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青龍・湊生vs宵の薔薇1 -木偶戦闘-

 登場人物

 ・風斬 青龍(東 青龍)

 中学3年生。

 裏組織「宵の薔薇」の元構成員で殺し屋として所属していたが、裏切りがばれて追われる身となった。

「Color Project」と呼ばれる実験の結果誕生した人造人間 「2番目成功 青」で、普通の人間よりも身体能力と知能が高く五感も鋭い。特に、動作の速さと視力、聴力が優れている。しかし、痛覚が鋭敏すぎるため擦り傷ですら激痛となってしまい動けなくなる。

 暗殺の四家 斬殺の東家の使う剣術の手ほどきを受けており、高い身体能力と合わせて大人顔負けの強さを持つ。

 襲ってくる殺し屋達を退けているうちに、いつしか「殺し屋殺し」と呼ばれるようになった。

 ・南 湊生

 青龍の同級生で、彼からはなんなんと呼ばれている。

 暗殺の四家 撲殺の南家の1人で、裏社会では「花底蛇(かていのじゃ)」と呼ばれている。琉球の躰道と古武術を極め、素手と非刀剣武器で相手を殴り殺すことを得意とし、圧倒的な破壊力とトリッキーな動きをする。

 ・エトワール

 裏組織「宵の薔薇」、実働部隊の頂点である四神の1人。爆弾で肉体を吹き飛ばし、悪逆非道な行動で相手の精神を砕く爆弾魔。青龍が所属していた時代では四神No.2だったが、青龍よりも実力は上である。


【状況】

 1週間ほど前、青龍は神社への山道で『宵の薔薇』時代の同僚・紅羽(あかね)(ラール)が倒れているのを発見・保護した。彼女は『宵の薔薇』から抜け出してきたようだった。ひとまず青龍のいる風斬神社で預かることになった。

 神社に続く上り坂。夏休みの登校日の帰り道であった僕ら――青龍と友達の湊生の前に、彼らは突如として現れた。

「久しぶりね、青龍。思ったより、元気そうじゃない。」

 鈴の音のような声の主は、木陰で呑気にくつろいでいる。木漏れ日に当たってキラキラと輝くプラチナブロンドのツインテールにガラス玉のようなエメラルドブルーの瞳、陶磁器のような真っ白な肌、場違いなロリータのドレスを身にまとうその姿は可愛らしいフランス人形そのもの。その傍らには、拘束された紅羽が苦しそうに横たわっていた。

 僕は彼女が誰かを知っている。

 そして、彼女が傍らにいる紅羽にしたことが、許せない。


「エトワール!」


 怒気の籠った声と共に、僕は刀を抜きエトワール目掛けて一気に距離を詰める。

「待て!」

 背後から湊生の声が。しかし、制止は間に合わない。


「馬鹿ね、青龍。」


 僕は、エトワールを貫くことができなかった。彼女が、紅羽を盾に使ったからだ。刀を、紅羽の首元ギリギリで止めてしまった。

「ラールごと刺せば、私を殺せたかもしれないのに。」

 エトワールの小さなナイフが、僕の腹を抉っていた。ナイフが引き抜かれる。僕は、痛みでその場に崩れ落ちた。


 エトワールは紅羽の首を掴み、立ち上がる。

「逃が……しま、せん……よ。」

 僕は倒れたまま、エトワールの足首を掴んだ。

「紅羽を……返して……ください。」

 エトワールは高いヒール靴で僕の頭を踏みつける。

「ふふっ、やる気なのは結構。」

 無機質な目が、僕を見下す。

「そんな身体で、一体何ができるのかしら?」

 彼女はポケットから何かを取り出した。

「今日のところはこれで勘弁してあげる。」

 それは、エトワールが背を向けた瞬間に爆発した。


-------------------------------------------------------------------------------------

「止めろ!」

 俺――湊生が動こうとするが、どこからともなく現れた大男が進路を阻む。

 ――――――こいつ、一体何者だ?

 だが、そんなことを気にしている暇はない。

「邪魔だ、図体でかいだけの肉ダルマが。」

 殴りかかってきた腕を払い、捕まえようと振るわれた腕の下を潜り抜け、懐に入り込む。

「あっちでおねんねしてな!」

 大男の鳩尾に拳が叩き込む。続けて踵で顔面を吹っ飛ばし、露になった背中を蹴飛ばす。大男は派手に吹っ飛び、近くの木に激突して沈黙した。並大抵の人間ならこれで当分は動けないだろう。


 青龍の方を見ると、金髪女が爆弾を取り出した瞬間だった。

 ――――――間に合わねぇっ……!

 辿り着く前に黒煙が上がった。

「青龍、無事か?!」

 見た目の割りには威力はなく、衝撃で気絶しているだけだった。安堵し、エトワールを追おうとした瞬間、後ろから首を掴まれた。

「あっ……が……」

 そのまま身体が持ち上げられる。

 ――――――なぜ……なぜ、動ける……?!

 身体を道路に叩きつけたのは、先ほど殴った大男だった。彼は、痛みなどまるで感じていないかのように拳を振り下ろす。避けることもガードすることもできず、腹に直撃する。意識が飛びかけるのを、必死で食い止め、二撃目を転がって避ける。三撃目は青龍を狙っていた。

「っ……危ねぇな、おい……」

 寸でのところで止めた。

「鬱陶しいんだよ、てめぇ!」

 渾身の拳を大男の心臓に叩き込み、そのままその勢いを乗せた蹴りが顔面にぶち込む。吹っ飛んだ大男に追い打ちをかけるように、飛び蹴りを放つ。

 しかし、大男はまるで痛みを感じていないかのように飛んできた足を掴み、握りつぶした。

「うぐぁああああっ!」

 バキッという鈍い音と共に、足が折れた。

 ――――――なんなんだ、あいつっ……痛み、感じてねぇのかよっ……!

 身体を起こした直後、顔面目掛けて拳が襲ってくる。避けるのが間に合わず頬を掠め、衝撃が全身に伝わり、折れた足に激痛が走る。

 こちらは痛みで遅れるが、大男は平然と次の拳を振り上げる。回避は間に合わないと悟り、防御の姿勢をとった。


 しかし、その腕に衝撃が伝わることはなかった。


 大男の拳は届くことなく、腕が丸ごとアスファルトの上に落ちた。

 ――――――何が……起こった……?


「くひひっ」


 頭上から不気味な笑い声が聞こえた。

 見上げた先には、血に濡れた刀を握る、無邪気な笑みを浮かべた青年がいた。

 その無邪気な笑顔に、彼の纏う殺気に、背筋が凍る。

「だぁいじょうぶ?痛そぉだぁね?」

 青年は俺の前にしゃがみ、心配そうに顔を覗き込む。その背後で、大男は無事な方の腕を振り上げている。

 ――――――後ろ……!

 俺の心配とは裏腹に、青年は面倒くさそうに後ろ手で刀を振るい、正確に大男の腕を切り落とした。

「んもう。オレは口のきけないでくのぼうに用はないよぉ?」

 切られてバランスを崩して倒れた男は、まだやる気なのか、立ち上がろうとしている。

「仕方ないなぁ。そんなに遊びたいなら、先に遊んであげるよ。」

 青年はにやり、と狂気を孕んだ笑顔を浮かべ、背筋が凍るような殺気を纏う。向けている相手が自分ではない、分かっていたが、身体が震えてしまう。


「だぁるまさんが、こぉろん、だ!」


 振り返りざまに刀が振られ、持ち上がっていた片足が付け根から切断される。バランスを崩した大男は血を吹き出しながら後ろに大きく倒れた。

「ほらほらぁ、寝てる場合じゃなぁいよぉ?かかしだって、片足で立てるんだからぁ。」

 倒れている大男の横にしゃがみ、応援する。青年の意識が大男に向いているすきに青龍のもとへ向かった。

 ――――――何者かは分からない。危険すぎる。だが、今なら……。

 青龍の応急処置をして、応援を呼び、逃げる。痛みに歯を食いしばりながら、身体に鞭を打って動かす。

「おおっ!すごぉい!やればできるじゃぁん!」

 青年の声の方を見る。大男は立ち上がったが、文字通り手も足も出ない。

「じゃあ、だるまになってぇ」

 彼は軽々と刀を振った。固まって動かない大男にちょん、と指で触れると、ゆっくりと足の付け根から胴体が離れていく。

 青年は楽しそうに目を細めると、何度も素早く腕を振った。

 大男の胴体が地面に落ちた瞬間、その身体はばらばらな肉片へと砕け散り、血の海に沈んだ。

「くひひっ!くひゃははははぁ!」

 青年の狂った笑い声が辺りに響いた。


 笑い声がピタリと止まり、青年の視線が俺たちに向けられる。俺の背を、悪寒が襲った。

 咄嗟に、振り向くと同時に髪に挿して隠していた簪を引き抜き、飛んできた何かを受け止める。


 カキィィィィン!


 金属同士がぶつかり合う甲高い音が響く。

 青年はにこりと無邪気な笑みを浮かべてこう言った。

「お肉、食べる?」

 ――――――頭、イカれてんのか……?!

 受け止めた刀の先には、大男の身体の一部であっただろう肉片が刺さっていた。

 どう反応するのが正解か分からず、ただ頭上を睨みつける。

「……くひひっ、ただの冗談、だぁよ?」

 ――――――だとしたら、相当質の悪いブラックジョークだな……

 青年は刀を振って肉片を捨てる。

「人間のお肉、あんま美味しくないよぉ、多分。」

 この青年の素性も真意は分からない、だが一つだけ、分かることがある。


 ――――――今の俺では、勝てない……!


「ねぇ。」

 呼びかけに対し、俺はびくり、と肩を震わせる。

「エトワール、知らない?」

「……気づいた時には、もういなかった。」

「ふぅん。そっかぁ。じゃあ仕方ないや。」

 青年は刀に付いた血を振り落とし、刀を鞘に納める。そして、しゃがみこんで俺の顔を覗き込んでくる。

「足、大丈夫?」

 ――――――何の、つもりだ?

 睨み返すことしかできない。

「怯えなくてもいいよ。少なくとも今は、アンタの敵じゃあなぁいよぉ?」

 大男に見せた時とは違い、純粋に優しそうな笑みを浮かべる青年。しかし、信用はできなかった。

「自分の手当て、しないの?」

 ――――――そんな暇があれば、今すぐこの場を去るっての……。

 青年は俺の後ろで倒れている青龍に視線を移す。

「エトワールに刺されたみたいだねぇ。大丈夫かなぁ?今、死なれると困るんだぁよねぇ。」

 ――――――何……?どういう、ことだ……?

「だってぇ、もうすぐオレに、青龍を殺せ、って命令が下るはずだから、ねぇ。」

 ――――――こいつ、やっぱり、青龍を殺す気だ……!

 簪を握る手に力が入る。

「そんな殺気立たないでよぉ。今は殺す気ないって、アンタのことも、青龍のことも、ね。」

 青年は警戒を解かない俺の姿をしばらく眺め、それからため息をついて立ち上がった。

「仲良くお話したかっただけなのにぃ、残念残念。」

 青年は背を向ける。 

「……あんた、何者だ?」

 俺は青年の背に向けて問いかけた。恐怖を押し殺し、俺は言葉を紡いだ。今、聞かなければ、正体不明の相手に怯え続けることになる。

「……くひひっ。やぁっと、話してくれたっ!」

 振り返って無邪気な、狂気の笑みを浮かべる。


「オレはねぇ、『東の悪魔』、だぁよ?」


 それは、対象を残虐非道に斬り刻み、血の海で一人、狂った笑い声を上げる、正真正銘の化け物の名。

「ばぁいばい、南の赤鬼さん。次はきっと敵同士。楽しみ、だぁね?」

 悪魔は子供のように手を振りながら去っていった。

「おい、これ、俺が片づけるのかよ……。」

 目の前には血の海とバラバラに散らばった肉塊。

 元凶は既にこの場にいない。

「ふざけんなぁ!!」

 怪我人なのに、夏なのに、休みのはずなのに、治療後俺は現場を片付ける羽目になった。(青龍も手伝ってくれたけどな。)

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