『宵の薔薇』の洗脳は強いな。こんな幼子を、残虐非道で、冷酷な粛清者に仕立て上げるんだから。」

 まことは立ち上がる。

「分かっちゃいたさ。今ここから無事に逃げられたとしても、どうせいつか、宵の薔薇の追っ手に殺されるだろうって。だったら――」

 玄武が握る拳銃の銃口を胸に当てさせる。

「――せめて、お前の洗脳を解く、切っ掛けになってやる。」

 いつもみたいに、その大きな手が玄武の頭を撫でる。

「大切な人を失う哀しみを、恐怖を知れ、げん。」

 ――――――殺したく、ない。

 初めて持った意思、初めて感じた嫌悪感。

 しかし、玄武の指はそれらとは関係なく動く。


 鋭い銃声が響いた。


 まことの身体が玄武に覆いかぶさる。

 その大きい体に空いた穴から、どくどくと生暖かい血が溢れ頬を濡らす。鉄の臭いが鼻に触れる。

 玄武は、動かなかった――いや、動けなかった。重くのしかかるその身体を、ただ受け止めていた。

 今まで数多くの人を殺してきた。撃ち抜いた相手が死んでいるということは知っている。だが、それがまことが死んだということとうまく結び付かなかった。もしかしたら、いつもみたいに、笑って、頭を撫でて、優しい言葉をくれるんじゃないかと。


 どれ程時間が経っただろうか。

 日はすっかり沈み、冷たい夜風が肌を突き刺すように吹く。


 頭からずるり、と手が落ち、玄武の手に触れる。その手は、今までのような心地よい暖かさは欠片もなく、氷のように冷たかった。

 ――そこで、ようやく気付いた。

 自らが奪った命が、もう、動くことも言葉を発することも無いということを。それが、大切な人との暖かい日常を自らの手で壊したことを意味すると。

「ぁ……っは……」

 その事実を理解した瞬間、息が吸えなくなった。呼吸の仕方が分からなくなってしまった。

 足腰から力が抜け、その場にへたり込む。まことの体がいつの間にかできていた血溜まりに落ち、飛沫が飛ぶ。

「ま、こと、さ……」

 ガクガク震える手を伸ばし顔に、手に触れるが、あの温もりは微塵もなく、ただただ冷たい感触だけが伝わってきた。

「さむ、いの……い、や……」

 どこを触っても人の肌とは思えないほど冷め切っている。玄武が触れていた部分だけがかろうじて体温が残っているが、それもすぐに温度を失っていく。それなのに、穴から零れる血だけが妙に生暖かい。

「い、や……っは……さ、むい……っ……いゃ……」

 息が吸えずゆっくりと溺れるように苦しくなる。視界が揺れ、ぼやけていく。

 冷たい体の上で一人、伝わる寒さに震えながら意識を失った。


 --

 痛む腕を動かして顔に、体に触れるが、その何処もがひんやりと冷たい。

 ――――――寒いの……嫌、だ……

 過去のトラウマが、死に体を動かす。

 幸い、自分の体はバンのドアのすぐ近くだった。それに、もう死んでいるから拘束もされていない。

 死体を運搬するための車なので、中から開けるのも容易だ、また、運転席の人間もこちらの様子は簡単には確認できない。

 僅かな力を振り絞ってハンドルに手を伸ばす。

 ごとり、と低い音を立ててロックが外れ、ゆっくりとドアが上がる。

 身を乗り出そうとしたら振動でそのまま外に放り出された。受け身をとる力は残っておらず、アスファルトに全身を打ち付けながら転がる。

 バンは少しまっすぐ進むと、左に曲がっていった。

 外は寂れた町だった。

 深夜だから人気は皆無。店も全てシャッターが下りている。光が灯っている家もない。ただ街灯だけが等間隔で周囲を照らしていた。

 通信機、凶器の類いは全て抜かれている。処分が面倒なのだろう、血だらけの服は剥ぎ取られていなかった。

「さむ、い……」

 外気の冷たさが余計に身に染みる。

「や、だ……いや、さむい……」

 玄武にはもう、この寒さから逃げる手段も体力も無かった。


 本来ならば、バンに載せられていた時点で死んでいただろう。

 たまたま目を覚まし逃げのびたところで、苦しい時間が長引くだけだったはず。

 ――何の因果だろうか。

 偶然、玄武が倒れている路地に黒塗りの乗用車が通りかかった。

「おいおい、こんなところに行き倒れがいらぁ。」

 倒れている玄武に気付き降りてくる影が二つ。

「おい兄ちゃん、大丈夫か?」

 一つは筋骨隆々な若い男。

「こんなところで寝とったら、危ないぞ?」

 もう一つは着流しに杖をつく初老の男性。

 そして、二人とも普通の人間とは違う異質な空気を纏っている――彼らも、裏社会の人間だった。

 だからだろうか、玄武の悲惨な現状を見ても、そこまで狼狽はしなかった。

「……って、こりゃ、死んでるな。」

 流れる血すらほとんど枯れてしまった、穴だらけの身体を見た若い男は玄武を抱き起す。彼らもすぐに気付いた。銃に撃たれた彼が裏社会の人間であることに。

「どこのだれかさんは知らんが、ここに放っておくわけにもいかんのぅ。」

 初老の男が連れて帰ると若い男に言おうとしたそのときだった。

「……ぅ……ぁ……」

 玄武が微かにうめき声を上げた。

「なっ……!」

 まだ、微かにだが生きていた。

「ゃ……さ、む……ゃ……」

 息も絶え絶えに、悲痛な声で訴える彼を、この二人は放っておかなかった。

 初老の男はすぐさま懐から携帯を出し、どこかへ電話を掛ける。

 若い男は車に乗り込み玄武をシートの上に寝かせ、焼け石に水と分かっていながら手当てを始める。

 搭乗者が1名増えた車は、急発進して闇夜に消えていった。


 --

 規則正しい電子音が意識を覚ます。

 うっすらと目を開けると、見覚えのない白い部屋。視界の隅には沢山の管と機械。

 ――――――ここは……病院……?

 覚えている記憶を辿る。

 ――――――青龍に負けて、そのまま上に報告に行ったのは覚えている。どうせ、一度でもミスをした、ましてや四神相手に負けた以上、立場的にも生かしておくはずがない。だから、逃げても無駄だと、そして、ここで最強になれない以上、もう、生きる意味もないと、死にに行った。そして、報告後にそのままハチの巣にされた。

 そこで、記憶は途切れている。

 ――――――一体誰が、何のために生かした?

 その答えは来訪者が持ってきた。

「お、目、開いたな。」

 入ってきたのは見知らぬ筋骨隆々の若い男。その後ろには同じく記憶にない初老の男性。

 目にした瞬間、二人が裏社会の人間であるとすぐに見抜く。

 ――――――敵対組織の人間か?いや、それにしては殺気がない……。

 もっとも、敵だったとしても今の玄武では文字通り手も足も出ないが。

「おーい、意識はあるか?」

 若い男が玄武の前で手を振る。

 ――――――意識は、何とかあるが……。手も足も動かないし、声も出せないし、どう反応しろと……。

 一応、瞬きをしたり、視線を動かしてみるが、上手く意図は伝わっていないようだ。

「って、まだ動けねぇか。」

「目がこっち向いとる。意識はあるみたいだのぅ。」

 老人には玄武の目線の意図が伝わったようだ。

 二人が傍に腰掛ける。

「とりあえず一安心かのぅ。Dr.マッシュ、よくやった。」

「正直、奇跡だけどねぇ。とはいえ、まだ油断はできないかなぁ。もう数日は、待ってもらうことになりそうだねぇ。」

「ふむ……。まぁ、とりあえずは安心してよいぞ。誰に襲われたかは知らんが、お主の敵はそう簡単にはここを見つけられん。ゆっくり休むといい。」

 ――――――死んだと思われてるはずだから、襲われることはないと思うが……

「儂らは『連合』だ。お主が岐阜の町で倒れとったのをたまたま見つけて連れ帰ったんじゃ。治療が難しかったもんで、大阪まで運ばせてもらったよ。」

「と、いうわけで、安心しな。俺が守ってやっからよ。」

 ――――――多分、襲われることはないから守る必要ないんだが……。あと、何が「と、いうわけで、」なんだか……。

 それから5日経ち、ようやく容体も安定し身体もある程度は動かせるくらいには回復した。もっとも、今度は熱で頭がすこし朦朧としているが。

 身体も熱も少し落ち着いた昼下がり、また彼らが来た。

「助けていただき、ありがとうございました。」

 そう言う声は、玄武自身でも驚くほど感情が乗っていなかった。向こう側もそれに気づいているだろう、だが、何も言わなかった。

「この間も言ったが、俺たちは『連合』だ。知ってるか?」

「……すみません……。関西にある組織の一つ、ってことしか、知りません。」

 玄武はその職務上、あまり外の事情を知らない。5,6年前に宵の薔薇のフロント企業関西支部に行ったときに、誰かが話しているのを聞いたことがあっただけだった。

「まぁ、簡単に言えば、裏に踏み込み過ぎた極道組織みたいなもんだな。うちは、表でも裏でも居場所を無くしたり追い出された爪弾きもんが集まってできてんだわ。」

 これは後で知ったことだが、日本の裏社会では五本の指に入るほど有名な組織だった。規模は決して大きくはないが、実力者が揃っている強大な組織であること、加えて連合の性質上、非常に仲間意識が強く手を出そうものなら完膚なきまでに叩きのめすほどの過激派であると同時に、弱きものに手を差し伸べる器の広さも持つ、「人情」の組織だった。

「俺は射掛だ。十二神将 亥の神将をやってる。あ、神将ってのは、うちの組織での最高幹部みたいなもんな?こっちの爺さんも辰の神将、辰爺だ。」

 つまり、玄武の前にいる二人は、彼を助けた二人は組織のトップだという。

 期せずしてとんでもない大物に会ったなと他人事のような感想を抱いた。

「……では、あちらのお二人は、従者か何かですか?」

 弱っていてもその実力は陰りを見せることはない。ベットから身体を起こさなければ分からない、絶妙な位置から自分たちを見つめる人が二人、その気配に気づいていた。

「いやぁ、凄いね、君。」

 鹿撃ち帽を深くかぶり目を隠し、口元にはいたずらっ子のような薄ら笑いを湛える青年がこちらに寄ってきた。彼とは初めてあったはずなのに、飄々としているが人懐っこそうな雰囲気を、よく似た人物を知っている気がした。

「射掛さんから面白い拾い物をしたって聞いたから遊びにきた、只の野次馬だよ。僕は乱歩。気が向いたら覚えてよ。」

 もう一人は射掛と同じくらい長身で、髪を結ってもなお膝裏まで届くほどの濡れ羽色のまっすぐな髪、そして黒い丸眼鏡で瞳を隠した女性だった。

「乱歩と同じく。ハチの巣にされて生きてる人間がいるっていうから、見に来ただけだ。――こりゃ当分、飽きなさそうだな。俺は黒兎だ。」

 グラス越しに目を細めた黒兎を見て、ぞくり、と背筋を撫でられたような、えも言われぬような恐怖を感じ、両手に思わず力が入る。普段だったらナイフを抜いて構えていただろう。

「さて……何から聞こうかのぅ。」

 辰爺の言葉で、乱歩と黒兎が隠れていた理由が分かった。

 尋問には情報を聞き出す役とその情報が正しいかを見分ける役がいる。この二人は後者だったのだろう。

「とりあえず、名前聞こうぜ、爺さん。」

「おぉ、そうじゃな。まだ名前、聞いとらんかったわ。」

 隠す理由がなかったので、正直に答えた。

「……宵の薔薇、四神 玄武……でした。」

 玄武の答えに、各々は軽く眉を上に上げた。

「四神って、宵の薔薇の最強格だろ?何であんなとこに転がってんだよ。」

「射掛さん、それは失礼だろ。」

 そう言いつつもけらけら笑う乱歩。

「……仕事で失敗して、処刑されて捨てられるはずだったんです。……それがなぜか、今、生きてるみたいですが……。」

「安心しろ、心臓動いてるぜ。よかったな。」

「流石宵の薔薇。四神でも一度のミスで処刑かよ。えげつねぇな。」

 宵の薔薇の外での評判を初めて聞いた。どうやら、かなりの悪評のよう。心当たりは、無限にあるが。

「ほかに、聞きたいことはありますか?俺が知っていることは少ないですが……なんでも答えます。」

「へぇ……。えらく従順だね?」

 玄武には反抗する理由もないし、頼んではいないが助けられた以上、何かしらの対価は支払うべきだ。金も、武力もない彼にとって差し出せるのは、情報だけだった。

「……あなたたちが見ず知らずの俺を助けたのは……こんな俺でも、まだ、利用価値があるからでしょう?」

 その言葉に、黒兎以外の三人から笑みが消えた。

「こりゃあ、とんでもない拾い物をしたなぁ、射掛、爺さん。」

 黒兎だけが困ったような呆れたような笑みを浮かべていた。

「ま、まぁともかく。玄武く――」

「違う。」

 鋭く、殺気すら感じる声。

 呼ばれた瞬間、口が動いていた。

「……もう、俺は、玄武じゃ、ない。」

 自分でもなぜ否定したのか、その理由は分からなかった。

「ふむ……なら、どう呼ぼうかねぇ……。」

 突然の横暴な言葉にたいしても、彼らは特に不快感を示すことはなかった。

「なら、とりあえず『へび』でいいんじゃない?玄武って、カメとヘビがフュージョンしたやつでしょ?で、どうみてもカメって顔じゃないし。」

「そうじゃな。()も空いとるし。」

 辰爺の『席』の意味が分からなかったが、尋ねる前に話が変わった。

「して、お主、この先、行く当てはあるかのぅ?」

 宵の薔薇しか知らない、宵の薔薇が玄武の全てだった。その宵の薔薇に捨てられたのだ、行く当てどころか、この先の生き方すら分からない。

 玄武あらためへびは、首を横に振った。

「そうか。なら、お主さえよければ、連合にいるといい。」

「……どうして。」

 宵の薔薇は元玄武が生きていることを知らないだろう。だが、もし知ったら処分しに来るだろう。その時は、連合もただではすまない。

「嫌か?」

「……い、いえ、嫌、ってわけではなく……。」

 へびが思っていることを上手く言葉にできない。

「……な、なんで、俺なんかに、その……リスクだって、いや、リスクの方が大きいのに……。」

 射掛の大きな手が頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

「お前は捨てられたんだろ?だったら俺たちが拾ったって、なんの問題もない、な?」

 理屈としては何も間違っていないが、いや、それは、助けた理由にはならない。

「射掛さん、へびくんはそんなこじつけが聞きたいわけじゃないと思うよ。」

 乱歩が射掛をぐいと押しのけ帽子の影からへびを覗きこむ。

「僕たちは理屈で動いているんじゃない。僕たちは、君を助けるのが正しいと『感じた』から、助けたんだ。リスクとか利益とか、そんなもの、どうでもいいんだよ。弱っている人がいたら、助けを求める人がいたら、手を伸ばす。それが、僕たち『連合』だ。」

 ね?と乱歩は射掛と辰爺に問いかける。

 へびにはわからなかった。

 命令以外で自分から行動したことなどないへびには、命令の実行だけが「正しい」ことで、自分の中から何かを感じて行動することが、理解できなかった。

「好きなだけ、ここにいるとよい。儂らは、お主を歓迎する。」

「っていうかぶっちゃけ、連合は万年人員不足だから、君みたいな超つよつよな人間は喉から手が出るほど欲しいんだけどねぇ。」

「おい乱歩、今のでいい話が台無しじゃねぇか。」

 黒兎が呆れたように口を開く。

「どっちも事実じゃん。誰であれ射掛さんと辰爺さんは助けてただろうし、宵の薔薇の四神なんて、滅多にお目にかかれない人材じゃん、喉から手が出るほど欲しいでしょ?」

「四神っつったって、ホントに強いかは分かんねぇだろ?玄武ってこったぁ、『身内殺しの暗殺者』だ、最低限の能力はあるだろうが、外で通用するかは分かんねぇぞ。――そもそも、そこまで回復するとは限んねぇし。ま、今生きている時点で、ゴキブリ並みの生命力だってのは認めるけどな。」

「黒兎さんのいじわるー。そもそも、無理に戦わせる気ないし。事務員でもなんでもいいから、とにかく人が欲しいの。」

「そういや俺、あんまし宵の薔薇の四神を知らねぇんだけど、俺らで言うと、どれくらい強ぇんだ?」

 射掛が首を捻る。

「随分昔じゃが、10年前か、一回だけ宵の薔薇の白虎を名乗る若造が仕掛けにきたことがあるぞい。そんときは先代の寅が相手して追い返したのぅ。」

「何それ辰爺、トラトラ対決じゃん、ウケる。喰虎の前ってことは、虎牙のおっちゃんか。老兵とはいえ、相当じゃねぇか?」

 へびはへびで、目の前の彼らが、神将が宵の薔薇の四神に匹敵する強さを持っていることに内心驚いた。もし、彼らが自分に敵対したら、勝ち目がないかもしれない、と。

 乱歩が身内話を手を叩いて中断させる。

「そんな過去の話じゃあ、へびくん本人の実力が分かるわけないじゃないか。へびくんはへびくん、白虎じゃないんだから。」

「じゃあ、どうすんだ?」

「簡単な話だよ。彼をこんな風にしたやつを――失敗した仕事ってやつを聞けばいい。」

「……乱歩、お前は鬼か?そんなもん、思い出したくないだろ。少なくとも、今じゃないだろ。」

「つまり、今、そんなことを考えても無駄ってこと。どうせすぐに、彼の強さなんてわかるんだか――」

「……四神 青龍。」

 へびが呟く。

「……暗殺の四家 斬殺の東家の剣術を使う少年、東 青龍。俺が殺せなかった、裏切者です。」

 今のは自分に対する質問。そう思って端的に答えた。

「東、じゃと……?」

「宵の薔薇、最強の暗殺者、だって?」

「東 青龍が裏切り、か。てめぇ、とんでもない爆弾抱えてんな。」

「くくっ。噂で聞いたことがあるよ。あの宵の薔薇が買ったっていう、実験体だろう?」

 青龍の名に対し各々が反応する。

「……彼を殺せなかった、ということは、その程度、ってことです。」

 一方へびは負けたことが相当ショックらしく、自虐気味に言葉を付け足した。

「その程度、って君ねぇ……相当凄いことやってのけてるんだよ?宵の薔薇だって馬鹿じゃない、勝算も無しに兵を突っ込んだりしない。つまり君は、勝てるかもしれないと思われて送り込まれたわけだ。それだけで相当の実力者だよ。誇りたまえ。」

 そういわれても、へびの顔が晴れることはない。

「宵の薔薇の四神といえば、組織の幹部だろう?それが裏切りってのも面白いことになってるね?その青龍は一体、何をやらかしたんだい?」

「……青龍は、今までターゲットを生かして帰していました。」

「わぁお。そりゃまた大胆なこった。」

「で、処刑人としてお主が抜擢されたってわけか。なるほどなぁ。噂しか知らんが、相当な手練れじゃろうて。ご苦労だったな。」

「……え。」

 思わぬねぎらいの言葉に、心臓が跳ねた気がした。

 辰爺の懐から、携帯のアラーム音が鳴る。

「おぉ、もうこんな時間か。すまんな、この後用事があってのぅ……。また来るわい。次は、何か土産もんでも持ってくるか。へびくんや、甘いものは好きかね?」

「……えっと、まぁ……。」

「辰爺さん、彼は当分病院食です。勝手に物を食べさせないでくださいよ。あなたじゃないんですから。」

 回診に来たのであろう、Dr.マッシュがやってくる。

「ちっとくらいいいじゃろ。」

「持ってくるなら、本とかゲームとか、暇つぶしグッズにしてくださいね。」

「しょうがないのぉ。」

「んじゃ、俺の筋トレグッズでも――」

「当分は絶対安静なので、そんなもん、すぐ取り上げますよ。」

「わぁかったよ。じゃあな、へび。また来るよ。」

 そうして彼らは病室を去っていった。


 --

「さて、お前たち。へび君をどう思う?」

 病院の帰り道、5()()()()()を乗せた車の中、緊急で神将会議が開かれた。

「宵の薔薇の四神 玄武だってのは、本当だろうな。」

 真っ先に口を開いたのは黒兎――卯の神将。

 彼女は演技力と変装技術を駆使して敵の懐に入り込む理知的な面と、鮮やかでありながら苛烈な中国拳法の蹴りで相手を殲滅する暴力的な面を併せ持つ武闘派の一人。短気で気まぐれな彼女が動けば最後、相手は悉く嬲り殺されるため、連合の「厄災」と言われている。もし彼女が戌の神将ならば「狂犬」と、辰の神将ならば「逆鱗」とでも呼ばれていただろう。

 彼女は演技や潜入技術の副産物として、心理学や精神医学の知識を得ている。その知識を活かすために今日の視察に同行させた訳だ。

「とはいえ、宵の薔薇、か……。厳しいな。」

 連合は、特に辰爺はいろんなところから人材を拾ってくる。過去にも何人か元宵の薔薇の人間を拾ってきた。だが、彼らのほとんどが何かしらの強烈な洗脳を受けており、黒兎が解除を試みたものの、完全に治すことは出来なかった。何とか普通の生活ができるレベルになればいい方だ。結局、洗脳に抗えず自殺した人も多かった。

「視たところ、大分重症だな、あれは。」

 黒兎でなくてもそれは明らかだった。仮面のように微動だにしない表情、抑揚がなく覇気の無い声、自分を異様に卑下する物言い……精神的に色々と問題を抱えているのは、誰が見ても明らかだった。

「ま、だいたい僕の推理通りだったでしょ?」

 乱歩――探偵をリスペクトした出で立ちの彼も、へびの前では明かさなかったものの神将の1人――戌の神将だった。彼の役割は一応、密偵ということになっているが、本分は探偵、情報からありとあらゆる事実を解き明かす。彼の前では、どんなに巧妙に隠された事実をも丸裸にされる。彼もまた黒兎と同じく、真実を明かすために呼ばれていた。もっとも彼は、見る前からある程度は事実を見抜いていたため、単に野次馬精神でついてきていたが。

 彼は行きの車で、射掛の話と医者から送られてきたカルテからこう推理していた。


「彼の傷は刺し傷2か所と銃創十数か所、擦り傷の三種類。致命傷は銃創、辺りには銃痕がなかったから別の場所で撃たれたと考えるのが自然だろう。血痕もなかったって話だし、道路で倒れてたってことは車で運ばれてたけど何かのはずみで車から転がり落ちて、その時に擦り傷ができたってことじゃないかな?となると、怪我の順番は銃創→擦り傷の順番になる。

 問題は刺し傷だ。銃撃の前か、それともあとか。銃で撃った後に止めで刺したって考えるのが順当だけど、そうなると左手にも刺した意味が分からない。腕の銃創から無抵抗――ガードせず一方的に撃たれたみたいだし、刃物はギリギリ致命傷を避けたように刺さっていたようだ。だから、刺し傷は銃撃の前だ。

 彼は、誰かとの戦闘で刺された、だけど、それで死ぬことはなかったから銃で撃ち殺された。で、死体として捨てるために移送されている途中で車から転げ落ちたってところだろう。

 サンタさんの見解だと、あの道は東京方面から岐阜に行くときに使う道らしいから、組織相手なら大きいところだと『宵の薔薇』、あとは『夕星』か。でも、夕星だったら、こっちの方じゃなくて、岩手とか青森とか、そっちの山奥の方が近いだろうから、可能性としては宵の薔薇かな?それか極道系か。でも、極道だとマシンガンなんて使うかなぁ?流石に町中でぶっ放すわけにもいかないし、それを隠蔽できるほどの力もないだろうに。僕たちほどじゃなくても、そこそこの規模で裏に深くかかわる組織関連だろうね。」


「少ない情報だったけど、まぁ、これくらいはね。相手が噂の東 青龍だとは思わなかったけど。」

「倒れていた位置的には、東京方面から来たってのは分かってたから、組織相手だったら宵の薔薇じゃないかって予想は、当たってたな。」

 サンタ――子の神将であり、運び屋兼武器屋の壮年の男が運転しながら答える。

「あの青年、えらく人間味がなかったな。宵の薔薇の玄武だって話だから、当然といえば当然かもしれないが。」

 彼は車内で黒兎のサングラスにつけられた小型カメラから撮影されたへびの様子を見ていた。

「とはいえ……印象とはだいぶ違った。」

 サンタはその役割上、日本中の噂が自然と集まってくる。

「宵の薔薇の玄武といえば、裏切者の粛清が主な仕事だが、裏切りの定義は宵の薔薇にとって都合が悪いってことだ。だから、玄武は今まで善人でも容赦なく殺してきただろう。どれほど残忍で非情な人間かと思ったが、あの素直で気弱そうな青年が玄武だなんて、正直信じられん。」

「それは俺も同感。あのガキが、とても人を殺せるとは思えんかった――あの声を聴くまでは、な。」

 それは、へびの「違う。」の一言。

「あぁ、あの声、だいぶ殺気が乗ってたのぅ。思わず刀を抜くところじゃった。」

「喰虎とはまた違う殺気だったぜ。」

「だろうなぁ。あれは、間違いなく殺し屋じゃ。それも、相当数、殺っとる。」

「玄武になるのも、一苦労だろうぜ。それを、あの若さってなぁ。あ、しまった、年齢聞くの忘れたな。」

「僕や喰虎くんよりもちょっと上か……あーいや、同じくらいかな?」

 辰爺がふぅ、と息を吐く。

「どうじゃ。儂はあやつを迎え入れようと思っとるが、ほかの皆はどうじゃ。」

 彼の『迎え入れる』はただ組織に加えるという意味ではない。十二神将に任命するという意味だ。

「おいおい爺さん、流石にそれは早すぎないか?」

 彼の問いかけに真っ先に否を唱えたのは射掛だった。

「そりゃああいつに悪意はなさそうだけど、信用するには日が浅すぎやしないか?」

「もちろん、今すぐとは言わん。だが、できるだけ早くした方がよい気がするんじゃ――のう?黒兎や。」

「はっ!それを俺に言うか?」

 黒兎は鼻で笑う。だが、辰爺は鋭い眼光を黒兎に飛ばす。その視線に耐えかねたのか、黒兎は意地の悪い笑みを止める。

「……爺さんの予想は当たりだよ。神将じゃなくてもいい、とにかくすぐに生きる目的を与えなきゃ、あいつは勝手に死ぬよ。」

 若い乱歩と射掛は意味が分からず首をかしげる。

「ガキどもには分かんねぇだろうよ。――あの目は、死人の目だ。」

 そういう黒兎の言葉には、いつもの嫌味や悪ふざけは一切ない。

「乱歩、てめぇは行きの車で、『なんで銃撃の時に一切抵抗しなかったんだろう?』ってほざいてたな。答えは簡単だ、青龍を殺せなかった挙句、手加減されて生かされたガキは、わざわざ失敗したって報告して殺してもらおうとしたんだよ。だから、一切抵抗しなかったんだ。」

 その言葉には、心底不快感が込められている。

「そんなガキが生き残ってどうする?どうせまたすぐに死のうとするだろうさ。だから言ったんだ、とんでもねぇもん、拾ってきたな、ってなぁ!自殺願望持ちのガキの面倒なんざ、クソほど手がかかって嫌なんだよ!まったく。面倒見るこっちの身にもなれ!」

「くくっ。黒兎さん、ちゃんと面倒見る気はあるんだね。」

「……見捨てたら、寝覚めがわりぃだろ。」

「つまり、死ぬに死ねない状態をすぐに作らないといけない、ってことでいいのか?」

 射掛が年長者の思考をようやく理解する。

「そうだ。何かしら役職を与えてやれば、それを忠実に守ろうとするはずだ。宵の薔薇の連中は、命令に対してだけは忠実だからな。最初は外からでいい、とにかく何かで縛っておくんだよ。――幸運なのは、あのガキはそれなりの手練れだろうから、最初から幹部ポストでも周りは文句を言わねぇ。それに、四神だったってことは、かなり組織に対しては忠実な犬だったんだろぉよ、使う側が変わったってその在り方はすぐには変わらねぇ。」

「だったら、『死ぬな』って命令すればいいだけじゃないか?」

「馬鹿かてめぇは。そんな曖昧な命令じゃなんの効力もねぇよ。何のために『死ぬな。』って言ってるか、あのガキに説明できんのか?てめぇは。」

「そりゃ、死んでほしくないからで」

「それはてめぇの事情だ、損得でしか計算できないあのガキなら『生きてることの方が迷惑になってます。』って言いかねねぇぞ。」

 黒兎に詰められ閉口する射掛。一方乱歩は「へびくんの物まね、地味に似てる」とこっそり笑っていた。

「とりあえず今はあのガキに『てめぇは生きて仕事するくらいの価値はある』って思わせなきゃならねぇんだ。だから、神将でもなんでもいいから、とにかく役職を与えようって話になってんだ。分かったか?」

 射掛はしょんぼりとしながら頷いた。

「でも、辰爺さん、どうしていきなり神将に推薦なんかしたんだ?」

「今、儂らの空いている席は、なんじゃ?」

「俺のいる子だろ?あと、巳と酉だな。」

「お主の席は先約がいるじゃろ?」

 先約――サンタの一番弟子のことである。

「まーあいつはあと4,5年はかかりそうだけどなぁ。」

 サンタの一番弟子は滅多に姿を見せない。彼の話によれば、武器屋として技術力はあるが、人間性にいろいろと問題があるらしい。

「巳の神将――あそこは、誰もやりたがらん。」

 神将には子なら武器屋、虎や辰、猪は戦闘や暗殺を担う武闘派、午は運び屋、申は詐欺師、酉は狙撃手、戌は情報屋……など、ある程度役割が決まっている。もちろん、現在の乱歩のように本来の役割と違う役職を担っていたり、黒兎のように明確な役割のない場所に武闘派が座ることもある。

 そして今空いている巳の神将の役割は、裏切り者の処刑人――身内にすら畏怖される暗殺者の席だった。

 別の役割を持った人間が座ればよいのにそうしないのは、その席の印象があまりにも恐ろしいからだ。

 先代の巳の神将が行った裏切り者の大粛清、その人は道半ばで命を落とした。そのときの惨状があまりに惨く、その伝説が語り継がれているがために、誰もが畏怖し座りたがらなくなったのだ。

「だがあやつなら、座れるじゃろう。実力的にも、その責務的にも。」

 宵の薔薇で裏切者を粛清していた、身内殺しの暗殺者なら、確かにそう言える。へびの上がそのまま挿げ替えられるだけで、彼のやることはこれからも変わらない。

「問題は、引き受けてくれるかってところだな。」

 青龍に負けたことを、宵の薔薇に用済みだと捨てられたことひどく傷つき落ち込んでいる彼が、果たして同じ職務に就くだろうか。

「そこんところの説得は、サンタ、お主に頼むよ。」

「お、俺っすか?!」

 まさか自分に説得役が回ってくるとは到底思っていなかったサンタ。

「あの眠りねずみ(ちび怪獣)をはじめ、問題児を数多く面倒見てきたお主なら、上手く説得できるじゃろう。」

「まぁ、機を見てやっては見ますよっと。」

 繁華街を通り抜けて人気のない町に居を構える豪邸――連合の本拠地に、黒塗りの車は入っていった。

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