緋天うさぎvs全知のイェユイア -緋瞳の裁き-
登場人物
・ 緋天うさぎ
西国にある組織「連合」の幹部 十二神将の一人、卯の神将の少女。表社会では売れない地下アイドルとしての顔も持つ。
裏社会では「嘘暴きの緋瞳」とも呼ばれており、彼女に見抜けない嘘はないと言われている。
連合は過激派宗教組織「赤豹教団」に襲われたため、その報復に暗殺者として彼女を差し向ける。
・全知のイェユイア
過激派宗教組織「赤豹教団」の最高幹部パワーズの一人、穏やかで臆病な女性のシスター。
戦闘能力はあまりないが、一度も外さない未来予知によって教団を勝利へと導いてきた。
・希望のハミア
過激派宗教組織「赤豹教団」の最高幹部パワーズの一人、明るく優しい、いつも笑顔を絶やさない女性のシスター。
深い傷であろうと瞬く間に癒す「祝福」の力を持っており、教団の戦闘員の希望となる。
右手に光るナイフを握りしめる少女。
見上げた先は大きな教会。
その目は赤い、紅い光を秘めていた。
--
赤豹教団 情報室。
突き抜けるほど高い天井に負けず劣らず高い本棚に覆われた壁、10数台のPCとモニターに囲まれた空間の中央に彼女はいた。
教団最高幹部パワーズの一人、全知のイェユイア。
そのアイスブルーの瞳は、モニターに映し出された敵の情報を見つめていた。
ーーーーーー何故、私の予測が失敗する……?
イェユイアの瞳は、彼女が望むものを映す。それが例え、未来だったとしても。
右目で予測したい未来に関わる人物の情報を映し、予測したいことを望めば、左目にそれが映し出される。
今まで幾度となく彼女の予測で、教団を勝利へと導いてきた。
だが、今の彼女の左目には、闇しか映し出されない。
過去のことは、現在のことは、左目にはっきりと映し出される。
しかし、どれだけ試しても、明日の未来が映し出されることはなかった。
「イェユイア様、お茶をお持ちしました。」
「?どうぞ。」
ドアの向こうの来客に首をかしげながら迎え入れる。
イェユイアは常に、来客は事前に察知できる。だが、今の来客は完全に予想外だった。
――――――疲れているのかしら?
入ってきた人物を視界にいれた瞬間、それは誤りだと気付いた。
彼女の目は無意識下、右の視界に入れたものの少し先の未来を左目に映す。
右目に映った緋色の瞳。
左目に映し出されたのは……完全な『闇』だった。
「?!」
焦った彼女はとっさに窓の外を見る。
木にとまっていた小鳥が右の視界に入り、左の視界には飛び立った未来の姿が映る――彼女の目は正常に機能していた。
――――――なら、なぜ、目の前の少女の未来だけが、視えないの……?
未知の脅威に身体を震わす彼女に、血に濡れたエプロンを纏う、緋色の瞳がゆっくりと近づいてくる。
「こんにちは。私は、緋天うさぎ。そして――」
盆に乗せられていたティーカップが滑り落ちる。
「――――さようなら。全知のイェユイア。」
盆の裏に隠されていたナイフが振り上げられた。
銀閃がイェユイアを襲う。彼女はとっさに近くの本で軌道を遮った。
――――――逃げなければ……!そして、助けを……!
不規則に襲ってくるうさぎのナイフを何とか掻い潜り、狭い情報室から抜け出した。
薄暗い廊下を走る足音が一つ。
「誰かっ……侵入者、が……!」
答える者はいない。
「どうしてっ?!誰も、いないの……?!」
礼拝堂に逃げ込んだイェユイアの目に、悍ましい光景が飛び込んできた。
「なんて……惨い、ことを……?!」
礼拝堂の長椅子には血しぶきがへばりついていた。
足下には背中や胸を切り裂かれた無惨な死体が転がっている。
そして、正面のステンドグラスには、
「希望の……ハミア……。」
胸の深い刺し傷から血を流し、手足を杭で打たれ磔にされ絶望の表情を浮かべる女の姿。
無意識に過去を視てしまった。
神聖な礼拝の時間。
その一番後ろの席に異物が混ざりこんでいる。
どうして、ハミアも、誰も気づかない?
異物が立ち上がっても、誰の視界にも入らない。
そして――ナイフを振り上げた異物の瞳は――紅い光を放っていた。
「あぁぁぁああああっ!」
凄惨な過去の光景に目を覆い絶叫する。
しかし、彼女の目は狂気の光景を映すのを止めない。
彼らには異物の姿が見えていないのだろうか、身動きも取れず深々とナイフを刺され、真っ赤な血をまき散らしながら崩れ落ちていく。
信者の、仲間の悲痛な叫びが頭の中で木霊し続ける。
血に濡れたナイフが、希望のハミアのロザリオを切り千切り、その顔に絶望が張り付く。
仲間全員が血の海に沈み、静寂が訪れる。
そしてその異物はハミアを掴み上げると、淡々と椅子に隠していた器具を使いステンドグラスの枠に磔にしていく。
そうして、視界が目の前の光景に追いついた頃。
「自分がされたら、惨いって、思っちゃうんだ。」
気が付けば、紅い瞳が背後に立っていた。
「あなたたちが、やってきたことでしょ?」
言葉に遅れて、背中から激痛が広がる――ナイフが突き立てられていた。
「都合が良すぎるよ、それ。」
引き抜かれた穴から、温度が逃げていく。
崩れ落ちたイェユイア。その髪を掴み、無理矢理顔を上げ覗き込むうさぎ。
「その目、未来が視える『魔眼』でしょ。」
「なぜ、それ、を……。」
イェユイアが幹部たる所以、それは、彼女の眼がありとあらゆる情報を知ることができる『魔眼』であること。
「私を見たときの反応で、確信したの。私の未来、視えなかったんでしょ?」
「な、ぜ……?!」
「私の眼をよく見て。あなたと同じ――『魔眼』だよ。」
「あ……う、そ……。」
イェユイアを見つめる両眼は、煌々と紅い光を放つ。
「私の眼は、目の前の人が嘘をついているかどうかが分かるだけ。でも、あなたの『魔眼』を打ち消せる。」
『魔眼』は、別の『魔眼』と視線を交わせばその効果を打ち消しあう。
「あなたはその魔眼を、どうして仲間を守るために使わなかったの?」
うさぎはイェユイアの顔を磔にされたハミアの方へ向ける。
「その眼で『敵』じゃなくて『味方』を視ていれば、守れたのに。」
血に濡れた細いナイフが、ハミアの後光で赤く光る。
「あなたの瞳に明日はもう、映らない。」
その言葉を最後に、イェユイアから全ての光が失われた。
紅い夕日が差し込む夕暮れ時。
教会の礼拝堂に訪れた信者が絶叫を上げる。
神聖なはずのその場所には、鉄錆の臭いが充満し赤黒い血だまりが広がり、
血が枯れ、色鮮やかなステンドグラスで磔にされた天使と
その足下で絶望の表情を張り付け、両眼を刳り抜かれた天使が朽ち果てる、
紅い地獄が、広がっていた。
これは、『連合』からの宣戦布告――戦争の幕が上がった瞬間だった。




