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青龍vs玄武 -身内殺しが望むは最強の座-

登場人物

・東 青龍

 12歳くらいの青髪碧眼の少年。

 裏組織「宵の薔薇」の四神 青龍として組織の敵対者の暗殺を担う。

「Color Project」と呼ばれる実験の結果誕生した人造人間 「青のSecond」で、普通の人間よりも身体能力と知能が高く五感も鋭い。特に、動作の速さと視力、聴力が優れている。しかし、痛覚が鋭敏すぎるため擦り傷ですら激痛となってしまい動けなくなる。

 暗殺の四家 斬殺の東家の使う剣術の手ほどきを受けており、高い身体能力と合わせて大人顔負けの強さを持つ。

 昼間の桜水邸。館の主は従者を連れて学校にいる。

 その間、館の清掃や警備をしているのは、全世界の裏社会に名を轟かせる悪名高き組織「宵の薔薇」最強格の一人、四神「青龍」を冠する者、東 青龍。かの有名な「暗殺の四家 斬殺の東家」の剣術の手ほどきを受けた者。齢12にして組織内外で最強と呼ばれる所以は、彼の出自にあった。禁忌の実験「ColorProject」で生み出された、人工的な天才。その五感と身体能力は普通の人間をはるかに凌駕する。相手が大人であろうと、引けを取らないのだ。

 普段通り、警備兼清掃として床のごみを掃く。

「この辺りは、こんなもんかな。」

 ふっと身体を起こした瞬間だった。

 ――――――なんだろう……嫌な、予感がする……。

 背筋を見えない何かで撫でられているような、そんな感覚。だが、辺りを見渡しても、何の異変もない。

 ――――――来るっ……!

 直感に従って反射的に身体を反らした直後、青龍の身体があったところを誰かの腕が通る。

 青龍はその腕の持ち主と目があった。

 ――――――殺し屋だ。

 数歩離れたところに青年が着地する。

 小柄でやせた身体を、青龍と同じように黒スーツが包み隠す。あどけなさを残した顔でゆらり、とこちらを見る目は、

 ――――――感情が、死んでいる……いや、()()()()

 初めて会ったラール――紅羽のように、なんの感情も示さず、ガラス玉のようにただその場の光景を映しているだけのよう……だがその奥に、わずかだが、読み取れないほど小さな何かが揺らいでいる気がした。

「何の御用ですか?この館の主は、いませんよ。」

 そう言いながら青龍はスーツの中に手を入れ、武器を掴む。

 ――――――華蓮がいないとはいえ、屋敷の警備は十分だ。その警備に悟られることなくここまできたということ?だとしても、センサーに引っ掛からないのもおかしすぎる。

 そこから先に思考を進めることはできなかった。

 飛び込んでくる拳、狙いは当然、青龍の腹。

「何が目的ですか?情報ですか?」

 問いかけられた青年は一気に青龍に肉薄する。至近距離から狙うは肘関節。

 ――――――なぜ……!

 考えるよりも速く、腕を引き抜き獲物――収納式特殊警棒型日本刀を振るう。

 攻撃をやめ、間合いから遠ざかる青年。

 ――――――あえて腕を狙ったということは、僕の武器が刀だと、この腕だということを知っているってことだ。

「依頼……ですか。」

 宵の薔薇は世界中に敵を持つ。こうして刺客を送られることなど一度や二度じゃない。

 ――――――でも、警備もセンサーも掻い潜る暗殺者が来たのは、初めてだ。

「何故、僕を狙うのですか?」

 その首を捕らんと付け狙う腕をいなし、牽制にと刀を振るう。

「利権ですか?それとも、報復ですか?」

 青龍の言葉に一切の反応も見せない。

 左手で拳銃を引き抜き、彼の腕めがけて撃つ。

 銃声二発。

 そのどちらも彼の右腕を掠り、服を破き肌を血で濡らす。しかし襲撃者はそんな些細な怪我など気にも止めず、淡々と、作業のように襲ってくる。

 ――――――まずは、その攻撃能力を割く。

 先程まで青年の肩があったところを銀の一閃が走る。半身を引きかわした青年は青龍との距離を詰める。

 青年は武器らしい武器を一切使わない。素手だけで、青龍を殺す気だろうか。だが、武器を持たないというなら好機だ。相手の攻撃範囲は素手の間合い、刀の間合いよりも小さければ、こちらが一方的に攻めることができる。

 距離を取りつつ、相手を分析し、最適な軌道で相手を殺さず仕留める。分析を加速させようとして――そこで、異変に気づいた。

 ――――――なぜ、誰も来ない?

 激しい攻撃の応酬、青龍の銃声、これらの音に館の誰一人騒いでいない。警備も巡回しているはずなのに、ここにはまだ誰も来ていない。青龍も侵入者を告げるアラームを無線で送っている。だが、誰も来ない――まるで、人払いした後の路地裏のように。

「……まさか。」

 この襲撃が身内で仕組まれたものだったら。

 警備も簡単に掻い潜りセンサーも反応しない、青龍が呼んでも応援は駆けつけない。

「あなたが……四神 玄武、ですか。」

 その言葉に、目の前の青年は首を縦に振った。

 身内殺しの暗殺者 玄武。青龍と正反対の人間。

 宵の薔薇の裏切り者を粛清する、自浄作用の担い手。もっとも、宵の薔薇の闇を知る青龍はその仕事の闇も当然知っていた。裏切り者の粛清と言えば聞こえはいいが、その実、宵の薔薇に都合の悪い善人すらも構わず手にかける冷酷非道で外道な暗殺者。そして、身内に対する暗殺者であることから、その正体は身内に対しても隠匿されている。同じ四神でさえ、その正体を調べきることはできなかった。

「ついに、僕の本格的な退治に乗り出したってわけですね。」

 最速の暗殺者青龍。

 宵の薔薇が誇る最強の暗殺者。敵対組織の幹部を悉く葬り去る。驚くべきはその速さ。その剣速は斬られたことに気付けず、その身のこなしは並みの大人では到底捕らえることもできない。

 だが、彼はその実、敵対者を一人も殺したことがなかった――不殺の暗殺者であった。彼は人一倍、痛みに弱い。だからこそ、人を殺すことに対して強烈な忌避感を抱いた。故に、命を奪わず敵を無力化する。宵の薔薇は世界中に敵がいる。敵が外道ならばよいが、中には利権のためだけに目の敵にされた善良な組織もあることを、青龍は知っていた。青龍は善良な相手には戦う振りをして手を差し伸べ、外道な相手には完膚無きまで叩きのめし家に帰す。こうして犠牲者を一人も出すことなく敵対者を退けていた。

 しかし、これは当然宵の薔薇から見れば「裏切り」だ。とはいえ、それでも青龍の名は宵の薔薇の威厳に大きく貢献していた。何故今さらになって消しにかかったのか。

 そこから思考を進めることはできなかった。

 青龍との間合いが一瞬にして詰められる。

「……せめて楽に、()()()()()()()、殺してやる。」

 その言葉の真意を図る前に、右腕が取られた。

 次の瞬間、青龍の肩関節が固められる。

 ――――――まずいっ……!

 とっさに刀の長さを調節し、逆手に持ち替え太ももに突き刺す。

 玄武が小さくうめき声をあげ、力が緩む。その隙に拘束から何とか逃れる。

 ――――――密着して分かったけど、彼は何の武器も持っていない。なら。僕の方に分がある。

 刀を再び持ち替え、刀身を最大に――大刀と同じ1m弱まで伸ばし、両手で構えすかさず振り上げた。

 雷のように打ちおろす一太刀。玄武はするりと射線から逃れ脇腹に潜ろうと態勢を低くする。

 その程度、想定内。

 刀を翻し下からの袈裟斬り。絶対に懐には入れさせない。

 果敢に向かってくる玄武に対してバックステップで距離を取りつつ牽制にと再び銃を引き抜き引き金を2回引く。

 弾丸は予想外の跳躍で避けられた。到底普通の人間とは思えないほど高く、気が付けば青龍の頭上にいる。

 玄武の手が彼の腰あたりに触れる。

 ――――――何か、来る……!

 とっさに首を守るように、刀を構える。

 その直感は正しかった。

 玄武のスーツに留められたベルトが引き抜かれ、刀ごと青龍の首に巻き付く。空を通り背後を取られ、そのままギリギリと首を絞められる。

「……本来、絞殺は苦しみが続く残酷な殺し方だ。」

 ベルトを斬ろうにも、無理な体勢で力が入りきらない。

「……だが、人の数倍痛みを感じるお前でも、()()()()()()()()()()()()()()死ねるだろう。」

 拳銃で撃ち殺せば、ナイフで抉り殺せば、青龍はきっとこの世のものとは思えない壮絶な痛みに悶えながら死ぬことになるだろう。

 だからこれは、冷酷非道で外道な暗殺者と謳われる玄武なりの、慈悲だった。

「……お前に恨みはない。だが……お前を殺す意味はある。」

 耳元で囁くように、掠れた声で言葉が紡がれる。

「……お前を殺し、俺が、最強になる。」

 その声だけは、その言葉だけは、熱で震えていた。

「最強……ですか。そんなものに……何の意味があるんですか。」

 ギリ、とベルトが音を立てる。

「……称賛が、欲しい。」

 玄武の顔は見えない。だけど、泣いている気がした。

 四神 玄武はその業務の性質上、数多の人間がその称号を手に入れ、そして手放していったという。ある者は良心の呵責に耐えられず自害し、またある者は反旗を翻し新たな玄武に殺された。四神という実力者の頂に立つはずの者であっても入れ替わりが激しかったという。

 だが、青龍の首を絞めるこの玄武に限っては、長年この座に座っている。もう5年は経つらしい。余程人の心が無いのだろうと思っていた――だがそれはきっと、逆だ。

「……俺が最強なら、他の皆は、裏切る気を無くす。そうすれば……俺は、もう、仲間を殺さずに済む。もう、いい人を……殺したく、ない……。」

 玄武らしい考え方だ。粛清者である彼には、「逃げる」「逆らう」という選択肢の末路は分かり切っている。ならせめて、少しでも犠牲を減らし、少しでも楽な末路をと――だが青龍には、理解はできても納得はできなかった。

「僕には到底……納得できませんね、その考え方は。」

 刀身をしまえば一気に首が絞められるだろう――だがそれよりも先に、手を貫けば、勝機がある。

 青龍は一瞬の賭けに出た。

 ベルトから刀身が消え、首が絞まるよりも速く、翻った柄から伸びた刀身がベルトを握る玄武の左手を貫いた――速さの勝負は、青龍に分があった。

「っ……!」

 痛覚は生きていたらしい、玄武は痛みに反応してベルトを握る手が緩む。その隙をついてベルトを奪い前に投げ捨てる。

 そして柄を両手で握り直し振り向きざまにその刃を突き立てた。


「急所は、避けました。」


 青龍が刀から手を離すと、玄武はその場に崩れ落ちた。その彼の首筋に青龍が何かを注射する。

「即効性の痛み止めです。2階の一番右端に医務室があるので、適切に処置すれば、死ぬことはないでしょう。」

 青龍は立ち上がり背を向ける。

「宵の薔薇からは、足を洗った方がいいですよ。貴方ほどの実力なら、容易でしょう。」

 そう言い残して青龍はどこかへと去っていく。

 彼の背を眺める玄武の顔は、表情を失っていた。

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