眠りねずみ・ことりvs断罪のメナデル --
・ 眠りねずみ
「連合」の最高幹部 十二神将の一人、子の神将 眠りねずみ。組織一の武器職人でありながら、他の知識にも精通し、戦闘もこなせる天才肌の少女。
自分たちのためにシスター・モーに単騎で挑んだ巳の神将 冥蛇を助けに向かう。
・ことり
「連合」の最高幹部 十二神将の一人、酉の神将 ことり。過激派宗教組織「赤豹教団」の現人神 カマエルでもあったが、ねずみの正体が幼馴染のちづるであることを知り、教団と離反する。
本物の超能力者であり、触れずに物体を操作できる「サイコキネシス」の使い手。普段は針を仕込んだ羽と矢じりのついた金の鎖を巧みに操る。
• メナデル/シスター・モー
連合の丑の神将で、拷問担当だった。だが、その正体は過激な教団「赤豹教団」のNo.2である「断罪のメナデル」。彼女に対して戦闘で単身で勝てる可能性があるものは、冥蛇の暗殺以外で誰もいなかったが、彼はすでに……。
ことりと二人講堂から脱出した眠りねずみは、インカムに向かって声をかける。
「冥蛇さん。」
返事の代わりに聞こえてくるのは、痛みに悶える彼の掠れた声と、シスター・モーの罵声。
「冥蛇さん……終わりました。」
『……そう、か』
今にも消えそうなほどか細い声の直後。
『さっさと死ね!』
シスター・モーの絶叫と共に、重たいものが落ちる音が聞こえてきた。
「冥蛇さん!」
ねずみは冥蛇と別れてからずっと、彼からの通信を聞いていた。彼は聞かれたくないと頑なにいやがっていたのを、無理を言って、最終的にはちょっと細工して2人だけは互いの音が聞こえるようにしておいた。
だから、彼がシスター・モーとの戦いで劣勢を強いられ、窮地に陥っているのを聞いていた。
「ひな、先に行くです。」
「ちづる……どうする気……?」
ねずみは背を向ける。
「私は、冥蛇さんのところに行くです。」
「めいださんのところに……って……」
「私がやらなきゃいけないことは二つ。一つは、ひなを救うこと……そして、もう一つは――」
かつてのねずみなら、「シスター・モーを殺すこと」と答えていただろう。
「もう一つは、冥蛇さんを助けること、です。私は、あの人を見捨てるわけにはいかないです。」
走り出そうとしたねずみを止めることり。
「めいださんは、誰と戦ってるの?」
「シスター・モーです。」
ことりでも分かる。いくら冥蛇とはいえ、正面からでは彼女に敵うことはない。そしてそれは、ねずみでも同じだということを。
「……ちづる、キミ一人じゃ、無理だ。」
「それでも、私は行くです。冥蛇さんが――そうしたように。」
ねずみは意を決したように走り出した。
林を駆け抜けていく中、前方に殺気を感じたねずみは足を止め木の陰に身を隠す。
そして、銃を狙撃用に組み替え構える。
教会の大講堂へ向かうシスター・モーの姿を捉えた銃口が火を噴く。
「クソガキが……?!」
シスター・モーの前に立ちふさがったのはねずみ一人。
「カマエルを……どこに!?答えろ!」
「あなたこそ……!冥蛇さんを、よくも!」
組み替えた銃口が再び火を噴く。
「冥蛇さん、ねぇ……。彼なら今頃、くたばっているでしょうね。」
「分かった風な口をきくな!冥蛇さんは!連合最強の暗殺者なんだ!あなたごときに、殺せると思うなです!」
銃を持って一気に距離を詰める。
「無駄なことを。」
振るわれる血の付いたモーニングスター。
「冥蛇さんを殺したこの鉄球で、貴方も殺して差し上げましょう!」
降ってくる鉄球をひらりと躱し、引き金を引く。
銃弾はシスター・モーを貫くことはない。修道服の下に着こんだ甲冑が防ぐ。
「貴方一人では、私に敵うはずはないですよ。冥蛇さんと一緒なら、もしかしたら、ねぇ?」
「それでも!私はあなたを、絶対に許さない!」
ねずみが狙うは、シスター・モーの顔面。
「ひなを騙して!成長を奪って!人生を操って!あなたは、人を、何だと思ってるです?!」
怒りのこもった弾丸は、容易く躱される。
「ひなは、あなたの道具じゃない!」
シスター・モー相手に銃弾を当てるのは至難の業、だが、それでもねずみは引き金を引く。
「少しは賢いガキだと思ってたんですが……感情に流されるようでは、まだまだですね。」
銃弾の雨をものともせず、鉄球がねずみの頭上から降ってくる、回避が間に合わない。
「この程度!」
持っていた銃で鉄球を防ぐ。その衝撃に耐えられないのか、パーツがばらばらと砕ける。
「あらあら、もうお得意の銃は使えませんね。」
続けて鉄球が縦横無尽に飛び交う。それを紙一重で避けるねずみ。
「どんなに素早くても、あなたには火力が足りない。時間さえかければ、貴方は簡単に殺せます。」
「なら、これはどうです!」
服の中から取り出したのは、ただの拳銃。当然、その銃弾は避けられる。
次の瞬間、雷鳴が響いた。
呻き声すらその轟はかき消す。
拳銃を握る右手とは反対の手には、使い捨ての小型レールガン。シスター・モーの脇腹を抉り貫き、後ろの木の幹にすら大穴を開けた。
――――――身体を反らされた、それに、思ったより、ダメージが入っていない……?
ねずみはレールガンを投げ捨てると、次の武器を手に取る。
「そこを、どけです!」
小型の大砲が火を噴く。
射出された砲弾はモーニングスターによって弾かれる。
――――――おかしいです……鉄球に、なんのダメージもないなんて……。
そのモーニングスターが軌道を変え心臓を狙う。
――――――まずいです、この体勢では……!
よけきれないことを悟り、大砲を胸の前に持ってくるのが限界だった。
しかし、その身体に衝撃が伝わる前、腹に何かが巻き付き一気に引き寄せられた。
「カマエル……!」
「……シスター・モー、これ以上、ちづるを傷つけることは、許さない。」
ねずみに手を貸したのは、ことりだった。
「残念だよ、モーさん。ボクは、キミの言う誰も差別されない、ボク達みたいな能力者が笑って生きていける世界を、信じていたのに。」
ねずみを地に降ろし、前に出る。
「ボクたちは確かに虐げられて生きてきた。普通の人と同じように過ごしたかった。でも、ちづるを失うくらいなら……今の世界のままで、いいよ。」
その手は、その足は震えている。だが、その目は覚悟を示す。
「モーさん、ボクは、キミの理想を壊して、ちづるを守るよ。」
上げた手に呼応して、大量の羽根が浮かぶ。
「ボクはもう、カマエルじゃない――酉の神将 ことりだ。」
手を振り下ろす。
羽根の嵐がシスター・モーを襲う。
「貴方の能力はすべて把握しているわ。」
彼女の言う通り、羽根程度では、シスター・モーの鎧一つ傷つけることはできない。
シスター・モーがモーニングスターを振り上げる。
「させないよ。」
ことりが操る金色の鎖がモーニングスターの鎖に絡みつく。
「そこです!」
ことりの影からねずみが飛び出し、拳銃を構える。狙いは、脳天。
舌打ちをならし、シスター・モーはモーニングスターを手放し避ける。
「逃がさない。」
ことりの鎖がシスター・モーを追いかける。その間にも、ねずみが急所を狙い撃つ。
シスター・モーを狙うのは、鎖と銃弾だけじゃない。そこらに生えている木々の枝すら、シスター・モーの行く先を阻む。
「止まれ。」
ことりの手が握られる。
「く、そっ……!」
ことりの超能力はサイコキネシス。初めに放った羽根が一枚、鎧の隙間に入っている。それを通して、鎧サイコキネシスの対象に――ことりの支配下に置いて、動きを封じた。
ねずみが引き金を引く。
「……小賢しい。」
弾丸は、シスター・モーを貫通することなく、乾いた音を立てて地面に落ちた。
「私は、優秀なのよ、貴方たちが足下に及ばないくらいに。なのに、人間は、異物と称して排斥する……!支配すべきは、私のような、優秀な能力者なのよ!」
「ちづる!」
直後、地が鳴り響き砂煙が上がる。
何かに弾かれたねずみは咳き込みながら後ろを振り返る。
「ひな!」
そこには、巨大な岩に押しつぶされたことり。
「ひな!ひな!」
泣きそうな顔でかけよるねずみに、ことりは苦しそうに笑う。
「だい……じょう、ぶ。まだ、潰されては……いないよ。」
サイコキネシスで引き寄せたありったけの羽根と、鎖と、奪ったモーニングスターを隙間にねじ込んで、圧死だけは防いでいた。が、それも、時間の問題だ。
「これだけ大きな、アポートを、使ったんだ……。消耗も、激しい、はず、だよ……。」
「それはカマエル、貴方も同じ。」
「うん……そう、みたい、だね……。」
それでもことりは、手を伸ばす。
「でも、ボクは、キミを止めなきゃいけない。」
散らばった石が宙に浮く。
ねずみが銃を捨てナイフを抜く。
「私が!てめぇを殺す!」
一気に距離を詰めたねずみの振るう刃は、
「私の邪魔を、するな!」
腕の甲冑で防がれる。しかし、刃に気を取られたシスター・モーは飛んでくる石に気付かなかった。容赦なく傷口を掠めていく。
飛び交うナイフと石に、それでもシスター・モーは優位に立って見せた。
「ちづる、離れて!」
経験の差だった。
ナイフをよけられたねずみの後頭部に、肘が撃ち込まれる。
――――――まず、い、です……!
視界がブラックアウトし、体がぐらぐら揺れる感覚がする。腹に、容赦のかけらも感じない打撃の痛みが走る。
「ちづる!」
頬に伝わる地面の冷たい感触。動かない身体。
「カマエルを唆した、忌々しいどぶねずみめ。」
胸倉を掴まれ、身動きが取れないねずみ。
――――――このままじゃ、ちづる、が。
だが、ことりもまた、身動きが取れない。動かせるのは、腕、そして――石ころ程度の、小さなもののみ。
石ころ程度では、シスター・モーを止められない。
今、岩を持ち上げるのに使っている力を弱めれば、自分が押しつぶされる。
――――――ボクは、どうなってもいい。
だが、全力で鎖を、羽根を総動員したところで、止められない、間に合わない。
――――――今、すぐに、シスター・モーを、止めるには……。
ことりは、手を伸ばす。
「……ボクに、従え。」
サイコキネシスの対象は、ことりの視界にあるもの。
「ボクに、従え!」
命令と共に、手を握りつぶす。
音は無かった。
空間を切り取ったかのように、ねずみの目の前、シスター・モーの上半身が、
次の瞬間には跡形もなく消えていた。
遅れて、主を失った下半身が地面に落ちる。彼女のものだった腕と一緒に、ねずみの身体が落ちる。
ねずみはその異様な光景に、動けなかった。
切り取られたのは、シスター・モーの身体だけではない。
彼女の後ろの、木々が、地面が、滑らかな断面で切り取られていた、まるで、球体のように。
ことりが支配したのは、『空間』だった。
岩が音を立てて動く。
「ひ、ひな……!」
覚束ない足取りで、ことりに駆け寄るねずみ。
ことりの意識はなく、力なく倒れている。それは、ことりの下半身が、岩によって押しつぶされていることを意味する。
今はまだ、かろうじて挟み込んでいる武器で何とか空間がある。
「くっ……抜け、て……!」
ことりの身体を引っ張るも、びくともしない。
「銃で、壊す……だめです、悪化するです……てこを使っても、こんなの、無理、です……!」
ねずみの目から涙が零れる。
「せっかく、冥蛇さんが、命懸けで、チャンスをくれたのにっ……!私だけが、戻っても……!」
応援を呼んだが、来るには時間がかかる。それに、ことりを助けてくれるとは限らない。
風が吹く。
「穴が開いたからって来てみれば……こりゃあ、とんでもない現場だね。」
頭上からは見知らぬ青年の声。
「あな、た、は……?」
宙に浮く神職の和装をした青年。彼は人の好さそうな笑顔のまま、ねずみとことりの前に降りてきた。
「ぼくを見て驚かないとは、驚いたなぁ。」
青年が上半身の消えた死体を見て、その後、倒れていることりに視線を移す。
「ルール違反は、この子か。」
青年の目元に、一瞬、青い紋様が浮かぶ。その瞬間、ねずみは得体のしれない寒気に襲われた。
「……白沢村の白蛇の巫女の末裔ってところか。なら、納得だね。」
「あなた……何者です?」
超能力者のことりのように宙を飛び、初対面にも関わらずことりの故郷を言い当て、わけの分からない言葉を列ねる青年に、ねずみは殺気と共に銃口を向ける。
「わわっ。青ちゃんやおりゅうとおんなじ殺し屋の人?大丈夫、ぼく、敵じゃないから。通りすがりの番人だから。」
両手を上げて慌てて言い訳を並べる。
「それよりも、これ、まずいねー。この子、死んじゃうよ。」
腰に下げた木刀に手を伸ばす青年。
「何するつもりです?」
語気強く、妙な動きをしたらすぐに撃つような勢いだ。
「何って、とりあえず、この子、助けなきゃ。」
「そんな木刀で、どうにかなるわけ――」
柄に触れた瞬間、青年の纏う空気が一変する――殺気とは異なる独特な、だが、次元の格差を感じるほどの、強者の圧。
「風術『鎌鼬』」
岩の隙間に差し込んだ木刀から、強烈な風が吹き荒れる。
「秘術『風斬り』」
木刀が振り上げられる。
岩はバラバラと砕け、風によって舞い上がる。
ねずみは風の中、即座にことりの身体を引っ張り出す。
風が止み、砕かれた岩がすべて地面に落ちた頃には、青年の姿はどこにもなかった。




