眠りねずみvsカマエル -神堕とし、鳥籠開き-
登場人物
・ 眠りねずみ
「連合」の最高幹部 十二神将の一人、子の神将 眠りねずみ。組織一の武器職人でありながら、他の知識にも精通し、戦闘もこなせる天才肌の少女。
彼女が連合に入った目的は、親友ひなを救うため。
・カマエル/ことり
過激派宗教組織「赤豹教団」の現人神 カマエル。「連合」の最高幹部 十二神将の一人、酉の神将 ことりとして潜伏していた。
本物の超能力者であり、触れずに物体を操作できる「サイコキネシス」の使い手。普段は針を仕込んだ羽と矢じりのついた金の鎖を巧みに操る。
赤豹教団 最奥 大講堂。
そこに、現人神はいた。
――――――どうして、こうなったの?
神は1人、外の喧騒に耳を塞いだ。
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私――眠りねずみ本来、冥蛇さんと一緒にモーさんのところへ向かう手筈だった。
「ねず、ここならばれないだろ。行ってこい。」
ルートを少し外れたところで、インカムを押さえてこっそりと私の背を押す。
「大丈夫。お前なら、やれる。」
いつものように、彼は優しく頭を撫でる。
だが、私の心は不安でいっぱいだった。なぜなら、これから彼が挑むのは、連合の拷問士であり、最強戦力だった女。彼が、どんなに優秀な暗殺者といえど、勝てる可能性は――低い。
「そんな不安そうな顔をするな。」
彼の眼に鋭い光が宿る。纏う空気が鋭い殺気を孕む。
「俺は、巳の神将――連合最強の暗殺者、だ。」
その言葉は私に、彼自身に言い聞かせるような、まるで暗示のようだった。
そして、その温もりはゆっくりと離れていった。
冥蛇さんの姿が見えなくなって少しした頃、インカムから私と別行動する旨を本部へ連絡する声が聞こえた。
――――――もう、後戻りは……できない。
この日のために作った、対ことり用カスタム銃の入ったアタッシュケースを握りしめ、教会の最奥へ向かう。
私は独自に教団のことを調べていた。
サンタさんの伝手で教会の詳細な設計図を手に入れ、これまでの知識の全てをもって最適な侵入経路を導きだしてある。
この道は、私にしか通れない。
道なき道を進みたどり着いた最奥 大講堂へ。
私は分厚い扉を押し開ける。
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扉を開いたそのさきは、真っ赤なカーペットがまっすぐとしかれている。その両脇には木の長椅子が規則正しく配置されている。
壁は色とりどりのステンドグラスで埋められ、様々な色の光が講堂を照らす。
カーペットの先、視線の中央には一際大きく繊細なステンドグラスとキリスト像、その前に1人の子供が佇んでいた。
「……お願い。ここに、入らないで。」
陶磁器のように白い肌に、ミルクのような白い髪。
上空に浮き立ち、なびくケープはステンドグラスの光を浴びてキラキラと輝く。
胸元の十字架は赤く鋭い光を放つ。
後ろから極彩色の光を纏う姿はまるで天の遣い。
「ボクは……キミを、殺したくない。」
神々しい姿とは裏腹に、色素の薄い白紫の瞳は揺れていた。
対する私はアタッシュケースからアサルトライフルを構え、一歩、部屋の中へ踏み出す。
「私は、もう、逃げないです。」
目の前の子供に、酉の神将ことりであり、赤豹教団の現人神 カマエル、そして、10年前に生き別れた親友ひなに照準を合わせる。
「私が、あなたを人に堕とす!」
引き金を引いた――戦いの幕開けだった。
放たれる銃弾はことりには届かない。ことりが操る鋼鉄入りの羽根によって弾かれ、神聖な行動内を荒らす。
「頼むよ……ここから外に出てくれれば、ボクは、キミを見逃すことができるんだ。」
赤い光を受けた鏃付きの鎖が襲いかかってくる。
「敵は、殺さなきゃ、いけないんだ。じゃないと……ボクの親友は、助からない。」
鎖の合間を素早く駆け抜け、少しずつことりに近づく。
「悪いと、思ってる。でも……こうするしか、ないんだ……!」
ことりが手を上げる。上空浮かぶに大量の羽根は一つ一つ、鋭い針が仕込まれている。
勢いよく手が振り下ろされた。
羽根が落ちたとは到底思えないほど、講堂が揺れる。
周囲は羽根が垂直に突き刺さっている。
だけど、私は。
「この程度です?」
銃を入れていた大きなアタッシュケースを盾に防ぎきる――この程度、想定内だ。
「私が知っているあなたは、もっと強かったです。」
本来の出力だったら、アタッシュケースに突き刺さるくらいの威力はあっただろう。
羽根の雨の間に組み替えておいた銃を構える。
「次は、私の番です。」
小型の大砲から、重い音と共に砲弾が射出した。
宙に浮くことりにヒラリと躱されたそれは、キリスト像とステンドグラスを粉々にする。
――――――昔からの癖は、治ってないですね。
「そこ!」
硝子が砕け散る音と同時に、けたたましい雷鳴が講堂内で鳴り響く。
「ぅ……い、たっ……!」
大砲の中から姿を現した二本のレールから、焦げた匂いが昇る。
「いくらあなたでも、音速には対応できないです。」
電磁加速砲ーー隠し兵器の一つ。
かすっただけでもナイフで深く抉ったものと同等の傷を与える代物。
「私に勝とうだなんて、思わない方がいいです。」
電磁加速砲の装備を切り離し、再び銃を組み換える。
「私は、あなたの全てを知ってるですーーその能力の弱点すら。」
次に構えたのは散弾銃。
「そこから、降りろ!」
放つ数多の銃弾。
「この程度――」
ことりの羽根の回収は間に合わない。だが、サイコキネシスで強引に操ることも可能。そう考えたことりは右手を伸ばす。
――――――そうでしょうね。
「!」
ことりの予想と裏腹に、銃弾の1つが手を貫通した。
危険を感じたことりが回避行動にでる。
――――――それも、想定内です。
「あっ!」
銃弾――跳弾加工された弾丸はは柱で反射し、背後からことりを貫く。
「なん、で……?!」
鎖と回収した羽根で迎え撃とうとしても、軌道が読めず。
「私に雪合戦で勝とうだなんて、100年早いです。」
マガジン内の弾丸をすべて撃ち切った頃、ことりの服は、肌は赤い傷だらけになっていた。
息を切らして床に崩れ落ちることりに、私は銃を捨てて近づいた。
「まだ分からないです?」
ことりの近くに落ちている弾丸の残骸を拾う。
「こういうことする人間、知ってるでしょ?」
その残骸は普通の弾丸のものではない。そこには本来、弾丸に使われることのない黒い灰――生物の死骸。
「あなたのサイコキネシスは、対象の不純物が多いほどより多くのエネルギーを費やすですし、それが生命ならなおのこと――」
だから昔、2人で雪合戦をした時、私はダンゴムシを雪玉の中に混ぜて投げつけたことがある。
「なぜ、それを……!誰にも、言って――」
「忘れたとは、言わせないです。」
フードを取り、前髪を掻き上げる。
「私とあなたの、二人だけの秘密だって、言ってたじゃないですか。」
露になるは、10年経っても変わらず輝く黎明の瞳。
「え……う、そ……キミは、だって――」
幼い頃の面影を残す、聡明さを感じさせる整った顔。
「親友の顔も忘れたです?ひな。」
「ちづ……る……?」
「ほかの誰に見えるです?」
「ほん、もの……なの……?」
「お化けになった覚えはないです。」
私は、ちづるはひなの手首を掴み立ち上がらせる。
「迎えに来たです。」
あの頃と変わらない、勇気のないひなの代わりに手を引く体温。
背丈が大きくなろうと変わらない、ひねくれて優しいちづるがそこにいた。
「ちづる……そっか、いつのまにかこんなに、大きくなったんだね。」
「何辛気臭いこと言ってるです?さっさと来るです。」
私が手を引いても、ひなの足は動かない。
「……だめ、だよ。だって、ボクは多分、監視、されてる。」
「私がそんなことに気づかないとでも、思ってるです?」
ひなは私たちを殺す気がないことは知っている。それでも私が銃を持って襲った理由は
「だから、ありったけの弾丸をぶち込んでやったです。」
戦っているように見せかけて、監視カメラの類をすべて壊す。未の神将であるムトさんのようにハッキングするよりも、手っ取り早いだろう。
講堂は今、見る影もない廃墟と化していた。
「もう、あなたがここに囚われる理由はないはずです。」
ひなを縛り付けていたちづるは、とうの昔に外れていた。
暗い昏い鳥かごの中では、見えなかっただけ。
かごはこじ開けられ、月光が明るく照らす。
「ほら、行くです。」
二人は手を取り、道なき道を進んでいく。




